川中島〜夕日岳〜薬師岳〜大木戸山周遊(2005年12月)

年月日:    2005.12.03

行程:     川中島出発・標高約463m(07:13)〜 三角点・標高905.5m(08:21)〜 オオボッチ到着・標高1,294m(09:28)〜 夕日岳山頂到着・標高1,526.1m(10:23)〜 薬師岳到着・標高1,420.1m(11:40)〜 大木戸山到着・標高1,286.6m(13:19)〜 川中島に帰着(15:27)

関連記録@  2004-01-10 六郎地山〜三ノ宿山〜大木戸山縦走
関連記録A  2005-04-30 〜 05-01 アカヤシオ咲き誇る足尾町東境界尾根

六郎地山に登った時に夕日岳を最初に意識した。独立峰ではないので禅頂行者道を歩くついでに寄ってみるつもりだった。ところが、春に一泊二日で足尾町境界尾根を歩いた際、初日に落としたデジカメを探し回って疲労したこともあって、翌日は夕日岳に寄らずに細尾峠に下ってしまった。夕日岳に登るなら川中島を基点とした東大芦川の左岸尾根と右岸尾根の環を完結させたい。川中島から六郎地山経由で大木戸山までは既に歩いているので、今回は川中島から夕日岳経由で大木戸山に至り、最後は前回と同じ大木戸山南尾根を下ることにする。時計回りにした理由は、ルートファインディングなどせずに未知の尾根を何も考えずに安全に歩きたい。ただそれだけ。今回は迷う心配は全く無い。他者の記録は山歩き後に参照することとする。

地形図を見て、不安要因が2つあった。まず、川中島から夕日岳までの標高差が1,060m以上ある。通常の山登りで標高差1,000m以上を一気に登ることは滅多にないことである。その後もアップダウンが大きく標高総和が1,700m近くある。富士山に登るのに較べたらたいしたことはないが、タフなコースであることは確かだ。次に、急勾配若しくは痩せた岩場の存在が予想されることである。「怖い」場所があるとは聞いたことがないが、山登りする人は危険感覚が麻痺しているから「危険度」の情報はあてにならない。

川中島周辺の道路の両側には丈の高い木製の杭が打たれていた。なんとなく威圧感がある。蕗平方面に向かう道路沿いにも在るので、また要らぬ林道整備でもしようというのか。『夕日岳新道』なるものを辿った方達は皆、蕗平を出発地もしくは下降点としているようであるが、今回は尾根突端から登ることにこだわり、広い更地が残る川中島集落跡に車を置く。

尾根突端には石の鳥居が崩れた古い神社(蚕影山神社?)があり、木製の祠が2基並んでいる。中に納められていた最も新しい木札には「昭和二十六年一月二十五日 社主 大貫幸一郎、奉再建大山祇大神氏子安全祈所、川原小屋・蕗平両坪氏子中」とある。放棄されて久しいようだ。山上の石祠ならずとも、麓の神社ですら住む人が消えれば祀る者も途絶えるという典型例だ。

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蚕影山神社? 07:18


『川原小屋』という地名は現在の地形図には記載されておらず、林道の名称(河原小屋三ノ宿線)にその痕跡をとどめるのみ。いったいどこにあった集落なのだろうか。日光沢沿いに家屋が2軒ある場所をそう呼ぶのだろうか。

汗拭きタオルを忘れたことに気づいた。発汗量が多い自分にとって汗拭きタオルは山歩き必須アイテムの一つだ。こいつをいつも首に引っ掛けていないと妙に落ち着かない。いまさら戻る気にはなれない。気温が低くて発汗量が少なくて済むだろうから、いつもより抑え目のペースで登れば問題あるまい。

神社の裏手はスギの植林地となっており、稜線上に危険箇所はなく藪も皆無で順調に登っていける。程なく蕗平から上がってくる林道と交差する。林道の続きが不明なのでさらに稜線を辿ると再び林道と交差。ここからしばし林道を歩き、勾配が急になる場所で稜線に復帰。明瞭な山道があるが、途中から稜線を離れて尾根の西側斜面の植林地帯に向かっていく。直登すれば良いのだが、山道の行く先に興味があって辿ってみた。

山道はゆっくりと高度を上げながらスギ植林斜面を横切り、伐採後に潅木で藪化した一帯を通り過ぎ、再びスギ植林地帯に入る。主尾根の上に向かう気配が無いので、枝尾根のスギ林の中を適当に上に向かった。炭焼き窯の跡があり、古びた赤いジャージパンツと石油ストーブの残骸がある。さらに進むと別の山道が走っている。この道もスギ植林斜面を西に向かってゆっくりと登っていくが、次の枝尾根を回り込んだ場所で消滅。よって、ここから枝尾根を直登して三角点を目指す。

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905.5m 三角点    08:21


稜線の日光沢側は広葉樹に覆われており、山裏ではあるが葉の落ちた季節は明るい雰囲気である。標高905.5mの三角点から先は緩い勾配の尾根を快適に登っていける。頻繁にシカの警戒音が鳴り響き、ガサガサ逃げていく音とガラガラ石が転げ落ちていく音が聞こえる。稜線上に登山道跡は見当たらず、うっすらとしたシカ道しかない。尾根の西側の一区間で幅広の道跡のようなものがあるが、これは伐採・植林時の作業道跡であろう。

広くなだらかで若干潅木の藪がうるさい場所(標高約1,160m)で、幹に「トラ?平」なる標識が付いている。「?」の部分の文字は「リ」なのか、「ツ」なのか、「ク」なのか判らない。いずれにしても名前としては変だ(記録を再編集していて、「ト」ではなく「ヒ」であることに気づいた。ウェブで調べてみると「ヒラッ平」が正解のようだ。2020年8月2日追記)。

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ヒラッ平    09:07


リョウブやミズナラの生え方から見て、この辺りは長年に渡って人の手が入っていたようである。

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09:12


1,294mポイントの東側にはカラマツが植林されている(1,294m ポイントにある標示は文字の一部が欠けていて「オオホノチ」と読める。由緒がありそうな名称で当時話題となったが、その後「オオボッチであったことが判明している。2020年8月2日追記)。

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オオボッチ    09:28


オオホノチの先の鞍部に到るまで、岩がゴツゴツしていて谷底を眺めながら下る場所が2箇所ある。そのうち一つは稜線を辿れず、樹木が生える南西側斜面を巻いた。鞍部からの登りはもっと嫌らしい。標高1,300m前後の大きな岩がゴツゴツした区間は稜線部を直登することができそうだったが、赤ペンキマークが南西側斜面を巻いているのでこれに従ってみた。こちらは谷底を左に見ながらかろうじて樹木を掴んで辿れるというもので、ひとつ間違えば滑落は確実。

登っていく間、ほぼ全ての区間で西側に地蔵岳を視認できる。一方、夕日岳は標高1,340m付近の尾根屈曲点でようやく視認できるようになる。地形図ではたいしたことなさそうな標高1,340mの鞍部も嫌らしい。こちらは尻をついて慎重に支点を探しながら下った。新道の名のつくルートにろくなものはないな。『夕日岳新道』なるものは登山が盛んなりし頃にどこぞの山岳会が勝手に命名しただけで、道が整備された訳ではなかったらしい。古い木製の標柱の残骸が稜線上に点々と在るだけ。

細尾峠や古峰ヶ原から既に何名か登ってきているであろうとの予測に反し、夕日岳山頂には誰もいなかった。自分が登ってきた方向には「この先は登山道ではないので、必ず来た道を戻ること」旨の注意書き有り。まさに同感。このコースを帰りに使わなくて良かった。オオボノチ(1,294mポイント)から夕日岳山頂までは痩せ尾根と急斜面が連続する。特殊な技術を必要とはしないが、滑落したら死にはせずとも大怪我は免れまい。安易に入り込むべきではない!

山頂は意外に狭く、ダケカンバ混じりのミズナラ主体の樹木に覆われていて眺望も良くない。日光方面のみ眺めることができるが、これは人為的にもたらされたものであろう。ヤシオツツジの季節には山頂はハイキング客でごった返すのであろう。日光方面のみ視界が開けている。

「200回登頂記念」なるプレートがあった。そんなにこの山にこだわるということは、修験者なんだろうか?でも修験者ならプレートを残したいという欲はないだろうから、よほど暇を持て余している人なのか?それにしても何度も登りたいと思わしめる程の山とは思えんが。良く判らん。人それぞれですな。

この時点ではまだ日光火山群が見えていた。少しずつ天候が悪化しつつあり、北から突風が吹きびっくり。風花も舞い始めたので先を急いだ。三ツ目から薬師岳までの禅頂行者道は5月に歩いているので先が読める。本日は登山者が少ないらしく薬師岳に到るまでの間に誰とも遇わなかった。

薬師岳到着時、奥日光の雪雲が急拡大しつつあった。少し下って、昔建物があったと思われる日当たりの良い風裏の裸地で風景を眺めながら昼食休憩。時々シカ狩りの銃声音が響く。背後からチリンチリンという音が近づき静まった。登山者が薬師岳山頂に来たらしい。当方は下方で頂上に背を向けていたので、昼食を終えて後ろを振り返ることなく午後の部をスタート。

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薬師岳から見る縦走路   11:43


薬師岳〜大木戸山は膝下のミヤコザサに覆われた起伏の緩やかな尾根が続く。道は明瞭で危険箇所も無く、快適さでは栃木県有数。

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夕日岳   12:21
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草久方面    12:23


南側斜面の大部分は植林地として利用されている。1,110m級の鞍部には年代不明の石祠が2基存在する。1,100m級の最低鞍部から丸山の南側に向かう道形があるので試しに辿ってみた。道形の先には薙があり、崩落の進行を止めるための石積みがある。石積み建設のために設けられた道跡らしく、石積みの先には続いていないと判断して稜線に復帰。

最低鞍部から1,242mピークへ向けて登る途中で、再び熊避け鈴の音が聞こえた。先ほど薬師岳に来た登山者に違いない。

丸山・標高1,242mは眺望は得られないが雰囲気は悪くない。風が強まり風花どころか降雪に近い感じになってきたので休憩無しで大木戸山を目指す。今日最後の登りだと思うと足取りも軽くなる。ここまで抑え目に歩いたので発汗も疲労も少ない。

大木戸山・標高1,286.6m)に至って、川中島を基点とする東大芦川の左右両岸の尾根の環がつながった。

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大木戸山    13:19


この後は余裕を持って経験済みの南尾根を下る。前回には無かった、珍しい形の黄色の布が要所に付けられている。

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古い有刺鉄線    13:44


標高1,000m付近からは植林地内のジグザグ道の区間と稜線部を下る区間の繰り返しとなり、最後はスギ林から鳥獣保護区の標識がある林道河原小屋線の起点に飛び出る。地形図が読めないと下りに使うのは少々難があるが、大木戸山への登りに使うならば三ノ宿山経由よりお薦め。

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林道河原小屋線起点 14:34


大滝の駐車場には土浦ナンバーの車が一台有るのみ。朝、自分が尾根突端の神社で写真を撮っている時に通り過ぎた車に似ているような気がする。ひょっとしたら後ろから歩いてきた登山者の車だろうか。大芦渓谷ヒュッテから夕日岳経由で周回を目指していたのかもしれない(同日、FM大野さんが林道河原小屋線起点〜薬師岳〜三ノ宿山の周回をされている。)。

川中島に戻る途中の広い伐採・植林地で、橋「まぶたばし」を渡ったところに水場が2箇所ある。顔を洗ってさっぱりしてのんびりと川中島に帰着。

山野・史跡探訪の備忘録