西俣沢を詰めて西村山(2008年4月)

年月日:     2008.04.05(土)

行程: 木ノ俣川・落合(07:58)〜西俣沢取水堰(08:57)〜連瀑帯に入る(09:59)〜連瀑帯脱出・標高約1,050m(10:45)〜ワカン装着・標高約1,200m(11:13)〜主尾根到達・標高約1.750m(13:45)〜西村山・標高1,775m(13:54)〜黒滝山(14:25)〜山藤山・標高1,588m(14:53)〜双子山・標高1,467m(15:17)〜百村山(16:09)〜沼原線16号鉄塔に下る巡視路に入る(16:22)〜林道木ノ俣巻川線(16:50)〜車に帰着(17:16)

土日と晴れるとの予報であったので今週も一泊前提の残雪歩きを計画。金曜夕飯時に酒を飲んでしまったので、早めに寝て早朝に出発。男鹿山地や那須の山々に怪しい雲がかかっていて雰囲気悪そう。雲の流れが速く山上は吹雪になっているかもしれない。大佐飛山に日帰りで登る人たちはこの天気を知らずして既に登り始めているはず。寒いだろうな。

深山湖は激しく波立ち、山鳴りがする。大倉山の上を飛んでいく雲の速いこと。小生山歩きで一番苦手なのが強風である。陽射しはあっても強風が吹くと意欲が湧かない。明日は穏やかになると判っていても一泊前提で計画を実行する気になれず、当初の計画を放棄。急に眠くなってきたのでしばらくTEPCO施設の近くで仮眠。釣り客と思しきオフロード車が来たのを機に起きて、行き場を思案しながら板室方面に戻った。

大佐飛山に最初に興味を抱いたとき木ノ俣発電所から続く尾根を探索しようとしたが、取り付きやすそうな場所が発電所施設にブロックされていたためあきらめた。それ以来、木ノ俣川には近づいておらず、西村山の北北東尾根は未探索のままである。当時の記録には書かなかったが、2004年残雪期に大佐飛山に登った帰り、西村山の北北東に延びる尾根にジグザグの道らしきものが浮き出ていた。あの正体が気になる。ジグザグ道は西俣沢の奥から上がってくるように見えた。昨年、下野爺の写真帖で西俣沢奥に行く道があることを知ったので、ジグザグ道の正体を探ってみるべく木ノ俣川落合に移動。木ノ俣川の谷は風もなく穏やかで、2本隣の大川とは雰囲気が全然違う。

落合から続く未舗装道に案内は全くないので、西俣沢に続く道には見えない。入口の勾配のみ急で、ちょっと上がってしまえばよく整備されたきれいな林道が続く。

西俣沢に面した高みに林道終点があり、釣り客のものと思われるつくばナンバーのオフロード車2台が停まっていた。ここからは遊歩道然とした管理道を歩いていく。

取水堰管理道    08:21


管理道は支沢に架かる橋を渡ってから徐々に高度を下げて西俣沢左岸に渡る。ここの橋は出水で崩壊している。しばし進んで朽ちかけた橋を渡って再び右岸に移り、丈3mのチシマザサ藪の中の道を進む。

最後の渡渉点には真新しいつり橋が架けられており、ボヨンボヨンと揺られて左岸に渡り取水堰施設着。木ノ俣川(東俣沢)から取水していることは知っていたが、西俣沢奥からも取水していることを初めて認識。西俣沢合流点の水量が乏しく、釣り客が奥に向かう理由はこれだった訳ね。 ここで取った水は近くの施設で木ノ俣取水堰とヒツ沢取水堰から導かれた水と合わせて木ノ俣発電所の水圧管に送り込まれる。多くのイワナの仔魚がここで息絶えるのだ。

西俣沢取水堰    08:57


施設周辺にはおいしそうなフキノトウがいっぱい。このときはまだ西村山に登ろうとは考えていなかったので、帰りに採ろうと思って沢奥に向かった(採っておけばよかったぁ!)。

思いつき山歩きにつき地形図を所持しておらず現在地が判らん。左岸側に平坦地が続くが、取水堰以遠は道がなくチシマザサ藪に覆われて歩きにくい。しばらく左岸沿いに移動して、周囲の地形を見て広くて深そうな谷の奥に向かうことにした。このため合流点の存在には気づかなかった。地形図では黒滝山に向けて南に切れ込む沢の方に青い水流線が記載されているが、自分が進んだのは西に向かう沢(右俣)である。沢登りの対象になるのは黒滝山に突き上げる左俣。見事な滝が懸かるとのこと。

右岸側にある涸れた川床を歩いて楽をしようと思い渡渉しようとしたら釣り人がいた。目の前の藪から突然人間が現れたのだから驚いたであろう。声を聞いたような気がするので怒っていたのかもな。

徐々に雪が残っている割合が高くなり、締りがなくズボズボ踏み抜けるのでペースが極端に落ちる。完全な雪渓になるまでワカン装着できないのでつらい。

取水堰以遠の右俣    09:47


今回遡行している右俣は全体的に開けて穏やかな感じ。渓流釣りの対象となるのは取水堰から1km程度の区間である。取水堰管理道ができてからはアクセスしやすくなっているので、釣果はあまり期待できないのではないだろうか。

谷が狭まり嫌らしい雰囲気になってきた。西俣沢に滝があることは承知済み。ここまで例のジグザグ道につながるような取り付きは見当たらなかった。ここで引き返すとまた釣り人と遭うことになる。とりあえず滝を見物して帰ろうと思い、行けるところまで進むことにした。元々一泊前提の荷物を担いでいるので時間的には余裕がある。

F1、F2は優しい感じ。楽に登れる。F3の周囲は切り立っているが、右岸側の高いところに残雪を被った棚があるようである。樹木につかまって段差を乗越え雪面を這って棚に上がり、ヒヤヒヤしながら棚を移動。滑って落ちたら即死とはならなくても冷たそう。最後のチシマザサが埋まっているルンゼ状の場所がもっとも緊張した。幸い上方から落下して堆積した雪が固くて安定していたので無事通過。

右俣F3    10:09


一番の難所を抜けてしばらく登ると、この沢で最も大きいF4(チョックストーン滝)が現れる。奥には行かせないぞと門番が構えている感じだ。

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右俣F4    10:37


滝手前左岸側に少量の水が流れる小さな支流が流れ込んでおり、中間の尾根を越えていくしかなさそう。取り付くのはここしかあるまいと思った場所にはしっかりとしたトラロープがあり、この助けを借りて難なく左岸巻き成功。この奥に魚が棲むとは思えんが、いったい何の目的で訪れるのだろう?(2013年遡行時にF4以遠でサンショウウオ漁が行われていたことを確認。)。

連瀑帯を抜けた先は開けて明るい二俣である(10:45)。

F4 上の二俣    10:45


右俣は大長山から下ってくる流れで、幾つかの滝を持つ。本流筋である左俣に危険箇所はなさそうに見える。周囲の尾根に脱出することも可能だろう。ならばこのまま谷を詰めて西村山に登ってしまおう。主稜に上がってしまえば大佐飛山に向かった人たちのトレースがあるので楽に下山できるはず。

右俣
左俣(本流)


主沢である左俣に進み、完全な雪渓となる前に飲み水を補給してワカンを装着した。この沢が無雪期にどんな場所なのか知らないが、雪渓を見る限りでは反対側の御山沢のような崖の連続ではなく穏やかな詰めのようだ。

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雪渓@    11:52

標高差500mに渡って最後の最後までずっとこんな感じ。


谷が大峠方面に向けて開いているので、一貫して雪渓からの眺めは良好である。登るにつれて谷が若干東に向きを変えて大倉山全体が見えるようになる。

11:58
12:22


雪渓の締り具合はワカンを装着して丁度良いくらい。こんな場所を尻セードしたら停まらないだろう。固く締まっていたらアイゼン着用必須で、滑ったら大怪我しそうだ。

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雪渓A    12:39


主稜に突き上げる最後の二俣の辺りでは最近積もった雪の締りがなく膝位まで沈み込む。危険を感じてコメツガに覆われた真ん中の小尾根に逃げたのだが、こちらはまるで新雪状態。主稜が近いので時折強い風が吹き、雪面を粉雪が舞い上がり、真冬の雰囲気。ジャケットを着てさらに合羽も着用して防寒体勢にしてラッセルを続ける。急斜面で沈み込むと登っていけない。

 

つま先が圧迫されて凍えるため、血流を良くするために休みながら登る。寒いのと休みがちだったおかげでほとんど発汗せずに済んだ。ようやく主稜線に到達し、スノーシューの跡が現れた。抜け出た場所は西村山北西の標高1,700m地点であった。雲が多いが眺めは良好である。

大倉山と那須岳を一望    13:46
西村山方面


山中一泊の十分な装備を持っているのでこのまま大佐飛山に行ってもよかったのだが、どうにもこの強い風が気に入らないので黒滝山経由で下山することに決定。本日、大佐飛山に向かった人が数名いたようだ。でかい靴の壷足の跡は大佐飛山に向かっており帰りの足跡はない。既に午後2時近いので大佐飛山で一泊するのだろうか。

西村山     13:54


雪庇の発達は2004年当時に較べて遜色なく、締り具合も午後2時にしては悪くない。足跡は全て西村山から黒滝山権現方面に向かっていた。ここで足跡と別れ、昨年9月と同様に真っ直ぐ黒滝山に向かうべく鞍部へ下った。西村山と黒滝山の間は2004年以降に赤紐やビニルテープがやたらと増えて汚らしくなっていた。黒滝山への登りで2名分の下りの足跡と合流。1名はスノーシュー、もう一名は壷足。この雪の状態で壷足できるのはかなりの軽装備ということだろう。当方はワカンを履いていても重装備なので沈み込みが大きい。

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黒滝山山頂からの眺め(中央が鴫内山)     14:25


百村山ルートで黒滝山に登ったのは1回きりだが、下るのはこれで4回目。残雪期に下るのは4年振りだ。尾根の雪庇は発達十分。表面は全て新しい雪が締まったもので、黄砂などで汚れた古い雪は全く見えない。

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黒滝山からの下山路     14:29


時々尻セードしながらワカンでガンガン下る。ワカンで踏み抜けることはなかったものの、ワカンどうしをひっかけて前のめりに転ぶこと3度。横着してザックの腰のベルトを締めていないものだから、重いザックがずれて頭に覆いかぶさり惨めな姿である。先行する下山者にどんどん迫っているらしく、足跡が真新しくなってきた。通称「三石山」でワカンを外した。百村山のカタクリはようやく葉が伸び出したところ。

ヒメカンスゲ(百村山にて)    16:10


正規の登山道を下って林道に降りるつもりであったが、木ノ俣川側に下っていく笹刈りされた道があるのでこちらを使って近道してみる。標示も階段もないもののこれは送電線鉄塔の巡視路であるらしい。真っ直ぐの尾根道で傾斜がきつい。歩く人がほとんどいないので荒れていないのが救いだ。最後の急斜面はジグザグ道になっていて安全に下れる。出口近くは足の踏み場もないくらいカタクリの葉が出ていた。

コセリバオウレン(沼原線鉄塔巡視路にて)  16::24


林道への出口には電源開発の巡視路標示があった。林道のヘアピンの近くから下方に見える木ノ俣川沿いの林道に降下して近道。もう何も案ずることはない。余裕で終点に帰り着いた。

西俣沢合流点では以前何かを採石していたと聞いたことがある。その鉱物が何だったか思い出せないので木ノ俣発電所のある西俣沢合流点に行ってみた。採石場跡地らしき場所からきれいな長石のサンプルを採取(昭和50年代にろう石を採掘していたとのこと。)。

夕刻になって雲の流れる速度がややゆっくりになり、県北の空も穏やかになってきた。翌日は日帰り登山には絶好の日和となったことであろう。

山野・史跡探訪の備忘録