矢沢の滝と東トンボ沢の朱滝(2009年5月)

年月日: 2009年5月16日

行程: −

季節は個人の都合などお構いなしにどんどん移り変わってしまう。ツツジ愛でるなら丹沢より断然栃木の方が良い。この週末はあまり天気が好くないとの予報であったが、この時期ならではの光景を求めて単身赴任先から栃木に戻った。

金曜日午後7時台の宇都宮線は通勤者の帰宅する時間帯故に満員状態。この路線の乗客は都内の電車の乗客に較べると品がない。特に上野−小山間が酷い。暖かくなった今でも5人に1人程度の割合でゲホゲホ咳をしており、汚らしい生理的な音が絶えることがない。「エッエッ、あ〜!うぇ〜!グジュッグジュッ(鼻すする音)、グェーッホ、グェーッホ(痰もからむ。)。」こういう奴ほどマスクせずに飛沫を飛ばしまくる。

あきれるというかすごいと思うのは、この路線の乗客はこの状態に慣れっこになっているようなのだ。乗客間で巡りめぐって菌やウィルスの毒性が増しているに違いない。そんな中で平気でいられる宇都宮線の乗客は日本で最も強い免疫を獲得しているのではないだろうか。でも、新型インフルエンザに対してはいままで獲得した免疫が効力を持たないらしいから感染者も死者も宇都宮線沿線が断突になるかもね。

高い山に登る気にはなれないので今年も足尾行きはあきらめ、釣りと滝見物とからめて短時間で巡ることにして、庭の草むしりを済ましてから県北に向かった。

最初の目的地は、10年以上前からその存在は知っていたものの未訪問の矢沢の滝。深山隧道前の広場には先行者の車有り。まるで登山道の如し釣り人の踏み跡を辿って約100m下降して那珂川の底へ。先行者が入川地点でフライを投げていたので先行させてもらう。素晴らしい渓相ではあるが魚は一匹もいない。大蛇尾川や木ノ俣川以上にハイプレッシャーの川らしい。元々少ないのに持ち帰って食っちまうんだから居ないのはあたりまえ。

フライを投げるのに適水勢であるが、深山湖で大川の流れを全て堰き止め矢沢からも導水していることを考えると、本来は遡行が困難なほど水量豊富な川であっただろう。深山隧道のある788mピーク北の崖はオーバーハングしていて迫力がある。


大川(那珂川本流)の水流はチョロチョロ。現在は支流の矢沢が本流だ。ゴーロ状の矢沢を進むと板室から釣り上がったと思われる釣り人が戻ってきた。。「びくの中をお見せしようか。」と言って蓋を開けると中身は空。見た魚影は3匹程度だったとのこと。矢沢の滝手前にも二人組がいて、小生が矢沢の滝に見とれている間に帰っていった。

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矢沢の滝


名高い矢沢の滝は太い2段滝であるが、名瀑とされたのは昔の話。矢沢中流部の取水堰において水量の半分以上を隣の深山ダムに奪われているのであるから、本来は(昔は)迫力ある瀑布であったろう。昔本屋で立ち読みした渓流釣り場案内本には「左右どちらからも巻ける。」と書いてあった。その記述を参考に簡単に安全に滝上に降りられそうな場所を探したことがあったが、そのような場所は存在しない。現在地から見ても、左右どちらも高さ数十mの断崖絶壁で巻けるような場所はない(写真に写っていない大側壁が連なる。)。やるとしたらハーケンでも打ち込んで滝横を直登するしかないように見えるのだが、本当にこの滝を左右両岸から平然と巻くような超人的釣り人がいたのだろうか。「左右どちらからも巻けない。」の間違いだったんじゃないの?

上流の橋まで遡行するつもりだったので、右岸から大高巻きをするつもりで約300m戻り傾斜の緩そうな場所から取り付いてみた。人間考えることは同じで立ち木に赤テープが巻いてある。さらに登ると新しいトラロープまで結わえられているではないか。トラロープが無かったら危険度が高い場所だ。巻き道を期待していたのに、上方に見えるは深山隧道を抜けてきた舗装道路のガードレール。結論:矢沢の滝には大高巻きのルートは無い!着替えをして舗装道路に上がり、深山隧道を通って車に帰着。

次に向かった場所は、帰り道にある木ノ俣地蔵と板室を結ぶ旧道があったと思われる場所。最初に目に飛び込んできたのは鮮やかなヤマブキソウの群落。喜連川のお丸山公園で見たことがあったが、自生地を見たのは初めて。黄色い花が一面に咲くだけなら畦のタンポポの方が見事であろう。樹林の中にひっそりと群生するところに価値がある。

ラショウモンカズラとヤマブキソウ
ヤマブキソウ群落


地元の山野草愛好家が訪れるのであろう。群落の周囲には明らかに人間の足跡による新しい乱れがある。

ヤマブキソウの群落を追って斜面を下っていくと明瞭な踏み跡があった。どう見ても獣道ではない。板室手前で車道まで続いている。植林地ではないのに何故に踏み跡が存在するのか解せぬ。この踏み跡の上端は自車を停めた場所であった。実は4月にもここを訪れているのだが、少し那珂川の上流側にある沢筋しか見ていなくてこの踏み跡には気づかなかった。ヤマブキソウを愛でるだけなら板室から上がるのは変だし、踏み跡は下に行くほど不鮮明になるので、これが旧道跡である可能性は十分にある。明瞭な踏み跡が維持されているのは、@笹が生えておらず、A何年前のことか判らないが沢筋に砂防堰堤を建設した際に工事関係者が辿ったためであろう。

踏み跡


十分に満足する結果を得て、次はゴヨウツツジ(白ヤシオ)鑑賞。高原山ではスッカン沢の崖に面する大入道の白ヤシオが有名だが、その他にも匹敵すると思われる場所が複数ある。「思われる」という理由は、大木の存在を確認してはいるが開花時期に訪れたことが無いため。下塩原・矢板線に進入すべく塩原に向かおうとしたら関谷の交差点が混んでいたので中止。沼代・シダブ線を通って八方ヶ原に上がった。

八方湖で気が変わり、本命の場所には行かず東トンボ沢渓谷のツツジの状況を確かめることにした。沼原線の巡視路を辿って尾根を下り、鉄塔からは正体不明の廃道を辿る。期待した通り、白ヤシオが咲いていた。見事な花付きの個体は少ないものの、トウゴクミツバツツジとヤマツツジとの競演を見ることができて満足。ここの白ヤシオは見頃から1週間程度過ぎているようだった。

廃道崩壊地手前の小尾根を下り、途中から緩斜面を上流側に下り、最後は掴まる物が少ないスラブ状の場所で東トンボ沢に降り立った。東トンボ沢入り口近くに見事な第一の滝があり、前回は下流から遡行して第一の滝から尾根に上がった。今回はその上流の滝を見るのが目的である。果たして目にした滝は、滝そのものは平凡だが火山灰層の朱色が鮮やかである。

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東トンボ沢の朱滝(仮称)


前回、第一の滝を中津川の熊落としの滝のスケールを一回り小さくしたような場所と感じた。第二の滝はさしずめ中津川の朱滝のミニチュア版とでも言えよう。小さいなりに魅力的な沢である。右岸側を巻いて上流へ。山芍薬の花も見ることができた。

ヤマシャクヤク


腕まくりした腕がむずむず。今年初めてマダニと対面。沢に面した笹の無い場所でもマダニの密度は高いようだ。段差の大きい区間を抜けるととても穏やかな渓相となる。


ツツジの咲く斜面を登って廃道に復帰。雨が振り出してしっとりとした巡視路をゆっくり戻った。

八方湖周辺にも白ヤシオの木がある。渓谷沿いの白ヤシオに較べると花付きは良いが若干小振り。


学校平は八重桜が満開でヤマツツジはまだ満開を迎えていない。下塩原矢板線沿いのヤマツツジがとても美しい。大入道の白ヤシオが満開になるのは来週かな。

山野・史跡探訪の備忘録