二岐温泉から鎌房山(上岳)まで往復

年月日: 2016年10月16日

行程: 二岐温泉・小白森山登山口駐車場から出発・標高820m(07:22)〜二岐山登山口・標高975m(08:00)〜天栄村・下郷町境界尾根1340m地点(09:42)〜鎌房山・上岳(11:04-10)〜境界尾根に復帰(12:32)〜御鍋神社(13:55)〜駐車地に帰着(14:44)

関連記事:2017-05-04 二岐山登山口から鎌房山(上岳・下岳)と鍋山

会津西街道(国道122号線)を通ると下郷町で幾つかの火山特有の特徴を有する山々(鎌房山の上岳・下岳と高倉山)が目に入る。地形図上の等高線の形も魅力的である。このうち、登山道があってよく知られているのは二岐山のみであって、その他の山は標高は低くてもアプローチは容易でなさそう。第四紀火山である二岐山は那須火山群の中で最も活動が古い山であるとされる。その他の山もほぼ同時期に形成されたと考えられる。その存在を初めて視認したのはもう25年以上前のこと。無雪期に縦走して眺望と植生を確かめてみたいと地形図上であれこれルートを検討したことはあったが、わざわざ福島の藪山に登るために現住所(さいたま市)から出かけていく暇も金も気力もない。田舎(猪苗代)に帰省するついでに好条件が揃えば挑んでも良いかなと思う程度。挑めるのは最大で年に2回、車で帰省する春と秋の連休のみ。他の山歩き候補地を優先してずるずると先延ばししているうちに、サイト「激藪の隙間から」の管理人さん(仕事人さん)が積雪期に往復した記録(*)が公開された(本記録を記述している現在、鎌房山の上岳・下岳に関してウェブ上で確認できるのはこの記録のみ。余談ではあるが、同じ嗜好の人が計画するルートは必然的に良く似るものだ。実現性はさておき、鎌房山、高倉山、鍋山、足倉山の周回コースを検討したことがあったが、柄沢から足倉山へのアプローチが仕事人さんのルートと一致していた。)。今回は日帰りで二岐温泉側から鎌房山下岳まで往復する。

* 記録のタイトルが「那須北部・・・」ですが、那須は栃木県内の地域の呼称です。鎌房山が位置する下郷町は福島県会津地方であって栃木県ではありません。「那須火山群の北部」という表現なら問題ないと思います。仕事人さん、この記事気づいたら修正お願いしますね。

中央の暗い山が下岳、その右が上岳
10月18日、会津西街道経由で南下する際、下郷町成岡にて


なんとか仕事の都合をつけて16日から18日まで3連休とした。16日に山歩きして夕方に猪苗代の実家に向かう計画である。

15日午後8時にレンタカーを借りて出発。国道4号線を北上するにつれて気温がどんどん下がる。12時過ぎて白河に入った頃には国道沿いの気温表示の値が6℃まで下がっていた。放射冷却で今夜は寒そうだ。お気に入りの静かな場所で酒ひっかけて眠りについたのだが、寝袋に入っても寒気がしてすぐに起きてしまった。衣服を重ね着したりして工夫しても冷えを感じる。熟睡せぬまま夜明けを迎えた。

16日早朝、全てのものが朝露でびっしょり濡れている。もう1、2℃気温が低かったら霜が降りたはず。鳳坂峠を越えると羽鳥湖側は放射冷却で発生した霧の中。幸い、目的地の二岐川の谷は霧の発生無く快晴であった。この地に来たのは7年振り。今回はその源頭部から尾根を越えて鎌房山の下岳まで往復する予定。

二岐温泉を過ぎて狭い橋を渡ると未舗装の林道となる。小白森山登山口駐車場には林道通行不能の旨の表示が在った。良く文章を読んで考えれば二岐山登山口まで行けそうなことは判るはずだが、駐車場から先の林道両脇に危険個所を示すテープが這わしてあっていかにも危険な状態であるかの様であるし、既に駐車場に1台の車があったのでここから歩いて行くしかなさそうに思える。駐車場の案内板に拠ると当初出発予定地としていた二岐山登山口まで4km の林道歩きとなる。この時点で計画達成に黄色信号が点灯。他に行くあて無いし、二岐山周回する登山者は皆ここを歩くのであるから、林道歩きも悪くはないかと気を取り直して出発。

林道歩き始めてから何台もの車に追い越された。時節柄、登山よりもキノコ採り目的の車が多いようだ。林道に危険個所は皆無。予定のルート上には何カ所か傾斜のきつい場所があり、念のため懸垂下降の装備一式を所持しているので荷が重い。重い荷担いで林道を4q歩いて、当初の出発予定地に着く前に疲れてしまった。二岐山登山口の少し手前に登山者用の広い駐車場があるが、数十m先の登山口付近にも数台車を置くことができる。

二岐山登山口から先は通行止めである。此処に来てようやく「通行止め」の意味を理解した。此処から先に車で行こうとする奴などいるはずがないのだから4qも手前に紛らわしい表示するんじゃないよ。バカヤロ。

やっと本来の予定していた行動を開始。1113mポイントに向けて沢沿いを上がっていく破線路は藪化しているようであったため利用するメリット無しと判断して素通り。緩斜面を突き進んで上岳に連絡する1340m級のピークに突き上げるつもり。地形図上で水線の記載の無い沢に架かる橋を渡って100m程度進み、林道がカーブする地点で緩斜面の樹林帯に進入。

広い緩斜面は最初のうちはサワラのような針葉樹が混じり、丈は高いが密度の低いチシマザサの林床である。奥に進むにつれて二次林と思しき雑木とチシマザサの藪となる。1044mポイント辺りであったと思うが、藪を避けているうちに昔の作業道の名残が忽然と現れる。林道から派生する作業道の跡やその可能性のある地形を見ていないため、狐につままれた感じだ。道跡は藪薄く歩き易く、都合の良いことに自分の目指す方角に向かっている。延々とした藪漕ぎを半ば覚悟していただけに嬉しい誤算である。道跡が細って踏み跡程度になると、なんとピンクのテープが出現。地面に落ちているものもあるので、今年つけられたものではない。キノコが採れそうな場所でもない。根曲り竹のタケノコ採りが辿るのであろうか、とにかく踏み跡が消えても真っ直ぐ自分の目指す方向に続く。

徐々に勾配がきつくなる標高1200m辺りでテープを追えなくなった。樹木の密度が低くて明るい割に藪は概ね薄く、点在するシダに被われた場所を選んで登っていける。


突然勾配がきつくなりチシマザサや小枝に掴まって体を持ち上げるようになる。尾根筋ではないため険悪な藪はなく、危険というほどでもない。まめに休憩しながらも概ね順調に登っていける。下方の藪をバキバキと大型獣が移動する音が聞こえる。写真撮影には全く向かないものの二岐山や小白森山が梢越しに見える。斜面は美しいブナ林に移行。雰囲気は悪くない。


標高1250mを過ぎてから一度だけピンクのテープを見た。ということはこのテープの主は境界尾根に上がるのが目的としていたのだろうか。その後、境界尾根上ではテープの類を一切見ていない。

境界尾根に出て梢越しに下郷町側の様子を窺えそうな場所に移動。鎌房山の上岳・下岳の位置関係から自分の現在位置を特定。連絡尾根のあるピークの南側にある1340m級ピークに居ることが判った。下岳がやけに遠く感じられる。

境界尾根は鞍部だけチシマザサが濃い。鞍部には大きなヌタ場在り。1330m級ピークに上がらず、連絡尾根に向けて斜めに下った。アスナロが生える尾根をすんなりと下っていけるが最低鞍部に近づくにつれてチシマザサ藪の密度が増す。寝不足ということもあってこの時点で既にゲンナリムード。


最低鞍部から密な灌木藪を登る。しばらく我慢しているうちにピークが近づいたことを感じて気力を維持。しかし、ピーク上で待ち受けていたのはこれまで出合った中で最強のイヌツゲ密集地だった。勘弁してくれ。

1248mピークのイヌツゲ藪


地形図からは読み取れないが、1248mピークの稜線はL字型をしており屈曲点がその最高点である。連絡尾根から突き上げた場所はその南端にあたる。稜線上にイヌツゲがびっしり陣取っていて移動不可能である。一旦反対側に下ってトラバースしてピークを巻き、針葉樹が生えていて比較的移動しやすい西側から1248mピークに至った。写真撮影には不向きだが周囲の様子を把握できる。境界尾根が高く見えて登り返しを考えると先に進むのが億劫になる。

1248mピークから上岳への登りは本日のコース中最も勾配がきつい。岩剥き出しの場所はないものの、アスナロ藪を躱しながら握力に頼って体を持ち上げる繰り返し。一か所のみ、アスナロの枝を鉈で払った跡が認められた。

ようやく勾配が緩んで上岳の頂上に近づいても喜びがわいてこない。上岳に写真撮影の対象となるものは無い。景色が良かったらまた違う判断になったと思うが、寝不足と重い荷を担いだことによる疲労感が著しく、藪の様子を見て下岳に向かう気力が完全に失せてしまった。この先も同じような藪が続くのであれば、帰りに握力が持たないかもしれない。痙攣したらペースが落ちて明るいうちに戻れなくなる。キリの良い場所で折り返し決定。日を改めて再挑戦するとなると、藪歩きルートを選択する限りはまたここに来ざるを得ない。気が重いわ。

鎌房山・上岳にて


上岳から1248mピークへの下りは下方を見通せないため難易度が高い。右に左に急斜面を移動して位置修正しながらの下りとなるが、登ってきたときの様子を覚えているからなんとか辿ることができた。1248mピークからも来た時の要領でスムーズに通過。

昼になって風が出じて山全体がざわめく。最低鞍部を吹き抜ける風が心地よい。明るいうちに戻れる目途が立って気持ちに余裕が生まれた。

最低鞍部付近から見た飯豊連峰(手前は小野岳と大戸岳)
鎌房山・上岳と高倉山


来る時に下りで嫌気がした藪も帰りは登りで足元を見定めやすく苦にならない。この地もかつて伐採の対象となったようで、一か所ワイヤーが残されていた。沢登りのパーティがこの鞍部を抜けたときの記録に拠ると、沢奥部まで地形図に記載の無い道跡があるとのこと。

境界尾根に登り返す途上で見たワイヤ
1330m級ピーク西側のブナ林


境界尾根を南に移動して1340m級ピークに移動してみたが鎌房山を写せるような場所はなかった。

来る時に登ってきた場所には顕著な尾根が無い。来たルートを忠実に下ったつもりでもかなり右側(南側)に逸れてしまったみたいで、細い沢筋に出た。沢から離れるように緩斜面を移動。大型獣(たぶんカモシカ)が逃げていった。水を飲もうとしてしゃがんだ際、顔に何かが触れてチクチク。ミヤマイラクサが長い髭伸ばしておったを。こいつ、花穂までチクチクするのか。

ミヤマイラクサ


来る時に見つけた道跡の起点を確かめようとしたのだが、途中で追えなくなってしまった。緩斜面を下っていくとやや濃いチシマザサ藪が連続するようになる。大きく方向を外していないことは確かなのでそのまま進行すると沢の右岸斜面の縁に達した。橋の上流側にいることが判明したので下流に移動し、出合った踏み跡を辿ると林道の橋に出られた。

橋を通せんぼしている丸太に腰かけて休憩しようと思ったら、林道奥からチリンチリンと鈴の音がする。キノコ採りの人らしい。奇異な奴と思われのは嫌なので休まず先行し、御鍋神社に立ち寄り。

御鍋神社


御鍋神社近くの笹薮でもキノコを探している人たちがいた。本日の行動範囲で食えるようなキノコは一切目にしていないのだが、彼らはいったいどんなキノコを採取しているものやら。

モー太郎(7年前に死んだモルモット)のお墓にお供えするチシマザサの葉を土産にして順調に林道を歩いて帰着。鳳坂峠と勢至堂峠経由で猪苗代に向かった。

山野・史跡探訪の備忘録