大川峠〜上海岳〜黒滝股山〜1,427m手前(2008年4月)

初日:    2008.04.12(土)

行程:    大川林道ゲート出発(06:19)〜大川峠・1,259m(09:53)〜1,422mピーク(10:34)〜上海岳・1,501.3mピーク(11:46)〜1,360mピーク(13:06)〜黒滝股山・1,405.7m(14:36)〜1,389mピーク(15:32)〜1,427mピーク手前で1日目行動終了(16:25)

2006年4月に大倉山に登ったときに番屋コルから赤柴山に向けて真っ白な残雪の上に続くトレースを見た。あの場所を歩いてみたい。福島県側から登れば楽だがわざわざ福島まで行くのが面倒くさい。栃木県側から登ると避難路の確保に難のある場所なので、やるなら県境尾根を歩き通してしまうのが良策。しかし、残雪期に大川峠からの帰りに大川林道を使えるかどうか不明。全て残雪尾根を通しで大川を周回するには2泊3日の行程となる。この時期に3日間連続で天候が安定することはまずないし、あったとしても短い残雪期の週末に当たる確率はほとんどない。そもそもテントでは絶対に眠れない性分なので2泊は無理。ということで計画はしてみたものの実現性はなかった。

このところ雨続きで、そろそろ残雪歩きも終わりに近づいている。今回は大川林道を歩いて大川峠から逆に県境尾根を歩いて戻ってくる案を試してみる。大川林道を歩くことができれば残雪の状態次第では1泊2日で余裕で周れる。序盤の標高1,300m〜1,500mの幅の狭い尾根が続く区間は歩きにくい反面、大川林道に降下するのは容易なので避難路を確保しやすい。残りの区間は楽に残雪歩きできるが安全な避難路がない。12日が晴れで13日が曇りの予報であるので、13日の天候が悪いほうに外れた場合は深入りせずに大川林道に逃げ下ることにする。

12日早朝、平地は晴れているが県境の山々は雲の下。深山湖ダムサイトから大倉山が見えない。深山湖は波立っているが先週ほどの激しさではない。雨と強風さえなければ山歩きOK。大川林道ゲート前で準備中にパジェロミニの釣り客が先に歩いていった。締りの無い残雪を長時間壷足で歩くので、濡れるのを嫌ってスパイク長靴を選択。雪庇はワカンで歩くことを想定して安物の登山靴を片手にぶら下げていく。

暖かい日が続いて一気に春めいたとはいえ、雪の量は降雪の少なかった昨年の同時期よりまだ多い。締りはまあまあで、踏み抜けはほとんどなく沈み込みは10p以内。昨年1,486.7mピークに登ったときに入った支流の合流点以遠も危険箇所はなく順調に進行。道は藪化していると聞くが、雪に覆われている時の障害物はたまにある倒木くらい。雪崩落ちた雪が堆積した場所も適度な柔らかさで危険箇所無し。

右岸側支流の合流点以遠    07:39
左岸沿い    07:58


ヘアピンは適当にショートカット。ようやく雲が上昇して1,486.7mピークが全貌を現した。

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1,486.7mピーク    09:29


ヘアピンから大川峠までが長く感じられた。会津方面は曇りではあるものの視界は良好。男鹿岳は会津側から吹き上がるガスの中。時折ガスが切れて見える標高1,500m以上の斜面は霧氷で白く見える。

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大川峠    09:53


天候は冴えないものの風が弱いので尾根歩き決行。南に伸びた尾根なので雪が融けるのが早いのであろう。稜線部に雪が無い。雪庇はあっても栃木県側にずり落ちていてうまく歩けない。本来は藪尾根だが稜線の福島県側が(AGCによって?)刈り払いされているので、雪庇を歩けない場合はこれを利用する。

深山湖方面    10:09
家老岳、七ヶ岳方面    10:15


標高1300mを超えると雪庇も大き目となり多少歩きやすくなった。


1,360m を過ぎてから1,422mピークへの登りは厚い雪面歩きで快適。1,422mピークから上海岳に向かう尾根は痩せており特に栃木県側が切れ落ちている。中途半端に雪が残っていて踏み抜けるため刈り払い跡も歩きにくく難儀する。途中退却して大川峠に戻るのは避けたい。

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上海岳    10:51
1,422m ピーク - 1,438m ピーク間は進行方向右手に上海岳を確認できる。


刈り払いは上海岳まで続いているようだ。刈り払い後に伸びたチシマザサが無いので2007年に実施したのであろう。夏に歩いた方が楽かもしれぬ。利用させてもらって言うのもなんだが、こんな山域に登山路伐開する意義があるのだろうか。営林署の許可あってのことと思うが、どうして自然のままにしておけないのだろうか。最初は物好きが集中したとしても歩く人の絶対数が少ないのですぐに藪化してしまうはず。

上海岳    11:30
上海岳山頂部    10:43


上海岳山頂部の樹木も霧氷が付いていた。赤柴山以西では最も高い場所であるため眺めが良い。

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上海岳から見る大倉山方面(大倉山は雲の中)    11:50

爽快に残雪歩きできるのは上海岳から1,445mポイントまで。


上海岳から続く雪面は締り具合がひまひとつなので登山靴に履き替えワカンを装着。黒滝股山を初めて視認。あまり興味が無かった山だが存在感がある山容を見てしまうと行ってみたくなる。

黒滝股山    12:02


時折雲間から青空が覗く。会津地方の平地もところどころ晴れ間があるようで明るく照らされている。徐々に雲が高くなり赤柴山もかろうじて見えるようになった。遠目に連続する雪庇の白い線を見ていると今日中に大倉山までも簡単に行けてしまいそうに思えてしまう。実際にはアップダウンの連続と長い大川林道の残雪歩きで疲労がたまっているので、どこか避難路を見つけてビバーク地を確保しなければならない。

大萱峠とは1,445mポイントから1,360mピーク方面に向かって下った鞍部のことと思われるが、歩いているときはその認識がなく素通り。地形図を見る限り等高線が比較的緩いので峠として使えるのはここしかない。1,360mピークの斜面でサルが一匹キーキー騒いでいるのが見えた。

1,445mポイントから1,360mピークへ    12:37
1,360mピークから見る黒滝股山    13:09


1,360m ピークから先に向かう頃には南側に晴れ間も覗き、このまま天候が回復してくれることを期待した。

1,360mピーク北の鞍部から見る那須方面    13:14
1,360mピークと男鹿岳方面    13:22


標高約1,290m の鞍部に向けて急降下。雪はほとんどなくワカンを外した。黒滝股山南東端への登りも雪無し。栃木県側に若干残っているが歩けない。幸いチシマザサの藪は濃くなく稜線部を順調に登っていける。最後はヤマグルマやシャクナゲの密な藪に覆われており、這い上がるのに少々苦戦。

南西から台形状に見える黒滝股山の稜線は痩せており、特に東側斜面が切れ落ちている。落ちたら止まらず立ち木に激突して死ぬだろう。今回歩いた範囲でもっとも危険と感じた。稜線部はヤマグルマや針葉樹の藪であるが、滑落防止の観点からはむしろありがたい存在。

山頂には足跡無し。丈の低いアスナロに括り付けられたMWVと下館岳友会のプレートがあるだけ。烏ヶ森の住人さんの記録にあるように、今年は雪の締りがないため福島県側から尾根を辿る人が少なかったらしい。

黒滝股山    14:36


県境に戻る途中で急速に雲が低くなってきた。県境に戻った頃には景色は一切見えず。

黒滝股山から東の鞍部への下りが滑り落ちそうで少々怖い。東進する区間は登り斜面の稜線に雪がない。雪庇が切れている場合は雪が残る北側斜面に回りこむが雪の締りがない。北西側からブナの大木に覆われた1,389mピークに到着。ここは大川林道に降下する避難路としては最適。ビバークにも適している。

細切れの地形図を並べて先の行程を確認。現在地は歩く予定の行程のほぼ中間である。翌日の天候を考えるとできるだけ先に進んでおきたい。体力的にはそろそろ限界なので、1,427mピーク西端まで進むことにした。ここを最後にしばらく避難路を確保できる場所がない。

1,389 - 1,427 間尾根    15:53
大佐飛山方面    16:00


再び雲の下限が上昇して景色が見えるようになった。

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1,427mピーク西側から見た黒滝股山    16:19


標高1,400mの巨大な雪庇の安定している場所を選びピッケルで均してテント設営。1日目の行動を終了。食事をしてシュラフにもぐりこんだが体が温まらない。歳をとって代謝が下がっているので、動いているときは感じないが、寝ると強い寒気を感じる。雪の上で寝るのは初めての経験だが、銀マットを敷いてもこんなに冷たく感じるとは思わなかった。今回もまた一睡もできないのか。もう二度と雪上テント泊はやりたくない。

夜には北風が止み静寂が訪れた。月が照っていて明るい。空は満天の星。男鹿山地にも雲が無い。予報が良いほうに外れるのかと思っていたら、夜半過ぎに弱い南風が吹きだした。徐々に強くなり悪天候の予感。

2日目行程:    幕営地から尾根下り開始(05:30頃)〜大川支沢(ワサビ沢)の底(05:54)〜大川林道(06:20)〜大川林道ゲートに帰着(08:17)

空が白んで周囲を確認するとガスがかかっていて何も見えない。ラジオの天気概況は「西日本も東日本も気圧の谷に入り天気は下り坂」のみ。尾根歩きはあきらめて大川林道に脱出することを決意。幕営地点から先は雪庇の発達が良好で快適な残雪歩きができると期待していたのに残念。

テントを撤収しようとして折り畳み式のフレームを抜いて雪面に放り投げた。風に煽られるテントを畳んでフレームをしまおうとしたら2本とも無い!折り曲げなかったのでツルツルと谷に滑落してしまったようだ。下る予定の谷の東隣の谷に落ちたのであきらめるしかない。

幕営地からまっすぐ南の尾根を下ってワサビ沢奥へ降下。沢底は広く移動は楽。沢右岸側を移動して1,389mピークから南東に下る尾根の末端部を乗越えて橋の近くで林道に出た。ここで別の人の足跡発見。この足跡も1,389mピーク南東尾根から林道に降りてきたように見えた。昨日、自分が大川林道を歩いた後に1,389mピーク南東尾根経由で黒滝股山を目指した人がいたのかもしれない。県境尾根には足跡が全く無かったから、時間的に途中退却したものと思われる。

山上と違って大川沿いは風がなく静かだった。本日は釣り人が入り込んでおらず誰もいない。雲の位置が徐々に下がってきて、林道ゲートに戻る頃にはチシマザサがしっとり濡れて雨になる寸前の状態にあった。山歩きを中止したのは正解だったようだ。

山野・史跡探訪の備忘録