仁田元川周回(足尾ダム〜1,738mピーク〜庚申山〜中倉山)(2007年12月)

年月日:    2007年12月1日(土)

行程:    足尾ダム(06:00)〜スリットダム(07:05)〜沢登り開始(07:20)〜枝尾根稜線・標高1,400m(08:33)〜主尾根・標高1,470m(08:44)〜1,738mピーク(09:33)〜1,750m級ピーク(10:20)〜庚申山荘北断崖上(10:43)〜庚申山山頂(11:02 - 11:13)〜オロ山(12:26)〜沢入山(13:50)〜中倉山(14:27)〜1,499.5m三角点(14:34)〜林道へ降下(15:40)〜足尾ダム帰着(16:16)

仁田元川と庚申川に挟まれた尾根(本文では以後、仁田元川南尾根と称す。)は等高線を見る限りでは稜線部が緩やかである。「日光連山一人山歩き」の烏ヶ森の住人さんが歩いた2004年に初めて着目。このときの情報で笹原の美しい歩き易い尾根であることが判っている。自分も6月頃に新葉が美しい笹原を歩いてみたいと思ってはいたものの、この時期はアユ釣り優先で、おまけに天候が不安定であるため歩く機会を逃していた。テーマを持たず興味を感じる場所のみ気侭に歩く自分にとって、目下のところ仁田元川南尾根が最も魅力的。禁猟区なので冬場でも安心。土曜日の天候が良さそうなので足尾行きを計画した。

この尾根は@どこから登ってAどう周回するのかという課題の答えがなかなか見出せず、これが長いこと歩き残していたもう一つの理由である。今回は純粋に山歩きを楽しむのが目的であるから、核心部を歩いただけでは満足できない。最初から最後まで爽快に歩き通したいものだ。周回案は2つあって、一つは足尾ダムを出発点とし庚申山から中倉山尾根に周るコース、もう一つは舟石峠を出発点とし庚申山荘に下って舟石新道を辿って峠に戻るコースである。今回は眺望期待であるから第一案を採用。このコースは「日光稜線紀行」のstarionさんの実績がある。2004年に中倉山から庚申山まで歩いたことがあるので中倉山尾根を下りに使うことに不安はない。日が短い季節だが余裕で周れるだろう。これで課題のAは解決。

足尾ダムを出発点とすれば主尾根に上がるためにはガレた急勾配の斜面を登らざるを得ない。どうせガレているならば尾根筋より沢筋の方が安全に登れるはずだ。地形図の仁田元川の「仁」の字の直上に大きな砂防堰堤がある。この上流側で南南西に切れ込む沢は勾配が緩く楽に主尾根の標高1,130mの峠に上がれそうだ。これで課題の@も解決。

朝4時半頃に自宅を出発。空には星がまたたき快晴の予感。ところが足尾ダムに着いてみると薄曇りで月がぼんやり見えるのみ。日中は晴れ上がるであろうと期待して、足元が見える程度の明るさが得られる6:00に出発。2004年春と同様、銅親水公園側から導水管を這わした橋を渡って仁田元川に近道。2004年春以降に導水設備を更新したらしく、前回よりとても歩き易くなっている。仁田元川沿いの林道は簡易舗装工事中で、舗装したての路面がブルーシートで被われていた。井戸沢にさしかかる頃にガスが切れて山々が姿を現した。谷底に霧が発生していただけで、山上は快晴である。天候の心配はなくなった。

中倉山に登ったときは下久保沢右岸のガレた小尾根を辿ったのであるが、転落しそうで怖い思いをした。もっと奥に楽に登れる作業道があるのだという。テープで目印がついている場所がそれらしく思えたが明瞭な道ではない。帰りに作業道を使うのはあまり期待できそうにない。

道路は大きな砂防堰堤手前で右岸に渡り高度を上げる。仁田元川渓谷の下流部に霧が充満しているのが見えた。

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右岸渡渉点近くから見る足尾ダム方面  06:54


右岸の道路を進むと峡谷になり、話に聞いていたスリットダムが現れた。地形図の砂防堰堤がスリットダムであると思い込んでいたので地形図を確認せずにそのまま進行(この時点で辿る予定であった沢を通り越してしまっていた。)。道路はスリットダム建設のために延伸されたものであり、ダム完成以降は荒れが進んでいる。いずれ松木渓谷の道路みたいになるだろう。

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スリットダム  07:03


スリットに水が満ちていたので水の中を歩くのを嫌って左岸巻き。ダム上流側の降口にはご丁寧に細いロープもある。スリットダムの上流側はごく普通の山岳渓流であり、大石は安定していて豪雨が続いても大量の土砂が動くようには見えない。スリットダムを建設する意義があったのか疑問だ。

スリットダムを越えて最初に現れる沢に入った。入口には工事関係者がつけたとおもわれる4-1というペンキ標示がある。沢の勾配は予想していたより急に思えたが(予定した沢と違うから当たり前。まだ間違いに気づいていない。)、登っていくことは可能なのでそのまま進行。大きな段差や足掛かりのないフィッシャー状の場所があるが、いずれも巻いていける。下ることも可能だ。

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07:20
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だいぶ長いこと登っているのに峠に近づく気配がない。高度計を見てびっくり。既に標高1,300mの高みにおり、方位磁石は南南西ではなくて真西を向いているではないか。辿るべき沢を間違えたことは明らかだ。いったいどの沢を登っているんだろうか?足尾ダム方面が見えているので、辿る予定だった沢の一つ隣の沢であろうと判断((これも間違い。さらに一つ隣の沢だった。)。標高1,300mにいるならば既に勾配が緩くなっているはずだが上方の勾配は変わらず。きっと高度計を合わせるときに100mずれていたんだろうと都合よく解釈((なんちゅういい加減さだ。自分でもあきれる。)。谷を詰めていくとガレはなくなり樹木が生えているが勾配はさらにきつくなる。進行方向右側の小尾根に逃げて北方向に登り、中倉山尾根を見渡せる枝尾根の上に到達した。

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オロ山 〜 沢入山   08:33


主尾根がすぐ近くに見える。訳が判らないがともかく順調。獣道を辿って楽に主尾根に達した。標高1,500m前後の尾根は障害物が無く起伏も少ない。ミヤコザサの丈は膝下程度で、シカ道が一本走っており快適に歩ける。庚申川渓谷側の斜面はカラマツの植林である。

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08:44


標高1,550mから1,650mにかけては尾根の北側がコメツガ樹林となっており、部分的に笹のない場所を歩ける。標高1,650m以上ではミヤコザサとダケカンバの組み合わせが美しい。ミヤコザサの丈が腰から胸程度あり、霜が融けて濡れていたので、以降ずっと合羽のズボンを履いて歩く。1,738mピーク手前で袈裟丸山方面の良い眺めが得られる。1,738mピークは美しい高原であり、尾根の核心部といえる。

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1,738mピークから見る庚申山と皇海山  09:47
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袈裟丸山方面  09:50


90m下った鞍部にもカラマツが植林されておりミヤコザサが深い。その先の尾根はコメツガ林となる。笹が深いが、笹に隠れた倒木にさえ注意していればシカ道任せで労せずに辿れる。尾根を進む間、お決まりのシカの鋭い警戒音がひっきりなしに聞こえてくる。今回はそれに加えてプォーッというやや汚らしい鳴声や犬の吠え声に近い音も混じる。1,750m級ピーク西の鞍部から見る庚申山の北東部は、針葉樹林に白いダケカンバが映えて美しい。

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庚申山手前の鞍部にて   10:24


庚申山荘北側の断崖上端に沿って歩いてみたいので、勾配に沿って真西には向かわずに、雪に被われた樹林斜面をシカの足跡を追って横切った。靴の中がぐしょぐしょで冷たい。断崖上端では陽光を浴び体が暖まる。融けだした樹氷がパラパラと落ちる。期待通り南側に遮るものはない。1,738mピークの眺めも良い。

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庚申山荘北側の断崖上からの眺め(1/2)  10:43
眼下には水ノ面沢の谷が南に開く。庚申山荘が間近に見える。


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庚申山荘北側の断崖上からの眺め(2/2)  10:50
中央が1,738mピーク、左隣の尾根が中倉山尾根、さらにその奥が足尾−日光の境界尾根。


断崖に沿って西に移動していくと庚申山荘から上がって来る登山道に抜け出た。先日降雪してから多くの登山客が歩いたらしく、登山道は圧雪状態でツルツルで危険。これから登山道歩きをするときには軽アイゼンが必須だな。程なく山頂に達した。主三角点の標石がぶっ倒れている。

まだ11時になったばかりなので下りに十分な時間を確保できた。あとは慎重に下るのみだ。雪の積もった樹林をしばらく北東に向けて下ると尾根が明瞭になる。どんな方向音痴でも迷いようがない単純な尾根である。一貫して松木渓谷側の眺めが良く、県境の主だった山並みが全て見渡せる。遠く福島・新潟方面には真冬の光景が広がっていた。

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庚申山北東へ下る途上の光景(1/2)  11:31


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庚申山北東へ下る途上の光景(2/2)  11:32
県境尾根を一望。中倉山尾根を下る間、この様な光景を随所で堪能できる。


庚申山北東部は10p程度雪が積もっていた。風が無いので冷たく感じないものの気温は氷点下で、笹の葉の霜は融けきっていない。前回歩いたときは巨大雪庇が形成されていたので判らなかったが、稜線部にはところどころ藪があり倒木が多くて決して歩きやすくはない。

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1,745m鞍部  11:51
1,745m鞍部・オロ山周辺から仁田元川源頭部を介して南側の1,738mピーク(写真右奥)にかけての一帯は天然のシカ牧場で、シカの群れが自由に行き来しているようだ。


1,745m鞍部から先はミヤコザサの丈が高い。ここもしっかりしたシカ道を追って体力節約。オロ山の南側は倒木だらけの汚い斜面だ。山頂部はシャクナゲ藪が少々うるさいが南東側斜面をシカ道が巻いており移動が楽。オロ山から2段階に分けて急な樹林を下り1,682mポイントに至る。ここから中倉山まで続く笹原を主体とした光景を久しぶりに見るのを楽しみにしてきた。あいにく仁田元沢南尾根の真上に雲が居座ってしまい、中倉山尾根にのみ日光が当たらない。

あとほんの少し雲の位置がずれてくれれば陽が当たるのだが、20分程待ってみたが雲が動く気配は無かった。あまり道草していると時間不足になる恐れがあるので、中倉山尾根の撮影をあきらめて先を急ぐ。北の空は澄み渡っており、眺めは申し分無い。時折、雲間から光がスポット的に当たり、仁田元川側の下方のダケカンバ林が映える。オロ山の北に延びるダケカンバに被われた平坦な尾根が美しい。シカにとっては天上の楽園であろう。

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オロ山北尾根の丘陵  13:15
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仁田元川側斜面  13:17


沢入山には真新しい足跡があった。本日、中倉山経由で往復した登山者がいたらしい。既に午後2時近いので見通しの良い尾根上に人の姿はなかった。

中倉山尾根は天上の楽園のイメージが強いが、松木渓谷側に少しずれれば転落死する危険な場所だ。稜線で植生区域が裁断したかのように途切れている。北風が吹きつけ日照が少ない北側斜面に植生が戻ることは可能なのだろうか。いまのところ植生回復事業の効果は現れていないようだ。ロープをつけないと下れないような場所に不思議な構造物が幾つかある。2004年以降に設けられたようだ。斜面に土嚢を積み、底がビニールのようなもので覆われた穴を造っただけ。底に穴が空いているので水溜めではない。今後土を入れて何か植えるんだろうか。それにしては数が少ないし、???。

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中倉山  13:58
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松木渓谷側の構造物   14:08


残念ながら中倉山上空に雲が居座ったまま。

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中倉山にて   14:27


地形図と高度計を見ながら稜線の踏み跡を下っていくと、三角点は踏み跡の直ぐ傍にあった。前回慎重に稜線を登ってきたはずなのにどうして見つからなかったのか不思議だったのだが、当時は目印が無く笹に埋もれていたらしい(後日、烏ヶ森の住人さんが東西南北に石を置いてくれたので、見つけやすくなったようだ。)。

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1499.6m三角点   14:34


下降路の標示はどこにもないものの、さらに高度を20mほど下げた場所から南に派生する尾根を下った。しばらく下ると赤テープが現れ、薄い踏み跡が下っていく。これが作業道らしいが、シカ道より判別しにくく道筋も合理的ではない。標高1,390mからてっきり南東尾根を下るものだと思っていたら真っ直ぐ南に下っていく。ならば標高1,190mから南東に派生する尾根を下るのだなと思ったら、これも違う。標高1,220m付近から東に斜面をジグザグに下っていく。うるさいくらいテープが付いているので見失うことはないと思うが、道形は無く落ち葉と土でガサガサと不安定な斜め歩きで決して楽ではない。面白くないのでシカ道を辿って斜面を東に移動していくと防護ネットの上端に至った。途中で防護ネット内に入り込みさらに東に移動して、当初下る予定だった南東尾根に乗った。防護ネットの中なのに踏み跡が明瞭で、以前はこの尾根を利用する人が多かったようだ。防護ネットの下部には扉がある。結果的には作業道の降り口に近い場所に降り立った。尾根上に作業道を設けなかったのは、防護ネットを避けるのと、ゴツゴツした岩場を避けるという理由があったのであろう。

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15:40


再び導水管の橋を渡って、無人の夕暮れの銅親水公園に帰着。低温で発汗が抑えられたことで疲労感はなかった。スリットダムの情報に惑わされて地図読みを怠り、取り付きを間違えて首尾良くとはいかなかったが、2007年で最も爽快な山歩きとなった。

山野・史跡探訪の備忘録