枯木山への尾根探索(2005年11月)

年月日:    2005.11.03(木)

行程:     安ヶ森ロッジの手前・標高約760mから出発(06:55)〜 県境の1,549mピーク(09:34)〜 1,600mの小ピークで撤退(10:50)〜 1,549mピーク南東尾根の下り開始(12:03)〜 もちづけ橋復帰(14:02)〜 車に帰着(15:35)

関連記録@  2006-10-14、15 枯木山(2006年10月)

山は青空の下で日光に照らされていないと美しく見えないし、爽快感も無い。特に道の無い藪山なんて曇天では単に気味悪いだけで精神衛生上よろしくない。山に登る理由は人それぞれだが、自分の場合、藪山に入る気力を引き出す触媒として@『晴れていること』が絶対条件。そして、A『強い動機』が必要となる。山登りの動機は人それぞれだが、自分の場合は藪歩きの趣味はないので、風景、植生や史跡に関する強いあこがれまたは興味が山歩きの推進力となる。

4月に土倉山山頂から初めて枯木山を見た。あまりパッとしない山ではあるが、白く雪を被った姿から想像するに場所を選べば眺めは悪くなさそう。以来、枯木山から土倉山を眺めて見てみたいと思うようになった。動機が若干弱いので、何がなんでも行きたいとは思わない。しかし、体力が衰えてからでは行く気にならないだろうという思いもあって、中途半端な誘惑にかられる。

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土倉山から見た枯木山  Apr 24, 2005 09:29


枯木山近くの県境尾根の様子については藪が在ること以外に何も情報が無い。今年は週末になると天気が悪くて一泊前提の行程を組めないのでダメ元で日帰りの可能性を試す。安全且つ最短と思われる尾根周回コースとして、白滝沢から 1,549mピーク南東尾根を登り、県境尾根を西に辿って枯木山に至り、下りは1,692mピークから南下するルートを計画。万が一に備えて通常の山中泊の準備をしていくが、翌日の仕事は休めないので途中退却覚悟で日帰りする。撤退の時限を11時半に設定し、仮に山頂直前であっても引き返す。

白滝沢沿いの山地は湯西川財産区となっており、地元の人とキャンプ地の利用客以外は林道に車で進入できない。安ヶ森ロッジの前に駐車場があるのだけれども、文句を言われるかもしれないのでだいぶ手前の橋の横に車を停めて歩いていく。白滝沢沿いにキャンプ地が2箇所整備されており、紅葉を眺めながらきれいに手入れされた舗装道路を進む。第二キャンプ場から奥は未舗装の林道となる。荒れたところはなく快適に進める。朝方の谷間の気温は0℃近くまで下がっており、尾根取り付きまで歩く間に発汗せずに済んだ。

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もちづけ橋  07:22


もちづけ橋を渡ったところから1,549mピーク南東尾根先端に取り付いた。予想していたより勾配が急で掴まる物も少ない。この尾根を戻ってくる場合は少々厄介だなと思いながら登っていった。勾配が少し緩む場所に古いワイヤーが何本も張られている。この尾根もまた昔から湯西川の人々の生活と共にあったのだ。尾根上には不自然な窪みが断続的に続く。明瞭な道形ではないが、薪炭の運び出しに馬を通した可能性がある(最後まで確かめはしなかったが、道形は標高1,100mで南に分岐する尾根から上ってきているようであった。よって、尾根先端から取り付くのではなく橋を渡って100m程度奥に進んでから取り付くと楽であると思われる。)。

最初は藪が薄く、スズタケがまばらに生えている程度。標高1,200m付近のブナ林からチシマザサがややうるさくなる。

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08:07


尾根幅が狭まるとネズコの大木が稜線に鎮座してシャクナゲ藪も現れる。1,263mポイントでは急斜面の藪中で大型獣(たぶんカモシカ)が移動する音が聞こえた。標高1,450mまでは行く手を遮るような藪はない。1,549mピーク直下の急勾配では岩場を適当に巻いたり、ヤマグルマやシャクナゲを乗り越えて進む。イヌツゲ藪も待ち構えていた。昔懐かしいというか久しぶりに宿敵に出遭ったというか変な気分だ。こいつは故郷の川桁山地の痩せ尾根上によく見られ、稜線に鎮座して両側の斜面にベロンと長い枝を伸ばし、躱すのが厄介なのである。アカミノイヌツゲがあったことは確認したが、枝を伸ばしていたのはハイイヌツゲであったのかもしれない。

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アカミノイヌツゲ
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ヤマグルマ


県境の1,549mピーク直下の急勾配からの眺めは良いが、頂上は藪で眺望が悪い。踏み跡は無いものの西側への移動は難しくない。

西隣の1,560m台のピークの東側斜面はチシマザサと潅木藪の丈が低く、まあまあ快適。少しづつ場所を変えれば栃木県側と福島県の広範囲を見渡すことができる好ポイントである。安ヶ森ロッジも見える。

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高原山   10:04


次の鞍部に下る直前に枯木山の姿を捉えた。

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枯木山遠望  10:09
県境尾根1,549mピークの西隣のピークから撮影
右側のピークが枯木山山頂。手前中央が今回の試行の退却地点である1,630m級ピーク。


県境から北に派生する枯木山尾根には大木が少なく、東側斜面にはチシマザサと思しき笹原が目立つ。枯木山山頂は藪らしいが、枯木山尾根の東側の眺めは良さそうである。

直線距離は近いのだが、実際の行程は長くアップダウンも多い。藪の具合から見て枯木山到達は無理。ここで逡巡。なんとか1,692mピークから南に下りたいものだが、時間的にぎりぎりだし膝の具合も悪く冒険になる。手前の1,630m級ピークまで行って判断する。

鞍部へはチシマザサの丈がやや高いが楽に下れる。鞍部には薄いカモシカ道が一筋。1,630m級ピークへの登りも最初は潅木藪中のかすかなカモシカ道を辿れる。一箇所、小さな裸地があり、パノラマを眺めながらの絶好の休憩地である。

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土倉山と1,549mピーク(背後に七ヶ岳) 10:38
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荒海山   10:40


眼下の急斜面で大型獣がうごめく音が聞こえてきた。1,600mの小ピーク上はイヌツゲがびっしり。カモシカ道も無く、イヌツゲ藪に蔓が混じり移動しにくい。さらにその先はもっと酷そう。汗拭きタオルも藪に盗られて気が萎えた。今後、無雪期に再びこの尾根を辿ることはないと思うので残念ではあるが、時限までまだ40分残して1,630mピークで撤退を決意。

鞍部への下りが意外に難しい。下り始めは下る方向が見えないので細かな修正が欠かせない。鞍部からの登りのチシマザサ藪は苦にならなかった。

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県境尾根1,692mピーク  11:46(帰りに撮影)
1,692mピーク手前の北東鞍部は平坦で、遠めからは笹薮が美しく見える。


1,549mピーク南東尾根の下り始めは尾根が不明瞭なので南に引き込まれないことを意識していた。方位磁石で進行方向を確認して南東に進む(進んだつもりだった。)。最初左に針葉樹が見えたので、若干方向を東に修正し、うまく南東尾根に乗ったと思い込んだ。シャクナゲやヤマグルマを乗り越え岩場を巻いて下る。ここまでは登りと同じ組み合わせで不思議に思わなかった。カモシカにかじられてボロボロになった赤い境界杭を見る。はて、登ってくるときに見た記憶が無い。空腹を覚えて昼食休憩し、方位磁石を見てやっと異常に気づいた。北東方面、つまり90度方向がずれて安ヶ森峠に向けて下っていることになる。対面に高原山が見えないので辿るべき尾根を外したことは明らかだ。チシマザサがびっしり生える標高1,450m付近の急斜面を斜めに横切って南東尾根に移動。

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1,549mピーク南東尾根・標高1200m付近    13:00


もちづけ橋に向かって下ると掴まるものが少なく危険。若干東側の樹木が多いところを下り沢沿いに橋に復帰。

順調に下山して時間が余ったので、キャンプ地に整備されている遊歩道を歩いて、白滝沢右岸尾根の標高948mピークに上がってみた。急勾配で笹はほとんどない。頂上にはテーブルとベンチが一式あるのみで眺望は無し。白滝沢右岸尾根を歩くときに使ってみたい。

県境尾根には針葉樹が少なく性質の悪い藪が連続し、日の短い秋に日帰りするのは通常の体力では不可能であることが確かめられた。日の長い春ならば無雪期の日帰りは不可能ではないにせよ体力勝負となる。一泊すれば沢を詰めずとも余裕で往復可能である。

コース全域でテープや赤紐の類は一切無いが、枝尾根がほとんど無いので迷う心配は少ない。危険箇所も無い。一泊前提で枯木山に登るコースとして最良と思われる。撤退地点から枯木山の尾根にかけての藪情報については他者の報告に期待したい。

山野・史跡探訪の備忘録