塩沢峠〜尾出山〜林道・大荷場木浦沢線(2005年1月)

年月日:    2005.01.22(土)

遭遇した動物:  イノシシ2頭

行程:     歩行開始・標高約(08:19)〜 塩沢峠到着・標高約(09:05)〜 送電線鉄塔到達・標高約700m(09:51)〜 高原山到達・標高754.0m(10:03)〜 尾出山到達・標高933.0m(11:28)〜 名前不明の峠到達・標高約745m(12:44)〜 林道・大荷場木浦沢線の峠到着・標高約950m(14:17)〜 MTBを置いた場所へ到着・標高約640m(15:03)〜 歩行(走行)終了(15:45)

尾出山は人気の山のようだ。確かに、氷室山から岳ノ山に向けて尾根を下ってくる途上で見た、尖った男性的な尾出山とその隣にある植林された女性的な825mピークの対照的な組み合わせがとても美しい。見て美しい山が登って楽しいとは限らないが、遠くから視認した山には一度は行ってどんなところなのか確かめてみたい。

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尾出山(左)と825mピーク(右)
2004年2月1日、氷室山からの尾根を下る途中、東蓬莱山付近で撮影。
今回とほぼ同時期の撮影だが、雪が無い。


烏ヶ森の住人さんの記録によると尾出山のある尾根には特に危険な場所はなく縦走可能であるとのことである。今回も帰りにMTBを利用することとし、前回の不動岳〜岳ノ山縦走の実績から判断して、塩沢峠から林道・大荷場木浦沢線の峠まで縦走することとする。

暗いうちに家を出るつもりであったが、寝不足に加えて寒いのでどうしても起き上がれない。運動不足解消のためと思い、ようやく布団から這い出た。当日朝の気温はマイナス6℃。これだけ寒いと快適な山歩きは期待できない。おまけに風もありそうだ。天気が良いのが唯一の救いだ。

MTBを置くために林道・大荷場木浦沢線の峠を目指して車を進めたが、標高が上がるにつれて雪が深くなってきた。これは想定外。20〜30cm程度積雪しているのに車で峠に向かった猛者がいて轍が残っている。四駆だから自分も行けるだろうと思ったが、さすがに不安を感じて標高800m付近でギブアップ。尾根上はもっと積雪していることが危惧された。尾根縦走の計画を変更することも考えたが、斜面の積雪は10cm程度に見えたので計画続行。813mピークの西南西の場所で落石除けがあったのでその裏にMTBを置いて落倉沢へ向かった。

落倉沢の入り口付近の林道は荒れていない。すぐに道路が二股に分かれるので、その手前に車を停めた。まずは左股を進む。日陰で寒く、風も強いので気が重い。汗をかくと冷えるので、あまり発汗しないようにペースを抑え気味に進む。沢は護岸されていて用水路の様。

次に二股に分かれる場所では水が少し流れている右股に進む。ここから道形が判別しにくくなる。谷奥の詰めの場所で再び二股に分かれる。道は不明瞭。ここは左側に寄っていれば峠道をはずすことはなかったと思われるのだが、最奥の二股にいると思い込んでいたために右側に寄ってしまった。当然道は無くシカ道が数本走るのみ。地図を見るのが面倒くさいので、境界標らしき赤いプラスチックの杭の連なりに沿って正面の尾根を急登。落倉沢奥の詰めの部分では地図上の破線と実際の峠道が一致しない。地図上では沢筋を真っ直ぐ峠に上がることになっているが、実際には北側の尾根筋から斜めに峠に上がってくる。

塩沢峠とは名前だけの実体の無い峠ではないかと思っていたのだが、明瞭な道形が残っている。塩沢峠には首無し地蔵が一体。

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塩沢峠の首無し地蔵     09:05


秋山と上永野の住民の往来だけのために地蔵が立てられたとは考えにくい。安蘇は長い尾根が並行して何本も走るので、自動車のなかった時代に尾根を迂回して回り込むのは山越えよりも大変なことであったに違いない。峠道は単に尾根の両麓の交流ではなく、もっと広域の交通路の一部として使われていたのであろう。現代でいえば基幹林道前日光線のような位置づけにあったと思われる。

尾根には明瞭な踏み跡はないものの歩きやすく、地図も要らない。642mピークには祠が2体。そこから先が積雪していた。尾根北側から上がってくる林道を歩いて送電線鉄塔方面へ進む。林道は西側斜面へ下がっていくので、林道と別れて杉の植林地を抜けると東側から来る送電線鉄塔の巡視路とぶつかる。

標高約700mの送電線鉄塔から北東側の眺めが良い。未訪の尾根が連なる。谷倉山の南東の鞍部が特に目を引く。

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石裂山方面(遠くにお天気山)   09:51
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ハナント山(左後方に二股山)   09:51


冷たい風が吹き付け、ほんのすこしの休憩で凍えてしまった。送電線鉄塔巡視路にあった足跡は高原山方面に向かっていた。送電線鉄塔からほどなく高原山へ着く。この山は眺めて美しいわけではないし、山頂からの眺めも良くない。何の印象のない山。

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高原山  10:03


足跡を追って尾出山方面へ踏み出す。次の高み(大久保の頭)は広葉樹の山で明るい。積雪は15cm程度。

825mピークから尾出山が望める。一旦峠まで下ってあのゴツゴツした山を登るのか?嫌いなタイプの山なので行きたくはない。なるべく平坦な尾根を楽に歩きたい性分で、尾出山は尾根上の巨大な障害物にしか見えない。

峠(嶽ノ越)には小山山岳会のつけた標識有り。新しい1、2名分の足跡があった。雪の塊が転がってきた。はるか上方に先行者発見。どうやら戻る途中の様である。下り過ぎるの待って挨拶したが、目も合わさない。無愛想なお方。山頂でご一緒しなくて良かった。山頂には犬連れの男性が一人。挨拶を交わす。これから進むべき西の方角を見ながらスパッツをつけている間に彼は下っていった。犬は藪歩きは好きだが、岩場の登り下りを楽しいと感じるのだろうか?

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尾出山山頂   11:29


勝道上人の第二宿堂跡だそうだが、霊験あらたかな雰囲気は感じられなかった。人気の山とあってなんとなく落ち着かない。

山頂から真っ直ぐ西に下る。岩場もあるが巻きながら下れるので危険は感じない。南からの登山道を下るより安全に思える。

北北西から西に進路を変えるべき所があることは判っていたが、尾根筋を維持して少し行き過ぎた。自分の山歩きは、自然の地形はこうあるべきという勝手な期待が強いので、地図よりも自分の感覚を優先する。よって、迷ってから地図を見ることが多い。迷ったら自分のせいではなく地形が悪いせいにする。自分の思い通りの地形ならば満足、思い通りにいかないと面白くない。でも、いままでのところ山の神の怒りに触れたことはない。

804mポイントと778mポイントの間の鞍部に標石が在る。「左大字秋山」、「右百川」、「昭和一年」と読める。

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名前不明の峠   12:44


南側斜面に西に向けて道形が下っていく。おそらく521mピークの東側の沢沿いの道に続くのではないだろうか。反対側は比較的急な斜面で、下っていく道形のようなものは見当たらなかった。近くに植林地は無いし、人里からも遠く離れている。秋山から氷室山神社へ向かうには遠回りである。どんな人たちが利用していたものか。

この辺りは広葉樹林で日当たり良く雪が無い。峠道がどうなっているのか空身で少し辿ってみた。放棄されてからだいぶ年月が経っている。峠道を最後まで辿ってみたかったが、MTBを置いた場所よりも下ってしまいそうなので自重。尾根上に戻ろうとした時、上方からガサガサ落ち葉を掻き分ける音が聞えてきた。しばらくじっと上方の雑木林を凝視。遠くに大きな動物が動くのが見える。怒っているような鳴声もする。サルの声ではないのでイノシシか?奴らはこれから自分が辿ろうとしている尾根上にいる。うまくやれば至近距離まで近づけるかもしれない。

峠道を逆戻りして尾根を静かに辿る。雪の上に足跡発見。やはりイノシシのようだ。尾根上は強風が吹いていて自分の移動音をごまかせる。北側(百川側)から接近して尾根の南側を覗いてびっくり。ほんの数m先にキウイのお化けのようなものが2つうごめいていた。イノシシが落ち葉の中のドングリや昆虫をあさっているのである。予想していたサイズよりでかい。ちょっと困ったことになった。手負いのイノシシでなくても驚いたらどんな行動をとるかわからない。クマならば喧嘩して勝てるかもしれないが、イノシシの突進と牙には勝てない。下手をすると致命傷を負う。動くに動けないのでじっと見ていた。そのうち、おそらくは風上にいた自分の臭いを嗅ぎ取ったに違いない。雌らしき1頭が突然逃げ出した。残った大きい方(多分雄)が何事か?という感じで周囲を見廻す。目が合った。やばい。奴は無い首を左右に動かしながら「ん?ん?」といった感じで、こちらの正体を確かめんと近づいてくる。こちらが人間だとわかったらしく反転して逃げていったので安堵。山中ですぐ背後でじっとこちらをみつめる人に気づいたら、人間でもびっくりするであろうから、イノシシにしてみればさぞ肝をつぶす思いであったろう。

標高800mを超えると積雪量が増す。全て積雪30cm以上で締まりなくズボッと沈み込む。雪庇の厚みが50cm以上の場所や地吹雪状態の場所もあった。北側に障害物が無く冷たい強風が吹きつけるので、右の耳を手で覆いながら歩く。うだうだとツボ足の登りを続けて、尾出山より高いところまで来てしまった。破線路と合流してからは楽に歩けるのではないかと期待していたのだが、そんなものあっても無くても変わらない。一番楽に歩けると思っていた区間が一番つらかった。北側が植林地となりようやく強風から解放されると下方に林道が見えてきた。

林道は尾根を切通している。少し戻って勾配の緩いところを下っていく作業道らしきものを辿ってヘアピンカーブに抜け出た。出口の木にクマさんの人形がくくりつけられている。誰かこの雪の中を歩いて氷室山に行ったのだろうか。雪上に足跡が残されていた。

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14:17
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林道・大荷場木浦沢線のカーブ


林道を下っていくと、一台の車が雪の中でスタックしており、年配の男性3人組みが脱出できずに奮闘中。押し手が一人増えただけですぐに脱出成功。自車(四駆)でMTBを置きに来た場所よりも奥までセダンで入り込むとは恐れ知らずである。

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標高700m付近から見た尾出山  14:53


標高600m以下でもところどころ路面に積雪または凍結している場所があり、慎重に走行。風を切ると顔が凍りつきそうなくらい寒いけれども、尾根上よりはまし。順調に車に帰り着いた。

山野・史跡探訪の備忘録