大倉川遡行その1(2008年8月)

年月日:     2008.08.13(水)

行程:     小倉川林道ゲート(08:10)〜ネマガリダケ採取地で退却(09:52)〜大倉川遡行開始(10:46)〜標高1,100m地点で退却(12:13)〜入川地点復帰(13:38)〜林道ゲートに帰着(14:41)

関連記録@: 2009-10-05 大倉川遡行その2・大滝訪問
関連記録A: 2018-10-13 大倉川再訪

谷地平周辺の広大な山域の降水を集める大倉川は吾妻山を代表する渓流の一つである。入川が比較的容易であるため釣り場として人気があるようだが、沢登りの対象として顧みられることはあまりない。下流側に大滝、谷地平近くに小滝があり、地形図上で記載もされているのだが、それ以外には大場所が少ないためらしい。小滝は駕篭山稲荷神社と谷地平間の登山道から分岐する踏み跡を辿って往復すれば良いのだが、それだけのためにわざわざ山に登るのも億劫だ。一方、大滝にアクセスするには大倉川遡行しかない。暑い時期なので涼を求めて沢歩きして大滝を目指す。行程が長いので無理はせず大倉川の様子を把握できれば良しとする。

広大な水源地を持つが故に大雨時の暴れ様はすごい。市沢から達沢に向かうときに渡る大倉川橋の付近は川幅が広く、増水時の暴れ具合を物語る。1989年8月の台風13号の豪雨で大倉川が氾濫し、大倉川2号橋(現新大倉川橋)が流され、運悪く車で通りかかった地元の方が流されて行方不明となった。この時以来、いまだに河川工事が続いている。

大倉川右岸沿いの林道に進入。ゲート手前に駐車スペースがあり、釣り客のものと思しき車が一台あった。ここから林道を歩いていく。

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林道のゲート  08:10


奥地で治山工事が行われているため林道は現役でよく整備されている。第一ゲート付近は開けて明るく時々大倉川の渓流も眺めることができるが、ほとんどは鬱蒼とした森林の中で眺望無し。

林道沿いにはスギの植林地が多い。この時期目を惹く草花は特に無く、一箇所でメタカラコウの花とミズバショウの大きな葉が目立った程度。

大堰堤を過ぎると左側の藪中に大きな廃屋が現れる。しっかりした造りで、格納庫のような入口があるので人家ではなかったようだ。さらに進むと林道の分岐があり、どういう訳か隣の小倉川の谷で行われている治山事業の説明板がある。山上に向かう林道が現役で第二ゲートがある。大倉川沿いに直進する林道は車の通行は可能な状態にあるが現役ではない。路面には珪石(石英)の砂利が敷き詰められており、用済みとなった林道にしては贅沢な感じだ。

989m地点で沢を横切る際、沢水で顔を洗っていて沢中に転がっている表面が滑らかな拳大の石英を2つ見つけた。この辺りで珪石を産出するらしい。ということはかつて珪石の鉱山があって、林道に敷き詰められている珪石の砂利は採掘で出た屑を撒いたものであろう(後で父に聞いたところ、かつて珪石鉱山があったとのこと。林道脇の廃屋は鉱山の事務所跡らしい。)。

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大堰堤からの眺め  08:28

第二ゲート以遠の林道は写真左側の裸地(珪石採掘跡らしい)付近の治山を目的にしたもの


直進する林道で車で走れるのは989mポイントまでであり、その先は踏み跡を辿って沢底に下る。斜面を金網で覆ったり、護岸工事をした跡があるので、かつては沢底まで林道が通じていたのかもしれない。

支沢を渡った先は藪中に踏み跡が続くのみ。徐々に高度を下げて沢底に降りても薄い踏み跡が右岸沿いにさらに続いている。てっきり釣り人が帰りに歩いて戻ってくる巻き道だろうと期待して辿ってみた。

支沢の滝前を横切る


踏み跡は最初は巻き道っぽい雰囲気であるが、何故かだんだん高度を上げて川から離れていく。大倉川に滝となって流れ込む細い支沢を渡りその左岸側の小尾根を登っていく。支沢を跨いでからは踏み跡は極めて明瞭であり、新しいトラロープも這わしてあるので、まるで登山道の雰囲気である。

大倉川に面する斜面は急傾斜であり踏み跡が大倉川に下っていくようには見えない。どこまでも尾根を登り続ける。この道の目的は何なのだろうか?この場所に登山道があるとは聞いたことが無い。中吾妻山に登る道であるはずはないし、近年になって開かれた道にも見えない。目的地が中吾妻山の中腹にあるとしたらネマガリダケの採取地に向かっていることになる。

踏み跡は標高1,252mピークに達し、鞍部に下ってさらに勾配の緩い斜面を登り続ける。だんだんチシマザサ藪の丈が高くなってきた。ゴミが棄ててあるので、利用者は登山客ではなさそう。道は西に折れ曲がり、丈2.5m以上の立派なチシマザサ藪の中で終点となった。標高は1,300m。

ネマガリダケ藪    09:52


長年に渡って棄てられたペットボトルやビニール袋が散乱している。今年6月14日賞味期限のセブンイレブンのサンドイッチの袋があったので、踏み跡の主がネマガリダケ採りであることは間違いない。標高1,300mから1,400mにかけて広がるブナ樹林帯が良質のネマガリダケの産地となる。この最終地点を起点として藪中に分け入り筍を採取していると思われる。磐梯山の二つ石歩道のようなものだ。下るルートは登ってきた踏み跡以外無く、迷ったら厄介なことになる。年間通じて6月の初旬に数名のベテランしか入り込まない場所だ。篭一杯のネマガリダケを背負って急斜面を下るのだからトラロープがあるのも頷ける。ゴミを集めて休憩してから大倉川に下った。

予期せぬ存在の発見そのものは収穫と言えなくもないが、とんだ無駄歩きしてしまった。現在地から大滝まで約4kmの遡行距離があるので正午までに大滝に到達するのは無理だ。時間を目一杯使えば行けなくはないだろうが無理はしたくない。大滝は次回に期すとして、途中まで涼みがてら様子見することにする。

大倉川の水は透明できれいだが、岩が全て火成岩であるために、栃木の大蛇尾川のような美しいコバルトブルーにはならない。遡行自体は難しくないが、延々と岩の上を渡っていくので滑らないように気をつかう。左岸側の断崖の柱状節理を除けば見所はあまりない。釣り人が多く入り込むせいか、魚影も少ない。川床に石英の脈が走る場所があった。

蛇行する区間を抜けると長い直進区間があって谷奥が望める。日向ーと思しき裸地が見える。

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大倉川直進区間  11:32


標高1,100m付近の大岩が連なる場所で左岸から右岸に渡渉して巻く必要に迫られた。既に正午を回っていることもあり退却決定。砂地に真新しい先行者の足跡が残されていたので、釣り人は大滝まで行ったのかもしれない。

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退却地点(標高1,100m付近)  12:13


帰りにただゴーロ歩きするのは退屈。天気が好く川の水があまり冷たくないので、大き目のプールでは泳ぎを楽しんだ。右岸から細い滝が落ちる場所ではウメバチソウが開花中(カメラバッテリー切れで撮影できず。)。

午後3時前に車に帰着したので、大滝まで往復することは時間的には可能であったろう。しかし、大石のゴーロ歩きで疲労が蓄積したら怪我する危険性があったし、谷地平方面が急速に暗い雲に覆われてきたので、早めに退却したのは正解。大倉川の様子はだいたい把握できたので、もう少し涼しい季節に機会があれば大滝まで遡行してみたい。

山野・史跡探訪の備忘録