ツツジ咲く小法師尾根(2006年5月)

年月日:    

行程:    銀山平キャンプ場・標高約860m(03:35) 〜 夜半沢から登山開始・標高約720m(04:10) 〜 1,326mポイント(05:52) 〜 小法師岳・標高1,593.1m(07:30) 〜 県境尾根・標高約1,905m(10:24) 〜 法師岳・標高約1,950m(10:55) 〜 六林班峠・標高約1,806m(12:15) 〜 庚申山荘・標高約1,480m(14:35) 〜 一の鳥居・標高約1,030m(15:18) 〜 帰着(16:19)

アユ釣り解禁を6月1日に控えて、そろそろアユ釣りの準備をせねばなるまい。今年前半の最後の山歩きとなるかもしれないので、小法師尾根でツツジ三昧をすることにした。小法師尾根は袈裟丸山から下ったことがあるので、今回は登りで辿る。本当は山中一泊で、小法師尾根〜県境尾根(皇海山)〜松木渓谷の周回をしたかったのだが、天候不順で山歩きできるのが日曜日だけであるため、皇海山をあきらめて鋸山〜庚申山に進みさらに尾根を歩いて銀山平に下りる案に変更。最後の下りに不安があるので、重くても懸垂下降の装備一式を携行する。重くてかなわん。その結果は・・・・。

20日夜に自宅を出て、銀山平に移動。キャンプ場の奥の駐車場に停めて車中泊。一晩中、金管楽器のようなヒーッという鳥の鳴声が庚申渓谷に優しく響き渡る。この鳴声は大佐飛山登山の時に夜明けに聞いたことがある。何なんだろう?(2020/04/07 追記、声の主は夜行性のトラツグミ)。星がまたたき、天気予報通り翌朝は快晴となりそうだ。冷え込みはなく、最初は何も掛けずに寝ることができるくらい暖かい夜だった。夜半過ぎに寝袋を取り出して、布団替わりに掛けるだけで十分。。

03時35分、銀山平キャンプ場(標高約860m)から今回の登り口である夜半沢に向けて出発。夜半沢には4時前に着いたが、まだ暗くて山に入り込む気になれない。暗闇が怖いのではなくて、暗くて周りが見えないのが惜しい。入口である切り通しの上で地図等の装備を確認しながら明るくなるのを待った。こんな早い時間に銀山平に上がってくる車もあれば下っていく車もある。上がってくる車は長丁場の皇海山に挑む登山者のものだろうか。

04時10分、ようやく木々の緑を認識できる程度に明るくなってきたので山中に踏み込む。夜半沢は小滝坑の居住地区の一つであり、廃坑から50年余を過ぎた今、階段を踏みしめて歩く雰囲気はマヤの遺跡でも歩いているかの様。

現在の夜半沢はただのガレ沢にしか見えないが、かつて夜半沢沿いに小法師尾根に上がる道があった。http://ashio.shokokai-tochigi.or.jp/zouyama/zouyama.htm(2020/04/07 追記。現在はウェブ上にないが Internet Archive Wayback Machine で参照可能。)に拠ると、昔から小法師尾根には防火線があったようだ。休日には小滝坑の労働者とその家族がこの道を辿ってピクニックにでかけたことであろう。草刈スキー場に行くのにも用いられたかもしれない。

足元に気をつけて登っていくと、左岸側に古い道跡を認識できるようになる。谷底には笹が生えておらず、歩くのに支障となるような藪も無い。両岸の勾配が緩くなる標高1,050m辺りからカラマツの植林となり、道跡は右岸側に移る。スッキリとした新緑のカラマツ林の中を快調に道跡に沿って進み、標高1,200m付近で道跡が不鮮明となるのでそのまま西進して平坦な尾根に出る。カラマツの尾根を辿ると次第に急勾配となる。尾根上に道跡は無かった。本来の道筋はもう少し南西側にあるようである。

5時:52分に防火線の 1,326mポイントに上がり、カラマツが植林された扇状の広い緩斜面の北側の縁に沿って進む。右は庚申渓谷を見下ろす急斜面であり、ツツジ類が豊富。ちょうどトウゴクミツバツツジが満開。

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トウゴクミツバツツジ    0612
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ミツバツツジ    0615


巣神山から来る破線路との合流点から1,425mピークまでの防火線は両側にたくさんのトウゴクミツバツツジの蕾が膨らんでいる。あと一週間したら満開のトウゴクミツバツツジのプロムナードとなるだろう。

1,526mピーク(雨降沢ノ頭)への登りは笹の丈が腰程度あり、時折大きなマダニが付くので不快。よって、シカの通り道となる踏み跡を外れてカラマツ林の中を適当に登る。1,526mピークは萱原であり、ここでワラビを採るのを楽しみにしてきた。今年最初に伸びたワラビがちょうど食べ頃に育っており、休憩兼ねてしばしワラビ採り。小法師岳の東端でも似たような場所があり、またまた道草。

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雨降沢ノ頭から見る庚申山方面    0703


07時30分、道草しながら予定時刻ピッタリに小法師岳に到着。ここに来るのは4回目。標高は違えども1,326mポイントと似たような雰囲気で、庚申渓谷を見下ろす急斜面にアカヤシオが豊富である。小法師岳のアカヤシオは満開を少し過ぎていた。初めて訪れた時、アカヤシオの木の多い場所であるとは思ったが、見事だ。

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小法師岳のアカヤシオ    0728
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小法師岳のアカヤシオ    0730


ここまでは順調であったが、重い荷物と日頃の運動不足のせいで脚が重くなった。隣の小ピークを越えるのにもハアハア。

「笹の平」の表現がピッタリな1,690m級の丘陵への登りはミヤコザサの化け物みたいな(クマイザサでは無い)笹にびっしり覆われた急傾斜。これを嫌い、地図を見るのを怠って作業道らしき跡を辿ったのは失敗だった。シカの通り道になっていてマダニが多く、しかも上がった場所は「笹の平」の南東の縁。ザバザバと笹の海を突き進み「笹の平」の北端に逃げる。北端は冷たい北風をもろに受けるため笹が生育できず歩きやすくなっている。「笹の平」の西端からは袈裟丸山を一望できる。鞍部への下りで骨と皮だけになったシカの死骸を発見し、フライのマテリアルとして使えそうな毛を少々失敬。

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笹の平から袈裟丸山を一望    08:33


1,690mピーク手前の鞍部は小法師尾根で最もスッキリしていて個人的には好きな場所だ。1,690mピークは笹原とダケカンバの組み合わせが美しい場所なのだが、疲れた身には障害物にしか見えないのが残念なところだ。次の鞍部は笹が深く、1,784mピークに向けて100m近く笹を漕いで登るのでうんざり。標高1,700付近から残雪の島がチラホラ。

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奥袈裟丸山    09:40


県境尾根に向けての最後の急勾配は必然的に歩みが遅いので意外に楽。残雪の急斜面を抜けて県境に達した。10時半目標に対してちょっぴり余裕ができたので休憩。県境尾根は針葉樹が鬱蒼としていて、コメツガ、アオモリトドマツ、トウヒ類が入り混じる。直立した大木が多く、風雪がさほど厳しく無いようである。残雪の上には多数の枝や球果が落ちており、針葉樹観察にはもってこいの場所。でも倒木がやたら多くて歩きにくい。

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県境の小法師尾根分岐    10:24
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トウヒ    10:46


法師岳(標高約1,950m)は展望無し。地図を見ずにそのまま直進したのだが、針葉樹の幼樹の藪がうるさい。50mほど進むと進行方向右手の視界が開け、見えている大きな山は皇海山を真南から眺めた構図。これで進路を間違えたことに気づいた。法師岳で右に進路を取るのが正解。しばらくは歩きやすいのだが、そのうちコメツガ藪が鬱陶しくなり、最後は男山を正面に見ながら鞍部に向かって急降下。

烏ヶ森の住人さんやねくらハイカーさんの記録を拝見していたので、小法師尾根を歩いているときも男山の緑色に見える笹原が気になっていた。肩の高さほどある深い笹原だが、チシマザサではないので手で掻き分ける必要は無い。ただし、力任せに歩くと足が疲労するのでゆっくりと登る。一見単純な笹原でも倒木が隠れているので気が抜けない。

この辺りで軽く頭痛が始まった。倒木を乗り越える度にズキッ、ほどけた靴紐を結び直そうとしゃがむ度にズキッ。早めにバッファリンを噛み砕く。元々天気の良い日は目の疲労から頭痛がすることがあり、一旦始まると頭痛薬を飲んで眼神経を休めない限りどんどん悪化して最悪の場合は倒れる。こいつは厄介なことになった。頭痛が消えない限り鋸山行きはあきらめざるを得まい。せっかく想定通りのペースで順調に進んできたのに残念。男山からの小法師尾根の眺めが良いのが救いだ。

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県境から見る小法師尾根    11:54


男山から北東に進むとだだっ広くて尾根形が不明瞭となる。迷う心配はないが適当に庚申渓谷側を意識して北西に進路を変えて鞍部に下っていくと、笹原の中央に青いMWVのプレートをつけたコメツガの木が見える。

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六林班峠    12:15


12時15分、六林班峠(標高約1,806m)到着。足尾銅山では銅鉱石の精錬の燃料や坑木とするために大量の木材や薪炭を必要とした。足尾銅山は国を動かし次々に国有林の払い下げを受け伐採を行ったため、栃木県内で無傷で残された原生林はそう多くない。足尾銅山の命運は安定した木材の供給に掛かっていたといっても良い。群馬県側の豊かな国有林の払い下げを受けて木材供給不安が解消され、明治後期から昭和初期にかけて群馬県で切り出された木材や薪炭が大量に足尾銅山に供給された。六林班峠は根利山から集積地である銀山平に運ぶための根利索道があった場所。最盛期には一日150トンもの木材や薪炭が運ばれたという。峠は中継のための何らかの施設があったはずだが、今ではその痕跡は見当たらない。コメツガの木の周囲だけ笹が生えておらず、芝生状で気持ちよい。頭痛が治まったら鋸山に行ってみようと考え、昼食してからしばらく昼寝。

人の声がしたのでムクッと起き上がる。まだ頭がスッキリしないし、翌日に疲れを持ち越したくなかったので、素直に六林班峠から下ることに決めた。庚申山荘へ至る登山道で一組の夫婦が休憩中。鋸山から下ってきたらしい。

六林班峠から庚申山荘へ下る登山道は笹刈りされておらず、笹が倒れこんでいて歩きにくい。元々は幅広のしっかりした道であったらしく、索道保全の目的で設けられたのかもしれない。沢を跨ぐ箇所や急斜面を横断する箇所ではことごとく道が崩れてトラロープで安全確保する次第で、いずれは辿れなくなるだろう。2006年現在で既に非常に危険な状態にある。本来ならば通行禁止とすべきだ。沢をまたぐ度に顔を洗えるのが唯一のメリット。午後2時近いのに、70歳台と思しき老人が登ってきた。水場の存在を聞かれたのでこの辺りの地理に詳しい方ではないらしい。どこに行くのか聞かなかったが無事下山したのだろうか。

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庚申山荘    14:35


山肌の凹凸に沿った長い長い下りで、庚申山荘まで2時間もかかってしまった。庚申山荘(標高約1,480m)を通過した頃には既に頭痛も消えており快調。やはり低い気圧に弱い体質なのか?標高2,000m弱で高山病の症状が出るとは情け無いのう。庚申山荘から一の鳥居までに下山中のハイカーを10人程度追い抜く。今宵は庚申山荘泊と思しきハイカー3組とすれ違う。男性二人連れ、女性二人連れ、いずれも疲れているせいかとても愛想が悪い。

庚申渓谷沿い未舗装車道傍には白いウツギの花が満開で、ヤマブキの黄色とヤマツツジの鮮やかな赤がアクセントとなる。何箇所かでコンロンソウの群落が開花中。最後は大好きなウワミズザクラの芳しい香りに包まれて銀山平に帰着。3時間40分の長い下りだった。

小法師岳へ登るには庚申ダム近くから取り付くのが一般的且つ安全でお薦めです。ねくらハイカーさんの詳細な記録 http://www.k2.dion.ne.jp/~tnhc/skho/skho.html(2020/04/07 追記。現在はウェブ上にないが Internet Archive Wayback Machine で参照可能。)が参考になると思います。

山野・史跡探訪の備忘録