仁田小屋尾根 〜 白石山(和名倉山)山頂 〜 二瀬尾根 〜 石津窪左岸尾根

年月日: 2011年10月8日(土)

行程: 三峰観光道路と大洞(新大洞林道)の分岐出発(06:25)〜荒沢橋(08:09)〜仁田小屋尾根取付き(08:30)〜仁田小屋(09:08)〜スギ植林の上限を抜ける・標高1,340m(09:36)〜1,555.0m三角点(10:07)〜1,780mポイント(11:06)〜白石山(和名倉山)山頂(11:49-12:05)〜二瀬分岐(時刻不明)〜軌道跡に降下(13:35)〜和名倉沢左岸尾根に入る(14:30頃)〜吊橋(15:42)〜車に帰着(16:17)

今年、烏ヶ森の住人さんとノラさんの記録で初めて白石山(秩父における呼称は和名倉山が一般的らしい。)の存在を知ったのを機にネットで検索してみると以下の情報が得られた。

@眺望悪し、
Aアプローチが長い、
B登山路らしきものはあるが整備されていない、
C戦後皆伐されて原生林が残っていない、
Dスズタケ薮濃い、
E伐採用のワイヤーや機械類の残骸多い、
F軌道跡在り

総合すると、眺めが悪いのは×だが、過去に人が関わった形跡が多く、登山者が少ない静かな山であるという点で自分好み。栃木県側から福島県の枯木山に登るのに似ている。@はさもありなん。標高は2,000mを超えるが、山頂部を含む尾根筋が全般的に幅広であり風衝地が無い。そもそも秩父は山並みを眺めて美しいと感じる場所ではないので眺望は期待していない。Aは長い尾根歩きが楽しめるということでもある。Bの理由は判らない。登山者の多くは地形図上に記されている南側から山頂に至る破線路を利用して山頂まで往復するらしい。尾根の形状を見る限り登山路整備するのが困難な場所であるとは到底思われない。@とAが原因で人気が無いので登山路が整備されないのだろう。破線路以外に、二瀬ダムから登る二瀬尾根ルート、大洞林道奥から登る仁田小屋尾根ルート、ヒルメシ尾根(川又)ルートがあるらしい。Cと同じことは明治以降(特に第二次世界大戦後)の日本において多くの場所で行われた。奥日光ですら伐採されなかった場所は無い。外貨が無い窮乏の時代、国内の豊かな森林資源に頼らざるを得なかった。白石山も戦後日本の復興を支えてくれた山の一つであったということだ。感謝せねばならんな。現在、森林がどう変遷しつつあるのかに大いに興味がある。DはおそらくCの影響が少なからずあるだろう。鬱蒼とした樹林帯では日照が不足して笹薮は濃くなれない。皆伐すると日当たりが良くなるので笹薮の勢いが増す。その後笹薮が維持されるかどうかは樹木の生長に依存する。この様子を見るのも楽しみ。E、Fは廃な雰囲気を醸し出していることだろう。私にとっては美味しいデザートのようなもの。

白石山を知って以降、周回ルートを検討してきた。日の短い秋でも、仁田小屋尾根ルートと二瀬尾根ルートをつないで日帰り周回できそうである。仁田小屋尾根は尾根幅が広くて末端部で勾配がきついため、明瞭な道が無いのであれば下りでは地図読み必須。安全策をとって仁田小屋尾根を登りで使用し、比較的ポピュラーな二瀬尾根ルートを下ることにする。そのまま尾根末端まで下っても良いが、ただ踏み跡だけ辿るのは少々味気ない。1,369.4mピークから東に派生する和名倉沢左岸尾根(石津窪左岸尾根)を辿って降下することは容易と思われる。8月に和名倉沢の大滝を見物に行った時にこの尾根の上に向う作業道を確認しているので、和名倉沢の大滝に向う道と組み合わせてちょっぴりではあるが地形図読みを楽しむことにする。

暗いうちに林道歩きして時間を稼ぎたかったのだが、それを可能とするためには平日の就寝時刻に出発しなければならない。なんとか睡眠時間4時間程度確保し、午前3時半頃に秩父へ向った。途中、コンビニやGSに寄ったので、現地到着は6時過ぎ。まあまあの空模様である。埼玉大山荘で山支度の準備中の登山者を見かけた。

林道を歩いていく間、終始雄大な大洞川渓谷が見えるのでさほど退屈はしないが、道程が長いので山登りの前に疲労してしまう。抜いていった車無し。大聖沢の先で相模ナンバーの自分と同じ型の古いフォレスターがあった。大聖沢と荒沢の間で大規模に土石が流出していた。デブリの様子を見た限りでは、つい最近(たぶん台風15号の影響で)発生したものと思われる。林道を歩いていく途中で遭った動物はヒミズ(モグラの一種)死体1匹、リス1匹、雌シカ1頭。

 
ヒミズ


大洞橋の先は未舗装で荒れ放題。土砂を乗越えながら尾根取り付きを探して進む。下の写真の場所(ウォッチ図に拠ると北緯35°52′52.4″、東経138°55′7.7″、標高870m)に獣道レベルの踏み跡がある。

ふれあいの森林の案内板
       


その先の砂防堰堤のある沢筋まで行ってみたが明瞭な登り口が見つからなかったので、1201ピークに登るつもりで写真の場所から植林地を登り始めた。どこから来るのか未確認だが、すぐに仕事道に出合い、しばらく植林地を登ると作業小屋に至る。鍵がかかっておらず、少なくとも2名は寝ることができそうだが、しばらく使用された形跡無し。

作業小屋
       


その先で道が不鮮明となった(不注意で見落としたのかも)。砂防堰堤のあった沢左岸の急な植林斜面を上っていくと防護ネットが在り、破れた箇所から内側に入ると再び明瞭な仕事道に復帰。防護ネットの扉を抜けて細い沢を右岸側に跨ぐと仁田小屋に至る。容易に近づけないこの場所にしては立派な作りの作業小屋である。

仁田小屋は埼玉県秩父農林振興センターの
森林巡視員事務所として設けられたもので、
登山者は利用できない。
背景は雲取山


標高1,350m付近まで大洞川流域最奥のスギ植林地であり、よく手入れされた美林である。 歩きやすいジグザグの作業道を利用して順調に高度を上げ、広葉樹林帯に入った。植林地を抜けても踏み跡は明瞭である。

若いブナ林の林床はほぼ死滅しかけたスズタケの薮。根元にたまに葉をみかけるのみで、いずれ消滅するだろう。スズタケ衰退の原因はシカによる食害でも開花・結実に拠る自然死でもない。皆伐地の樹林復活も一因と思われる。

クランクブナ
衰退するスズタケ群落


標高1500m付近の緩斜面では放置されたカラマツ植林地であり広葉樹が混じる。スズタケ薮の一角がベルトのように刈り払われてネットを被せられた広葉樹の苗木が植林されている。

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伐採前の原生林を想像させるミズナラの大木


林道歩きの疲れがボディーブローみたいに効いていて1555.0m三角点まで時間を要した。これから先は尾根道であり、山頂まで500mを切ったので元気復活。衰退したスズタケ薮の中につけられた明瞭な尾根道を歩いて順調に西進。所々、樹木の幹に青いネットが掛けられていた。

標高1,700m前後は丈の高い青々としたスズタケ薮が健在。つい数年前まではこのような光景が随所にみられたようだ。

画像
尾根筋に残るスズタケ藪


標高1,750mの肩に上がって以降は薮が無い。薮が無い分、どこでも歩けるので踏み跡は不鮮明となる。確か1,780ポイント辺りであったと思うが、至るところワイヤーがのたうっている。伐採の拠点の1つであったのであろう。


1,863ポイントから上方はカラマツ林とダケカンバ樹林の際を登っていく。

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芋木ノドッケ 〜 雲取山
大ダワの向こうにちょこんと頭を覗かせているのは鷹巣山らしい。


倒木だらけの汚いコメツガ樹林を抜けて白石山山頂到着。正午前に着くことができたので、道草しなければなんとか周回できそう。

白石山(和名倉山)山頂にて
       


登りではエネルギーを消費するため一貫してTシャツ一枚で快適であったが、山頂の気温は10℃を下回っていたみたいで昼食休憩中に手が少し悴んだ。

山頂付近が倒木だらけで歩きにくいため、山頂から直接二瀬尾根を目指すのは得策ではない。破線路は尾根中心部を通らず南側に少し下ってしまうのだが、二瀬分岐なるものがあるそうなのでしばらく破線路を利用することにした。白石山の名は近くの白岩山の如く石灰岩の存在を連想させるが、破線路上には白い石ではなくてチャートらしき小豆色の石が露出している。

二瀬分岐の標示はなかったものの、文字の消えた赤い標識のある分岐から北進。二瀬尾根ルートは尾根の西側を巻くようについている。標高1950m鞍部に下るまでのコメツガ林は苔の絨毯の中に踏み跡が明瞭。伐採された大木の切り株が苔むした様子はグリーンモンスターが何かを語りかけてくるようだ。白石山で最も美しい場所であると感じる。

画像


標高1950m鞍部から踏み跡は尾根東側を巻き、道筋が判りにくい場所がある。標高1900m付近で登ってきた一組の男女に遇った。この日山中で遇ったのは彼らのみ。彼らも私以外に遇っていないようだった。とすると朝方見た登山者はどこに行ったのか?自分よりも早く山頂に着いているはずだから、ヒルメシ尾根にでも下ったか?

標高1870mの肩から眺望が得られる。和名倉沢の木々が色付いているのが見えた。

左手前が三峯山、その右奥が妙法ヶ岳(三峯奥宮)、さらにその向こうが熊倉山の尾根、遠くに見えるのが武甲山
       


1,684mポイント前後は衰退したスズタケの薮が目立つ。踏み跡は1,639mポイント方向には向わず、鞍部から東側に一気に240m降下し、二瀬尾根東側斜面を水平に走る軌道跡を辿る。

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軌道跡


軌道跡にバス停みたいに東京大学の標識がポツンと立っていて、猫バスでも走ってきそうな雰囲気だ。和名倉沢左岸(石津窪左岸)尾根に入る前に高度計を合わせて方位を確かめるべく、1,369.4mピークに上がって三角点を探してウロウロ。1,369.4mピークは東半分が植林されたなだらかな場所で、三角点を見つけにくい。時間がもったいないので、三角点をあきらめ軌道跡(ニ瀬尾根コース)を横断して1,052mピークに向けて東進。

石津窪左岸尾根は植林された尾根で薮無し。
       


和名倉沢大滝に向かう山道を目指して一旦尾根を離脱して石津窪に下ってみたところ、1,052ピーク南の緩い植林斜面で作業道に出合った。作業道は緩やかに下りながら1,052m東の稜線に至るので、ずっと尾根伝いに下ってくるのが良いと思われる。稜線上の東京大学標識のある場所で作業道は稜線を離脱し、和名倉沢大滝に向う道との分岐に降りてくる。 後は一度経験済みの道で安心。

和名倉沢渡渉点
大洞川の吊り橋


吊橋で体を十分に休めてから三峰観光道路に向けて120m登って車に帰着。

山野・史跡探訪の備忘録