バラクチ尾根経由で雲取山(三ツ山〜雲取山〜芋木ノドッケ〜白岩山〜お清(経)平)

年月日:2011年10月14日(金)

行程: 雲取(大洞)林道・聖橋手前(06:33)〜バラクチ尾根取付き(06:58)〜山ノ神・標高1080m付近(07:32-07:40)〜1520mポイント(08:47)〜標高1560mで休憩(約10分)〜標高1650mで道草(約10分)〜三ツ山(10:29)〜登山道に降下(10:41)〜三条ダルミの登山道分岐(11:30)〜雲取山(11:55-12:10)〜雲取山荘(12:25)〜芋木ノドッケ(13:22)〜白岩山(13:35-13:45)〜白岩小屋(14:00-14:10)〜お清平(14:54)〜雲取林道に降下(15:44)〜車に帰着(16:12)

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公共交通機関を利用して雲取山付近の日帰り縦走をしてみたいのだが、トレランでもしない限り日の短い季節では少々無理がある。自家用車利用の尾根周回の可能性を検討していて最初に着目したのが、荒沢橋から三ツ山に突き上げる長大な尾根である。標高1,650m以上で尾根幅が広く笹マークも無く、秋に登ったら気持ち良さそうである。取付き部と1363mポイントにおいて尾根幅が狭く、岩稜もしくは潅木薮の存在が懸念されたので、ウェブ情報を調査。その結果、サイト:てんから庵の「漂泊の記」およびその他幾つかのレポで問題なく辿れることが判った。この尾根は昔からバラクチ尾根と呼ばれ、昭和初期に秩父をくまなく探査した原全教氏の記録によると、かつては甲州に抜ける旧大洞林道本線(峠道)として利用されていたようだ。バラクチの名の由来は不明。ハラクチ(腹がくちい。苦しいくらいお腹いっぱいという意味で、東北・関東で広く用いられている方言。)と同じか?和名倉山の尾根にヒルメシ尾根なんて名前がついているくらいだから、この解釈で正解かも。先日、下りに用いる尾根の様子を偵察したついでに雲取山まで往復して参考となるコースタイムも得られたので、紅葉のタイミングを計って実行に移す。14日からフリーバカンス(時期設定の自由度が高くまとめて取得できる年次休暇)を設定していたのだがあいにく一週間予報がパッとしない。初日の14日、秩父は午前中晴れで午後曇り夜に降雨との予報に賭けて決行。

早朝秩父に向うも、空気が汚く山並みが見えないので意気が上がらない。晴れているので陽光の下で紅葉を楽しめれば良しと考えて現地入り。大洞川流域奥部の空気は比較的清澄度が高く山並みがスッキリ見えるのでヤル気復活。朝方しか陽気が持たない怖れがあり、道の無い尾根の下りでできるだけ明るさを確保したいので、今回は奥まで車で入り、下山後に林道歩きする。

大聖沢手前の林業関係の施設がある道幅が広い場所に車を停めた。聖沢橋を渡り、流出土石を乗越えて程なく荒沢橋を渡りバラクチ尾根末端に到着。高度計を合わせて登り開始。

尾根末端部にはうっすらと踏み跡があり難なく辿れる。尾根幅の狭い場所は岩ゴツゴツではなく落葉樹が茂るごく普通の尾根である。

バラクチ尾根も和名倉山とほぼ同時期に皆伐の対象になったようで、木材搬出用のワイヤー類がまだ生々しい。


標高950m以上は若いブナ林が成長・淘汰の途上にある。


山の神は標高1080m付近に在る。昭和9年の建立であるが、やや乾燥した尾根であるためか保存状態が良い。ハラクチどころか長いことハラペコだったでしょ。ミニパンをお供えしご加護を願う。

バラクチ山の神


惣小屋谷に下る旧大洞林道支線の分岐は標高1250m辺りにあるはず。分岐の存在は認められなかったが、皆伐された尾根で唯一残された大木が近くに存在する。ワイヤーが巻きつけられたままでよく枯れずに生き延びたものだ。

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標高1250mから1560mまで、延々と死滅したスズタケのストロー薮の中の踏み跡を辿る。暑いので擦り傷覚悟で上半身はTシャツ一枚。時々腕にマダニがくっついてムズムズする。尾根幅の狭い1,363mポイントはスズタケのストローとアセビの混合薮である。

標高1560m以上は尾根幅が広がってスズタケのストロー薮がスパッと消えて、林床が丈の低いミヤコザサに移行する。ときおり風が吹いて落ち葉が舞う。標高1650m辺りは美しいミヤコザサ原で庭園風。尾根の西端はいくらか眺望も得られ、カエデの紅葉がきれいだ。


東仙波経由で白石山(和名倉山)に向う尾根、東仙波は左の1960m級ピークに隠れている。


標高1680mの起伏の緩やかな場所は原生林が残されており、植生的に足尾の小法師尾根奥部〜男山や庚申山〜オロ山の尾根の様子に似る。シカの生息数多し。深いミヤコザサの中にコメツガの倒木が数多く隠れていて足の繰り出しに慎重を要する。

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標高1760mの北北東に突き出る尾根に取り付いた。周囲の地形を把握できる点では良いが、アセビの薮が鬱陶しい。歩いたコース上の標高1650m以上でこの尾根の上だけ過去に伐採された形跡がある。

白石山(和名倉山)


最後の詰めは比較的楽。

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三ツ山の東隣のなだらかなピークに上がり、西側に少し下って開けた鞍部を通ってミヤコザサ斜面を登って三ツ山到着。

雲取山
白岩山と芋木ノドッケ
三ツ山三角点


南西が曇っていて、残念ながら本日も富士山は拝めない。西側の1980m級ピークの南側斜面が美しく紅葉していた。鞍部に戻り、斜面を斜めに下って登山道に至った。

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縦走路から見る三ツ山南西の1950mピーク。遠くに見えるのは大洞山(飛龍山)らしい。


広いカラマツ林の中の一本道を行く狼平の周辺を除いて、登山道は山梨県側(南斜面側)にある。終始、心地よい南風が吹いていた。歩き易い登山道で、順調に県境尾根を東進。

狼平付近のカラマツ林
1746mポイント


南西から急速に雲が迫ってきており、1826mピーク南を回り込む頃にはつい30分前に滞在していた三ツ山が翳ってしまった。

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サラサドウダンツツジの紅葉(三条の湯からの登山道分岐近く)


残念ながら雲取山に向けて登っている途中でついに雲の領域に追いつかれた。一気に暗くなるのではなく、太陽が見え隠れする状態なので、雰囲気はさほど悪くない。山頂部には白石山(和名倉山)同様、小豆色の岩石が目立つ。ウェブで検索した限りではチャートであるらしい。

山頂は無人。紅葉の時期に雲取山登って誰一人遇わないなんて。平日だし、明日は雨の予報だから本日山小屋泊まりの人はいないのだろう。日帰りの人がいたとしてもとっくに下山したと思われる。

小雲取山方面
山頂のサラサドウダンツツジ


雲取山以降は前回訪問時の記録(2011/10/02)に記載していない事項のみ記す。

山頂から大ダワ経由して芋木ノドッケに向う途上、東京都側の斜面のコメツガ林に点在するカエデ類の紅葉が美しい。

時間的に余裕がありそうなので芋木ノドッケに登ってみた。長沢背稜の道はあまり踏まれていない。芋木ノドッケと白岩山の間はほとんど歩く人がいないようで、道は整備されておらず不鮮明な場所すらある。

白岩小屋はボロボロで隙間風が吹き込む。現在使用する者はいないのだろう。2009年のカレンダーが貼ってあった。廃止された三峰山ロープウェイの時刻表が時代を感じさせる。

道草しすぎて、お清平に到着したのが午後3時近く。時間に余裕が無くなったので休憩せずに尾根下り開始。お清(経)平から標高を維持して大洞川側斜面を横切る。スズタケのストロー薮があるのは最初の100m程度で、その後はすっきりした広葉樹林を1547mポイントの西尾根(樽沢左岸尾根)稜線まで移動。尾根は単純で薮無し。標高1150mまで尾根筋を下ってから南西方向に尾根を離脱し、標高1100m付近でスギ植林地に入る。しばらく間伐材を跨いで下るとやや不明瞭な水平の作業道に出合うので、これを樽沢方向に辿って作業道の本線に至る。後は尾根末端まで樽沢側斜面のジグザグの作業道本線を辿って下ることができる。

作業道を見つけられないと延々と間伐材跨ぎをすることになるので、危険且つ時間がかかる。この斜面をシカが何の苦も無くピョンピョン跳ねて下っていった。彼らは躓いて骨折したりしないのだろうか。


作業小屋のある尾根末端に無事降下。


ヤマレコのほぼ同じコースの周回記録は「超バリルート」と称している。決して一般登山者向きの場所ではないが、読図能力を有し藪尾根歩きに慣れている者にとっては比較的歩きやすい場所である。

山野・史跡探訪の備忘録