栃木・茨城県境尾根歩き(松倉山〜鷲子山)(2007年2月)

年月日: 2007年2月17日(土)

行程:  那須烏山市中山と浅又の中間出発(08:45)〜松倉山(09:34)〜県境尾根到達(10:21)〜橋場−下藤の破線峠(10:33)〜烏山御前山線の峠(10:51)〜317.3m三角点(11:30)〜滝見谷−三賀の破線峠(11:54)〜道祖(ロク)神−仲島の林道峠(12:41)〜356.7m三角点(13:01)〜常陸太田烏山線の峠(13:30)〜326.4m三角点(13:41)〜金谷−花輪の舗装車道の峠(14:09)〜348.0m三角点(14:39)〜国道293号の峠(14:55)〜鷲子山(15:31)〜MTB〜車に帰着(16:36)

禁猟期に入ったので安心して里山歩きができる。花も眺めも期待できないが、静かで起伏が少ない八溝山地を思う存分歩いてみよう。県境尾根を何度か部分的に歩いたことはあるが、茂木と烏山地区は未訪である。栃木県と茨城県の境界は茂木町の岩の目から尾根になるので、ここから鷲子山まで尾根歩きしてみる。だいぶ距離があるのでちょっとした冒険だが、深山ではないから暗くなる前に山を下りてしまえばなんとかなる。

鷲子山にMTBを置いてから茨城県側に下り、国道293号線から常陸太田烏山線に入って、大木須を経由して南下。大木須の南に行くのは今回が初めて。岩の目に向かう道路が車一台やっと通れるくらいの狭さだったので嫌気がしてUターン。この時点で当初の計画は放棄。行程短縮して大木須から出発しようかと思い、来た道を戻る途上で、ふと松倉山に登ってみようと考えた。中山と浅又の中間地点に路肩が広くて近くに人家のない場所を見つけ、ここを出発地とした。

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出発地  16:36(帰りに撮影)
那須烏山市中山と浅又の中間地点。


畝ったばかりの田んぼを横切り、木須川を渡渉して取り付きを探す。藪が濃いので、山際の作業道を辿って那須烏山市と茂木町の境界である谷に回り込む。砂防堰堤のプレートに拠ると弓焼沢というらしい。今は植林されているが、昔は耕作地だったらしく、狭い谷底に6〜8畳程度の狭い棚田跡が延々と奥まで続いている。どん詰まりから南側の尾根に上がり高みを目指す。植林地を抜けて尾根が次第に狭まってくるとスズタケの藪が現れる。岩場もある。粗悪なコンクリートみたいに大小さまざまな礫石が固まっており、那珂川の荒川合流点の岩と同じ組成である。崖といっても良いくらいの傾斜で、下りに使用するのは躊躇しそう。300mピークに上がってしまうと展望が良いが、見渡す限り低山のみで目を惹くものは無い。少し東に移動してから北上し松倉山を目指す。尾根は落葉広葉樹に覆われており、藪はほとんどなく概ね快適な尾根歩きとなる。

松倉山の直下で戸越方面から登ってくると思われるしっかりした道に抜けた。道祖神らしきものが一体有り。

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道の反対側ある踏み跡を辿って山頂(一等三角点と祠有り)に立ち寄ってから北側の観音堂へ向かう。

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松倉山山頂と一等三角点


栃木県及び茂木町教育委員会の立てた説明板に拠ると、栃木県有形文化財に指定された5体の仏像があるという。最も古いものは1,443年の制作。観音堂の由来についての説明はなかった。観音堂は長久寺の所有物らしい。

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松倉山観音堂  09:41
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観音堂の南手前に人工的な平坦地がある。碑文からは別当坊の跡地らしきことが読み取れる。僧侶の墓らしきものもある。

観音堂前の道は尾根から外れると思われたので、観音堂の裏手から北に向かって尾根筋を下ってみた。眼下に白いガードレールが見えたので意識的に東にずれたのだが、これは失敗。谷渡りのような形で尾根に復帰。地形図に無い林道が尾根に上がってきており、林道終点から松倉山に登れるようになっているのである。林道は西側に下っていくので、アオキが生える斜面を登ってまた尾根に復帰。県境尾根に至るまで結構アップダウンが多く疲れる。最終目的地まで行けるか怪しくなってきた。

地形図を見ながら歩くのは面倒臭いし、できるだけ地形図に頼りたくない。進路の見当がつかない場合や不安に感じたときに周囲の地形と地形図を比較して自分の位置を判断することが多い。このため地形が紛らわしい場合は現在位置を特定できず試行錯誤することもある。「現在位置を把握していないのは既に遭難しているのと同じ」という人もいるが私はそうは思わない。修正が利く範囲ならば迷走も一興。自分が楽しいと感じる歩き方をすれば良いのである。しかしながら、今日は長距離を歩くため大きな失敗を繰り返すと時間切れ・体力切れする恐れがある。手に地形図を持っていつもに較べればまめに地形図を参照しながら歩く。茂木町の県境尾根には境界杭がほとんど無いので、地形図と自分の判断力を信じるしかない。単調な県境尾根では破線路の峠は現在位置を把握する上で貴重な存在である。

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橋場−下藤の破線峠  10:33
廃道であるが明瞭な窪みが残っている。


進行方向東側に大規模な農場が見え、烏山御前山線が近いことを知る。この辺りは山が低く、県境尾根を歩いているという感覚はない。植林地の浅い谷を下って烏山御前山線に抜けた。

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烏山御前山線  10:51


栃木県から茨城県に抜けるとき、烏山で烏山大橋を渡って道なりに走ればここを通る。国道293号や常陸太田烏山線が整備されているので、地元の住民以外でこのルートを使うメリットはない。確か、大木須側にトイレ付休憩所があったように記憶している。

帰りの距離を考えれば、引き返すならここしかない。常陸太田烏山線まで行ってしまったら、歩いて戻ってくるよりそのまま鷲子山に登ってMTBで戻ってくる方が楽だろう。つまり、この先に踏み込むということは鷲子山まで行くということ。まだ11時前であるし、覚悟を決めて反対側に突入。あまりきれいな植林ではなく、県境尾根の風格はない。農場に近づくにつれて実生で育ったヒノキの藪がうるさくなる。今回歩いた区間で最も歩きにくい場所である。ヒノキの藪が終わると、右下に大規模農場を見下ろしながら伐採されたばかりの広葉樹を跨いで歩くようになる。

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大規模農場  11:08
大きな飼料入れが何本も立っているので、養鶏場であると思われる。風向きの関係か臭いはしなかった。


農場裏側に沿う尾根は歩きにくいので、可能ならば農場の中を通してもらうと楽である。

ここで問題発生。ガンガン飛ばしていくための必需品である汗拭きタオルが無い。しばらく尾根を戻って探したが見つからなかった。ヒノキの藪に盗られたらしい。あの藪をもう一度歩くのは嫌なのであきらめて先に進む。これで20分程度浪費。

317.3mピークの三等三角点でガブガブ水分補給。県境尾根を歩き始めて1時間経過して得た歩行実績から、この先の所要時間が読めるようになった。飛ばしていけばぎりぎりでイケそう。鷲子山16時着が目標である。

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317.3m三角点  11:30


三角点北の破線は明瞭な峠がないので気づかずに通過。次の破線峠の直前の進路判断が難しく、気をつけていても北側に引き込まれそうになった。

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滝見谷−三賀の破線峠  11:54
いかにも峠道らしい形を残してはいるが、現役ではない。


美和村の猟区の標識が立っている。植林が多いのでキジ、ヤマドリ、ノウサギの生息数は少なそう。八溝山地にはシカもクマもいない。イノシシが唯一の狩りの対象である。尾根上にはイノシシが落ち葉を掻いて索餌した跡が多数見られる。

峠の北側は比較的単純で360.3mピークを眺めながら北上。方位を見誤ったのだろうか、一箇所だけ尾根の向きと地形図が一致しない場所があった。尾根を北に向かって下ってみると東側の尾根が高く見えたので方向修正。この過程で栃木県側にL字型のきれいな歩道があるのを発見。おかげで1km程度楽に進行。

360m級ピークで破線路が交わることになっている。確かに東側に道形が認められるが、山越えのルートであり交通量が多かったとは思えない。隣の360.3mピークにも破線路があるので360.3mピークは信仰の対象になっていたのかもしれない。この辺りは県境杭の本数が多く、迷うことなく道祖(ロク)神−仲島の峠に降り立った。

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道祖(ロク)神−仲島の峠  12:41
福島東幹線の送電線鉄塔巡視路を兼ねているためか、現役の立派な未舗装林道である。


道路反対側の福島東幹線の巡視路を辿って尾根に上がる。送電線鉄塔で軽食休憩。この後、356.7m三角点まで特筆すべきものはない。

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356.7m三角点  13:01


三角点手前は高さ2mを超えるスズタケ藪が濃く、スズタケのトンネルを歩く感じ。地図上でしばらく並走することになっている破線路には気づかなかった。この破線路の存在意義はよくわからない。県境杭のおかげで大沢上に向かう尾根の選択は意外に簡単である。尾根上に走る明瞭な作業道をしばらく利用できる。常陸太田烏山線に抜ける直前で茨城県側の民家の犬が吠え出したので、50mほど戻ってアズマネザサの藪を分けて栃木県側に降り立った。

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常陸太田烏山線  13:30


反対側の斜面はマダケが放ったらかしで植林地を広範囲に侵入している。この辺りのタケノコを採ったら咎められるんだろうか。竹林の中で茨城県側から上がってくる巡視路と出遭い、そのまま送電線鉄塔のある326.4mピークへ上がる。この辺から徐々に疲労感が増してきた。幸い予定より早めに進んでいるので登りには時間をかける。

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植林地に侵入する竹  13:38
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326.4m三角点  13:41


332mピーク周辺のヒノキ林は間伐したばかり。間伐材は全て1m程度の長さに切断して重ねてある。とても丁寧な仕事ぶりだ。安蘇の山とは大違い。332mピークからはL字型のしっかりした山道を辿って金谷−花輪間の舗装車道の峠に降り立つことができる。

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金谷−花輪の峠  14:09
一応舗装されているものの利用する人は少なそう。地理的にこの峠も古い歴史を持っていると考えられる。


峠の反対側には特筆すべきもの無し。348.0m三角点ピークの手前はなだらかで明るく雰囲気がよろしい。

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348.0m三角点  14:39


国道293号線へ向かう尾根の末端は急傾斜であるため、北側の谷から国道に抜けた。残るは鷲子山への登りだけ。残り時間も残存体力も十分。やっと余裕が生まれた。

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国道293号の県境峠  14:55


さすが主要幹線だけあって車がビュンビュン通る。国道293号は栃木県側に鷲子沢に沿って下り、伴睦峠を越えて馬頭に入る。車道ができる以前も現在の国道293号に相当するルートがあって峠の名前があったと思われるが、現在は開削されて昔の道は残っていない。

県境尾根を鷲子山に向けて登っていくと左側の谷から立派な参道が尾根上に上がってくる。金谷地区の住民は昔は皆この参道を辿って参拝したのであろうが、現在使われている形跡はない。美しい竹林が現れると鷲子山上神社(とりのこさんしょうじんじゃ)はすぐそこ。駐車場の階段に抜ける。

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山上神社直下の竹林を通る。  15:29
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鷲子山上神社  15:32


本宮に参拝してみた。もともと鷲子山上神社はフクロウと関係があるようなのだが、以前は今ほどフクロウのキャラクターを前面に出していなかったように思う。

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鷲子山上神社本宮  15:33


帰りはMTBで順調。茨城県を走る国道293号から県境峠まで標高差が少なく勾配も緩いので、MTBで楽に上がれる。県境峠から烏山に向けてのダウンヒルは爽快。

MTBを押して歩くのは蛭畑から大木須へ抜ける峠越えのみ。この道はゴミだらけで、平均1m未満の間隔で空き缶やペットボトルが捨てられている。大木須の住民の中にろくでもない連中がいるのだろう。清掃が行われたこともないようである。おまけに強い腐臭(し尿の臭い?)もする。峠のラブホテルが垂れ流しでもしているのか、それとも死体でも捨てられているのか、何かヤバイものを感じる。峠を抜けてからは車まで全て緩い下りで快適。何もない尾根ではあるが、アクシデントなく自分本来の山歩きができて満足である。

山野・史跡探訪の備忘録