クリスタルな丹沢・表尾根

(大倉〜三ノ塔〜ヤビツ峠〜大山〜下社〜大山寺〜参道麓)

年月日: 2010年2月14日(日)

行程: 大倉バス停出発(7:04)〜送電線鉄塔(7:44)〜舗装林道と交差・標高630m(8:18)〜三ノ塔(9:53-9:59)〜二ノ塔(10:15)〜富士見山荘(10:58)〜ヤビツ峠(11:20)〜大山山頂(12:21-12:37)〜下社(13:18)〜大山寺(13:36)〜参道麓(14:00)

父がメニエール病を患っていたからいつか自分にも来ると覚悟はしていたが、いざなってみるとその衝撃は予想をはるかに超えるものだった。動悸を伴なう強い回転性めまいで起き上がれないし吐き気で 物も食えん。この病で孤独死したり、ホームから転落死したり、交通事故死した人がいるのではなかろうか。とにかくめまいを止めないことには何も始まらんという訳で、フラフラと医療機関にたどり着き、点滴と薬の服用でほぼ1日後(発症して4日後)にようやく症状が止まった。今回の症状はメニエールの初回発作である可能性があるが、聴力検査の結果で右耳の低音の聴力に異常があるため医師はメニエール病とは断定していない。十数年前に突発性感音難聴になり一時聴覚を完全に失った際に右耳の低音の聴覚が回復しなかったため、現在の聴力を調べただけではいつ悪化したのか判らず、めまいの原因を特定できないからだ。

脳に何か異常があると言われるより、内耳の病であるメニエールの方が増しってもんだ。父親と同じで何度か発作を体験しながら徐々に聴力が失われていくだけのこと。80まで生きていたら俺も補聴器の世話になり、周囲からツンポ(私はこの言葉は差別用語だと思わない。)なんて言われるのだろうな。発症の原因として思い当たることがあるし、対処方法も判ったので、もう驚かない。来るなら来てみろやって感じ。糖尿病と同じで安静にしている必要はなく、むしろ体を動かした方が良いのだから山歩きには好都合である。とはいえ、疲労と睡眠不足が引き金になるので、不快なテント+寝袋では眠れない小生にとって単身テント担いで薮歩きすることはほぼ不可能となった。このようなスタイルの山歩きは体力のある40歳台までと決めていたので悔いはない。やりたいことはほぼやり尽くした。これからは中高年らしい普通の日帰り山歩きが主体となろう。

日曜日は朝から晴れてお出かけ日和の予報。なんとなく怪しいが、雪化粧したであろう丹沢の姿を見てみたくなって早朝出発。本厚木を通過する頃には徐々に空が明るくなり山々が見えてくるはずだが、何も見えん。きっと放射冷却で霧が発生しているのだろうと楽観視して渋沢へ。駅のホームに降りた途端、いつもと様子が違うのに気づいた。登山客の姿が多いのだ。大倉行き始発バスに並んだ位置も今までで最も後の方。案の定、出発時には超満員となった。雪山歩くのを楽しみにしている人がこんなにいるとはね。

雪山登山用具(といってもたいした物持ってないけど)は全部栃木に置いてある。大倉尾根は圧雪状態になっているだろうし、そもそも好きな尾根ではないので、塔ノ岳には行かない。軽アイゼンすら持ってないので鎖場は避けたい。という訳で、安全そうな三ノ塔に登って表尾根の歩き残した区間をヤビツ峠まで歩くつもりであった。

何名か三ノ塔に登る人がいるかなと思ったら、水無川を渡ったのは自分1人。他のバス乗客は全て塔ノ岳もしくは鍋割山に向ったってことだ。誰も居ないなんてラッキー。

水無川左岸から大倉を振り返る


三ノ塔尾根は勾配が緩やかでわずかなアップダウンが一度あるのみ。単調さでは隣のバカ尾根に匹敵する。案内がなくても適当に歩きやすそうな作業道を登っていくと自動的に登山道に行き着く。スギ林を登って舗装林道に出合い、舗装林道を少し歩いて登山道標示に従い再びスギ林の中を行く。うっすらと雪を被る様子は八溝山地の植林地帯を歩いているかの様。尾根先端にあった車の持ち主と思われる先行者1名の足跡があった。

三ノ塔尾根のスギ林


送電線鉄塔で確認した空模様は思わしくない。たまに青空が覗くことがある程度で今日は一日曇りらしい。雪景色が見られれば良しとして登り続行。

送電線鉄塔から見る大山


尾根の東側からワンワンと犬の吠え声が聞こえる。あんなに吠えて狩猟になるのかなと思っていたら、徐々にこちらに近づいてくる。尾根の東側奥からシカの一団が現れ一列になって西側に駆け下っていった。そして、暫くして猟犬が2匹後を追っていった。ほほう、ジュラシックパークみたいだな。単に追いかけっこしてるだけならシカに分がありそうだ。尾根の一方から追い立てて反対側にハンターが待ち構えているのだろう。でも尾根は広い。待ち構える場所にシカが降りてくるとは限らない。銃声を聞いたのは三ノ塔に着いてからのことだ。自分が目にしたシカだったかどうかは不明。その後、同じ母子と思われる2頭のシカと2度遭遇。こちらがじっとしていると、首を左右にずらして正体を確かめようとする。足尾でも体験したことがあったな。

標高630mでゲートで閉じられた舗装林道の交差点に出て、再び植林地帯を行く。勾配がきつくなり植林地帯を抜けたかと思ったのだが、勾配が緩くなるとまた植林地帯が続く。三ノ塔尾根は山頂まで眺望がほとんど得られないので、あとどれくらい登らなければならないのか見当がつかない。かろうじて塔ノ岳が見える場所があった。

塔ノ岳方面を望む


発作が収まってから初めての試運転。息が上がるとめまいがするような気がするし、汗をかきたくないので、何度も休み休み登る。塔ノ岳にガンガン登った場合より時間がかかった。山頂に至るまで遭ったのは下ってきた男性1名のみ。

本日は晴れる見込み無し。山々がすっきり見えているうちにさっさと尾根歩きして帰ろう。写真を撮っているうちにヤビツ峠方面からポツポツと登山者が現れるようになった。

三ノ塔からの眺め・箱根方面
三ノ塔からの眺め・塔ノ岳
三ノ塔からの眺め・大山


表尾根は樹氷に飾られていた。昨年同時期に高原山で見た樹氷には及ばないまでも、厚く氷に被われうっすらと雪が付いている状態。青空の下、陽に照らされたら美しいだろう。曇りなのが惜しまれるが、反面眩しくないし気温が低くて融けないので歩きやすい。本日は表尾根の樹木にとっては受難の日だったに違いない。氷で重たくなった枝が登山道に被さり、ジャラジャラと氷のシャンデリアを掻き分けながら進まなければならないため、枝の先端がポキポキ折れてしまうのだ。中にはバキッと折れてしまった枝もある。本日の表尾根を何と表現しようか。丹沢クリスタル?何かに響きが似てるな(大山下っているときに思い出した。あまりにくだらないので書かない。)。

樹氷・二ノ塔に向う途上にて


ヤビツ峠から登ってくる人の多いこと。菩提峠の駐車場まで自家用車で上がれるようだ。あの人達、皆塔ノ岳まで行ったのだろうか。よくやるねぇ。

二ノ塔の下り・ヤビツ峠方面


岳の台に回ろうと思っていたのに、地図を持たないもので分岐を見逃し富士見山荘まで下ってしまった。舗装道路はシャーベット状で歩きやすい。ヤビツ峠の駐車場は車で満杯。ということは、この人達、表尾根を往復する訳だ。ドロベチョグチョの時期より快適かもしれない。

柏木林道に近道する歩道は崩落のため通行止め。これは予め得ていた情報通り。少し大山方面に登って植林尾根の稜線をキープして降りれば問題ないはずだが、本日は雪を被った状態なのでバリやる気がしない。体の調子が良いし、岳の台を逃したので口直しに大山越えて伊勢原に下ることにする。

大山に登る途上で一時的に青空が覗いた。


大山山頂も表尾根と同じ状態。表尾根・大倉尾根とは逆に、いつもに較べて空いている。山頂の社もシャッターが閉じられたまま。山岳信仰の山にしてはちょっと気合足りないんじゃないか?


富士山が見える見晴台に行ってみたが、南側からガスが吹き上がって丹沢山地すら満足に見渡せない。

下りは圧雪状態でツルツル滑る。雪の量が少ないのでアイゼンつけている人は歩きにくそうだ。慎重にバランス取りながらトレラン連中も追い抜いて下社まで下山。

下社の登り口


下社に下ったのは地形図に書いてある長い階段を降りてみたかったから。麓まで男坂と女坂の2ルートあるとは知らなかった。現地案内によると女坂が安全でお薦めとのこと。大山寺に寄りたいので女坂を選択。地形図にある階段はこの女坂を指す。長い一本の階段ではなく、クネクネとした山道に階段が設けられている。標高が低いので雪が融けてバラバラと雫が下る中を歩いて大山寺到着。下社よりひっそりとした大山寺の方が風情があって良い。一見俗世間から離れた場所のように見えるが、実は寺後方に阿夫利隧道なるものがあって、林道終点になっている。寺関係者は麓と車で行き来しているに違いない。

傍らに植えられたミツマタの花が膨らみ始めていた。女坂の残りを下りきり、十数年ぶりにみやげ物屋が立ち並ぶ参道を下ってバス停到着。大きな公衆トイレがあるのだが、衣服を着替えようとしても荷物を置く場所も掛けるものも無い。改善が望まれる。

山野・史跡探訪の備忘録