木ノ俣川とヒツ沢(取水堰見物)(2008年5月)

年月日:  2008.05.11(日)

行程: 林道終点から出発(09:19)〜2段堰堤(09:36)〜橋脚(10:15)〜木ノ俣川の滝(10:26)〜ヒツ沢合流点(10:48)〜ヒツ沢取水堰(11:21)〜ヒツ沢合流点に復帰(12:19)〜木ノ俣取水堰手前で引き返す(13:25)〜ヒツ沢合流点通過(13:55)〜橋脚通過(14:14)〜車に帰着(15:05)。

行程詳述の一部を省略(May26,2009)。

関連記録@: 2008-05-24 木ノ俣川その2(取水堰以遠)
関連記録A: 2008-08-30 木ノ俣川の軌道跡に関する考察
関連記録B: 2014-07-26 木ノ俣川遡行(2014年7月)

今年の春は県境尾根歩きにこだわっていたため、男鹿山地(大倉山尾根含む)に入り浸りである。

木ノ俣発電所の水圧管を流れ落ちる水が東俣沢(木ノ俣沢本流)奥から取水していること、そしてかつて木ノ俣川沿いに軌道があったらしきことは渓流釣りを始めた頃から知っていた。2000年に木ノ俣川を遡行しようとして2段堰堤を越える術を知らず撤退したのであるが、このとき取水堰を建設するための資材を運び入れる道路のようなものは一切見当たらなかった。いったいどうやって奥深い場所に取水堰を建設したのかずっと謎のままであった。

4月20日にアカヤシオ愛でるついでに木ノ俣発電所の周辺を探索した際、西俣沢とヒツ沢からも取水していることを知った。水圧管は一本だから3つの沢から取水した水を何処かで合わせているはず。ならば水圧管の上部に道でもあるのかと思って登ってみたが何もない。導水管を掘削して資材を運び入れたのだろうか?Webでヒツ沢のことを調べていて「栃木県企業局 電気事業 水力発電のしくみ」で興味深い情報を得た。木ノ俣取水堰から取り入れた水はヒツ沢取水堰に導水され、ヒツ沢取水堰から取り入れた水と合わせて西俣沢の施設に導水される。ここで西俣沢取水堰から取り入れた水と合わせて水圧管を210m下るのである。ヒツ沢取水堰と木ノ俣取水堰の点検時は水を抜いて中を歩いていくのだという。水圧管の上部は標高約800m。取水堰の標高はもっと高いはずだから木ノ俣取水堰は1,277mピークの北側にあることになる。あんな山奥にまで開発の手が伸びているとは驚いた。取水堰と発電所の間は本来の流れではないのである。

簡単に行けない谷奥にあるという取水堰を見てみたいし、8年前に果たせなかった軌道跡の確認も達成したい。いろいろ経験を積んでいるので今回は絶対に行けるはず。連休明けの今週は休みが日曜日のみで、しかも天気は雨。山歩きするような日ではないので木ノ俣川を遡行することにした。

11日早朝はしとしと雨が降っており、家でゆっくりしていたい気分。重い腰を上げて家を出たのは8時過ぎ。県北に向かうにつれてやや空が明るくなり、雨も小降りになってきた。木ノ俣川沿いの林道終点には宇都宮ナンバーのスズキジムニーが一台有り。この天気で沢奥には釣り人が入り込んでいないであろうと期待して出発。4月にアカヤシオが満開だった場所はシロヤシオとトウゴクミツバツツジが散りかけ、ヤマツツジが盛期を迎えつつある。林道終点の広場の縁には青紫色のラショウモンカズラが咲いている。

昔の軌道跡の最初の渡渉点は木ノ俣発電所のすぐ奥にある。左岸に渡ってから二段堰堤まで軌道跡はきれいに残っている。

発電所以遠は水量が少なく遡行が楽だが魚が棲むには厳しい環境だ。すぐに8年前に退却した2段堰堤に到達。8年前はもっと鬱蒼としたイメージがあったが、今改めて見ると明るく開けた感じの場所である。

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二段堰堤  09:18


この堰堤には建設年代を示す銘板が無い。軌道跡よりも堤頂が高いので築かれたのは軌道が用いられなくなった後ということになる。ここは左岸側のルンゼを登って巻いていくしかない。ロープが下がっているので難なく奥のゴーロに抜けた。

2段堰堤奥の広く長いゴーロの中間地点の右岸側に橋の残骸のようなコンクリート製の人工物がある。堰堤建設によって土砂が堆積しているため昔の様子は不明だが、左岸側の急斜面には軌道跡はないので第二の渡渉点はこの辺りにあったはずだ。ゴーロを抜けると右岸側に部分的に残る軌道跡を見かけるようになる。

2段堰堤上流側のゴーロ
ゴーロに残る人工物


谷が狭まりようやく渓流らしい雰囲気になったところで前方に2人組みの釣り人を発見。握っているのはフライロッドだが、至近距離から水溜りにポチョンと投げているだけで、釣れるとはとても思えない。釣り客に先行させてくれるように頼むのが面倒なのでしばらく距離を置いて付いていったが、ペースが遅いので右岸の軌道跡に上がってみた。思ったよりきれいな踏み跡があり順調に歩いて釣り客をパス。

岩の割れ目から滾々と水が流れ出る場所が一箇所ある。渇水期には涸れるので透水層から流れる湧水ではないようだが、一応きれいなので飲み水の補給に良い。軌道跡が崩落もしくは土砂に埋まっていて慎重さを求められる区間もある。

豪雨時に水流が出現する場所では軌道跡が崩壊  10:01


対岸(左岸)に大きなコンクリート擁壁が見える辺りで右岸側の踏み跡が消失。ここが第三の渡渉点であり、トラロープにつかまって沢底に降りる。

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左岸の擁壁  10:15


川中央にしっかりとした橋脚跡が残っている。このすぐ上流にある木ノ俣大滝とそれに続く深いゴルジュを巻くために、軌道跡は左岸側に渡渉した後に下流側方向に高度を稼いでから方向転換する必要があった。大きな擁壁は方向転換用の平地を確保する目的で築かれたと思われる。

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第三渡渉橋脚と擁壁(帰りに撮影  14:14


遡行時は擁壁の存在する理由が判らず、対岸に軌道跡が無いように思えたので沢底を遡行していった。程無く、ゴルジュの奥に赤茶けた崖が見え、滝の音が聞こえてくる。

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ゴルジュを抜けると木ノ俣川大滝の空間が広がる。

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大滝前の空間  10:26


決して大きな滝ではないが、単純な直瀑ではないため印象に残る。

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木ノ俣川の大滝  10:30


腰まで水に浸かって釜の縁を左岸側に移動してみると安全に登って行けそうなルンゼがある。上がってみるときれいな踏み跡があった。先ほどあった橋脚の辺りから軌道跡を辿ってこれるようだ。滝から続くゴルジュが木ノ俣川の核心部と言えよう。取水堤がなかった頃は迫力があったと思われる。

軌道跡が崩落している場所で沢底に降りた。15分程度遡行してようやく右岸側に切れ込む支沢入口に到着。ヒツ沢出合いである。

ヒツ沢入口  10:48
ヒツ沢合流点下流側


ヒツ沢は東俣沢本流に較べて険相で、入口付近にいきなり直登不可能な滝がある。滝を巻く場所ではアズマシャクナゲが開花中。

ヒツ沢 F1 10:51
アズマシャクナゲ


しばらく遡行すると伏流となり水音が聞こえなくなる。取水堰があるくらいだからさぞ水量豊富な沢であろうと想像していたので少し拍子抜け。

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ヒツ沢下流伏流帯  11:13


違う沢に入り込んだのかと思って地形図を確認したが、現在地はヒツ沢に間違いない。伏流帯の上端に取水堰があるはず。果たして読み通りの場所に目的の取水堰が出現。

ヒツ沢取水堰  11:21
取水堰上  11:29


下る途中でミヤマイラクサとヨブスマソウを採取。

ヨブスマソウ
ミヤマイラクサ


ヒツ沢合流点に復帰してこの先の行程を思案。まだ昼を過ぎたばかり。せっかくだから木ノ俣取水堰も見てくることにする。

やや深いゴルジュで進めなくなったところで左岸の軌道跡に上がった。崩れた場所にはしっかりとロープが張ってあったりして、奥まで入り込む釣り人が多いことが伺える。

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ゴルジュ  12:26


大滝より上流部に堰堤があるとは意外だった。二段堰堤より奥では木ノ俣取水堰を除いて唯一の堰堤である。軌道跡よりも低い位置にあり、極めて古いものなので、おそらくは軌道が用いられていた頃に建設されたものであろう。

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最奥の古い堰堤  12:37


古い堰堤を過ぎてから軌道跡は第四の渡渉点で左岸から右岸に移る。沢底は広く雰囲気良好。

第4渡渉点(上流側から見た図)  12:43
トウゴクミツバツツジ  11:29


沢に降りる際、踏み跡の荒れが新しいことに気づいた。まさかこの時間帯にまだあの釣り人が遡行を続けているのか?果たして前方に2人の姿を捕らえた。釣り人の遡行ペースに合わせるしかないのが恨めしい。またまたミヤマイラクサとモミジガサの大群落に出くわしたのでいくらか採取して暇つぶし。

軌道跡は第五の渡渉点で再び左岸に移る。この橋は他とは構造が異なり橋脚を持たない。木ノ俣取水堰まであと少しと思われるのだが、釣り人が山菜採りを始めてしまったので全然進まなくなった。彼らは今晩は沢に泊まるのではないだろうか。取水堰はあきらめて退却決定。場所は地形図の803mポイントの約500m手前の屈曲点である。

軌道跡は奥の方が保存状態が良い。石積みでしっかりと護岸されているので、男鹿山地の奥部に居るような気がしない。この軌道跡、いったいどこまで続くのだろうか。

第五渡渉点跡  13:00
退却地点  13:25  左岸側が護岸されている。


帰りはできるだけ軌道跡を利用。行きは気付かなかったが、ヒツ沢合流点のすこし上流側の右岸に飛び出ている岩場が気になる。


大滝下の方向転換場所を帰りに確認。次回はフライフィッシングのついでに取水堰以遠を歩いてみるつもり。