大室山のヤマトリカブト鑑賞

西丹沢自然教室から白石峠〜大室山〜犬越路隧道周回

年月日: 2010年9月5日(日)

行程: 西丹沢自然教室(08:33)〜白石峠(10:39)〜加入道山(10:55)〜大室山(12:06)〜犬越路(13:00)〜犬越路林道支線に降下(13:36)〜犬越路隧道(13:49-14:10)〜西丹沢自然教室(15:38)

幼い頃からトリカブトは毒草だと言い聞かされて育ったので、子供の頃は山で鮮やかに咲くトリカブトを見ると気味悪く思ったものだ。世間一般のイメージもそうだろう。植物に興味を抱くようになって美しい花(特にキンポウゲ科)に毒があるのは当たり前という認識ができてからはトリカブトは好きな花の1つとなった。

トリカブトには幾つか種類があるようだが、一般に山で目にするトリカブトはヤマトリカブトが正式名称らしい。今年5月に大室山から加入道山方面に向かった際に、1543mポイントにて多数のヤマトリカブトの若芽を見た。もしあれが一斉に開花したとしたら見事なものであろう。普通、ヤマトリカブトは低山帯の半日陰で適度な湿り気のある場所に生育する。出身地の猪苗代なら山で普通に目にするし、栃木では沢沿いの崖から垂れ下がって咲くのを良く見かける。山の尾根筋にあるヤマトリカブトの群落は見たことがない。ひょっとして有名なのかもしれないと思いネットで調べてみると、植物愛好家の間では知られた存在のようである。開花は9月初旬からとのこと。今週末は通院で栃木に戻らないので、5日に西丹沢を再訪することにした。

山歩きする以上は、未訪の場所・ルートを組み合わせて新鮮な気分を保ちたい。先日、テントミータカ氏が奥鬼怒トンネルを歩いた記事を目にしたばかりであったので、犬越路隧道を歩く案が浮上。ネット情報に拠ると、犬越路林道は北側の荒廃が進行して現在は通行止めとなっており、南側(山北町側)も一般車が進入できないため、犬越路隧道はたまにサイクリング族が通るだけらしい。真っ直ぐなトンネルで反対側が見えているので歩くのに支障はなさそう。西丹沢自然教室から白石峠経由で大室山西南西のヤマトリカブト群生地を訪問し、犬越路に下って檜洞丸側に100m登ってから破線路を辿って尾根北側の林道支線に下り、犬越路隧道を通って西丹沢自然教室に戻る計画である。異様な暑さの中で山歩きするので、西丹沢自然教室に戻る前にぐしょぐしょの服を全て着替える必要がある。その意味で、一般登山者に遇う可能性が低い今回のコース設定は都合が良い。

夜中も気温が27℃以上あって早朝出発の爽やかさ無し。ここ数日乾燥した日が続いて秋の空気に変わりつつある実感があったのに、今朝は曇りで湿度も高い。ただ立っているだけで汗がにじむ。西丹沢自然教室も涼しさが感じられない。幾つかあるキャンプ地は全て家族連れで満杯状態で、朝8時台から水浴びする大勢の子供達の歓声が谷間に響き渡る。まだ盛夏の雰囲気だ。

白石峠に至るコースは沢沿いに進む。登山道から見る白石ノ滝は落差はありそうだが写真撮影には向かない。説明板に拠ると、大理石の滝とも呼ばれているという。登山道沿いに露出する白い石は確かに大理石っぽい。丹沢は太平洋の島が本州にぶつかって生じたので地質が複雑だ。大昔のサンゴ礁の成れの果ての大理石と溶岩と思しき隙間だらけの岩石が同じ沢筋に転がっている。地質の知識があればもっと楽しめるであろうに、残念。

沢沿いのルートは尾根ルートに較べればひんやりとしているはずだが、それでも暑くて発汗しまくって全身びしょぬれ状態。ズボンの裾をまくって汚い脛出して歩くなんて初めての経験だ。何度かきれいな水を汲んで水分を補給し、飲み水を節約。特に、木道が這わしてある場所にある湧水(最後の水場)は貴重だ。

源頭部の急登を経て白石峠に上がると、稜線上は風が東から西に吹き抜けて心地よい。この後は順調に歩を進める。

加入道山の尾根道


テンニンソウなんて何にもとりえのない植物という印象だが、シカは好んで食べるらしい。

シカ防護柵内のテンニンソウ群落


大室山山頂部に雲がかかっている。強い日射を受けずに済みそう。

大室山方面


1,543mポイントに向けて登っていくと矮小な笹原にシロヨメナが混じるようになる。この程度ならまだしも、上部ではシカが忌避するシロヨメナだらけで写真撮る気にもならん。

シロヨメナ


目的地では期待通りヤマトリカブトが咲いていた。一面を埋め尽くすほどではなく、まばらに広範囲に開花している。この場所にだけヤマトリカブトの群落があるのは、シカの存在により競合する植物が少ないことに加え、まとまった雨が降らなくても標高があって尾根幅の広い場所では霧による水分供給が得られるからであろう。大室山山頂部にもヤマトリカブトが存在するが、やや乾燥した場所であるため個体数は少ない。

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ヤマトリカブトをまじまじと観察したのは初めて。同じキンポウゲ科のレンゲショウマと実の形がそっくりである。

犬越路に下る尾根道ではシカ防護柵の中に鮮やかな赤い実が目立つ。甘みが少なく食べる対象ではない。

バライチゴの実
犬越路から見る檜洞丸方面


犬越路に下る際に犬越路林道への下降路がある尾根が見えた。植林地帯である。現在歩く登山者はほとんど居ないと思われるが、植林地であれば道が維持されているはず。その読み通り、道標の文字は消えてしまっているが道は明瞭で歩きやすい。

植林地に残されたブナの巨木(この近くに樹種不明の大木がもう一本在り。)


犬越路隧道から延びる林道に接続する場所に道標が設置されている。アクセスが不便な場所であり、林道も落石崩落で通行不能状態にあるため、辿るハイカーは少ない。


隧道内の状態は良好で、損壊した箇所はない。南側から勢い良く抜けていくひんやりした風が心地よい。

犬越路隧道北側(右が歩いてきた林道支線)
犬越路隧道南側(右に記念碑在り。)


事前に調査したウェブ情報では南側にある犬越路林道完成記念碑がガレに半分埋もれているとのことであったが、訪問時は周囲の石がきれいに取り除かれていた。心霊スポットなどと言われるような雰囲気はない。

営業していない最奥のキャンプ地近くで汗を拭き着替えを済まし、ゆっくり歩いて西丹沢自然教室帰着。ちょうど15:40分のバスに間に合った。

本日のコース上で遇った登山者は13名。其の他、途中のバス停留所で乗降する登山者の数は少なからず。くそ暑いのに登山者が多いのに驚く。西丹沢自然教室に戻る途上で走って追い抜いていった男女のペアなんか、そのままバスに乗り込み、たいして汗をかいている様に見えない。この時期に出歩いている人は汗腺の少ない人が多いようだ。

山野・史跡探訪の備忘録