那須・北温泉から鬼面山(2004年4月)

年月日:   2004.04.25(日)

天気:    晴れ時々曇り、強風

行程:    北温泉の駐車場出発(9:37)〜 林道出合い(10:05)〜 飯盛山(10:47)〜 飯盛山−鬼面山間の溝(沢源頭)(10:56)〜 鬼面山(12:23)〜 飯盛山−鬼面山間の溝復帰(13:45)〜 飯盛山復帰(14:11)〜 帰着(15:24)

前日(土曜日)、庭の草むしりをしていたらドバミミズがたくさん這い出てきた。久しぶりに釣りに行こうか。那珂川で尺ヤマメ狙ってみようとドバミミズを7、8匹捕獲し、夕方はそそくさと釣具屋にでかけて不足していた小物類を準備。ところが、翌朝起きてみたら晴れており、しかも風が強い。朝から釣りをすることは不可能になったので、午前中は軽く山歩きをして午後になって風が収まれば釣りをするつもりで、両方の準備をして自宅を出発。

北に向って車を走らせながら行く先を思案。二方鳥屋山近くの尾根は強烈な西風が吹いているであろう。鬼面山はどうか?北温泉入り口から直線距離にして約2km。朝日岳の東側にあって風裏にあたる。山部さんの記録によればものすごいチシマザサの藪があるらしい。雪が完全に消えてから挑もうと何度かWeb上で国土地理院の地図を見てルートを検討したことがあり、地図は頭に入っている。出発が遅かったので登山対象としてちょうど良いかもしれぬと思い、塩原ではなく那須に向かった。

なんと那須は前日の降雪で積雪していた。しかも風が下界よりはるかに強い。風裏の山歩きの期待は裏切られた。北温泉の入り口では気温が2℃。普段の自分なら絶対に山歩きには行かない条件である。しかし、朝から温泉に入る趣味はないし他に行くあてもない。有料道路使用料金360円を払っただけで帰るのもばかばかしいので、下見程度はしようかと思い直した。

駐車場から北温泉に下っていく時に、毘沙門沢と明礬沢の合流点に突き出ている飯盛山が見える。北温泉から余笹川を遡り正面から登れれば楽なのだが、沢沿いの道が無いし、飯盛山の正面は険相である。よって、山部さん達が辿ったように、一旦中の大倉尾根コースを登って途中から毘沙門沢に下り、崩壊した斜面を避けるように北東側から飯盛山に登るしかない。飯盛山の背後に鬼面山が聳える。あまり離れていないし、標高差もたいしたことはない。目指す南東尾根も良く見える。特に危険な場所もなさそう。かねてシミュレーションした通り、体力にまかせて藪を突っ切れば尾根に乗れるであろう。尾根は勾配が急で樹木が繁っているので笹藪に悩まされることはなさそうである。

中の大倉尾根コースを歩くのは初めて。北温泉から中の大倉山に向けてジグザグの登山道を約200m登って、標高1,290m付近で工事用林道と出合う。

林道を毘沙門沢方面に向かう際、斜面には前日降った雪が積もり、朝日岳方面から吹き降ろす強風に正面から煽られた。せっかくここまで来たのに朝日岳の背後には雲が出てきた。風花も舞っている。正直逃げて帰りたい心境だったが、他に行くあてもなし。飯盛山くらいはなんとかなるだろうと思い直し、天候次第で行けるところまで行ってみるつもりでそのまま前進

林道から見た鬼面山
林道から見た鬼面山 10:11


毘沙門沢まで林道が延びていると思い込んでいた。ところが林道は沢には降りずに終点となってしまう。対面間近に飯盛山を見ながらしばしウロウロ。林道の一番奥から新雪に覆われた踏み跡が延びているのを見つけ、これを辿って毘沙門沢に降りた。毘沙門沢の水量はたいしたことはなく渡渉可能。ただし、朝は石の表面が凍りついていたので慎重に渡った。対面に小さな沢が流れ込んでおり、そこから適当に笹藪に突入。いきなりチシマザサの藪が歓迎してくれて嫌な雰囲気である。崩壊斜面の縁を登っていったのだが、これは失敗。もう少し縁から離れれば笹の丈が低く楽に登ることができる。

飯盛山山頂
飯盛山   10:52


いざ山中に入ってしまうと風が当たらない。気温が低いのも藪漕ぎにはむしろ好都合である。東の空は雲ひとつなく澄み渡っており、日光が当たって明るく、雰囲気はいつもの山歩きとさして変わらない。ヤル気が湧いてきた。

山部さんの山名板のところで北温泉方面を眺めていたら林道を歩いてくる人が見えた。登山者だとすれば当然のことながら目的地は同じであろう。ひょっとしたら鬼面山の山頂でご一緒するかもしれないなと思いながら、東の鞍部に向けて密度の低い笹藪を掻き分けて緩い斜面を適当に下った。

飯盛山−鬼面山間の広い溝(沢源頭)には雪が残っていた。真ん中にダケカンバの列があり、両側に残雪の帯がある。

飯盛山山頂
飯盛山と鬼面山の間の溝(沢源頭) 11:01


鬼面山南東尾根取り付きまでの約300mを完全に直進することは不可能である。なぜならば、この笹藪の斜面は鬼面山東の急傾斜から明礬沢に流れており、南東尾根に向かうには地図上では明確に表されないような小さな沢筋を幾つか越えていかなければならないからである。チシマザサが両側の斜面から倒れこむ溝を横切るためには、太く密生したチシマザサを上下に掻き分けて無理やり体を滑り込ませる行為の連続となり、全身の筋肉を使わないと前進できない。笹藪帯の様子は地図を見て予想していた通りなので驚きはない。ただし、いつもの逆手方向の笹藪漕ぎよりも過酷な斜面横断に挑むにはそれなりの覚悟がいる。まともに横切ったら体力がもたない。なるべく樹木が生えていて相対的にチシマザサの丈・密度共に低い小さな尾根伝いに東北方向に移動し、南に下る方向で沢筋を越え、ジグザグに近づいていった。

南東尾根は鬼面山東の急斜面の縁にあたる。予想した通りチシマザサの丈・密度が低く、雪国の普通の藪漕ぎと変わらない。傾斜が急だが、笹に掴まってよじ登れるので腕力があれば楽である。時々茶臼岳ロープウェイの案内放送がはっきり聞えて、あたかも至近距離に人がいるような気がする。

中腹までは順調に登れる。ところがツツジ類の潅木の藪がチシマザサに取って代わるようになると、遅々として進まなくなる。積雪する高山帯ではお約束の植生分布で、こいつは笹と違って避けてくれないので性質が悪い。幹・枝の間をすり抜けるのに難儀する。さすがに耐え切れなくて稜線から少し南側の斜面に逃げて登っていった。

山頂まであとわずかのところで大きな岩が現れる。

飯盛山山頂
山頂直下の岩場 12:14


左側に大きく迂回し、笹・樹木・岩とあらゆるものに掴まりながら鬼面山南端に這い上がった。鬼面山南端には遮る物が少なく、素晴らしい眺めを得ることができる。個人的には茶臼岳よりも南東に広がるスロープの方が気に入った。

弁天温泉と那須野が原方面
弁天温泉と那須野が原方面 12:23
鬼面山から見る茶臼岳
茶臼岳 12:24


尾根上の潅木帯を数十m潜り抜けると、そこは視界を遮るものがない起伏の緩やかな広い草原状の山頂であった。草原のように見えるが、その大部分は腰の高さ以下のツツジ類の酷い藪。風雪が厳しいが故に丈が伸びず、皆寸詰まりでがっちりしている。下手に動き回ると怪我をする。

鬼面山から見る朝日岳,三本槍岳方面
朝日岳〜三本槍岳方面 12:28


手前の山は朝日岳の東にある1,816mピークである。緑色に見える笹藪の丈はあまり高くないであろう。鬼面山のツツジ類の藪さえ越えていければ簡単に登れそうな気がする。鬼面山の西側に行ってみたが、ケルンが一つあった以外は何もみつからなかった。

鬼面山から見る茶臼岳、朝日岳
茶臼岳〜朝日岳 12:29


どこが山頂か判らないので、何か目印があるだろうとウロウロ。しかし、腰の丈より低いツツジ類の藪が酷くて移動が儘ならず、スパッツを忘れてきたので脛が痛い。日差しがあって眺めも素晴らしいのに、冷たい強風に煽られてゆっくり滞在できる状況ではない。

鬼面山から見る茶臼岳
鬼面山にて 12:50


戻る際に山部さんが設置した山名板を発見。設置してからまだ7ヶ月余りなのに傷み方が激しい。よほど風雪が厳しい場所なのであろう。ツツジ類が異様に寸詰まりなのが納得できる。

鬼面山山名板
山部さんの山名板 12:48


下りは登りと同じコースを辿る。笹藪帯までは順調。安易に小さな沢筋を下らないように注意しないと明礬沢寄りに下ってしまう。一旦沢筋に捕まるとなかなか脱出できない。最後は丈2.5mの笹藪を滑り落ちるようにして目的の鞍部に復帰。

飯盛山−鬼面山間の溝に復帰
飯盛山−鬼面山間の溝に復帰 14:03
地図に拠るとこの奥に小さな沼があるらしい。


風が少し収まってきたようで、気温も上がって心地良い。しばし、写真を撮ったりして滞在した後に飯盛山に登り返す。飯盛山を下ろうとして、偏光グラスが無いことに気づいた。鞍部に置き忘れたのである。登りでストックも落としていたので、場所が判っている偏光グラスくらいは回収しようと再び鞍部へ。偏光グラスを回収後、飯盛山の途中まで登り残雪帯を横切って毘沙門沢まで近道。ここから北温泉経由で車に帰着するまでの登り下りは結構疲れる。

帰り支度をしようとしていたら、一人の男性に声をかけられた。なんと私が落としたストックを拾い、落とし主らしき人物が戻るのを待っていてくださったのである。彼は私が飯盛山の山頂から見た人物で、私の踏み跡を追って飯盛山を登る途中で偶然ストックを見つけたとのことだった。 その後、赤テープを頼りに鬼面山を目指したが明礬沢に下ってしまい、あきらめて戻ったそうである。この方のご親切のおかげで、気持ちよく鬼面山登山を締めくくることができた。

山野・史跡探訪の備忘録