大倉川遡行その2・大滝訪問(2009年10月)

年月日: 2009年10月5日(月)

行程: 大倉川右岸沿い林道のゲート出発(標高約880m・06:22)〜入川地点(標高約960m・07:00)〜2008年退却ポイント(標高1,060m・08:11)〜巨岩群(標高約1,200m・09:19)〜大滝(標高約1,250m・09:44−10:15)〜入川地点復帰(13:04−13:35)〜資材運搬路分岐(標高約970m・13:55)〜資材運搬路終点(標高1,200m・14:42)〜石英鉱脈(標高1,300m・14:52)〜資材運搬路分岐に復帰(15:32)〜林道ゲート帰着(15:51)

関連記録: 2008-08-13 大倉川遡行その1

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大倉川は吾妻山系を代表する大渓谷であり攻略しがいのある場所と思われるのだが、沢屋にとっては遡行対象として魅力が乏しいらしく遡行記録が少ない。数少ない沢屋の記録を見ても、大滝を高巻き、小滝を見て感動し、谷地平経由で浄土平に抜けたことしか書かれていない。大滝に至るまでの渓相に関する情報がごっそり抜け落ちているのだ(というより、沢屋の記憶に残らなかったのかもしれない。)。大滝を見ることそのものを目的とする自分にとっては大滝までの行程そのものに関心がある。

5日(月)も福島はまあまあの天気予報。昼ごろには晴れ間が覗く可能性有り。昨年8月に時間の関係で途中退却した大倉川・大滝に再挑戦する機会到来。前回の様子見により、大倉川は大岩ゴロゴロのゴーロが連続しており、滝の高巻きこそないにせよ大滝への往復は難易度が極めて高いことを認識。渡渉、岩越えの繰り返しで、膝と足首の疲労度は中津川遡行よりも激しく、常に滑って骨折・捻挫したり頭を強打する怖れがあるため気が抜けない。自分が日帰りで大滝を拝める可能性があるのはまだ体力がある今のうち。今回は天候・体調・気力の全てが揃っている。

前夜中秋の名月が明るく輝いていたが、朝方はどんよりと曇っていた。木地小屋から市沢に向かうと路面が濡れている。明け方、吾妻地区では雨が降ったようだ。

林道ゲートが開いておりそのまま車で進入したい誘惑に駆られるが、万が一ゲートを閉められたら帰れなくなるので、昨年同様、ゲート前の駐車スペースに車を置いていく。曇っているので林道は暗い。廃鉱の事務所跡に達する前に雨が降り出した。大雨が降って増水する可能性はないし、谷奥の上空があまり暗くないのでそのまま進行。

林道終点から徐々に谷底に降下する途中、ブーンというハチの羽音を聞いたような気がした。スズメバチか?帰りは要注意だ。川原でアユタイツと沢靴に履き替え、ヘルメットを被って遡行開始。遡行中にだんだん雲がとれて空が明るくなってきた。順調に前回退却した地点まで到達。

うんざりする直進区間
前回退却地点


このポイントは直進できないので右岸側から巻く。ここからは大岩が連続し確実に体力を消耗する。渡渉可能な場所・大岩に這い上がれる場所を探して縫うように進まなければならないため進みが遅い。単純な遡行ならまだしも戻ってくることを考えると気が重い。

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大倉川の "Badlands"


渓谷のモミジ・カエデ類の紅葉は始まったばかりだが、きれいに色づいた樹木が散見される。10月中旬が見ごろであろう。


遡行に飽き、足首にも不安を感じるようになり、眼前に大岩群が現れるたびに引き返したくなった。今回を逃したら二度と挑戦する気にはならないだろうし、大滝の近くに達しているという実感に後押しされて遡行続行。

渓流の勾配が緩やかになり両岸が切り立ってきた。前方に左岸の崖から流れ落ちる滝が見えてくれば大滝まであと少し。左に回り込んだところに大滝が控える。

大滝手前の光景
大滝


落差は20m程度だろうか。斜瀑なので小滝のような轟音・迫力はなく優雅な感じ。飛沫も少ないので釜の畔でゆったりできる。大滝に約30分滞在する間、ずっと陽光があり、10分程度ではあったが青空も広がってくれた。前日の銚子ヶ滝に続き、本日もツイている。

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大滝は小滝直下から続く深い峡谷の末端に位置する。落ち口上流も両岸が切り立っていて、高巻きに懸垂下降を要するらしい。降りてしまったら引き返すことはできないのかもしれない。泳ぎも必要とのことなので小生のような中年オヤジが単独で行く場所ではない。

もうここに来ることはないと思う。滝を拝んで帰路につく。できれば大滝上のゴルジュを覗いてみたいと思っていたが、既に右足首に軽く痛みが出ていてそんな余裕無し。足元に集中していて、沢屋が高巻く右岸側の取り付きすら確認しなかった。

帰りは岸の踏み跡を部分的に拾うことで少し楽することができた。初めて遡行する沢屋が歩いてできた踏み跡とは思えない。この場所に来慣れている渓流釣りが複数名いるのであろう。最後に川原に下りることができるのであれば、踏み跡がなくても両岸の藪や分流を歩いた方が楽且つ安全であると思う。藪を歩いていて大規模なキノコの群生に遭遇。父に鑑定してもらうつもりでビニール袋にごっそり詰めて持ち帰った。父の鑑定によると猪苗代でオリメキと呼ぶキノコだった。子供の頃から名前は知っていたけれども、生えているのを見たのは10年近く前のことで忘れていた。大根おろしで美味しくいただきました。

大きなアクシデント無く入川地点に復帰。達成感よりも生還したことによる安堵の気持ちが勝る。もうすぐ50だ。筋力は余裕があっても関節が持たない。今後これ以上困難な沢歩きをすることはないと思う。

楽に遡行できないためであろう、マナーの悪い渓流釣り客の残したゴミは総じて少ない。大きいゴミは回収できなかったが、空き缶1個、ペットボトル2本とガン玉のビニール袋を回収。

林道終点に向かう途中で再びブーンという羽音がした。帽子を振り回しながらダッシュ。正体を確認してはいないが、近くにスズメバチ類の巣があるのかもしれない。

午後になって曇ってきたものの、まだ太陽がうっすらと見えてさわやかな雰囲気。沢の遡行時間・距離は長いのだが、6時間かけて標高差300mの登り下りをしたに過ぎず、しかも涼しいので汗をかかなかった。まだ時間的・体力的に余裕が有るので、資材運搬路を終点まで歩いてみることにする。

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大倉川上流を向いた図・左が資材運搬路


昨年、大堰堤から尾根の上に崩壊地があるのが見えた。尾根の上だけが崩壊するのは不自然なので、あそこが珪石採掘跡であろうと推測していた。若松営林署の立てた説明板に拠れば、資材運搬路は標高1,300mの尾根上の崩壊地の土留めと植生回復を目的として建設されたらしい。終点まで行けば石英の鉱脈が見られるかもしれない。

資材運搬路は予想外に眺めの良い場所があって退屈しない。清澄度が高ければ登山道歩くより楽しそう。

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大倉川渓谷、東吾妻山(右)、駕篭山稲荷(左)


資材運搬路の切り通しや法面の岩質は大倉川の川底に部分的に露出している深成岩と同じである。切り通しや法面に石英は確認できないが、しばらく登ると上方に崩壊地が見え、何やら真っ白なものが露出している。石英が大規模に露出している可能性が高い。終点付近でついに法面に石英鉱脈を確認。登ってきた甲斐があった。ザレた斜面を這い上がって見たのがこれ。標高960mの沢底にも標高1,300mの尾根上にも石英の鉱脈が走っている。


崩壊ガレ地から大堰堤を見下ろしてパチリ。一時見えていた安達太良山は残念ながら雲に隠れてしまった。

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滝見物と鉱山跡確認を果たして十二分に満足して帰着。案の定、ゲートは閉じられていた。迂闊に車で入り込まなくて良かった。

山野・史跡探訪の備忘録