年月日: 2006.10.22
関連記録@ 2004-12-04 葛老山(戸板山)・八汐湖周回
関連記録A 2005-10-16 葛老峠探索
遭遇した動物: クマ1頭、ヤマドリ1羽
行程: 八汐湖北岸の林道入り口(10:09)〜林道終点(11:11)〜葛老峠(11:48- 12:03)〜林道終点(12:30 - 12:45)〜林道入り口帰着(14:00)
晴れることを期待して前日夜に行く先を絞り込んだのであるが、起床してみると暗い。曇り空なのででかける気になれず、9時近くまで自宅で暇つぶし。少し明るくなってきたのでとりあえず家を出てみたものの、空気の清澄度が低い上に山にガスがかかっているのを見て、本日の行動目的を廃道探索に切り替えた。
行く先は予定していなかった葛老峠。2004年12月に戸板山を歩いていて偶然見つけた峠道跡に興味を抱き、文献の調査と2005年11月の探索結果により、これが葛老峠と呼ばれる場所であることを確信。江戸時代に三依から大笹街道経由で今市に抜ける脇街道として用いられていたようで、かの二宮尊徳も通ったらしい。戊辰戦争の折、大鳥圭介も六方沢越え後に葛老峠を越えた。官軍側の芸州藩もまたこの峠を越えて会津に侵攻していったのである。葛老峠なら既知の場所なので準備無しでも安心。今回は八汐湖北岸から葛老峠までの道筋を忠実に辿ることにする。
田茂沢トンネルを抜けて八汐湖に架かる橋を渡ったところに船着場の表示がある。ここが林道入り口である。おそらく不法投棄防止のためと思うが入り口が常時閉鎖されているので、自分にとっては嗜好に合った静かなハイキングコースである。歩き始めてすぐに鉄橋を渡り長い小峠トンネルに入る。トンネル内部で何箇所も地下水が湧出しており、迸る水音が暗闇に響き渡る。
林道終点がある葛老山南斜面の一部にほとんど手入れされていないヒノキとスギの植林地がある。八汐湖北岸の舗装林道はこの植林地があることを口実に、川治ダム建設時に巨額の費用をつぎ込んで建設したようだ。林道沿いに人家は無く、林業目的で使用されることもほとんどない。地元の人間がキノコ採りに入り込むだけ。道路全体が無駄使いで、全長数百mの小峠トンネルはその象徴といえる。
短い明神トンネルに差し掛かったとき、珍しくクマのことが気になった。昨年秋、このトンネルの上の林でクマらしき大型獣がバキバキ音を立てていたのである。今年は山の幸が少なくクマも餌探しに必死らしく、里山で不幸な出来事が頻発している。今日あたり出遭ってもおかしくはないなと感じていた。沢筋を横切る場所で何か物音を聞いたような気がして立ち止まり耳を澄ます。鳥のさえずりが聞こえるのみ。気のせいかと思って動き出した途端、道路下側斜面で大型獣が走り出した。大きくて丸くて黒い。クマじゃん!道路ではちあわせしなくて良かった。
逃げていったからしばらく戻ってこないであろうと判断し先に進む。紅葉はまだ進んでいないものの秋の雰囲気を独り占め。曇り空なので残念ながらエメラルドグリーンの八汐湖を眺めることはできない。
歩き始めてほぼ一時間で林道終点到着。林道終点に抉れた道跡があることは前回確認済み。今回はこの道跡が葛老峠に続くことを確認する。
最初はミヤコザサの中に道形が明瞭だ。ところが、浅いガレた谷に達したところで道は消えてしまう。前回はここで引き返している。谷を横切り戸板山方面に向けて葛老山の山腹を緩やかに登っていくシカの足跡があるので、これを追ってみると再び道形が現れる。やわらかい土壌に覆われた急斜面では完全に道形が消失しているのである。
峠道は次の浅い谷の中をジグザグに登って高度を稼ぐ。ガレた場所もあればトチとミズナラの落ち葉に覆われた美しい光景にも出遇えて退屈しない。
道跡は再び戸板山方面に向けて斜めに登り、美しい広葉樹林とミヤコザサの中を何度か折れ曲がって、最後は葛老山に向かう方向で戸板山尾根の上に出る。まだ紅葉は始まったばかりで、ホソエカエデが色づいている程度。
もう少し葛老山に近づいた場所が峠の最高点なのだが、実質的に寛政四年の馬頭観音が立つ場所を峠として良いだろう。ミズナラ林が美しい場所だ。近くにある大きな窪みは自然に形成されるとは考えにくいので、昔ここに何らかの施設があって生活用水確保のための池でもあったのかもしれない。
戸板山を南に進んだところにあるミヤコザサの美しい場所で昼食にしようと、しばし南進。笹がガスで濡れており、でかいマダニも付く。スズタケが現れたのを機に引き返す。そのまま、峠道を下って林道終点に復帰。次に、スギの植林地帯の中を八汐湖まで下ってみようとしたが、道跡が丈の高いスズタケ藪の中に入っていくのを見て中止。林道終点に戻って昼食とする。メマトイというのだろうか、小虫がまとわりついてうるさい。
午前中にクマがいた場所の近くで黄色い花がたくさん咲いているのを発見。遠目にはアキノキリンソウみたいだが、こんな場所この時期にあるはずはない。近寄って見るとかわいい黄色のキクである。花を期待していなかったのでちょっと得した気分。
車に帰り着いて着替え中に軽トラックがやってきた。日向地区の住民は林道入り口の合鍵を所持しているらしい。しばし、年配の男性とおしゃべり。私が歩いた場所にキノコ探しに行こうと思っているとのこと。先日も林道沿いでクマが2頭目撃されているとか。この男性は道跡のことを知っていた。地元の方には良く知られた存在なのであろう。以前、我孫子の黒田さんから頂いた昭和二十八年応急修正版の五万分一『川治』には、男鹿川左岸の高原越えルートとともに右岸の葛老峠が破線で示されている。当時はまだ細々と用いられていたということか。