長沢橋から持丸山・横瀬山周回(2005年5月)

年月日:    2005.05.14

遭遇した動物: カワネズミ(水中モグラ)

行程:     湯西川・長沢橋歩行開始・標高約700m(08:50)〜 1,267mピーク(10:49)〜 持丸山山頂・標高1,365.5m(12:04)〜 1,312mピーク(12:40)〜 横瀬山の北の広いピーク(13:51)〜 横瀬山到達・標高約1,284.3m(14:20)〜 車に帰着(16:10)

この週末は曇りがちで気温も低いとのこと。気温が低いのは大歓迎。しかし、陽射しにパワーをもらって山歩きを楽しむ自分にとって、晴れ間が望めないのでは山菜採り以外に山に行く意味など無い。海は波・うねり共に高く海釣りもダメ。渓流釣りも飽きた。遊びに行く予定無しで金曜夜に夜更かししたのであるが、目覚ましを切るのを忘れていたのでいつもの時刻に起床してしまった。

インターネットで見た天気予報は相変わらず冴えない。それどころか、土曜夜は降雨も予想されている。関東の天気が悪い場合、福島県側の天気が良くなることが多い。念のために卓越天気予報を見てみると県境付近は晴れているではないか。今のところ、県境付近で興味が有り且つ手軽に歩けそうなのは持丸山・横瀬山の周回ルートのみ。さっそく準備して出発。

1,312mピークを中心にして伸びる幾つかの尾根上のピークに持丸山、横瀬山、高瀬山、白倉山の名が付けられている。山塊全体を一望できる場所は限られており、山歩きに興味の無い人がこれらの山々を意識することはまずない。初めて横瀬山を意識したのは2004年秋に明神ヶ岳から一ツ石尾根を下った時で、一ツ石尾根・標高1,192m地点で正面に横瀬山が見える。一ツ石と芹沢の間の破線に興味を抱き、その翌週にさっそくこの山塊を歩いてみたのであるが、想定外のチシマザサ藪にてこずって時間的に横瀬山への立ち寄りをあきらめざるを得なかった。

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明神ヶ岳一ツ石尾根から見た横瀬山と持丸山(左)  Nov 06, 2004
地形図上で一ツ石から横瀬山に至る破線路は正面の植林地(下部がヒノキ、上部がカラマツ)を直登することになっている。


単に横瀬山にだけ登るのであれば、湯西川を渡渉して直登コースとなるが、渡渉が嫌だし往復するだけなので面白くない。1,312mピークから横瀬山までの藪尾根を通しで歩くためには周回するしかない。長沢の近くに橋が2本架かっているので、これを利用して尾根を時計回りに歩き長沢を周回することにする。

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長沢橋   08:49


湯西川の長沢橋を渡ると左右に道が分かれる。右が長沢林道。左は新しく作られた道路でどこに向かうのか不明。目的の長沢右岸尾根に取り付くには右側の長沢林道に進む。道は未舗装で少々荒れているが、何台も車が進入した形跡がある。林道歩きを短縮すべく長沢の2番目の橋から尾根に取り付いたが、急で登りにくい。林道に上がってみるとなんと舗装整備されているではないか。標高800mまでは林道を歩いた方が楽である。

法面補強部の右端から再び尾根に取り付く。笹は無く非常にスッキリした広い尾根を快調に登っていける。標高900mを超えたあたりの緩斜面はブナ、ミズナラ、ヤマザクラなどの混交林で雰囲気がよろしい。尾根の形がはっきりして少し勾配が急になってくると腰位の丈のスズタケ藪が現れるが、長くは続かない。ツツジ類が多いのだが花着きはあまり良くない。ヤマツツジには一週間早く、やっとトウゴクミツバツツジが咲き出したところだ。生えている草本類はサンカヨウ、ヤブレガサ、タチツボスミレの仲間やチゴユリなど。特にヤブレガサはこの山塊のどこに行っても大量に生えている。若芽を山菜として食べる地方もあるようだが、我が出身地では食べない。葉をつまんでみるとキク科植物特有の香りがするから、上手くアク抜きすればおひたしで食べられるのかもしれない。

時々後ろを振り返って明神ヶ岳を梢越しに眺める。だんだん雲間が広がって、ガスに隠れていた明神ヶ岳本峰の姿が見えるようになった。1,267mピーク手前で長沢奥部の植林地が上がってきており、持丸山の様子を把握できる。

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持丸山(1,267mピーク手前から)  10:32
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1312ピークから横瀬山に向かう尾根  10:33


持丸山はかなり人の手が入った山で、北西側と南西側の斜面は高いところまで植林されている。長沢の奥部一帯はヒノキの植林地となっており、長沢右岸尾根も直下まで植林されている。よって、手っ取り早く持丸山に登りたければ長沢林道奥から植林地を一気に登れば良いと思われる。

一方、1,312mピークから横瀬山へ続く尾根は植林されていない(実際に尾根を歩いてみてこの理由が解った。)。それまでは目印の類が一切無かったのだが、過去何回かお目にかかったことのある金色の鳥避けテープがヒラヒラしていた。植林地を上がってきたに違いない。この尾根には目印は必要無いので取り除く。

1,267mピークを過ぎると一箇所展望岩があり、福島県境の様子が見える。晴れ上がり空気もそこそこ澄んでなかなか良い眺めである

持丸山に向けて西進する尾根は北側斜面が植林地となる。鞍部からの登りは少し痩せてゴツゴツしているが危険ではない。痩せ尾根を抜けると山頂西側直下のヒノキ植林地の南の縁を通る。潅木につかまって登っていくと見晴らしの良い笹原の縁に出た。遠くから見て持丸山西側の植林地の上部がツルッとした笹原になっているのは判っていた。チシマザサの藪ではなく、ミヤコザサに雑木の幼木が混じっているだけで歩き易い。伐採はしたものの上部には植林しなかったのか、それとも植林はしたものの雪に耐えられなかったのか。おかげで遮る物なく福島県との境の山々を全て見渡すことができる。持丸山はただの藪山との印象があったが、こんな素晴らしい展望場所を見つけて持丸山のイメージが一変してしまった。

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枯木山方面  11:46
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大嵐山と土倉山  10:45


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土倉山〜荒海山  11:54
手前側の林道は平沢側、右側の林道は芹沢側である。


植林地上端からほんの少しチシマザサ藪を漕ぐだけで持丸山山頂に至る。まだ雪が一部残っていた。持丸山の尾根の構造上、深く積雪するのは頂上部に限られているようである。深い雪に保護されてかろうじて頂上部にのみチシマザサが存続している。温暖化が進んで雪が積もらなくなったら暖地性のミヤコザサの進入を許し、いずれ駆逐されてしまうだろう。考えようによってはか弱い植物である。

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持丸山山頂  12:04


持丸山山頂を確認してから1,312mピーク方面に向かい、チシマザサの藪の薄くなった場所で昼食休憩。1,312mピークへ向かう途上で明神ヶ岳が良く見えるのだが、残念ながら急速に霞んで写真撮影には不向きな状態になってしまった。

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1312m ピーク  12:40


前回、高瀬山から持丸山へ向かう際、送電線鉄塔から1,312mピークへの登りのチシマザサの藪に閉口した。1,312mピークから南に下る斜面のチシマザサの藪も結構深い。もうすぐミヤコザサの快適な尾根歩きが楽しめるだろうとの期待に反し、チシマザサの丈・密度共に高くなる。標高1,300m級の長い尾根の全てが丈2.5m〜3mのチシマザサ藪で、ヤマブドウなどのつる性植物もからんで実にしつこい。

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13:00


北東に伸びる尾根なので北西風が吹き付ければ雪が吹き溜まるのは当然か。南東側斜面に雪庇の名残があった。この山塊のチシマザサの本隊は1,312mピークの東尾根ではなく横瀬山に至る南西尾根に鎮座している。延々と1km以上続く丈2.5mを越えるチシマザサとつるの密藪にウンザリ。どうりでこの尾根を歩いた記録が無いわけだ。地図の破線に相当する痕跡は皆無。積雪期に一ツ石から三依への山越えルートとして用いられていただけなのではないだろうか。無雪期に芹沢側から横瀬山方面に向かうのは非現実的(藪が好きなら話は別だが)。一ツ石からの直登が実質的横瀬山に登る唯一のルートと考えて良い。今回はチシマザサ藪を漕がずに済むと思い込んでいたのでガックリ。それでも平五郎山から引馬峠に行く途中にある地獄に較べたらまし。頭上には青空が広がって気力、体力ともに十分。

横瀬山北の広いピークから下山に使用する予定の尾根が派生する。横瀬山到達後にここまで戻ってくる必要があり、チシマザサ藪が横瀬山まで続いていたら帰りが厄介なことになると考えていた。しかし、幸いなことに横瀬山手前の鞍部へ向けての下りはクマイザサの藪。

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横瀬山へむけての下り   13:51


横瀬山だけが他の場所と植生が違っている。鞍部からの登りはミヤコザサに覆われている。登っていくとカタクリの花が満開で、雪が消えたばかりの場所ではやっと蕾が成長し出したところ。この山はカタクリの群生地なのであった。

山部氏が登頂した時、積雪で横瀬山の三角点位置が判らなかったという。山部山名板が三角点から少し離れたキハダの木のだいぶ高いところに掛けてあった。倒木を立てかけて足掛りを作って山名板を外し、三角点の背後の木に移設。今後訪れた人は山名板を背景に記念撮影が可能。

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横瀬山山頂  14:20


一旦、北側のピークまで戻り、予定の尾根に向けて西に下る。最初は見事なブナ林とクマイザサの林床。次第に尾根の形が明瞭になると尾根左側が珍しいアカマツの植林地になっていて、幹にシカ害予防のための黒い保護ネットが被せられている。林床はスズタケの藪になっているが、下草や雑木が刈り払われて歩き易い。下の方で複数のチェーンソーが稼動している音が聞えてくる。伐採されたばかりの木の中にコシアブラの木があった。芽吹きが丁度食べごろである。いつもなら一本の木から幾つか採るだけだが、切り倒されてしまったのだからもったいない。予期せぬコシアブラの収穫となった。

湯西川沿いの道路が見える所まで下ると若いヒノキの植林地があった。歩きにくいので植林地を避けて尾根から北側に若干逸れたので、最後は岩場のある急峻な斜面をスズタケにつかまって川原に降り立った。湯西川の水量は少なく拍子抜け。水力発電用に上流で取水しているせいであろう。楽々渡渉して対岸の道路へ上がり、ほんの百m程度上流側に歩いて車に戻った。一見してつまらなそうな山塊なのだけれども、植生に多少なりとも興味があるので結構楽しめる。

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ブナ  15:31


一ツ石方向に戻る途中の小さな沢に架かる橋の下で顔を洗い着替え中、沢の中にうごめくものを視認した。ネズミのような動物が水中を流れに逆らって泳いでいく。珍しいカワネズミだ。モグラの仲間で、水生昆虫や魚を捕らえて食べる日本固有種である。湯西川ダムの建設によって、この生息環境ももうすぐ失われてしまう。

帰りに湯西川ダムの案内板に寄ってみた。ダムの効用について書いてあるが、その必要性があるとはとても思えない。既に鬼怒川水系はダムだらけで生態系は完全に破壊され尽しているから、いまさら自然破壊について論じる気はない。きれいごとばかり書いて本当の必要性や費用対効果が全然判らんのが気に入らん。千葉県や茨城県まで導水するための建設費や、橋梁だらけの道路付け替えの建設費は幾らなのか、県民の水道代にはどう影響するのか。知りたいことが全然書いてない。ここは山間の僻地で元々何もないところだから話題にもならず土木産業に公金をばら撒く格好の口実となっている。大芦ダムの建設が中止となったのは住民の反対運動があったからであって、栃木県の公共事業頼みの税金無駄使い体質は何も変わっていない。

運転中に襟足にチクッとかすかな痛みを感じた。嫌な予感がして髪の生え際をまさぐると、マダニが喰いついていた。ダム建設のことやマダニに刺されたことで、ちょっぴり気分の悪い締めくくりとなった。

山野・史跡探訪の備忘録