下郷線鉄塔巡視路を利用して逆川から月山周遊(2007年11月)

年月日:    2007年11月18日(日)

行程:    逆川林道ゲート前出発(09:35)〜巨大擁壁上端(09:58)〜林道復帰(10:30)〜岩カブト沢林道分岐(10:50)〜恋路沢遊歩道分岐(10:53)〜逆川調整池(11:07)〜下郷線巡視路入口(11:33)〜153号鉄塔(11:51)〜1005mポイント(11:58)〜月山南東尾根・1,170m(12:34)〜月山山頂(12:50)〜上部ダム(栗山ダム)外縁道路(13:15)〜ダム北部1,190m級ピーク(13:38)〜146号鉄塔(13:47)〜149号鉄塔(14:35)〜岩カブト沢林道(14:48)〜逆川林道(15:10)〜車に帰着(15:41)

関連記録: 2004-11-23 栗山ダム周遊、 月山 〜 大日向山 〜 夫婦山

狩猟が解禁になったので禁猟区である足尾の山歩きを計画したが、朝4時台にどうしても起きることができない。足尾行きをあきらめて目覚ましのスヌーズを止めてぐっすり寝ることにしたのだが、朝7時頃に近所の犬がしつこく吠えるので眼が覚めた。

予報通り良い天気で、運動しないのはもったいないような気がする。足尾に向かうには時間が遅すぎるので、ウォッ地図見ながら山歩きの候補地を物色。いつまで栃木県で生活できるか判らないので、できるだけ近場の気になるところを訪ねておこう。誰に遇うこともなく且つ猟銃に狙われずに山歩きするには送電線鉄塔の巡視路歩きが良いであろう。かねて気になっていた月山周りの巡視路を利用して月山を周遊する案を思いついた。

昔の月山は今市側から砥川沿いにしか登れない山であったはず。2004年に月山に登ったとき、山頂石祠に「作下部村中」と彫られているのを見てこの推測が確かめられた。月山の南東尾根に下っていく明瞭な踏み跡があるが、南東尾根末端は今市下部ダムに沈んでいるので、現在南東尾根を辿る人は皆無と思われる。このルートの存在を確かめてみたい。2004年に月山東側の基部に下郷線の送電線鉄塔が存在することを把握済み。逆川沿いの林道と巡視路を利用して月山南東尾根に近づき、月山から上部ダムに下り、ダム最奥から146号鉄塔に下って巡視路経由で林道に戻ることにする。

会津西街道から川俣方面に逸れ、鬼怒川の橋を渡った直後の石渡戸で左折して逆川沿いの舗装林道に入る。トンネルを3つ抜け馬背場沢の橋を渡った直後にゲートがあり、関係者以外は車で進入できなくなっている。予定では逆川調整池まで車で行くつもりだった。林道歩きは想定外だが他に行くあてもないので予定決行。登山靴に履き替えようとしたら、持ってきた登山靴は左足用が2つで使い物にならん。ここまで来て何もしないで帰るのはもったいないのでカジュアルシューズで歩くことにした。実はよほど特殊な環境でなければ山歩きに登山靴なんて要らないのである。歩きやすくて丈夫ならなんでも良い。むしろ長い林道歩きにはカジュアルシューズの方が合っている。

行ってみて初めて知ったのだが、この林道は恋路沢遊歩道としても使用されていて、林道ゲートが龍王峡から続く遊歩道の接続点になっている。法面の壁に「恋路沢ハイキングコース7.2km、龍王峡遊歩道川治温泉3km」との案内板在り。

       


さきほど馬背場沢の橋を渡った時に、橋のたもとから登っていく歩道らしきものを見た。本題に入る前にちょっと道草して辿ってみた。電力会社の巡視路らしいのであるが、しばらく登ってから馬背場沢右岸の急な斜面にまわり込み下っていく。尾根歩きに使えそうにないことが確かめられたので林道ゲートに戻った。

ゲートを抜けて林道を歩いていこうとしたら、右側上部斜面になにやら道跡らしきものが存在することに気づいた。遊歩道案内の左側に階段があり、入口こそスズタケに覆われて入り込むのに躊躇するが、最初の藪を抜けると幅広の街道跡のような廃道が横たわっている。興味を感じたのでしばし廃道を辿ってみることにした。幅広の廃道はジグザグに登ってやがて尾根上に至り、以後一貫して尾根上に続く。この尾根はカエデ類の紅葉がとても美しく、予期せぬ紅葉狩りとなった。

逆川左岸尾根の紅葉    09:40
逆川左岸尾根の紅葉    09:48


逆川左岸尾根の紅葉    09:49
逆川左岸尾根の紅葉    09:50
          
逆川左岸尾根の紅葉    09:50


路肩を木材で補強した場所がある。木材に針金が巻きついているので、そんなに昔に用いた道とは思えない。しかし、周囲には植林が一切無いので山仕事に用いた道でない。道の正体に疑問を抱きながら進むと、648mポイントを過ぎて巨大なコンクリート擁壁の上端に出た。なるほど、大規模な擁壁工事の資材運搬のために一時的に用いた道だった訳ね。

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逆川左岸の巨大擁壁  09:58
擁壁上部を巻いて擁壁左端(写真中央)の谷を下った。


こんなに巨大な擁壁を今まで見たことがない。120m以上の高さがあり、段がついている。棚上の樹木が紅葉して花壇の植え込みみたいに映える。各段は高さ30m程度あり、真っ直ぐ降りることは不可能。真下には道路が無い。つまり林道工事のために山を崩してコンクリート吹き付けをしたのではない。自然にできた地形とも思えない。何かの工事のために山を崩した跡なのではないだろうか(川治ダム建設用のために採石した跡であるとのこと)。

今まで歩いてきた道が途切れたように思えたので、擁壁最上段の棚を歩いてその向こうの沢を下って林道に復帰しようと考えた。ところが一部土砂崩れで棚が埋まっており危険な状態にある。しかたがないので急斜面を登って擁壁を巻くことにした。最上段の棚の上部もコンクリート補強されているが、掴まるものがあってなんとか上部の樹林帯に上がれた。ここにも幅広の作業道が来ている。おそらくさきほどまで辿ってきた道の続きであろう。擁壁の南側が小さな谷の源頭部であり、工事用の道跡はここで終点となる。

擁壁上の道跡   10:13
擁壁南端の源頭部   10:16


谷中の踏み跡を追って下ると岩ゴツゴツの涸れ沢で消えた。涸れ沢を下って擁壁の南側に至り、最後は巨大なコンクリート樋の横を下って逆川の小さな滝に至った。

涸谷   10:21
巨大な樋   10:24


滝から下流の逆川はコンクリート製の巨大な水路のさらに下の暗渠となる。水が無くまるで舗装道路のような水路を下流方向に歩いて逆川沿いの林道に抜けた。

逆川出合   10:28
水路(下が暗渠)   10:29


抜け出た場所は未舗装だが路面状態は悪くない。関係者がよく入り込むらしく真新しいタイヤ痕がある。

隧道   10:32
       

近接する2つの隧道を抜けると谷が幾分ゆったりとした感じになる。谷奥が南側なので明るい雰囲気だ。岩カブト沢林道の分岐点の恋路沢遊歩道の道標には「ロープウェイ・一本杉4.7km」とある。つまり遊歩道は丸山までつながっている訳だ。さらに少し進むと林道が再び分岐する。ここで恋路沢に向かう遊歩道とはお別れ。調整池の奥に延びる右側の道を行く。

分岐(左が恋路沢林道   10:53
       

最近伐採・植林した広大な斜面を見上げながら林道を進み、分岐点から2.2kmでようやく逆川調整池に達する。黒部ダムから導水しているので、9月の台風の影響で水が濁ったまま。この水はさらに鬼怒川発電所を経由して白石川の西古屋ダムに流される。

送電線の下を通り過ぎたところに下郷線の巡視路入口がある。道草して時間を食ってしまったので既に11時半を過ぎていた。当初予定していたルートを辿ると時間不足となるかもしれないので、この先慎重な判断が求められる。

下郷線の巡視路入口   11:33
       


巡視路歩きは期待通り快適。現役で保全されているのだから登山道よりも歩き易い。しかも静かだ。ピークを極めることに重きを置かない山歩きにはうってつけの存在である。スギ植林地を一気に160m超登って尾根上に出る。尾根の北側は広葉樹に被われており眺めはまあまあ。帰りに辿ってくる予定の送電線鉄塔が全て見える。

152号鉄塔に向かう巡視路   11:56
       

巡視路は1005mポイントまで尾根上に在り、北側に下っていく。ここで巡視路と別れて尾根を西進。南側斜面はミズナラ・ブナ林で、北側斜面がカラマツの植林。膝下の丈のミヤコザサに被われた明るい尾根だ。残り紅葉も美しい。尾根が月山の急斜面にぶつかるまでこの植生が続く。

1,005m地点から見る月山    11:58
尾根南側斜面の紅葉   12:04


標高1,050mから1,150mまでの約100mは地形図の等高線が恐ろしく密である。これだけ勾配がきついと崖がありそうで、ここで退却となる可能性もあると思っていた。落葉樹とミヤコザサに被われた急斜面の下部は日向明神の登りに似ていて危険は感じない。傾斜のきつい(斜度50度位あるように思えた)中間部では地形が複雑になり、場所を選んで何かに掴まらないと登れない。一旦滑ったらどこまで滑落するか判らん。登りはまだしも下りには怖くて使えない。ミヤコザサが生える急斜面にうっすらと獣が辿る跡があるので上部まで抜けることは可能と信じて這い上がる。尾根上に出たときはほっとした。眺めはまあまあ。今市ダム(下部調整池)がよく見える。

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今市ダム(下部調整池)    12:36


南東尾根は踏み跡が明瞭。うっすらと赤ペンキで丸印がついている木もある。かつて登山道として用いられていたことは確かだ。ミヤコザサ原で道が不明瞭になる区間もあるが歩きにくくはない。

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ヤシオツツジの稜線    12:41


頂上直下では今市市山岳同好会の設置した古い道標やトラロープ・鎖が存在する。

古い登山道マーク   12:46
月山頂上直下のトラロープ   12:47


高原山には雲がかかっていない。本日登った人はよい眺めを満喫できたことだろう。帰りに辿る予定の送電線鉄塔がはるか下方に見える。女峰山は降雪中。冷たい風が強く吹き付け、栗山ダム(上部調整池)には波が立っているのが見えた。西側から徐々に天候が悪化してきている。山頂には滞在せずにダム方面に向かった。

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栗山ダム    12:53


この先は2004年に歩いたことがあるので安心。最初の分岐を右にいけば自動的にダム奥に向かうと思っていたら、もう一つ分岐がある。登山道マークがある左側を下ればよいことは判るが、右側の明瞭な踏み跡が気になる。尾根の勾配が登りの斜面より緩いので、尾根を下って月山周りの巡視路に降りられそうに思えた。しばらく下っていくと踏み跡が怪しくなり思ったより勾配がきつそう。まだ時間に余裕がありそうなので安全策をとって引き返し、当初の予定通りダム外縁道路に降り立った。

栗山ダム外縁道路   13:17
       

2004年に訪れた時、ダム奥から北西に延びる尾根上には笹が刈り払いされたきれいな道があった。その道が見当たらない。最近は笹刈りしていないようだ。笹原に飛び込んでみると笹の下に確かに道跡がある。こんなところを歩く人がいるようで、点々と赤テープが付いている。1190m級ピークに黄色テープが巻かれた木が2本ある。これが146号鉄塔に下る尾根の目印となる。おそらく146号鉄塔への近道として巡視員が使用したことがあるのだろう。

146号鉄塔への下降点    13:38
       

少しずつ方向修正しながら尾根上を維持して下っていくと獣道が明瞭となり、そのうち巡視路と合流し、146号鉄塔に達する。147号鉄塔からは登り基調となり、最高点が標高約1,100mである。その後は沢源頭部の山襞に沿って小さなアップダウンと出入りを繰り返して148号鉄塔の在る尾根に向かう。この辺りは巡視路が崩れている場所が多く少々危険である。

146号鉄塔付近の巡視路    13:47
147号と148号の間   14:09


巡視路は尾根を下りながら148号鉄塔に向かう。148号鉄塔に至る前に149号方面に行く巡視路が分岐して月山方向に折り返す。149号鉄塔のある尾根も同じパターンで、巡視路は一貫して標高1,000m以上に存在している。

149号鉄塔への分岐    14:33
       

送電線は岩カブト沢の一本南の沢の林道を跨いでいるから、林道の両脇にある鉄塔から林道に下りる道があるはず。林道に近道するために巡視路から離れて149号鉄塔に向かったが、149号鉄塔から林道に下るような道は見当たらない。それもそのはず。林道を挟んで対峙する鉄塔は150号と151号であり、151号の場所を149号と思いこんでいたからである。巡視路歩き始めの鉄塔の番号(153)を覚えていなかったし、鉄塔の本数も誤解していた。何かおかしいとは思ったが雪がバラバラと降ってきたので時間をかけて遠回りする気になれず、そのまま沢に向けて下った。植林地だから不安はない。沢底近くで作業道に出てそのまま下って林道に飛び出た。やはり予想していた道路と違う。当初考えていた沢より一本北側の岩カブト沢に下ったようだ。結果的には最短の近道になったわけで、空が明るいうちに帰れる。巡視路入口まで戻った場合よりも1時間程度時間節約できた。

帰りの林道歩きは日陰で風も吹き出して冷え冷えとしていた。北の空には雪雲が広がり、車に帰着する頃には冷たい雨もぱらついていた。近道をしたのは正解だったようだ。短時間ではあったが予期せぬ展開が連続し、自分の嗜好に合った山歩きを十分に堪能した晩秋の一日であった。

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ゲート近くで見たイイギリ    15:40


山野・史跡探訪の備忘録