銅親水公園〜大ナラキの頭〜皇海山〜六林班峠周回(2006年9月)

年月日:    2006.09.30

行程: 銅親水公園(05:34)〜松木村跡(06:06)〜大ナラキ沢左岸取り付き(07:50)〜標高1,390mの丘陵(08:30)〜大ナラキの頭(10:25)〜皇海山山頂(13:11)〜鋸山山頂(14:11)〜六林班峠(14:53)〜庚申山荘(16:38)〜一ノ鳥居(17:25)〜銀山平(18:21)〜赤倉(19:47)〜銅親水公園帰着(20:09)

2006年のアユ釣りを終了したので山にするか川にするか悩まなくて済むのは大いに結構。天気さえ良ければガンガン山遊びといこうか。

今週末は残念ながら土曜日は曇り、日曜日は曇り時々雨の予報であった。ということは景色目的の山歩きは成立しない。こんな場合は眺望を期待しない山に限る。ということで行き先は自動的に未訪の皇海山に決定。県境尾根の大ナラキの頭(釜五峰)〜六林班峠間が未訪なので丁度良い。皇海山は遠めに見るには良い山だが、実際に歩くとなると県境尾根に突き出た忌々しい障害物でしかない。たぶん二度と行く気にはならないだろうから鋸山と併せて一気に片付けてやる。

今回辿るルート案は未訪の県境尾根を歩く目的で元々暖めていたものである。人に遇わずに皇海山を静かに歩くには国境平で一泊し、早朝に皇海山に登るのがよかろう。しかし、周回するとなるとその後が大変。岩場には近づかない主義だが、尾根通しで周回するとなると鋸の刃をなぞらなければならない。庚申山の下りはもっと嫌。鋸山から六林班峠経由で下るにしても行程が長くおまけに足場も良くない。銀山平から舟石峠を越えて銅親水公園の舗装道路歩きも苦痛だ。

今回は日曜日の天気に不安があるので、基本的に日帰りとしたい。敢えて鋸山十一連峰をなぞることとし、庚申山から中倉山尾根を下るコース周回で日帰りの可能性を試す。時間的・体力的に日帰りできるという保証はないし、どんなアクシデントがあるかわからないので、山中一泊前提の本格的な装備で望む。荷重でペースが落ちるのが難点だが、命と引き換えにはできん。

29日深夜に移動して銅親水公園で車中泊。堰堤から落ちる水の音に安眠効果があるのか、ここではぐっすり眠れる。慢性的に寝不足状態だが5時間寝たから大丈夫だろう。南東側が曇り空だが、県境方面が晴れ。良い方向に天気予報がはずれてくれたようだ。無人の沢に踏み込む時は沢奥が晴れていてくれると牽引力となる。

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カワラヨモギ   05:52
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銅鉱石を製錬して残った鉱滓(゚:カラミ)


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松木村跡     06:02
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松木村跡   06:06


足尾ダム建設の折、明治時代に廃村となった松木村の無縁墓を赤倉の龍蔵寺に移し、無縁石塔を作ったという。ポツンと墓石を残しておくのは変だし、彫り文字が小さいので墓石ではないのかもしれない。

松木村跡以遠の沢沿いの作業道は2年前よりさらに荒れが進行。もう道の体を成しておらず、はじめからゴーロ歩きをしているようなものだ。2年前に来た時は足を濡らさずに何度も渡渉できたのだが、今回は無理。足滑らせて頭打って死ぬのはごめんなので、ジャボジャボ何度も渡渉する。

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松木渓谷     06:28
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6号堰堤上のゴーロ   07:21


大ナラキ沢左岸取り付きで枯れ枝を2本拾いダブルストックにする。以後、鋸山の登りで捨てるまでこいつの世話になる。

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1390mピークから大ナラキの頭方面    08:30
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1390mピークから大平山方面   08:32


大ナラキ沢左岸の登りには、2年前にはなかった新旧2つの赤テープがあった。最初は無視していたのであるが、だんだん腹が立ってきて見つけ次第除去。この美しい尾根には赤テープのような無粋なものはあって欲しくない。シカの警戒音を聞きながらシカ道を順調に辿り、丈の低いミヤコザサ原にダケカンバが映える斜面に至る。こんな場所でもコーヒーの空き缶を木に刺していった輩がいるのにあきれる。これも回収。登山者もアユ釣り客と同じくらいマナーが悪い。

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辿る予定だった稜線   09:24
右が皇海山、その左横が鋸山、中央左が庚申山、左のピークがオロ山。


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ミヤコザサ原とダケカンバ疎林・標高約1700m  09:26
足尾定番の組み合わせだが、個人的に最も美しいと感じる場所の一つ。


ササの斜面を右上に移動して明瞭な尾根上に出て三俣山を遠望。

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釜北コル(左)と三俣山(右奥)  09:35


コメツガの生える尾根をしばし急登すると釜の東端に出て、眼下を見下ろす。

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釜の東端から見る県境尾根と皇海山  09:56


釜の反対側斜面を安全に移動可能。

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エロ岩   10:11
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大ナラキの頭   10:12


ピョコンと飛び出している場所の上に立てなくはなさそうだが、万が一ということもあるので一歩手前(後頭部)まで行って自重。

県境尾根に抜けたのは良いが、国境平方面に下る場所を見逃した。登山道マークが点々と在る県境尾根を進むが明らかに方位がおかしい。前回は時間的に余裕が無くガンガン飛ばしたので、この辺りの記憶が曖昧だ。釜北コルが見えるところまで行って方角違いであることを確かめて逆戻り。

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三俣山   10:22


大ナラキの頭から南に下るとき、「ワン!」という犬の吠え声らしき音を聞いたのだが、正体は現れなかった。1,736mピークへの登り返しで、腿がピクピクしだす。水分補給してペースを押さえ気味に登ったつもりでも、ゴーロ歩きと大ナラキ頭の登りはダメージが大きかったようだ。さらにペースを落とす。

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笠ヶ岳 〜 錫ヶ岳   10:45


登山道は元々はシカ道であったのであろう。笹に覆われて不明瞭な箇所が幾つもある。脚を騙し騙し日向山を越え、国境平の砂地で脚を休めようと座った瞬間に両腿が痙攣してしばし苦悶。時刻は既に11時を過ぎている。この調子では当初案で日帰りできないことは明らか。あまり時間のことは気にせず、着実に歩を進めることにする。とりあえず痙攣が治まってきたので、昼食休憩。ついでにバッファリンを1錠噛み砕く。

モミジ尾根の上がり口がどこにあるのかは気づかなかった。皇海山への登りに入ると笹が消えて歩きやすくなる。登山道はかすかに視認できる程度で、登山道マークを見つけられないと下りは苦労するかもしれない。北側斜面ではカエデの紅葉が始まっている。急登箇所には真新しい靴跡が残っていたのでモミジ尾根経由の先行者がいたらしい(上りか下りかは不明)。

皇海山は標高は高いが森林限界はない。コメツガ・トウヒ・アオモリトドマツなどの針葉樹に覆われ、広葉樹が混じる。紅葉したカエデ類が点在する光景は男鹿山地の名無山の光景に似る。

急登を終えて尾根に上がると群馬県側の広大な眺めが広がる。皇海山の西側に伸びる尾根が間近に見える。西尾根は広葉樹主体なので、そこそこ紅葉はきれいなのであろう。

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辿ってきたルートを一望   12:51


アズマシャクナゲの間の明瞭な登山道を辿ると山頂直下の急登に入る。上方でクマ避け鈴を鳴らす男性が見えた。てっきり下山する人かと思ったら、北側の眺めを見に頂上から下ってきただけらしい(キジ撃ちだったのかもしれん。)。「こっちに道あるんですか?」「どこの人が登るんですか?」という質問や、松木渓谷を知らないところをみると、皇海山について何も知識を持ち合わせていない人達だったようだ。

皇海山の頂は狭く、何名か登山客が居たので、一瞥しただけで鋸山に下山開始。登頂したという喜びは無い。ただハードルを越えただけ。

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山頂付近の雰囲気   13:12


下りでは何名もの軽装登山客とすれ違った。普通は下山中の時刻である午後一時半を過ぎても大勢登ってくるという事実に驚かされる。群馬県側の登山口への分岐では団体様が休憩中。鋸山から戻ってくる人たちも8名いた。皇海山と鋸山をセットでお手軽登山する人が多いようだ。

さて、当初案で日帰り周回するには2時間程度不足している。ずっと思案しながら行程を進めてきたが、鋸山は目前だ。そろそろ方針決定すべきリミットが近づいている。中倉山尾根に向かえば時間的に庚申山とオロ山の間にある笹原辺りで幕営となるだろう。ガスで視界の利かない中倉山尾根を歩く価値はない。あいにく中倉山尾根にガスがかかり始めているのを見て決心。六林班峠に下って県境尾根の未訪部分を歩くことを優先。最悪日没までに庚申山荘に着くためには午後3時までに六林班峠を通過しなければならない。庚申山荘から先どうするかはそのときに決めれば良い。

鋸山は名前そのものの形容をしている。もっと急峻な登りを予想していたものの、実際に登ってみるとたいしたことはない。最初の岩場で2名の男性が降りてくるのを待っていたのだが、なんの挨拶もなし。今やこんな感じの悪い連中でも簡単にやってこれる山域になってしまっている。この岩場はトラロープに頼らずとも登れる。というより、一度痙攣した脚をかばっているのでトラロープ頼りは苦しい。ここで長らくお世話になった棒切れとお別れ。手で岩をつかんでよじ登る。山頂直下にも長いトラロープがあって、一組の夫婦が降りてくるところだった。奥さんの方はかなり苦戦中。見ている当方はハラハラドキドキ。まあ、何も起きなくてよかった。

山頂は無人。山頂自体は標柱がぶっ倒れた殺風景な場所だが、眺めがすばらしい。登る人が多いのが納得。

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鋸山から見る皇海山   14:11
右手前の鞍部が群馬県側からの登山道が合流する不動沢コル。


時間が気になるので、ここも休憩せずに急ぐ。六林班峠に下る道は少し東に行ったところで分岐している(案内はなかったような・・・。)。藪化しているとの情報を目にしたことがあったが、笹に覆われた細い道を足先で探りながら歩ける。倒木にだけ注意して進めば問題ない。1836.1m(当時は1,835.9m )三角点の手前の鞍部はミヤコザサの丈が高く道を見失う。ここを通過する登山客はみな同じような状況に陥るらしく、藪漕ぎした跡が幾筋も見受けられる。

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14:50


この鞍部を突破すると再び道をトレースできるようになり、順調に六林班峠到着。コメツガが生える稜線まで行って軽く休憩。この瞬間にめでたく三俣山以南の未踏区間が消えた。目標時刻前に到着したので、明るいうちに一ノ鳥居まで降りられる可能性が出てきた。こうなりゃ暗闇の車道を歩いて銅親水公園まで帰ってしまおう。小用をたそうと思ったら、足元にゴミらしき物が落ちているのに気づいた。拾い上げてみると3LEDのヘッドランプ。スイッチを入れてみると点灯する(PETZL TIKKA ¥3,780でした。)。これでますます心強くなる。

この先は今年5月に歩いているので安心。とはいえ、足をすべらしたら命の無い場所が数箇所あるので気を抜けない。午前中に脚が攣ってぶっ倒れたのが信じられないくらい快調。前回より速いペースで歩ける。足裏に肉刺ができつつあるのがちょっと心配だ。庚申山荘に泊まれる金¥2,000は所持していたが、中高年のオッチャンオバチャンの声ががやがや響き渡っていたので近寄りもせず下山を急ぐ。一応色の識別可能な光量があるうちに一ノ鳥居着。帰れる目処が立った。足裏が痛いので足休めしてから林道歩き開始。

途中でとっぷりと暗くなってしまったものの、半月の明かりで曇が照らされており、ヘッドランプなしで歩ける。庚申渓谷に響き渡る沢音に時折ガサゴソとうごめく野生動物の物音がするだけ。中間地点で見える銀山平の灯りがきれいだ。

歩いて銅親水公園に戻るのは2度目だが、暗闇の中歩くのは初めて。銀山平から舟石峠にかけては比較的山の傾斜が緩いのでシカが多く、警戒音が何度も響き渡る。

舟石峠でホタルのような光を見た。葉のしずくが反射しているのではない。明滅もする。この時期にホタルがいるはずはない。手の届かない場所だったのでその場は正体を確かめるのをあきらめた。ところが赤倉に向けて下っていくうちに道路横で再びこの光を目にする。間違いなくホタルだ。正体を確かめんと拾ったヘッドランプで照らしてみると、水生ホタルの幼虫と似た姿の虫が枝葉をシャクトリムシのように這いずり回っている。ネットで調べてみると、ほとんどのホタルは一生を陸上で過ごし、初夏の風物詩であるゲンジボタルやヘイケボタルは少数派なのだとか。しかも成虫と幼虫の姿が変わらない種もあるという。種名の特定はできなかった。暗闇歩きのご褒美だな。

足裏を騙し騙しなんとか銅親水公園に帰着。車が5、6台停まっている。みな何処に登っているのだろう。山中泊しているのは間違いなさそう。全て同じパーティなのかもしれない。靴を脱いで見ると足裏がぶよぶよにふやけていた。道理で歩いている間、足裏に襞ができてよじれるような感じがした訳だ。松木渓谷を歩くのであれば、替えの靴を持って行ったほうが良い。

長いこと懸案だった県境の巨大コブを片付けてせいせいした。登りの標高総和が2,200mを超えるコースだったのでさすがにつらい。今後足尾を訪れるときは新緑や紅葉を楽しむことを第一としたい。

山野・史跡探訪の備忘録