丹沢主稜縦走(大倉〜政次郎ノ頭〜檜洞丸〜西丹沢自然教室)(2009年4月)

年月日: 2009年4月29日(水)

行程: 大倉バス停出発(07:05)〜竜神の泉(07:32)〜政次郎尾根取り付き(08:15)〜政次郎ノ頭(09:19)〜塔ノ岳(10:02)〜丹沢山(10:56)〜蛭ヶ岳(12:13)〜臼ヶ岳山頂立ち寄り(13:26)〜檜洞丸(14:50)〜ゴーラ沢出合い(15:50)〜西丹沢自然教室(16:20)

我が社の5月連休は2日から。今年の連休は山歩きを予定していないので、休日の水曜日に山歩きすることにした。気温が上がり標高の高いところもそろそろ木々が芽吹く頃だが、フィトンチッド浴びて植物愛でながらゆったりハイクするにはまだ早い。先日は鍋割山越えルートで丹沢主稜縦走を計画したものの、蛭ヶ岳南稜の急登後に主稜に踏み出す気になれず東野に下ってしまった。それはそれで充実した歩きであったのだが、ちょっぴり心残りである。あの日、大倉から尾根道を辿って丹沢主稜を踏破して西丹沢自然教室17:05発のバスに乗った人やその逆コースを辿った人達がいたのだから、自分にもできないことはあるまい。今度はノーマルな尾根歩きで再挑戦である。

一本調子のバカ尾根(大倉尾根)を登ると途中で飽きてしまいそうだし、強い朝日を浴びてダラダラ登って発汗するのを避けたいので、今回は水無川沿いにひんやりした日陰を歩き、作治小屋のさらに奥から政次郎尾根を登り南尾根に出て塔ノ岳を目指すことにする

週末ではないので今朝の小田急線はグテッと寝ている朝帰りの若者が少ない。長期連休を控えて(中には既に入った会社もあるようだが)登山客は少ないであろうとの期待通り、大倉行きの始発を待つ登山者の列は前回より短め・・・・と思ったら、急行到着後には超満員状態。

ほぼ全ての登山客は大倉尾根もしくは鍋割山方面に向ったようだ。利用価値がなくて税金の無駄遣いと評される橋を渡るのは自分一人のみ。

風の吊橋


水無川左岸で階段を降りて舗装道路に出る。程なく未舗装の林道となる。この林道はゲート類がなく誰でも入ってこれるようで、何台か車が奥に向っていった。赤い服を着た猟友会と思しきおっちゃんたちが何箇所かにいて林道から山を見上げてキョロキョロしている。中に猟銃を持った人もいたが、この日発砲音は一度も聞かなかった。

水無川の谷は丹沢の他の場所に較べるとアズマネザサとスズタケの薮が多い。急峻な場所が多いのでシカはいないのかと思っていたら、林道傍に数頭いた。冬場は狩猟の対象になっているはずだが、人を見ても逃げない。

林道沿いは既にヤマブキの花が散り、白いウツギの花が満開である。

竜神の泉なる湧き水がある。たぶんそのまま飲んで何ら問題ないと思うけど、煮沸して使えと書いてあるのでシカの糞のエキスでも入っているような気がして飲むのをやめた。

鳥尾尾根への入り口に新茅荘なる廃屋然とした小屋がある。営業することがあるのかどうかは不明。さらに進んで無人の作治小屋到着。たまにしか開かれないらしい。眼下の広い川原はキャンプ場になっており、ハイカーの車が数台停められていた。作治小屋の水場でコップ2杯の水を飲んで尾根登りに備える。

川原に下りずに道を進み、標識に従って登山道に入る。沢筋を渡る場所は道がやや不鮮明。今朝は気温が低いので心配ないと思うが、本日のコースで唯一ヒルが出そうな場所で気味悪い。

政次郎尾根取り付きはスギの植林地である。過密植林で林内は暗く下生えが全く存在しない。表土(関東ローム層)が流出してスギの根がむき出しになってしまっている。登山道だけが抉れているのではなくて斜面全てが荒廃しているのだ。これほどひどい植林地を見たのは初めてだ。一応間伐は施してあるもののそれでもまだ過密。ではもっと間引けばよいかというとそうもいかない。いったん根元が脆弱な状態になると風に弱いので台風でも来たら全て倒れてしまう。

政次郎尾根の植林


反面、暗い植林地はメリットもある。標高約1,000mまで植林地が続くので、陽射しが遮られ発汗が抑えられて、本日の登山目的には好都合だ。しかしまあよくもこんな高い場所まで植林したものよ。どうやって収穫するつもりなのだろう。現代の伐採収穫はグラップル等に頼らざるを得ない。栃木県みたいに重機で山肌をズタズタにすることになるのだろうか。

政次郎尾根の登りは一気に高度を上げ、西隣の大倉尾根に引き離されていた高度差を縮めていく。このコースは大倉尾根のダラダラ登りよりメリハリがあって自分好み。行者岳直下の西側斜面を横切って南尾根の分岐点(政次郎ノ頭)に到着。降りてきた人は1人だけで静かな尾根であった。

表尾根はまだマメザクラが咲いていてシロヤシオの蕾が膨らみつつある。代掻きしたばかりの田んぼみたいだった登山道は、火山灰の土が乾いて適度な弾力を持った地面となりとても歩き易い状態になった。フムフム、これで表尾根も見直したぞ。

塔ノ岳直下にいるシカは、至近距離でも登山者を気にする様子もなく芽を出したばかりの草を食んでいる。異常な光景だ。丹沢はもうお前達が住める環境ではないのだよ。夢見ヶ崎動物公園に飼われている丹沢出身のシカの方が幸せかも。

塔ノ岳では朝同じバスに乗っていた登山客が何名も先着休憩していた。行者岳経由は大倉尾根に較べて40分程度余計に時間がかかるようである。本日は清澄度が低くて富士山の眺めがいまひとつ。時間が押しているのでパンをほおばっただけで滞在5分程度で丹沢山へ向かった。マメザクラの木が多く見られる

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丹沢山も無休憩通過。大荒れだった4月25日に降った雪がわずかに日陰に残っていた。冬は殺風景だった頂上の笹原にバイケイソウの芽が多数伸びている。

不動ノ峰から蛭ヶ岳に向かって下り始めると、登山道で抉れた笹原の縁に小さなサクラソウが咲いているのに気づく。

蛭ヶ岳
丹沢三峰


蛭ヶ岳の登り斜面のバイケイソウの密度は丹沢山をはるかに凌ぐ。


蛭ヶ岳までほとんど休憩をとらずに来たので、当初の遅れを取り戻すことができた。蛭ヶ岳頂上には10名以上の登山者がいたので、ここも休憩をとらずに通過し、静かな場所を求めて臼ヶ岳方面に下った。

本日は残念ながら蛭ヶ岳から富士山は見えず。主稜方面に下り始めてまもなく、笹原の中に矮小なキクザキイチゲが咲いていた。丹沢で山野草の類は期待していなかったのでちょっと嬉しい。

キクザキイチゲ


鞍部まで標高差約300mを一気に下る蛭ヶ岳西斜面は勾配がきつく、南稜よりも危険だ。この厳しい環境がコイワザクラに合っているのであろう。多数自生している。葉に毛が無くて光沢があるのがイワザクラで、毛が生えて光沢が無いのがコイワザクラとのことだが、ここにあるのは毛が生えて光沢があるんだけど、どっちだ?

(コ)イワザクラ?
(コ)イワザクラ?
ミツバオウレン(鞍部にて)


無休憩で来たので疲労が蓄積し、糖分が切れかかっているらしく鈍い頭痛もする。鞍部から登り返して標高1,421mの平坦な場所で昼食休憩とした。この間にトレイルランの兄ちゃんがアッアッと奇声を発しながら檜洞丸方面に駆け抜けていった。

登山道から外れて臼ヶ岳山頂に寄ってみた。藪は全く無く蛭ヶ岳の眺め良し。山頂は幾つか分割してシカ避け柵で囲ってある。反対側に抜けてみると檜洞丸の眺めもまあまあ。シカの群れが逃げていった。

臼ヶ岳から見る檜洞丸


臼ヶ岳西側斜面のブナ林の中に、樹皮が平滑で淡赤褐色の樹木が目立つ。北関東以北では見かけない樹木だ。種鞘が何かに似ているのだが思い出せない(帰宅後にヒメシャラであったことを知る。北関東にはシャラ(ナツツバキ)しかないので、道理で見たことない訳だ。丹沢のヒメシャラは樹肌模様や花の大きさに特徴がありトウゴクヒメシャラと呼ばれるそうである。)。よく見ると、刺青のような縞がある。

トウゴクヒメシャラ


臼ヶ岳西側の最低鞍部(標高1,300m)以降は蛭ヶ岳方面に向かう登山者と遭わなかった。鞍部から先は浸食が進んだ痩せ尾根歩きが続く。大きなアップダウンがないので進みは順調である。エネルギーが体に回ったようで鈍い頭痛も消えた。

檜洞丸東稜は樹木に覆われて眺望に向く場所は少ないが、標高1,480m付近にある薙上部から蛭ヶ岳を望める。

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標高1,521mポイントはバイケイソウとマルバダケブキだらけ。蛭ヶ岳よりさらに密度が高い。東丹沢でこの2種が優勢なのはシカが食べず選択的に残されたためと思うが、檜洞丸のある西丹沢も事情は同じらしい。

檜洞丸1,521mポイント付近


檜洞丸にはまだ登山者が10名程度残っていた。ガイドブックで西丹沢の代表格として紹介されている檜洞丸だが、この時期特に目を惹く物はなく山頂のブナ林も平凡。山頂の標識には西丹沢自然教室ともツツジ新道とも書かれていなかったように思う。ガイドブックを取り出して確認するのが面倒だったので、犬越路ではない方向(箒沢と書かれた方向)に木道を下った。ユーシンに下る道とゴーラ沢に下る道の分岐点には西丹沢自然教室方面の標示がある。

先行する年配男性の下りのスピードがやたら早い。後ろから変なの(俺)がついてくるためなのか、ますますスピードが上がり膝に悪そうな歩き方だ。ゴーラ沢出合いまで標高差750mをこのペース一気に下るのは肉体的に無理がある。ツツジ新道はお世辞にも歩きやすい道ではない。木の根が張り出し、岩ごつごつで滑りやすく、段差も大きい。速く下るのは危険なので、無理せず膝に衝撃を与えないよう気をつけてくっついたり離れたりしながらほぼ同じペースでついていった。予想通り男性が暑くて服を脱ぐために立ち止まったので、挨拶して先行。

尾根末端まで下り、100%石英閃緑岩の石が敷き詰められ真っ白に光る美しいゴーラ沢出合い到着。沢水で顔を洗いさっぱりして、もう下山した気分。西丹沢自然教室までの登山道は堰堤上で東沢右岸に渡り、尾根中腹をゆっくりと下っていく。バス発車時刻までに十分な時間的余裕を確保できているので、長いコースの余韻に浸りながらのんびり歩き。斜面は広葉樹の林なのに笹類の下生えが全く無い。ストロー状の朽ちた茎をいくらか見かけたので、数年前まではスズタケの群落があったと思われる。笹は種子を実らせることなく枯れ死してしまったのだろうか。山肌の傾斜は地形図で見るとさほど危険には感じられないのだが、笹類が無いので、美しい新緑に見惚れて足を踏み外したら沢底まで停まりそうにない。気が緩みがちの下山時は特に要注意である。さきほど追い抜いた男性が猛烈な勢いで迫ってきたので再び先行してもらった。

西丹沢自然教室17:05発のバスに乗った登山者は10人に満たない。キヤンプ場で乗り込んできた登山者が多かった。ツツジ新道の下りはきついし退屈なので、次回檜洞丸に登るならキャンプ場に下ることにしよう。

1時間以上要して新松田駅到着、料金は\1,150。新松田方面に下山すると遠くて高くつくけれども、小田急線が空いていて余裕で座れるのが良い。天気が好ければ、5月にもう一回行こうかな。

山野・史跡探訪の備忘録