アカヤシオ咲き誇る足尾町東境界尾根(原向〜大萱山〜石倉山〜地蔵岳〜禅頂行者道〜細尾峠)

年月日:2005.4.30〜2005.5.1

地蔵山でデジカメを失くしたため写真無し。時間の記録にいつもデジカメ写真を使用しているため、デジカメ写真無しの今回は始まりと終わり以外は時間が不正確。但し誤差は10分以内に収まっていると思われる。

初日行程: 原向・車澤林道竣工記念碑前・標高約585m(09:00)〜 大萱山・標高1,154.2m(11:00)〜 石倉山・標高1,109.1m(13:00)〜 勝雲山・標高1,322.1m(18:25)〜幕場・標高約1,280m(18:30)

これまで足尾町の東側の境界にある山々を訪れたことがなかった。南側の群馬県境には幾つか名前のつく山があるが、あまり目立った存在では無い。途中までは粕尾峠から行き易いと思われるが、どうせなら県境を全て通しで歩きたい。中間地点となる粕尾峠は10年以上前に適当に車を走らせて足尾に抜ける際に通過したことがあった。この時の道路の状況は現在ほど良くなく、番号がついているだけでも58のヘアピンカーブが連続しているので、車を運転していて酔って気分が悪くなった記憶があった。この悪いイメージが強すぎて、以後、敬遠していた。よって、横根高原のことは何も知らない。北側の禅頂行者道は紅葉の季節に訪れるつもりでいたが、秋の藪歩きをしていてなかなか良い機会を得られず後回しにしていた。

どうやったら楽に周れるのか?大萱山から粕尾峠まではMTBを使用すれば簡単。禅頂行者道も足尾から古峰ヶ原高原に登れば細尾峠からMTBで下ってこられる。しかし、足尾から古峰ヶ原高原に登ったのでは時間が掛りすぎ、人気の高い禅頂行者道には人が溢れてしまうであろう。なんとか早朝静かな時間に歩くことはできないものか。考えあぐねた末に出した結論は一つ、一泊二日で南から北に縦走してしまえば良いのである。一泊二日で余裕で周れるはず。では、季節はいつにするか?春先の残雪歩き終了後、本格的藪歩きを再開するまで間がある。ひょっとしたらアカヤシオが期待できるかもしれない。3月に小法師岳を歩いた帰りに、大萱山への取り付き場所となる原向と、中間地点となる粕尾峠を下見しておいた。

連休初日(29日)から行動するつもりであったが、仕事の疲れと準備不足で取りやめ。29日は気温が高く午後から曇りとなったのでこれは正解。30日は晴れるが少し涼しくなり、5月1日も晴れ後曇りとのこと。一泊二日山歩きには絶好の条件と言えよう。30日早朝、MTBを置きに細尾峠に向かった。初めて細尾側から上がってみたが、車で走っても距離が長いのでうんざり。枯れ枝が散乱してはいるが荒れてはいない。この時間はまだ登山者は来ておらず静かだった。

次に一旦足尾町に下って宿泊場所となる勝雲山を目指す。今回は車道を徹底的に利用して、飲料水や山中泊の装備一式をあらかじめ幕営予定地に置いておき、初日の山歩きはビバークできる最低限の装備と食料のみ携行することにする。勝雲山へ向かうにあたり、ヘアピンカーブの多い粕尾峠経由を嫌い、都沢沿いの道へ進入。「道路工事中、全面通行止め」の標示があったが、「嘘に決まってる。現場では徐行すれば通れるだろう。」と決め付けてそのまま進行。道路は舗装されていないが走るのに問題は無い。しかし、古峰ヶ原高原への分岐点から先は重機で通せんぼしてやがる。仕方がないので内篭まで引き返して粕尾峠へ上がる。勝雲山東に無料駐車場(地図では標高1,287.5mの電子基準点がある所)があり、その南西にある萱原に荷物を置いた。取付き地点である原向に着いた時には9時近くになってしまっていた。

原向・車澤林道竣工記念碑前(標高約585m)から歩行開始。真っ直ぐ南に向かって林に踏み込む。過去に治山工事のために整備したと思われる道形が残っていて歩き易い。しかし、アクシデントが一つ。前週に土倉山の残雪歩きで足が踏み抜けたときに左の足首が過度に折れ曲がった。その日はなんともなかったが、翌日から、歩くと後方に蹴るときに踵上部に痛みを感じた。数日で痛みは消え、もう大丈夫だろうと思っていたのに、登り始めてすぐに軽い痛みが復活。これはまずい。山歩きを中止するかどうか迷ったが、とりあえず大萱山を目指すことにした。いつもの7割のペースでしか進めないが、気温が高く発汗するため、ある意味ではこれは良い方向に作用した。

大萱山の傾斜はいずれもきつい。県境尾根の一つ隣の北西尾根の斜面にはヒノキが植林されていて、林業関係者が使用するジグザグ道を辿って尾根上に出られる。反対側は急な斜面で尾根は痩せている。こんな高みにも崩落防止の古い石積があって驚かされる。適当に稜線部を歩いたり獣道を辿って巻いたりしながら進むと、昔、炭焼きに利用されていたと思しき明瞭な道形が現れた。道跡は稜線をはずれて尾根を巻きながら徐々に高度を上げ、県境尾根方向に延びているが、山頂の100m下の谷間で終点となる。県境尾根は急峻で上がれない。頭上も岩場で直登不可能。良く見ると、北西尾根に戻る道があるので尾根上に復帰。道は下っていってしまうので、ここからは道無き稜線を木につかまって登る。折しもアカヤシオツツジが満開で、特に山頂の50m下の展望岩付近が見事。袈裟丸山方面が霞んでいるのが残念なところだが、アカヤシオを見られるのだから満足。

大萱山(標高1,154.2m)山頂近くにも数本のアカヤシオが咲いていたが、眺望はあまりよろしく無い。山部山名板は健在であった。足の具合が悪化するようには感じられないので、電波塔を越えて尾根を進むことにする。最悪の場合は石倉山尾根を下ることも可能だ。地図には県境尾根上に破線が無い。歩く人は少ないようだが、藪も無く歩き易い。カタクリが短い春の謳歌を終えて急ピッチで休眠に入る準備を進めているところだった。不思議なことに、大萱山近辺以外ではカタクリの存在を確認できなかった。

黒坂石方面に伸びる枝尾根が伐採されて開けており、作業道が尾根上まで上がってきていた。この後は快適だが、特に見るべきものの無い退屈な尾根歩きが続く。途中どこかで安永の時代に建立された石祠を一基見ただけ。黒坂石から上がってくる破線路とはどこで合流したのか全く気づかなかった。

左足をかばっていたので右足にも疲れを感じるようになった。適度にそよ風があるが、発汗量は冬場の山歩きの比ではない。1,105.5mピークに登るのを嫌気して、北側に巻いていくことにする。北側に幾つも枝尾根が派生しており、その枝尾根の付け根の高さにシカの通り道がある。適当に幾つか枝尾根をかわして方位を確認して石倉山の尾根に入った。

人間がつけたものなのかシカ道なのか不明だが、最初は尾根の東側に巻き道があるので余計なアップダウンが少ない。県境尾根と石倉山の中間に大きくなだらかなピークがあり、遠目からは西側斜面が草原状で気持ち良さそうに見える。実際に行ってみると、ヒノキが植林されたものの、シカの食害を受けたためなのか疎林となってミヤコザサが生えている。西側に遮るものが全くないので眺めがよろしい。

笹原に荷物を置いて、石倉山まで往復。最初の大きなピークの上部には人為的に削られたような平坦な窪みがある。その先にある同じくらいの標高のピークを越えて、林業用の古い作業道を歩いて鞍部に下っていく。肝心の地図をどこかで落としたらしく確かめることができない。記憶の地図を頼りに尾根の鞍部に西側に少し飛び出た高みに石倉山の三角点を見つけた。ここも山部山名板は健在で傷みはほとんど無かった。四個の石に囲まれた四等三角点が印象的。引き返して、笹原で景色を眺めながら遅い昼食を摂り、県境へ戻る。戻るときも1,105.5mピークを巻いて東側に抜けた。

県境尾根の雰囲気はこれまでと同じで、歩き易いが特筆すべきものはない。稜線の凸凹をなぞって歩くので疲れが蓄積する。1,143mピークにも稜線近くまで林業の作業道が上がってきていた。この辺りの稜線は枯れたスズタケの藪となっていて、とても破線路があるようには思えない。

ここからが本日の核心部。急なピークが幾つか連なっている。一番高いのが地蔵岳だろう。その前にも幾つかピークがあるが、全て登る必要があるのか否か、地図を落としたので判らない。まず、岩場をよじ登って1,160m級ピークへ上がる。岩場は嫌いだけれどもその分アカヤシオの木が多くなり、満開のアカヤシオが慰めとなる。次のピークの西の肩へも岩場の連続で、危険箇所有り。現役の登山道には見えない。肩まで上がってしまうと満開のアカヤシオの間から地蔵岳が見える。この後は危険な場所は無い。

地蔵岳の南にあるピーク(前地蔵岳)の南面は県境尾根で最もアカヤシオが多い場所である。一番良い時期に訪れることができたようだ。これに較べて地蔵岳の登りは単調で地味でつまらない。疲労も蓄積して息が上がる。

地蔵岳(標高1,274.3m)山頂には剣を奉った石祠有り。越えてきた南側のピークを前地蔵岳と呼ぶらしく、祠も南を向いているので、足尾ではなくて安蘇の信仰の山の一つということであろう。山頂の北東側が故意に伐採されていて、勝雲山や横根高原を一望可能。

下山路は最初は西側に向いている。粕尾峠からほんの少し足尾側に下ったところに地蔵岳登山口の標識があることを知っているので不安は無い。10mほど下った時に山頂で携帯メールを送信し忘れたことに気づいた。この日歩いたコース全域が圏外で、ここが唯一交信の可能性があった。しかし、疲れでほんの少し戻るのも面倒で、そのままアカヤシオを眺めながら順調に下る。地蔵平で「思川源流まで5分」の案内がある。後で地図を確認したところ、これが粕尾側から登ってくる古い峠道であるようだ。当然その反対側にも破線があるが、こちらは廃道であろう。現地に案内はない。登山道は地図の破線路とは異なり、県境のピークを西側に巻くように新しく整備されたものであるらしい。最後はミヤコザサの坂を下って車道へ降りる。

車道に降りる前に時間を記録しておこうとしたが、ザック上部のファスナーが開いてデジカメが消えている!時間も体力も残り少ないが、空身でデジカメ探しに戻ることにした。この日はもう他に登山者はいないから、登山道に落ちていれば絶対に見つけることはできるはずと思った。山頂に置き忘れたという可能性もある。疲れているはずなのに、足の痛みのことなどすっかり忘れてあっという間に山頂まで戻ってしまった。結局、見つけることはできなかった。落としたら物音で気づきそうなものだが、いったいどこで落としたんだろうか?携帯メールを送信しに戻っていたらこんなことにはならなかったろうに。何年も前に購入したキヤノンの初代のIXYdigital で、画質的にはとっくに買い換えても良いところだが、ずっと山歩きの伴にし、鳥海山の苦難も一緒に切り抜けてくれたデジカメなので愛着があった。こんな形でお別れすることになるとは残念である。

一応、やるだけのことはしてあげたので、気持ちを切り替えて先に進む。一回余計に地蔵岳に登ったおかげで、もうバテバテ。左足をかばって歩いたので足裏に肉刺ができつつある。しかも勝雲山までは延々と舗装道路歩き。日没までもうすぐという時間帯なのにどんどん車が下ってくる。この先には前日光ハイランドロッジなるものしか無いはずだが、結構お客さんがいるらしい。

この一帯はかつて開拓された歴史があるようで、廃屋や放置された耕地が目立つ。現在は居住する人は皆無のようだ。何故か、道路右側の土地はヤマハ発動機(株)が所有していて、使ってもいないくせに「立ち入り禁止!」の標示が何箇所もあるのが鼻につく。モトクロスコースでも作るつもりだったのではあるまいな?道脇にきれいな流れがあるので、顔を洗ってサッパリ。

地質学には疎いが、この地域には大きな特徴がある。岩盤は露出していない。その一方で、浸食が進んで丸くすべすべした岩がたくさん見られる。これが沢筋にあるならばまだ納得がいくが、高原全域どこに行っても見られるのである。しかも岩が積み重なっているのではなく、火山灰と思われる土壌中にバラバラに埋まっているのである。道路拡張時に削岩した場所があったので確認したが、良質の均一な花崗岩であった。墓石作るならわざわざ山から切り出さずとも、この一帯を掘ればいくらでも出てくる。

電波塔がある関係で勝雲山(標高1,322.1m)山頂に至る立派な道があるが、、こんな山に登って喜ぶ者はいないので登山道の案内は無い。予想通り、ミヤコザサに覆われた地味な場所。三角点ではないところにR.K.の山名板を見つけた。足裏が痛いし疲れているので、三角点などどうでも良くなってすぐに下山。下る途中、数mの範囲だけ携帯電話の電波強度が強い場所があったので、予定通り勝雲山に泊まる旨を自宅に連絡。

かつて耕作地だった萱原を幕場とした。枯れススキの穂を刈り取って敷き詰めるとなかなか良いテントの下敷きとなり、寝心地が良い。着替え後、翌日に備えて足に湿布を施し、使い残しのカイロで冷えた体を温めてすぐに寝た。風が無く、時折至近距離でシカの警戒音が響く以外は静かな夜であった。空は晴れているのに冷え込みもなく、細切れながらも5、6時間くらいは眠れただろうか。これまでの野営では最も良かった。

 

二日目行程: 歩行開始(04:55)〜 深山巴の宿「じんぜんともえのしゅく」・標高約1,120m(05:45)〜 古峰ヶ原高原・標高1,141m(06:05)〜 大天狗ノ鳥居・標高約1,215m(06:20)〜 行者岳・標高1,328.7m(06:50)〜 大岩山・標高1,320m(07:20)〜 唐梨子山・標高1,351m(07:40)〜 ハガタテ平・標高約1,270m(08:00)〜 三ツ目・標高1,491m(09:00)〜 薬師岳・標高1,420.1m(10:20)〜 細尾峠・標高1,192.5m(10:51)〜 車に帰着(12:00)

 

2時半には目が覚めてしまったので、ラジオを聴いて時間つぶし。朝のうちは前日の疲れはあまり感じない。野鳥がさえずり出したのを機に行動開始。2日目は人気のコースを歩くのでさらに荷物を軽量化し、完全なピクニックのいでたちとする。

横根牧場への分岐から都沢方面へ下る道に進む。こちらも通せんぼされているが、道路は全て舗装化されていて荒れたところは一切無い。横根高原から水が染み出しており、道路の下側には湿地性の植物が目立つ。一箇所、へピンカーブが連続する場所があるので、ここは斜面を一気に下って時間と体力を節約。

前日通せんぼされていた場所に到達。最初は都沢に砂防ダムでも建設しているのかと思った。しかし、都沢に鉄筋コンクリート製の橋桁を建設しているので、道路の修復ではない。橋桁の向きから考えて、古峰神社のある草久から横根高原へ抜ける車道(草久足尾線)の整備を進めているようだ。古峰ヶ原方面から広い立派なアスファルト道路が延びてきており、あとは接続を待つだけとなっている。2005年度中に開通するだろう。今年は静かな古峰ヶ原高原を楽しめる最後の機会らしい。鹿沼と足尾間の道路を建設する理由が判らなくもないが、なぜ都沢沿いの道路を整備しないのだろうか?粕尾峠にヘアピンカーブだらけの道を通らせる意味が良く判らない。

深山巴の宿(じんぜんともえのしゅく)(標高約1,120m)は陰気な場所だ。こんなところを修行の宿にするとは考えにくい。勝道上人が修行した本当の巴の宿は横根山中にあるという。どうして横根高原だけ足尾町の境界が稜線を外れるのか不思議であったが、古峰ヶ原と巴の宿を古峰神社とセットで鹿沼市の管轄とするのが理由であれば納得がいく。

旧道を進むと視界が開けて明るい湿地帯の西側を通る。立派なヒュッテが建っており、宿泊できるようだが人はいないようだった。車道が開通すればさらに泊まる人は減るのではないだろうか。

古峰ヶ原高原(標高1,141m)到着。車道の向こう側に神様が祀ってある。禅頂行者道はこの裏に続くと信じて階段を上がるが、道はない。そんなバカなと思いながらミヤコザサの尾根を突き進むと左側から登ってくる車道と出合う。車道を歩いていくと行者沼の標示がある。これが沼?ヌタ場をでかくしたようなものだ。少し進むと正面に大天狗ノ鳥居(標高約1,215m)が見えてくる。

天狗様に申し訳ないと思いながら、ついお神酒を少々頂く。ここからいよいよ行者道。足尾南の山域とは異なり、一面のミヤコザサが気持ち良い。こちらまで足を伸ばす人が結構いるらしく、登山道は明瞭。いきなり下りとなりがっくりさせられる。遥か彼方に霞んで見える高い山が地蔵岳や夕日岳なのだろうか。本日は6、7時間の行程のはずだが、細尾峠まで実に遠い気がする。

何もない鞍部の行者平を過ぎて登った山には三角点と行者岳の山名があった。霞んでいるので景色は今ひとつ。ハガタテ平まであとどの位時間がかかるのか気になる。古峰神社からハガタテ平まで普通に歩いて130分らしい。人の少ない時間帯に歩くのであれば遅くとも8時までにはハガタテ平に着きたい。

行者岳を下り次のピークに向けてゆっくり登っていくと上方から男女の声がする。6人組みの若い男女のパーティで、しっかりした装備を持っている。ハガタテ平に泊まったそうである。快活で気持ちの良い若者達であった。朝早くこんな所で軽装の地元のオヤジ風の体裁を見て意外だったかもしれない。

アカヤシオ咲き誇る禅頂行者道をイメージして来たのだが、正直のところここまでは全くの期待はずれ。しかし、大岩山(標高1,320m)のアカヤシオはそれまでの負の印象を帳消しにして余りある見事なものだった。

疲れているので唐梨子山(標高1,351m)の山名表示を見ても、「だから何なんだよ。謂れくらい書いといてくれよ。」と言いたくなる。カラマツ林とミヤコザサのだだっ広いピーク。いささかこのパターンに食傷気味。足の裏がだんだん痛くなってきた。地蔵岳の山越えが待っていると思うと気が重い。

ハガタテ平(標高約1,270m)から先は古峰神社から登ってきた先行者の足跡有り。少なくとも一組は先行しているはず。でも、静かに歩きたいという望みはかなえられたようだ。ここからは所持していたエアリアマップで行程が読める。

地蔵岳への登りはきつい。こいつさえ越えればあとは何とかなるので、ゆっくり何度も休止しながら登る。禅頂行者道に入ってからずっと感じていたことであるが、一帯にはリョウブとヤシャブシが多い。この2つは痩せ地に強いために足尾の荒廃した禿山に植栽された樹種だが、この辺りもその対象だったのだろうか?土壌が厚くないと生育できないミズナラも見られるので、元来このような植生なのだろうか?昔の行者が見た光景と同じかどうかは判らない。

右手に進行中の薙が上がってきていて危険。登山道はその上部を跨いでいる。人気の登山道なのに、もう少しなんとかならないものなのか。元々の行者道は直登であったと思われるが、現在の道はカラマツの植林された山腹を折れ曲がりながら東に向かい一旦南尾根に出る。道の真ん中に枯れ木があることからも新しい道であることが判る。

地蔵岳(標高1,483m)にはやけにでかくて重そうな石祠が一基。この山は眺めが良くないので、忌々しいただの障害物にしか思えず休憩せずに通過。

登りに使える体力が残り少なく三ツ目(標高1,491m)から夕日岳まで往復する気になれない。行き止まりだし、ゆっくりしていると山頂には人が溢れてしまうような気がする。まだアカヤシオが開いていないし、霞んで眺めも良くないので、夕日岳は後日の楽しみとする。水分補給して下山開始。

1,406ピークからオッサンのでかい話し声が聞えてくる。なんであんなにでかい声で休みなくオバチャンとお話しながら歩けるのだろうか?よく息が切れないものだ。でかい声で話す人が苦手なので、道を外れた斜面で一休みしてやり過ごす。クマ除け鈴をチリンチリン鳴らしながら、女性が2名すごいスピードでガツガツと登っていった。その後に相変わらずでかい声のオヤジとオバチャン達が続く。あれならクマ除け鈴なんて要らないと思うけど。これを皮切りに登ってくる登山者の多さにびっくり。薬師岳に至るまでに全部で20名以上とすれ違った。夕日岳に行かなくて良かった。

薬師岳(標高1,420.1m)も山部山名板が健在。人為的に樹木が払われて眺めがすこぶるよろしい。ここまで来ると男体山がぐっと間近に迫って明瞭に見える。あと数日もすればアカヤシオが開花して残雪を頂く男体山が映えるだろう。静かな薬師岳の雰囲気が禅頂行者道で最も良かった。

登山道は薬師肩から西南西の尾根を下り、わざわざ急傾斜の山腹を横切って境界尾根に向かう。何故真っ直ぐに降りないのか解せぬ。地図の破線とも合わない。薬師岳からの下りでも10名くらいとすれ違った。かなり高齢の方もいたようだが、このコースを往復するなんてたいしたものだ。標高1,200m以下では境界尾根が痩せ細り、つかまるものが無い分、危険を感じる。こんな場所を平気で歩くなんて登山者は感覚が麻痺しているに違いない。アカヤシオはきれいだけれど、個人的にはもう歩きたくない。

細尾峠(標高1,192.5m)には車が14台もあった。ほとんどは夕日岳を目指したはず。本日の夕日岳山頂はさぞ混雑したことであろう。

細尾峠から原向まで、標高差約600mをMTBで一気に駆け下る。途中の沢水で顔を洗ってスッキリし、適温の風を受けてまさに爽快。山登りよりもこれをやるのが目的だったような気がしてきた。車では眺められない神子内川の渓谷美を堪能できる。

勝雲山に荷物を拾いに戻った後、上半身Tシャツ一枚で再び地蔵岳に登ってみた。デジカメを発見できなかったがあきらめがついた。天狗様が盗んだか?誰かが拾ってくれたのならそれも良し。

足の不安を抱えつつも、満開のアカヤシオに迎えられて無事山歩きを達成できて満足である。一日あたりの歩行時間が短かったぶん、翌日の疲労感はあまりなかった。しかし、車やMTBを最大限利用して軽量化を図っても、歩行中は発汗量が多くてつらく感じられた。今後の山歩きの参考となる。