十二湖から白神岳へ(2008年10月)

年月日:    2008年10月16日(木)

行程:    十二湖の八景池出発(05:56)〜崩山登山口(06:40)〜大崩(08:09)〜崩山山頂(08:59)〜大峰岳(10:25)〜大峰分岐(12:37)〜白神岳山頂(12:50−13:10)〜大峰分岐に復帰(13:21)〜マテ山三角点(14:16)〜二俣(14:58)〜白神岳登山口・記帳所(15:20)〜白神岳登山口・駐車場(15:29)〜(MTB)〜十二湖入口(15:57)〜(徒歩)〜八景ノ池帰着(16:32)

十二湖には過去2度訪れている。日本キャニオンの真っ白に輝く凝灰岩の崩落壁と湖沼群の組み合わせに魅了され、大学4年の秋に初めて訪れた。仙台から夜行急行八甲田に乗って青森に行き、川部で五能線に乗り換え沿線のリンゴ畑や美しい海岸線を眺めながら最後はたったの二両編成となり陸奥岩崎へ。なんせ貧乏学生だったから岩崎駅からトボトボ歩いてガンガラ穴周辺を経由して濁川沿いの林道を進んで十二湖の入口(おそらく八景池)まで行き、記念葉書を購入しただけで、また歩いて戻り再び夜行急行で仙台に戻ったのであった。その後、友達が彼女と旅行して山(崩山かな?)に登ってきたなんて話を聞かされて、同じ学生でもいろいろな意味で格差を感じてしまったものだ。当時の十二湖は今ほどリゾート開発が進んでおらず鄙びた所で、アオーネ白神十二湖(旧サンタランド白神)なんて施設はなかった。当時も山登りする人がいて、濁川沿いの林道を下ってくる登山姿の若い女性と挨拶した記憶がある。

二度目に訪れたのは大学院1年の秋のことで、オフロードバイクで東北を単独ツーリングした時のこと。津軽半島で三厩(みんまや)から小泊に抜ける林道で転倒して膝を痛めて歩けなくなり、大量に出血してちと意識が朦朧とした状態でなんとか深浦町の宿泊地(海遊荘)に辿りついた。予定では翌日十二湖を散策するつもりだったのだが、まともに歩けないのでまたしても十二湖入口で引き返して海岸線を南下していった。よって、十二湖近辺のトレッキングは25年越しの願望である。白神岳登るならどうしても十二湖と組み合わせて歩いてみたい。

縦走する場合は白神岳の避難小屋に一泊して十二湖に向けて下山するのが一般的らしいのだが、できれば天気の良い16日に日帰りで歩いてしまいたい。長い縦走コースなので日の短い今の季節はちょっと厳しいか。標高総和が1,700mを超えるコースなので、飛ばしすぎればバテてしまうし、あまり時間をかけすぎると日没までに下山できない可能性がある。ペース配分が極めて重要なコースであると見た。

前日に深浦町に移動し、海岸の景勝地見物がてら両登山口の下見を行いルートを検討。先ず白神岳登山口の様子見。黒崎側の登山口は舗装された急な林道を一気に標高200mまで登ったところにある。深浦町が白神岳を観光の目玉として手厚く整備しており、駐車場は広く、立派な休憩所も有る。二百名山で人気があるらしく、11台有った車のほとんどが他県ナンバーだった。尾張小牧、静岡、富山なんてのもある。

次に十二湖側の様子見。十二湖側は登山口まで車で行けない。崩山の登山者は青池近くの挑戦館の駐車場に車を置くらしいのだが、有料であるのが煩わしいし、営業時間の関係で利用できなかもしれない。長い周回をした後で十二湖入口から歩いて登ってくるのもつらい。

両登山口の様子見の結果、MTBの隠し場所と、海岸沿いの国道の勾配の2つの点で、MTBを黒崎側に置き十二湖側から大峰尾根を縦走し黒崎側に下山してMTBを利用して戻ってくるのが最善との結論を得た。海岸線と青池の中間地点である八景池の駐車場から出発すれば、山登りする前に足に肉刺ができることもないだろうし、山登り前に疲労することもなかろう。最悪の場合、日没までに黒崎側に下山できれば良しとして白神岳到着のタイムリミットを14:00とする。目標到達時刻は13:00である。

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黒崎港から見た白神岳(右奥)  15日 12:48
空気は澄んでいたものの白神岳山頂は雲の中。山頂の避難小屋のノートに拠ると、この日は眺望が得られなかったようだ。


黒崎側の白神岳登山口の駐車場で車中泊し、朝5時に行動開始。MTBを駐車場脇の薮に置いて車で十二湖側に移動。黒崎に下る途中でアナグマを見た。八景ノ池の無料駐車場に車を置いて出発。崩山の登山口まで標高差190m、約2.5kmの舗装路歩きとなる。

十二湖は標高が低いのでまだ紅葉が始まったばかり。内陸ではないため冷え込みが弱くあまりカエデ類が鮮やかに紅葉しないのかもしれない。渓谷ではないからそもそもカエデ類が少ない。白神山地は隆起した凝灰岩が浸蝕されてできた場所であり、十二湖は崩山の崩壊による土石流で誕生した。裏磐梯の五色沼のように温泉成分のイオンを含まないので湖面の色にも特徴が無い。あくまで豊かな落葉広葉樹の森が売りだ。

早朝で誰に遇うこともなく挑戦館入口まで来た。白神岳登山口の案内は無い。地形図を眺めて鶏頭場の池沿いの車道を進むと広場に到着。ここにも登山口の案内無し。またまた地形図を眺めて道を確かめて青池に向けて歩道を下る。青池はとても小さい。なんでこんなものが有名なのか不思議に感じたが、後で調べたところ本当に青く見えるのだという。このときは早朝で朝日が当たらないせいか青く見えなかった。よく言えばユカタン半島のセノーテの如し、悪く言えば山の中の溜池。

青池   06:38


登山道入口は鶏頭場ノ池と青池の間にある。石碑が建っているが字体が読みにくいので何が書いてあるのか確認せず。沢沿いの登山道は良く整備されており歩き易い。登山道は最初は沢沿いにあり鬱蒼としたサワグルミの林の中を進んでいく。急勾配のくねくね道に入るとブナ林に移行し、標高500m辺りまで登ると笹がちらほらと見えるようになる。

アップダウンの多いタフな縦走コースなので、とにかく発汗しないように登りにたっぷり時間をかけた。ようやくブナ林に朝日が当たり始めた頃に大崩到着。いつ足元が崩れるか判らない。全コース中唯一緊張する場所だ。本日は晴れだが空気が澄んでおらず、眼下の湖沼群の色が冴えない。青い日本海を眺めることができなかったのが残念。できれば白神岳から十二湖方面に縦走して午後にこの景色を眺めたかった。

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大崩れからの眺め  08:06
全体では大小三十三の湖沼があるが、大崩から十二の湖沼が見えるために十二湖と名づけられたという。
中央が金山ノ池、右上が糸畑ノ池、左上が面子坂ノ池である。右端に日本キャニオンの白い崖の右端が見える。


崩山の登山道は早朝は日陰になっているので暑い時期でも楽に登れそう。

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崩山に向う途上のブナ  08:13


崩山山頂手前で倒木にブナハリダケ発見。ここ数日降雨はなくても稜線上はガスがかかって湿潤であるためキノコが豊富。いかん。この調子だとキノコに目移りして時間が足りなくなりそう。

崩山を含む稜線上はチシマザサが茂る。海岸に近いので積雪が深いのは稜線部だけらしい。崩山山頂から大峰岳まで2.7km、大峰分岐まで6.3kmとのこと。ここからアップダウンが続く。登りはとにかくゆっくりと、平坦な場所や下りは普段通りに歩き、全体としてはちょっと休憩すればすぐに汗が引く程度のペースを維持。

稜線の起伏は地形図の等高線よりも複雑に感じる。南下する区間の等高線の間隔が広い場所ではチシマザサの丈が2.5mを超える。地形図を眺めながら歩いても現在位置を瞬時には判断できない。しかしながら、行方不明者が出るのが信じられないくらいとても良く整備された明瞭な尾根道なので、特徴のある場所で位置を確認することにしてあまり深いことを考えずに進んでいける。この尾根で行方不明になった人はよほど天候の悪い時かもしくは日没後に無理して行動したのであろう。遠くに白神岳らしき頂が見える。まだまだ先は長い。

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白神岳方面   09:17


大峰岳手前に白神山地世界遺産地域の案内図があった。大崩から白神岳に至る尾根は世界遺産地域の縁にあたる。向白神岳は登山道が無いと聞いていたが、この案内図に拠るとちゃんと道が存在している(後日Webで調べたところ、昔国体が開かれた時に大会の縦走コースとして切り開いた名残であるという。現在は薮化してしまっているとのことなので、避難小屋から続く道がどこまで続いているのか不明。)。でも世界遺産地域の内部だから基本的に許可が無いと入れないのであろう。この辺りでも登山道に横たわる倒木においしそうなブナハリダケが群生していたのでまた道草。

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白神山地世界遺産地域の案内図    10:12


ようやく大峰岳に到着。登りで体力をセーブしたおかげで疲れは無い。崩山から大峰岳まで2.7kmを1時間26分で歩いた。大峰岳から大峰分岐まで3.6kmとのこと。大峰岳から白神岳まで所要時間2時間半とみた。ほぼ目標到達時刻13:00に白神岳に到着することになる。この時点で本日の縦走を達成できることを確信して気が楽になった。ちなみに、大峰岳には幕営できる平坦地が有るのでここに泊まる前提で歩くという選択肢もある。

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大峰岳南側から見る白神岳   10:42


大峰岳からの下りは丸木で補強された階段があるので歩き易い。平坦地ではちょっとしたぬかるみでも滑り止めの突起がある板が這わしてあってとても良く整備されている。この長い縦走路を整備するのは大変なことであったろう。崩山から約5kmに渡る標高1,000m前後の尾根上に見事なブナ林が続くが、大峰岳の南側の辺りが特に美しく感じられた。

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縦走コースのブナ林  11:02


もうキノコは見ないようにしようと思っていたのに足元においしそうなナメコの群生を発見してまたまた道草。キノコ優先にザックの中身を収納し直す。

標高900mの鞍部から大峰分岐手前の1,210m級ピークまで300m強の登りが実質的に本日の最後の登りとなる。標高1,050m辺りだったと思うが、向白神岳の尾根を正面から眺めることができる場所がある。向白神岳の三角点は写真中央の最高点(標高1,250m)の左側のピョコンと飛び出た場所だ。脆い凝灰岩の山体は崩れている場所多し。

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向白神岳  11:52


登っているうちに西手の海岸側からガスが吹き上がるようになり、時折景色が隠されるようになった。果たして白神岳で眺望は得られるだろうか。標高1100m程度でも風雪が厳しい場所なのであろう。それまでの豊かなブナ林に代わって屍のようなダケカンバ樹林が広がる。

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1,122mポイントのダケカンバ林  12:09


マツムシソウと思しき植物の葉が残る見晴らしの良い場所を経由してついに標高1,210mの高みに届いた。白神岳まであと少し。振り返るとガスが消えており崩山からの縦走路を見渡すことができた。

白神岳が視界に入る。    12:26
縦走コースを振り返る    12:27
横に広がっているのは大峰岳から1,000.8m三角点に至る尾根。
奥に見える3つのピークの左端が崩山。


起伏の少ない尾根道を順調に進んで大峰分岐到着。大峰分岐到着後間もなくカランカランという音とともに白神岳から年配の男性登山客が現れた。「頂上には誰もおりません。」とのこと。十二湖からの所要時間を聞かれたので、「約6時間かかりました。」と答えたが、このときは特に不思議に思わなかった。

白神岳の避難小屋と思っていた建物はトイレで、避難小屋はその先のちょっと低い場所にある。ほぼ目標時刻通りに白神岳山頂到着。清澄度が低くて白神岳からきれいな海岸線を眺めるという望みは達成できなかったが、ガスに邪魔されることなく山々を眺めることができて満足だ。ぼんやりではあるが、向白神岳の右後方に岩木山を確認できてちょっと嬉しい。

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白神山頂の北側の眺め  12:57
左は1,235mピーク。中央がトイレ、右が避難小屋、背後が向白神岳。


帰りに避難小屋内部を窺う。あまり大きくないものの6人程度は余裕で泊まれそう。ノートをめくってみると実に様々な人がそれぞれの思いを抱いてこの山に登り喜びを享受したことが伺える。最後の記帳は「10/16十二湖に下ります。」と書かれていた(と思う。)。

白神岳と大峰分岐の間は笹原が美しい。

大峰分岐に戻る途上   13:13
向白神岳に続く尾根   13:15


大峰分岐から一気に黒崎方面へ降下。この下り始めは空気が澄んでいれば全コース中で最も素晴らしい光景が楽しめるのではないだろうか。登山口まで標高差1,000mを一気に下るのもつらいが、登ってくるときはもっとつらいだろう。

先ほど見たノートの記述を思い起こして大事なことに気づいた。10/16はまさに今日。来るときに誰にも遇わなかったのだから、あれを書いたのは大峰分岐で遇った年配者であろう。遇ったのは12:37。十二湖へ下るのに最低5時間はかかるはずだから日没前に下山するのは無理だ。あの人は本当に十二湖方面へ下ったのだろうか?気になる。

尾根道が終わり白神川右岸斜面を下る直前にマテ山に向かう道があったので立ち寄ってみた。三角点があるだけで眺望は無し。

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蟶(マテ)山    14:16


下山道に復帰して傾斜の急な山腹を斜めに下っていく。尾根上に較べて樹種・色彩ともに豊富。黒崎登山口から山頂まで往復するだけで十二分に白神山地のブナ林の雰囲気を満喫できるであろう。昔は白神川の二俣から一気に白神岳に突き上げるコースであったようで、現在のコースは途中まで二俣コースを流用したために尾根を外れた変わったコースになったと思われる。メリットがないわけではない。一箇所水場があり、ごつい柄杓が置いてあった。

登山口の記帳所でノートをペラペラ。本日の黒崎側からの登山者は北秋田市のご夫婦、愛知県からの2名、そして大峰分岐で遇った人と思われる能代市の男性の5名のみ。能代市の男性は「今回で13回目、最後の登山、73才」、「白神岳の神、私に勇気と気力をいただきありがとう」と記していた。充実した人生を歩んでこられたのではないでしょうか。予定では出発7:45〜頂上11:40-12:15〜14:50下山となっていた。

記帳所から舗装道路をしばし歩いて駐車場到着。広い駐車場には車が無かったので、あの男性は無事下山して帰ったようである。自分が下山したのが15:20だから、ほぼ記帳した予定の通りに歩いていたようだ。73歳とは思えない健脚である。山頂で見たノートの日付は見間違いだったのかもしれない。

黒崎登山口の休憩所   15:29


MTBはタイヤが劣化していて昨晩空気を入れたばかりなのに張りがなくなっており、もう少し空気が抜けていれば歩くはめになるところだった。一気に黒崎まで下り、海岸線の国道も95%走れるので足裏の負荷を軽減できる。濁川を渡る前にMTBを置ける空き地があり、車道の反対側には車を停める退避スペースもある。よってここから歩いて十二湖に向かった。既に日が傾き行楽客も帰った後で、車の往来はほとんどない。

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車道から日本キャニオンを遠望   16:24


夕暮れ前に車に帰着し無事周回達成。今回も日本キャニオンの見物を逸してしまったが、道路から白い崖を眺めることができたので良しとしよう。今後再び訪れることがあるかな?白神山地の黄葉したブナ原生林の尾根を歩けて山の幸にも恵まれて達成感のある山歩きであった。

山野・史跡探訪の備忘録