湯沢噴泉塔から手白山へ(2005年5月)

年月日:    2005.05.08(日)

行程:     平家平温泉こまゆみの里・標高約1,000mから出発(06:15)〜 広川原の場(08:50)〜 湯沢噴泉塔・標高約1,340m(09:40)〜 登山道出合い・標高約1,650m(11:50)〜 手白山山頂・標高1,849.2m(13:00)〜 1,722mピーク通過(14:43)〜 奥鬼怒林道へ降下・標高約1,270m(15:40)〜 車に帰着(16:40)

5月7日の土曜日が出勤日だったので、あまり無理はできない。行きたいところは幾つかあるが、山菜採りもしたい。山は他の季節でも構わないが山菜だけは時期を選べない。てな訳で、山菜採りを兼ねて手白山へ行ってみることに決定。湯沢を遡行して噴泉塔に至り、さらに登山道を辿って手白山へ登り、時間があればその先の尾根の様子を探って、最後は手白沢温泉経由でこまゆみの里へ戻るというコース設定である。前日午前中まで降雨したが、午後からは素晴らしい青空が広がったので、降水による増水はないであろう。万が一、雪代で増水していたら山菜探しだけして別の山に登るつもりである。

明け方は西の空がどんよりと厚い雲に覆われていたが、奥鬼怒へ向かううちにすっかり消えて青空が広がった。青空と日射しがあれば良い景色が望めるだけではなく、精神状態を健康に保って余裕を持って適切に状況判断することが可能となる。明け方の気温は1℃で、山歩きには絶好の条件である。今回は八汐湖の西側でボートでヘラブナ釣りをしている釣り人を多数見かけたが、川俣湖でマス釣りをする人は見かけなかった。さすがに連休後ということもあって静かな雰囲気である。

平家平温泉・こまゆみの里から歩行開始(標高約1,000m)。 木々に昨年はなかったマーキングが施されているのが気になる。湯沢には巨大な砂防堰堤が少なくとも2つあるのだが、税金の無駄使いの口実としてさらに余計な堰堤でもつくろうというのだろうか?

今年のタラの芽は丁度食べごろの生育状態であるが、先行者にやられて残り物探しを強いられた。急な茨の斜面を這いずり回って指先を棘で傷めながら、1時間ほどタラの芽採りを楽しむ。

最初と二番目の渡渉点は木橋が残っていた。三番目の渡渉点は橋が流されているが、飛び石で靴を濡らすことなく渡渉成功。四番目の渡渉点も橋が流されており、こちらは飛び石もできない。靴を脱いで、身を切るような冷たさに耐えて渡渉して対岸の露天風呂(広川原の場)に至った。

画像
広川原の場  08:54


昨年入った湯は半分土砂に埋もれて使われていなかった。前回熱くて入れなかった方の湯はそのまま残っており、川からパイプとホースで導水して湯温を調節できるようになっている。さっそく導水して10分ほど調整してから入浴。人の裸を見るのが嫌で温泉は好きではないがここだけは別。川原は広々として開放感があって実に良い湯である。湯に浸かって良い気分になった後で、再び汗ぐっしょりの服を着なければならないのが残念。露天風呂の近くにシカの屍骸があった。こんな険しい谷の底にシカが訪れているという事実に少々驚きである。

この後、何回か渡渉点があるが、靴を濡らすことなく渡ることができた。噴泉塔は湯沢左岸の崩落地の一角にあり、沢沿いには進めない。遊歩道は高巻いて崩落地の中に下って終点となる。何度渡渉を繰り返したのか、数えていたのだが忘れてしまった。

画像
噴泉塔遊歩道終点  09:40


遊歩道が整備されているのはここまで。手白沢温泉へ向かう道の続きがどこにあるのか見当がつかない。前回はここで引き返している。地図に拠ると破線は左岸沿いにさらに湯沢奥へ向かってから反転して手白山中腹を横切るのであるが、崩落地から先に進むには崖をよじ登る必要がある。とても道があるようには思えない。崖を登れば道があるのかもしれないが、大回りするのも嫌だ。噴泉塔から先は道が判り難いという情報もあったので、道探しはあきらめ、写真撮影場所から尾根に取り付き手白山中腹を横切る登山道に向けて噴泉塔から百数十m直登する。これはあらかじめ考えていた選択肢の一つ。

平成3年8月1日発行の25,000分の1地図は実は噴泉塔の位置も破線もデタラメ。地形図の破線を信じて左岸ばかり見ていたため、手白峠へ向かう登山道の続きを見つけられなかった。道の続きは右岸側のどこかにあるらしい。つまりあと2回渡渉しなければならないことになる。

少し戻って、遊歩道最高点から尾根に取り付く。いきなりシャクナゲを掻き分けるとすぐに広く平坦な場所があり、焚き火の跡が見られる。こんな隠れた場所に格好のキャンプ地があったとは意外である。平坦地を横切り尾根に取り付く。チシマザサよりはるかに性質の悪いシャクナゲ藪が待ちかまえていた。鎮座するネズコを避けてシャクナゲを掻き分ける繰り返し。すぐにズボンの腿に鉤裂きができた。テープの類は一切無いが、たまに鋸でシャクナゲを切った跡が見られる。少なくとも10年以上前に道を伐開しようとした者がいるという事実が支えとなる。

シャクナゲ藪があるということは痩せ尾根ということ。両側は急峻な谷である。自分が居ると思われる場所の地図の地形とは全然似ていない。既に150mくらいは登っているはずなのに地形はますます険しくなり、山肌に沿って登山道があるようには思えない。

画像
標高1,450m付近から眺めた高薙山  10:35
中央の尖っているのが高薙山北東の2,100mピーク


北側斜面に薙を見下ろしながら一休みし、正面の高薙山の方位を確かめて我が目を疑った。高薙山が自分のほぼ南にあるのである。高薙山の方位も周囲の地形も地図と合わない。北側の尾根にピークが飛び出ているのが見えるが、そんな地形は地図の噴泉塔の近くにはない。地図上では手白山の東側にそれらしき地形があるが、もし目にしているピークがそれならば1km以上斜面を瞬間移動したことになってしまうではないか。地形図の記載がデタラメであることにようやく気づいた。高薙山を基準に自分の現在位置を特定すると、かなり複雑な地形のど真ん中に居て、さらに200m程度登らないと登山道には出られないことになる。再びシャクナゲ藪に突入し、南側斜面の薙を一箇所抜けるとようやく尾根が広がりシャクナゲ藪から開放された。

ここからさらにシャクナゲ藪を越え薙上部を巻くと、薄い笹に覆われた広葉樹林の尾根となり、適当に登っていける。

画像
11:51


不鮮明ではあるが、尾根上には古い道跡らしきジグザグの窪みが見られるが、昔の作業道なのかどうかは不明。このまま手白山の尾根まで登ってやらんと思った矢先に、突然しっかりした踏跡が現れた。

画像
薙の横断  11:57


登山道に抜け出た場所は手白山の東側にある薙の南側。結局、噴泉塔から登山道に抜けるまで標高差330mを登ったことになる。薙の手前に標識があり、薙の名前なのだろうか「壮息」と書かれていたように記憶しているが、不鮮明なので読み違えかもしれない。薙が渡れるのか心配していたのだが、さほど危険は感じられない。朽ちかけた木橋を渡らずにその上部を巻くことも可能なようである。その後、手代沢温泉〜手代峠〜湯沢噴泉塔の区間は廃道とされたと聞く。この薙が原因なのだろうか?

画像
薙から見る(右から)高薙山、太郎山、女峰山  11:58


薙は遮るものがなく眺望に優れる。高薙山、太郎山、女峰山が並んで見える眺めは手白山で随一であろう。記憶が判然としないが、登山道横に水が湧き出ている場所がある。ここでたっぷり水を飲み、顔を洗って先に進む。

手白峠(標高約1,760m)はまだたっぷりと雪が残っていた。締り具合も良い。

画像
手代峠      12:31
赤いのは登山者が喫煙していた頃の遺物(吸い殻入れ)


手白峠からはたいした藪もなく、倒木を跨いで順調に山頂に到達。尾根はネズコ、コメツガ、トウヒ等の針葉樹とダケカンバに覆われている。高薙山方面を眺めることはできるが、写真撮影には不向き。シャクナゲ藪を抜けて登山道に抜けた時の感激が大きかったせいか、山頂に達した感慨は無い。先日行った石倉山のように石で四方を囲んだ三角点標石有り。

画像
手代山三角点      13:03


山頂で昼飯を食おうと思って空腹を我慢してきたので、三角点に腰を下ろして昼食。そよ風と適温と快晴。実に爽やかな山頂の雰囲気である。ダケカンバのめくれた樹皮が風に吹かれてパタパタと鳥の羽ばたきのような音が聞えてくる。ダケカンバの最上部に測量板がくくりつけられていた。どうやってあんな高みに取り付けるのだろうか。

さて、これからどうするか。タラの芽採りや温泉、藪漕ぎに時間を費やしたので、根名草山方面の探索には時間が足りない。土倉山で傷めた足の具合も相変わらず良くない。できるだけ道路を歩く距離を短くしたいので、手白沢温泉に下らずに1,722mピーク経由で女夫渕温泉に降りる。シャクナゲ藪がありそうだが危険はないはず。

手白峠から残雪に覆われた斜面を手白沢温泉方向に200mほど進んで目的の尾根に入る。

画像
1,722mピーク  14:19


1,722mピーク手前の鞍部に下るまでに2つの小ピークを通過する。予想通りアスナロとシャクナゲの藪だが、下りなのであまり苦にならない。最近、地籍調査が行われたようで、ピンクのテープや標識があった。鞍部から1,722mピークまでは朽ちた倒木が累々と横たわる不気味な光景が広がる。

画像
1,722mピーク南側  14:50


1,722mピーク頂上部には岩場があるが樹木に覆われて見晴らしゼロ。1,722mピークを過ぎると障害物の少ない快適な尾根下りとなる。

画像
1,722mピーク北側  14:54


標高1,600m付近では帝釈山地の様子が梢越しに見える。台倉高山と引馬山の雪もだいぶ少なくなってきたようだ。標高1,500m付近でウスクボ平に下るかイノマタ沢左岸を下るか選択しなければならない。1,438mピークを見ながら確実にイノマタ沢左岸尾根に入った。この辺りはスズタケ藪があるので、久し振りにマダニとご対面。

無事、標高約1,270mのカーブで奥鬼怒林道へ降下。スパッツは通気性が悪く不快なので普段の藪歩きで使用することはない。おかげでいつもズボンの裾は汚れている。今回履いているズボンは藪用の使い古しで裾がボロボロ。乞食みたい。ボロと汚れ隠しのために、道路へ降りてからスパッツを着用。イノマタ沢のきれいな流れで顔を洗い道路を下る。

トンネルを抜けてカーブを曲がるところに、奥鬼怒自然研究路に抜ける仮歩道入り口がある。時間があるので、ここから鬼怒川を渡り、吊り橋(絹姫橋)で黒沢を渡って女夫渕の駐車場へ抜ける。約1.5kmの舗装道路歩きで平家平温泉・こまゆみの里に帰り着いた。

山野・史跡探訪の備忘録