吾妻連峰・中津川渓谷 朱滝探訪

年月日: 2008年10月12、13日

初日行程: 天元台ロープウェイ始発(08:00)〜人形石(09:14)〜ヤケノママ分岐(09:50)〜中津川出合い(10:33)〜二俣(10:58)〜ヤケノママ(11:21)〜朱滝落ち口(12:06)〜崖下に降下(13:15)〜朱滝(13:29−13:42)〜高巻き終了・ヤケノママ崖の上(15:23)

二日目行程: ヤケノママ出発(08:51)〜二俣(09:39)〜登山道入口(10:07)〜ヤケノママ分岐(11:49)〜人形石(12:42)〜つがもりリフト(13:09)〜天元台ロープウェイ駅に帰着(14:12)

。長期連休の最初に選択したのが中津川の朱滝見物。2006年に中津川遡行した際、滝の巻きに辟易して熊落滝を巻いたついでに朱滝をすっ飛ばしてヤケノママまで行ってしまった。元々朱滝を見るのを目的に遡行した関係上、朱滝を見ずして自分の中津川遡行は完結しない。今回は天元台から楽をして県境稜線に上がり、目的を朱滝一本に絞って中津川を下る。どうせ行くなら紅葉の時期の朱滝を見てみたい。勤続15年でリフレッシュ休暇を取得できたので東北旅行を計画。初日に朱滝見物を決行。

未明に栃木県の自宅を出発し、午前6時に天元台ロープウェイ駅着。7時頃に隣に他の登山客の車が来るまで45分程度仮眠。ロープウェイとリフトの共通の往復券を¥3000で購入し始発に乗って出発。冷え込みの厳しい時期の単独山中泊であり且つ沢登り・懸垂下降の用具一式を持っていくため荷物がやたらと重い。45リットルのザックには収まらずサブザックをくくりつけていく。

高気圧が張り出す時は風が強く山頂の天候も良くない。明け方は青空が広がっていたが、ロープウェイ始発時には山形県は曇り空。最も下のリフト辺りの紅葉が見頃を迎えていた。つがもりリフトはガスの中で風が冷たいので防寒体勢を整えて乗った。山上は氷点下で白くなっているという。人形石に向かう途上の霧氷の造形が面白い。人形石は冬景色。

アオモリトドマツ


登山道傍らに奇妙な霧氷の造形が見られる。季節外れの草花の開花を見ているようだ。

モミジカラマツ
ハリブキ
アオモリトドマツ


フードを被って藤十郎方面に下り開始。湿原に下る途中で前日明月荘に宿泊したというパーティ2組とすれ違った。

ヤケノママ分岐からは消滅寸前の踏み跡を足先で探りながら中津川へ降下。3年前に辿った時以降に新たな刈り払いは行われなかったようで消滅度が増している(3年前の刈払いは行方不明者捜索のために行ったものらしい。)。踏み跡が明瞭なコメツガ林の尾根を下るところまでは順調だったが、その先の窪みを下っていくとチシマザサが濃く踏み跡を追えなくなった。窪みから左に逸れていく場所があると思われるのだが見つからない。そのまま窪みを下って支沢の畔に出た。予定より早めに沢下りすると思えばどうということないか。帰りもこの支沢に世話になる可能性があるのでしっかり降下地点の光景を目に焼き付けておく。特徴のある場所なので見間違うことはあるまい。アユタイツに履き替えて支沢を10分程度下って中津川に抜けた。

天候が回復して青空が広がり、気分良く沢を下っていける。順調にヤケノママ到着。ヤケノママ地蔵も健在だ。

ヤケノママにて
ヤケノママ地蔵


ヤケノママから沢沿いに下るのは初めて。連続する大釜を2つ左岸側から巻くとゴルジュ部に至る。川通しは無理なので基本的に右岸を巻きながら下る。落差数メートルの滝上部を渡って左岸に移り朱滝の落ち口に到着。転落したら滝下まで流れ落ちてしまうので少々緊張。

朱滝上流のゴルジュ
朱滝落ち口


明瞭な巻き道は見当たらない。落ち口左岸の急な小尾根を登って崖上の緩斜面のアオモリトドマツ原生林に入り、右手に崖を意識しながら南下。踏み跡はあるような無いような。藪は濃くないので移動は容易だ。立木に文字の消えたブリキ道標が打ちつけられていた。小尾根から上がってくる踏み跡らしきものもある。

左岸原生林
巻き道を示す道標


小尾根を下っていくともう一箇所ブリキ道標があったので、巻き道であることを確信して木の根やシャクナゲ枝に掴まりながら順調に降りていったが、中間地点で崖に出て行き止まり。登り返すと南隣のルンゼの草付き斜面に踏み跡らしきものがあったので、泥で滑る斜面を恐々トラバースして南側の小尾根に移動。こちらも踏み跡らしきものがあるが、だいぶ下ったところでまたまた行き止まり。さらに南隣のルンゼの中間地点に勾配の緩そうな場所があるので、30mロープを木にひっかけて下ってみたがその先はまたしても断崖で降りられない。ロープにつかまって登り返しそのまま崖上の原生林まで復帰。

立木には古い赤ペンキの○マークがある。踏み跡が明瞭で巻き道であることは明らかなのに下れないとはどういうこと?さっきの道標との関係は何なのか?最初の小尾根と同様に南側ルンゼ上部の草付き斜面をトラバースするような跡があるが、ここは危険すぎて踏み出せない。滑ったら崖下まで落っこちそう。

一旦はあきらめかけたものの、崖上の原生林をさらに南下して人跡の無い小尾根を選択。木の根、潅木、チシマザサをうまく繋いで下ることができ、最後は細い涸れ沢を伝って沢底に着地できた。目印も何もないが、左岸から幾筋かの滝が流れ下る場所の50m程度上流地点である。取り付き部は段差があるので上流側のチシマザサ藪を掻き分けて上がるのが良いだろう。

降下地点から10分弱遡行して念願の朱滝に到達。有名な滝でありWeb上の写真で何度も眺めた光景なので特に感動はない。水量が少ない時期で迫力は無いが優美な滝である。滝と紅葉をうまく写真に収めることはできないが、側壁のカエデ類が紅葉しており期待通りの眺めに満足。

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朱滝


朱滝を目にすることができ、これで中津川に未練無し。降下してきた小尾根を這い上がり、朱滝上部の嫌らしいゴルジュは原生林中を突っ切ってパスし、大釜下から再び中津川を遡行してヤケノママ復帰。

過去2回は沢底のヤケノママ地蔵の近くで幕営した。今回はできればヤケノママの崖上にて幕営できるのかどうか試してみたいと思っていた。下流側から崖上に這い上がり崖の縁沿いに濃いチシマザサ藪を掻き分けて接近。朱滝を下る巻き道探の疲労で腿がピクピクし始めている。突然ポッカリと開けて藪の無い100平米程度の広場に出た。

シラタマノキとイワナシがびっしり生えている。テント1張り程度の浅く平坦な窪みが何箇所かあって、白っぽい砂に覆われ植物が生えていない。夫々の中央部には蒸気の噴気孔があり、活動が活発なものは落ち窪んでいる。おそらく降雨時は別府温泉の坊主地獄のような光景が出現するのではないだろうか。活動の弱い窪みでは噴気孔は落ち込んでおらず、蒸気に含まれる硫黄成分の析出でもっこりとした石頭が飛び出ている。

かつてここに営林署?の小屋があり、藪中にトタン板が残っているとのことだったが、どの辺りか見当がつかない。人跡は最も奥の噴気孔に転がっていた黒いホースと、割れて風化したガラス瓶破片のみ。

砂に覆われた場所はどこも暖かく、これをうまく使えば快適な寝床を設営できそうだ。硫化水素が心配だが、ナキイナゴが生息しているし、仮に硫化水素が噴出していたとしても崖上なので溜まって高濃度にならないので大丈夫だろう。地面が適温で且つ一人用テントを張れる大きさの窪みを選び、チシマザサを敷いてテントを設営。

ヤケノママ オンドル
オンドル上に幕営 (2日目 06:57)
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日没まで崖上からの眺めを堪能。


ヤケノママはラジオ電波が入らない場所であると思っていたが、崖の上は何局か電波が入るので退屈しない。月夜で明るいが空気が澄んでおり星がきれいに見えた。眼が悪くなってからすばる(プレアデス星団)の星を直視して5つ数えることができたのは初めてのことである。

放射冷却で夜半過ぎに気温が氷点下となりテントの内も外もバリバリに凍りつくが、ヤケノママの地熱のオンドルで暖かく、星を眺めながら快適な一夜を過ごした。

翌13日は快晴。ヤケノママの崖上に朝日が当たるまで待ち、テントを乾かしてから午前9時近くになって出発。順調に遡行して登山道入口に達した。2005年にこの登山道を歩いて県境尾根に上がった実績があるので入口の場所は知っているのだが、今回はどうしても道がみつからない。2005年時点で既に怪しい状態だったから、登山道の下部半分は完全に消えてしまったのかもしれない。

入口から登山道を辿るのをあきらめて、下ってきたルートを忠実に辿って途中から消え入りそうな登山道に入った。登りでは道を外してウロウロすること幾度か。このまま推移すれば10年以内に完全に消滅するだろう。

無事に県境の登山道に復帰し、余裕で眺めを堪能しながらのんびり歩き。

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人形石から見た吾妻連峰(県境尾根と継森〜中吾妻山)  


県境尾根は快晴・微風で快適。

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天元台と米沢盆地


標高1,200mから1,500mの紅葉が見頃であった。特に名道沢周辺の紅葉が美しい。最上のつがもりリフトの最終搭乗は16:00。13:00過ぎても上ってくる行楽客が大勢いた。リフトとロープウェイを乗り継いで14:12に車に帰着。紅葉が見頃で天元台はすごい人出だったが、ロープウェイの臨時便が出ていて待ち時間はなし。

山野・史跡探訪の備忘録