高原山・権現沢滝巡りと紅葉狩り(2006年10月)

年月日:  2006.10.28

行程: 釈迦ヶ岳登山道・尚仁沢コース入り口(8:20)〜第1二俣(9:04)〜第2二俣(10:12)〜第2二俣中間尾根偵察(約15分)〜第3二俣(11:49)〜第4二俣(11:58)〜昼食後尾根登り(12:20)〜登山道に抜ける(12:53)〜釈迦ヶ岳通過(13:15)〜前山通過(13:51)〜車に帰着(14:45)

尚仁沢上流部は権現沢と呼ばれる。いずれも山岳仏教に由来した名前だ。もし、この名称が山岳仏教盛んなりし時代につけられたのであるならば、権現沢奥部に修験者が入り込んでいた可能性も考えられる。吾妻山修験の跡を探訪して以来、高原山でもこの仮説を確かめてみたいという思いが強くなった。

権現沢には1999年に何度か入り込んだことがあり、第二の二俣までは探査済み。最初の二俣までは右岸側に踏み跡があり、本流である左俣沿いには第二の二俣まで断続的に踏み跡が続く。人の手が加えられた歴史のない山域であるため、山仕事もしくは炭焼き起源の踏み跡ではあり得ない。現在利用しているのは渓流釣り客のみだが、渓流釣り起源と断定するに十分な証拠もない。また、権現沢から山に登っていた可能性もあるが、これまでのところ山の上方に向かう踏み跡は見当たらない。

権現沢と修験の関わりを推測するならば、第二の二俣以遠の探索が必要となる。地形的に最も可能性のあるのは第二の二俣の中間尾根であり、今回はこの尾根を辿って釈迦ヶ岳にいけるのかどうか試してみようと考えた。

林道・黒沢線を登り、連絡道を通って尚仁沢に抜けた。予定としては尚仁沢に架かる精進橋近くに車を停めるつもりであったが、伐採作業が進行中で工事関係のプレハブや車でスペースが無い。おまけに精進橋が通行止めになっている。仕方がないので右岸尾根の登山道入り口に駐車。山歩きの準備中にもう一台停まった。「キノコ採りかい?」、「いいえ、山遊び。」、「ここ(登山道)登っていくのか?」、「いいえ、権現沢歩いてこようと思って。」、「釣りかい?」、「違う違う、沢歩き。」。年配の男性はどうやらキノコ採りが目的で来たらしく、山菜採り用のザックを担いで登山道に入っていった。

舗装林道を谷底まで下り、右岸の作業道を進む。以前は終点まで車で入れたものだが、だいぶ荒廃が進んでいる。先客の車が作業道入り口近くに2台あり、片方は土浦ナンバーで、もう一台は宇都宮ナンバー。宇都宮ナンバーの車の持ち主はキノコ探しと紅葉狩りが目的であったようで、作業道で会った。土浦ナンバーの持ち主はおそらく密漁者で、既に沢奥に入り込んでいるに違いない。

最奥の堰堤から踏み跡を辿る。イヌブナの林には何年も前から落ち葉を集積するネットが幾つも設置してあり、調査は今も続けられているようだ。イヌブナ林の生産力の変動を定点観測しているのかもしれない。順調に踏み跡を辿って最初の二俣手前に出る。ここで沢靴に履き替える。前日の降雨で水量は多めだが、ウェーダーの類を必要としない沢だ。

右俣は剣ヶ峰の南斜面を水源とする涸れ沢である。踏み跡はしばらく中間尾根の左俣側に続く。下方で人の声がした。やはり土浦ナンバーの持ち主は密漁者で、2人組だ。禁漁期間であることは百も承知でやっていることだから、注意して逆ギレでもされるとやばいのでパス。釣りの季節ならば先行するのは控えるが、密漁者相手に遠慮は無用。わざと沢の中をジャバジャバ歩いて釣りできないようにしてやる。どうせ戻ってくる予定はないので、絡まれる心配はない。

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権現沢の雰囲気   09:20


権現沢は藪のないすっきりとした沢である。沢底が広がる場所では岸上の平坦な場所を歩ける。

第一と第二の二俣のほぼ中間地点に滝が存在する。尚仁沢(権現沢)の滝には名前がない。滝の識別方法を知らないので、もっとも理にかなっていると思われる自己流の表現で識別する。また、括弧内に記述する呼称も個人的なイメージで勝手につけたもの。

記号の説明  例LR-1:  「最初の二俣で左を選択、次の二俣で右を選択。その右俣で最初にあった滝。」

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L-1  09:45
直登不可で右岸高巻き。
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L-2  09:51
左岸のバンドを伝って上がる。


L-2は左岸壁の地層に沿って細いバンドが滝上に伸びており、これを伝って楽に上がれる。自然の造形にしては出来過ぎだし、こんなものわざわざ釣り人が作るとは思えないので、修験行を連想させる場所の一つだ。この後、きれいなナメを越えて第二の二俣に至る。岸の窪みにセブンスターの空き箱が詰め込まれていたりして、渓流釣りのマナーの悪さに腹が立つ。一応、ゴミは回収。

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ナメ  10:01
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第二の二俣


第二二俣の中間尾根は切り立っていて取り付く場所無し。左俣は水量がしょぼい。でも狭くて段差が大きく遡行しにくそう。左俣に人が入り込む可能性はないと判断し、本流筋である右俣に進む。

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右俣
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左俣


右俣は小滝というか段が幾つも連なって高度を上げる。

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LR-1  10:22
確か、左岸巻きだったような。
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LR-2 (夫婦滝)  10:25
落差は小さいが水の流れがきれい。


中間尾根に上がれそうな場所があったので、渓流シューズのままよじ登ってみた。予想通り超痩せ尾根である。本日は晴れるとの予報であったが、釈迦ヶ岳にはガスがかかっていて雰囲気悪し。危険箇所が現れたのを機に撤退して沢に下降。この尾根が修験行に用いられた可能性は低い。このまま撤退するのは癪だし、段差の大きい沢を下って戻るのに嫌気がして、目的を予定外の権現沢完全遡行に切り替えた。沢屋さんには見向きもされない沢だから遡行記録を見たことがない。権現沢奥部の地形図を準備していないし、遡行できるかどうかもわからない。正午までに大間々からの登山道に抜けられる見通しが立たなければ退却することとして奥に進む。

谷が広がると両岸に湧き水や支流の落差の大きな滝が出現する。右岸壁に湧水があって幾筋も細い滝を懸ける。落差20m程度。この水はおいしい。

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LR-RB1(白糸滝)   10:46


その先すぐの左岸側には剣ヶ峰から下ってくる支沢が二筋の滝を懸ける。落差20m以上か。

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LR-LB1(主従滝)   10:52


この後、急に谷が狭まり本流に迫力ある滝が出現する。少し戻って左岸を高巻き、笹を掴んで落ち口に降下。落ち口から覗く光景も結構迫力有り。

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LR-3   10:57
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LR-3 落ち口   11:06


LR-3の落ち口から上流を見やるとまたまた直登不可能な滝が控えていてゲゲッて感じ。こちらは幅広で落差10m未満。左岸巻きで降り立ったところから沢を横断して今度は右岸を高巻く。

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LR-4   11:07


連瀑を越えると谷が開いておとなしい渓相となり、沢が幾筋も分流する。

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   11:32
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   11:35


詰めが近いのかと期待させるがここからが長い。退却の時限が迫っているので、詰めが間に合わなかった場合のことを考えると気が重い。

再び谷が狭まると第三の二俣が現れる。水量は6:4で左俣が多い。右俣を遡行して中間尾根に上がってしまう選択枝もあったが、もうしばらく左俣を遡行することに決定。

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LRR-1   11:49
右俣入り口には落差十数mの滝が懸かる。試さなかったが、左岸側から登れるかもしれない。


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LRL-1&2   11:49
左俣も入り口付近に2段のナメ滝有り。適当にホールドを選んで登る。


最上流部では水量が少なく迫力はないが、火成岩の岩床表面がゴツゴツしていて水流が美しい。

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LRL-3   11:54
最初の段に上がってしまえば楽勝。


LRL-3を過ぎてすぐに第四の二俣が現れる。

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LRLR-1  11:59
ちょっとヒヤヒヤものだが左岸側を突破。


大間々から来る登山道の最低鞍部に上がることを想定していたので、水量大目の右俣を選択。入り口近くに懸かる滝が最後の滝となる。これで帰れる目処が立った。

沢が左に方向転換する場所で昼食休憩。沢はまだまだ奥に続くが水量がしょぼくなったので、尾根伝いに登山道を目指すことにする。ダケカンバ林とミヤコザサ藪の尾根を登り始めるとすぐにガスがたちこめて周囲の景色は一切見えなくなった。簡単に登山道に抜けるイメージで登っていくが、登りが切れる気配が無い。なんとなく釈迦ヶ岳方面に向かって登っているような気がしてきた。ここで本日初めて方位磁石を確認。なんとこの尾根はまっすぐ西に向かっている。登山道に抜けるとすればだいぶ釈迦ヶ岳寄りになるだろう。剣ヶ峰経由で帰ろうと考えていたのだが、釈迦ヶ岳経由の方が楽そうだ。

植林地帯ではないかと思いたくなる薄暗いイラモミの純林を抜け、深いクマイザサの斜面を越えて稜線に達した。ガスで景色は見えない。登山道が見当たらないが、登山者のクマ避け鈴が聞こえたので安堵。スッカン沢側に少しササ藪を漕ぐと登山道に抜けた。後で地形図を確認したところ、抜け出た場所は標高1,635m。地形図の青い水流線をほぼ忠実に辿ったことになる。

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大間々コース出合い   12:53


沢登りと笹薮漕ぎは脚にこたえる。疲労が溜まって痙攣しそうになるのでゆっくり山頂をめざす。本日はガスがかかって生憎の天気だが、この時間でも登山客はたくさんいる。小さな犬が大間々のロングコースで登山しているのには驚いた。景色が見えないならば釈迦ヶ岳はただの障害物だ。

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釈迦ヶ岳山頂  13:15


山頂をちらりと見やって休憩無しで下りに入る。前山まで下る途中、2名の登山客を追い抜く。前山から守子神社方面に下り始めて足に疲労を感じたので軽食休憩していたら、先ほど追い抜いた登山客が下ってきた。こちらに下る人はめずらしい。

守子分岐付近ではイヌブナやミズナラ自然林の中にあるカエデ類が豊富で紅葉真っ盛り。一番良い時に訪れることができたようだ。谷間の鮮やかな紅葉もきれいだが、自然林の中にパステルカラーをちりばめた光景の方が美しく感じる。

。優しい色合いで、痛みも少なく美しい。

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14:20
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14:23


登山道入り口には自分の車しかない。後続の登山者がどこに向かうのか気になる。着替え中に降りてきた2名は林道を黒沢方面に歩いていった。車に乗り込んだ時、密漁者の車が目の前を通り過ぎた。野郎!車のナンバーを控えてやらんと追いかける。カーブを曲がったところで2名の登山者が手を上げているのが見えた。さすが密漁者は性格が悪く無視して行ってしまった。車を停めて話を聞いてみると、彼らは前山から降り口を間違えたらしい。釈迦ヶ岳林道に車を置いてあるとのこと。道路歩きでは時間的、距離的にきつい。土上平放牧場を突っ切れば簡単だが、この辺りの地理に不案内そうだったので、車まで送っていった。

釈迦ヶ岳開拓に来たついでに3本\100で大根を購入し、ミヤコザサを数本モルモットへのお土産にして帰宅。

山野・史跡探訪の備忘録