塩原なりゆき遊山(比津羅山、三島街道、甘湯新湯、素簾の滝)(2008年3月)

年月日:   2008.03.29(土)

目次

@ なりゆきで比津羅山

A 三島道探索(送電線以南)

B 甘湯新湯

C スッカン沢・素簾の滝

なりゆきで比津羅山

行程: 善知鳥沢林道ゲート(6:47)〜比津羅山三角点(8:16)〜シラン沢林道に降下(8:42)〜シラン沢林道終点(8:54)〜車に帰着(10:06)

今週末は晴れるのが土曜のみ。雪が締まっているであろうから日帰りで日留賀岳経由で残雪歩きを計画した。会津地方が雪の予報なので当然県境尾根は雪であろう。県境ではないが福島県方面から吹く北西風をブロックする男鹿山地も雪が降る可能性が大。しかも強風が吹くとの予報だ。強風もしくは降雪のときは山に入らない主義だが、天気が良くなる可能性にかけて塩原へ。

早朝、氏家から見た男鹿山地は雪雲の下。景色が期待できなくても吹雪の中を大佐飛山に向かう人達がいるのだから恐れ入る。日留賀岳は北西風をもろに受けるのでもっと天気が悪いに違いない。塩原渓谷は強風が通り抜け、車が風を切る音がすごい。これでは最初からヤル気が起きない。

善知鳥沢沿いの林道のゲートに車を置いた。沢奥から雪混じりの強風が吹いて雰囲気悪し。いったんは止めようかと思ったものの、他に行くあてもなく、とりあえず残雪の様子の確認くらいはして帰ろうと思い直して出発。直後にトヨタのHIACEが走ってくるのが見えた。ゲートには鍵がかかっていなかったらしい。HIACEが停まって「乗っていきますか?」と声をかけてくれたが、山歩きするかどうか決めかねていたこともあってお断りした。

シラン沢林道の起点に到着。彼らはシラン沢林道から日留賀岳に向かったようだ。この時点で日留賀岳に登る気はなくなっており、そのまま善知鳥沢沿いの林道を歩いて白倉山に向かおうとした。ところが雪混じりの強風に煽られて意気消沈してシラン沢林道起点に逆戻り。

さて、どうしたものかと思案していたら、シラン沢林道起点から善知鳥沢沿いの比津羅山の斜面に踏み跡があるのを発見してしまった。ちょうど目的を失っていたこともあって誘われるように踏み跡を追った。かろうじて認識できる程度の踏み跡は次第に高度を上げていく。この辺りの斜面は勾配がきつく、踏み外すと下まで転落しそうだ。そんな場所に部分的に植林されており、山仕事の人が辿った踏み跡であるらしい。2番目の植林で踏み跡が消えてしまった。せっかく登ったのにもったいない。ケチな性格なのでそのまま急斜面を登って比津羅山の山頂を踏んでシラン沢林道終点に下降する。比津羅山西側の尾根に興味があったので良い機会だ。背後の若見山(善知鳥沢右岸)の斜面に三島街道跡が見えるので、早いとこ下山して三島街道跡の探索でもして帰ろう。目的が定まったのでヤル気復活。

この山は北側を除いて笹が全くない。昨夜降った雪がうっすら積もっているだけで残雪はない。約300m登って比津羅山三角点の西側の広い尾根上に出た。尾根上に出ると部分的に残雪が見られるが、最大で4、50p程度の厚みしかない。薄くても十分に締まっており、天候さえ良ければ残雪歩きOKのようだ。勾配の緩い尾根を快適に歩いて山頂着。予定外の二度目の訪問だ。山部山名板にだいぶ風格が出てきた。

比津羅山三角点にて  08:16


地形図に拠ると三角点から南東尾根を下り標高1,100mから東に下ればぴったり林道終点に降下できるはずだ。東に下っていくと突然にしっかりした山道に出会った。山道は高度を下げる気配はなく北に向かう。尾根の南側が伐採・植林されているのでてっきり作業道であると思い、これが地形図の破線であるとは気づかなかった。なぜならば、現在の登山道はシラン沢林道終点を経由しているので、林道終点と交わらない地形図の破線路記載が間違いであると思っていたからである。山道を横切ってそのまま下りシラン沢林道に降り立ったが、予定していた終点ではない。ミスはなかったはずなのに何で?腹立たしいのでシラン沢林道終点まで歩いてみた。降下地点からシラン沢林道終点まで10分以上要した。前回(2005年秋)も同じ経験をして、実際の林道終点が1,036m地点であり地形図に描かれていないことを確認していたのに、すっかり忘れていた。まあ、地図読みに失敗がなかったことを確認できてスッキリ。現在地は風裏でポカポカ陽気であるが、日留賀岳は吹雪いて寒そう。行かなくて良かった。

シラン沢林道から見た日留賀岳  09:06


送電線鉄塔の手前で法面に木で補強した古い階段跡があることに気づいた。上がってみると山道があり、南側はシラン沢林道に削られて残っている部分も廃道化している。北側は今も辿れそう。これは下山時に横切った破線路の続きであり、正規の日留賀岳登山道であるらしい。地形図の破線路の位置は正しかったのだ。

画像
シラン沢林道から見る高原山  09:24


林道を歩いてフキノトウを幾つか採取しながら下山。春のシラン沢林道は落石のため途中までしか走行できず、今朝会ったHIACEが中間地点に置かれていた。日当たりの良い場所でも風花が舞い、遠くから山鳴りが聞こえてくる。尾根を回り込んだ途端に善知鳥沢奥から吹き付ける強風で帽子を飛ばされた。善知鳥沢林道終点から三島街道に上がって南下してくると危険箇所で行き詰る可能性があるので、南側から探ることにして、移動のためにまっすぐ車に戻った。

三島街道(送電線以南の区間)探索

行程: ウトウ沢橋(10:15)〜三島街道末端(10:49)〜送電線鉄塔近くで折り返し(11:11)〜崩落の進む支沢奥(11:45)〜車に帰着(12:54)

残雪歩きの目的は藪漕がずに景色を眺めながら快適に尾根を歩くこと。天候が冴えず景色も期待できないとなれば本日は三島街道探索でもしようか。白倉山以北の区間は2007年春に探索済み。今回の対象はその南側の区間である。比津羅山からの帰り、善知鳥沢右岸の三島街道跡を正面に見てシラン沢林道を下る間にどこから取り付こうか思案。

善知鳥沢を渡渉する装備を持たないので、対岸に取り付くには善知鳥沢の終点まで行って善知鳥沢を渡るか、それとも要害地区のウトウ沢橋を渡るかいずれかの選択となる。前者の場合、大きな支沢が一つあって行程が長いのが難点。崩落箇所も多いと聞く。ひょっとしたら行き止まりになるかもしれない。こんな天候で危険を冒す気になれないし、三島街道が善知鳥沢を渡っていた場所を見るのが一番の目的なので後者を選択。

「三島街道を復元する会」がブログで公開している資料を見てこなかったので道筋が判らん。適当に善知鳥沢沿いに移動し、善知鳥沢右岸側の送電線鉄塔近くの斜面を登って三島街道に上がり、道跡を辿って戻ってくることにする。

ウトウ沢橋の袂から善知鳥沢右岸側にきれいな踏み跡があり、これを辿って上流へ移動。左側から別の道が合流し、道筋に境界見出し標が点々と付けられている。善知鳥沢沿いにスギが植林された比較的平坦で歩き易い場所を移動。途中、何本か涸れた支沢の谷を横切る。

送電線鉄塔が間近に迫ったところで善知鳥沢沿いに移動できなくなり、斜面を登っていくと広い道跡に達した。構造的に三島街道にそっくりだが、善知鳥沢に面した崖でプツッと途切れてしまう。(この時点では気づかなかったが、どうやらここが善知鳥沢に架かる橋があった場所と思われる。三島街道は一度大きく北に折り返して高度を下げ善知鳥沢右岸に渡る。)

三島街道の渡渉点  10:49


送電線鉄塔ははるかに高い場所にあり、三島街道跡はその直下にあるはずである。ヒノキの植林地の際を登ってようやく三島街道跡に抜けた。

三島街道  11:02

植林の上限が三島街道跡なので、落葉期でなくても善知鳥沢左岸から三島街道跡の位置を把握可能。


そのすぐ北側は崩落しており滑ったら命はあるまい。高巻いた先にも崩落箇所があり、こちらは送電線鉄塔の高みまで数十m登らないと巻けそうにない。北に辿るのは止めた。そのまま登って若見山の送電線鉄塔巡視路を辿って下山する手もあるが、道筋確認を優先して南下することにする。

最初の支沢は危険箇所無し。桃ノ木峠以南では唯一と思われる切り通しを抜けると大きな支沢の奥に回りこむ。こちらはいきなり崩落していて高巻きを強いられる。この支沢奥全体で大規模に浸蝕が進行中で、道跡は8割方崩落。特に最奥部の沢が二俣になっている区間で浸蝕が著しい。高いところまで崩落防止の治山工事が施されている。支沢の対岸側も道がほとんど残っていない。ヒノキ植林地を下方に見る場所では広い道跡が残っているものの、ヘアピンで折り返した後に再び支沢に面した斜面で消えてしまう。それ以上追う気になれなくて、植林地を下り、来た道を辿ってウトウ橋に戻った。

送電線以遠の区間にはもっと危険な場所があると思われるので、南側から探ったのは正解だったようだ。若見山は地質的に脆いようで、今回辿った区間は善知鳥沢奥の区間に較べて崩壊が著しい。三島街道が竣工後10年たらずで放棄された直接のきっかけは善知鳥沢に架かる橋の損壊であったといわれるが、支沢奥に回りこむ区間の崩落が激しくて道路を維持できなかったことが本当の理由ではなかったか。土木県令の鶴の一声でろくに調査もせずに作った需要なき道だから、消えてなくなるのは時間の問題だったわけだ。歴史ある尾頭道に較べて魅力の薄い廃道であるが、杜撰な土木工事の原型という意味では遺産価値があるかも。

甘湯新湯

山の上は雪でも下界は陽光があり良い気分。三島街道を歩いてもまだ午後一時。せっかく塩原に来たのだから秘湯「甘湯新湯」を訪ねてみる。日塩有料道路から下塩原矢板線に抜ける舗装道路に入り、甘湯沢の支沢に架かる橋の手前から下っていく林道がある。林道は進入できないので徒歩で下る。湯の湧出場所は橋を右岸側に渡って数分のところにある。

甘湯沢左岸の湧出箇所


予想したより湧出量が多い。しかも高温だ。少し上流側にもチョロチョロと湯が染み出ている場所がある。温泉成分をかすかに含んでいるようだが透明である。

湯船にドカシーは敷いておらず掃除もしていないので、ドロッとしたゴミがプカプカ浮かんでいる。底にも大量に沈んでいる。昔、雨水が溜まった畑の肥溜めにこんなゴミが浮かんでいたのを思い出した。

湯船の湯温はちょっと熱い。甘湯沢と湯船の間に岩があって簡単に導水できない。近くにホースがあったので、ホースを沢に沈めて空気を抜いて岩場を這わし、サイフォン方式で導水した。林道から見えるのがちょっと気になるが、一般客が来るような場所ではないし、時間的に野湯愛好家も来ないであろうと考えてゆったり。

甘湯新湯  14:07


 

湯から上がって林道を歩いていたら、山歩き(釣りかな?)の格好の同年輩の男性二人組とすれ違った。自分の車と同じ場所にフォレスターが置いてあったので、彼らも湯に入りに行ったと思われる。結構人気があるようだ。

スッカン沢・素簾の滝

野湯に浸かってさっぱりして、後は下塩原矢板線を通って山越えして帰るだけ。スッカン沢の雄飛橋の駐車場には車無し。滝撮影の愛好家に人気のある場所なのだが、既に氷瀑の季節は過ぎているので訪れる人は少ないらしい。これはチャンス。2005年に塩の湯から八方ヶ原まで遊歩道を歩いたときに素簾の滝だけ見ていなかったので、雄飛橋から遊歩道を下ってみた。

なるほど、これは素晴らしい。スッカン沢右岸の崖から地下水が流れ落ちる様はまさに簾の様で、良い命名と思う。氷瀑もさぞ見事であろう。一部に氷柱や氷筍がまだ残っていた。誰もいないので気兼ね不要。スッカン沢を飛び跳ねて近くに行ってみた。安定した水温で清らかな水が流れ落ちるので山葵が生えている。

素簾の滝中央  15:24
素簾の滝右側  15:28
          
山葵  15:30
簾  15:34


折りしもスッカン沢の奥から陽光が射して、期待以上の美しい光景を堪能。

山野・史跡探訪の備忘録