奥武蔵ハイキングその9 (上名栗から大持山〜鳥首峠〜橋小屋の頭〜蕨山周回)

年月日: 2012年4月1日(日)

行程: 林道・山中線の水汲み場手前・標高440m出発(06:18)〜林道・横倉線に入る(06:30)〜林道終点(06:51)〜ウノタワに向かう登山道と別れる(06:59)〜最奥の炭焼き窯跡・標高約950m(07:30)〜大持分岐(08:13)〜大持山(08:20-08:30)〜ウノタワ(08:53-09:00)〜白岩石灰岩採石場上部に立ち寄り(09:30)〜登山道復帰・1059mポイント(09:48)〜鳥首峠(09:58)〜橋小屋の頭(10:58)〜蕨山・名郷分岐(11:22)〜(顔洗い・着替え約10分)〜林道・蕨入線終点(12:15)〜車に帰着(13:05)

今回の山歩きの主目的は武甲山〜日向沢ノ頭間の破線路歩きを完結させること。大持(妻坂)分岐から有間山・橋小屋の頭の間を歩き残しているので、名郷のどこかに車を置いて周回することになる。周回エリアには@地質:白岩地区の石灰岩層、A峠:鳥首峠を経由した秩父・浦山と名郷間の交流の歴史、B廃村:白岩および山中の集落跡等、自分の嗜好に合う要素が揃っているのだが、いずれもウェブ上で情報が得られる。せっかく行くからにはウェブ上に無いことを探ってみたい。

@地質に関すること: 昨年、小持山から大持山に向かう途上の小ピークで霜降り牛肉のような紅い岩石を採取した。その後、荒川の河原で同じ岩石を見つけて、紅簾石片岩なる鉱物らしきことを知った。太古の深い海底に降り積もった放散虫の死骸が堆積岩化したものがチャートで、マンガンを多く含む場合赤色チャートとなる。赤石チャートは秩父の広範囲で(少なくとも自分の知る限り白石山(和名倉山)や雲取山で)見ることができる。紅簾石片岩は赤色チャートが低温高圧下で変成してできる鉱物であるから、赤色チャートの分布域に近い場所に存在しても不思議ではない(2017/08/20 加筆。 赤色チャートの赤色は二酸化鉄の色。一方、紅簾石片岩の紅色はケイ酸マンガンの色。マンガン成分を含むチャートが変性してケイ酸マンガンとなることで肉紅色となるらしい。)。しかし、これまで大持山周辺で紅簾石片岩があることを示す情報がないし、紅簾石片岩の正式なサンプルを見たことがないため、昨年採取した岩石が果たして紅簾石片岩なのか否か確信が持てない。大持分岐の東に開く谷の源頭部が岩場になっているので、谷を詰めればこの辺りの地質を観察できそうである。よって、妻坂峠には上がらずに谷を遡行することにする。谷が東を向いているため、晴れていれば抜けるような青空を見上げながら朝日に照らされた明るい谷を気持ちよく遡行できそうである。

A植生に関すること: 大持分岐の東に開く谷の奥は植林されていない。比較的勾配の緩い場所があるので、沢沿いや源頭部の斜面林を好み植物群を観察することができるかもしれないと期待した。また、縦走の途中で白岩の石灰岩採掘場の上部に下って、石灰岩地域ならではの植生があるのか否か確かめてみたい。


<さいたま市南区〜上名郷の出発点>

県道15号線で川越、日高を経由して飯能に至り、武蔵台を突っ切って入間川沿いの道に入り、名郷まで順調に移動。名郷川沿いは梅の木が満開。

山伏峠に向かう道と別れて県道73号線に入ると途端に道が狭くなる。たまたま石灰石関連の大型ダンプとバッタリ。この奥にあった集落(白岩、山中)はいずれも廃村で現在は地名のみが残る。白岩地区の現役の石灰岩採石場に向かう道が主で、山中(妻坂峠方面)に向かう林道・山中線に入るとさらに道が狭くなる。

現地には山中地区を示す表示もウノタワ方面を示す案内も無い。地形図にはウノタワ方面に向かう車道しか記載されていないが、実際には林道・山中線からウノタワ方面に向かう林道・横倉線が分岐している。誤って林道・山中線をそのまま進行。スギ植林地の中の狭い道をどんどん高度を上げて終点(妻坂峠に向かう登山道入り口)に達した。先客がちょうど出発の支度をしているところであった。終点は狭く、先客の車が1台あるだけでも方向転換がきびしい。ここに車で来るのはやめた方が良い。

適切な駐車地を見つけるべく、一旦林道・山中線の起点まで戻った。最適と思われた場所は、よく見るとキャンプ場大鳩園の所有地で有料と表示されている。沢沿いの狭いスペースまで地権者がいるというのが俺には理解できん。こんな場所まで料金徴収に来るとは思えないが、トラブルは御免なのでその反対側の退避スペースに車を置いた。


<駐車地〜大持分岐〜大持山>

水汲み場を過ぎてS字を描いて高度を上げて林道・横倉線に入った。山中集落が廃村になったのは近年のことではなく、家屋は残っていない(参考: http://www.aikis.or.jp/~kage-kan/11.Saitama/Naguri_Yamanaka.html)。横倉入沢は峠道ではないはずだが、林道沿いに大正時代建立の道祖猿田彦大神の碑在り。

程好く冷え込み無風快晴。期待した通り谷は朝陽を浴びて明るい。順調に林道終点に達した。終点は広く駐車可能。途中大きな落石は無く、終点まで普通の乗用車で来ることは可能と思われる。

林道・横倉線終点(06:51)


利用者は少なそうだが沢沿いの登山道を見失うことはない。ウノタワに向かう登山道と別れて道の無い横倉入沢の奥に向かう。高度計を合わせていなかったことに気づいてこの場で合わせた(結果的に高度を合わせ違っていたので、その後の記憶と標高の突合せが不正確。)。

ウノタワに向かう登山道との別れ(06:59)


横倉入沢は水量少なく、遡行の障害となるような藪が一切無いスッキリした谷である。イワナ釣りや山菜採りの対象となる谷ではないし、登山ルートでもないのに、断続的に不明瞭な踏跡らしきものが存在し、所々ケルンが積まれている。

谷底にででんと鎮座するとてつもなく巨大な岩の上流側は広々としている。日当たりが良い斜面林の早春の草花(洋風の響きが好きな人はスプリング・エフェメラルと言う。)の芽吹きを期待してきたのだが、残念ながら何かの(トリシズカ、フタリシズカ、テンニンソウの類)若芽が頭を出しているのみ。

沢底に紅い石(赤チャート)が多数存在する。雲取山の赤チャートの如く全く変成していないものもあれば、小持山近くで採取した石と同様に変成して石英に似た組成の石もある(放散虫の死骸は二酸化ケイ素主体であるため、変成すると石英に似た石となる。)。「片岩」には該当しないかもしれないが、少なくとも赤チャートが変成してできた石であることが確認できて満足。きれいなサンプルを一つ持ちかえった。

赤チャートが変成した石


沢奥の左岸側に飛び地的に小さな植林があり、その下部にやや大きめの炭焼き窯の跡が残されている。不明瞭な踏み跡はかつての炭焼きの道であるらしい。さらにその奥、標高900m付近にも小さな炭焼き窯が残る。

沢奥の雰囲気(07:28)
最奥の炭焼き窯跡(08:30)


標高1,000mの辺りで沢が二つに分かれる。左俣はやや深く切れ込んでいてその奥を上り詰めるのは難しそう。右俣は入り口の勾配がきつくて直登できない。中央の小尾根の樹木に掴まって右俣入り口を突破。上部は剥がれ落ちてきた片岩が敷き詰められた斜度30度以上ありそうな不安定な場所が数十m続く。左側の小尾根上方にヒノキ植林が見えてきたので大持分岐が近いことを知る。ヒノキ植林の中を100mほど登って最後に岩場を回り込み稜線上に出た。

稜線上には右側から登ってくるきれいな道があった。大持分岐の南側に上がったとばかり思っていたので、勾配が逆であることに戸惑い、大持分岐の若干妻坂峠寄りの場所に居ることを瞬時には理解できなかった。

大持(妻坂)分岐(08:13)


せっかくここまで来たのであるから大持山まで行って休憩。休憩中に妻坂峠方面から登った男性1名がご到着。話の感じでは、今朝妻坂峠登山口で見た八王子ナンバーの人達は既に武甲山方面に向かったか、もしくは武川岳方面に向かったようであった。

大持山(武甲山方面) (08:20)



<大持分岐〜鳥首峠>

大持山〜1059mポイントの間の尾根は尾根幅が広めで歩きやすく、眺めも雰囲気も良い。

ウノタワ(鵜の田)の凹地の景観は特異的だ。樹木が生えていない。人工的に景観が維持されているのではなさそう。夏場の写真を見ても草本類が繁茂する様子は窺えない。ウノタワを突っ切って横倉入沢側に行くとウノタワの謂れに関する説明板がある。

ウノタワ (08:53)


今回の山歩きの目的地の一つである白岩の石灰岩採掘場は縦走する尾根から数十m下らなければならない。予定通りにピークから植林尾根を東に下り^るが、100m程度下ってもそれらしき場所に至る様子がない。改めて地形図を見て、1059mポイントから下るべきところをその手前の1130mピークから下ったことに気づいた。登り直すのはバカバカしいので、標高をほぼ維持してスギ植林斜面を移動して石灰岩採掘場の上に出た。

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蕨山方面 (09:34)


石灰岩採石場の上部にも岩場が存在するが石灰岩ではなく、周囲はごく普通のスギ植林斜面で、特異な植物群は存在しない。眺めもたいして良くない。石灰岩は尾根の南側斜面の中腹に乗っかっているようなので、石灰岩地帯特有の植物を見たければその下を探るのが良いと思われる。

石灰岩を採掘している尾根の上には「安曇幹線329号に至る」と書かれた黄色の巡視路標柱があった。巡視路は消えて無くなっているので、石灰岩採掘が行われるようになって以降、巡視路が変更されたようだ。

1059mポイントで登山道に復帰。単純に尾根を下って鳥首峠到着。かつて秩父・飯能間の物資および人的交流を支えた峠道はハイキングの周回バリエーションの一部としてかろうじて姿をとどめている。


<鳥首峠〜橋小屋の頭>

鳥首峠の南側は尾根幅が狭く、秩父線鉄塔に上がるまでの勾配がややきつく、トラロープにすがる場所もある。たぶん白岩から鳥首峠に上がったと思われる1名分の足跡があった。

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白岩石灰岩採掘場・秩父線鉄塔から (10:00)


滝入の頭(1070.9m)の北側から橋小屋の頭(1163m)の手前まで1q以上に渡り、浦山広葉樹の森再生事業と称して秩父側斜面が全て伐採され、周囲をネットで囲んでいる。おかげ様で秩父側の眺めは遮るものがない。

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長沢背稜と秩父側の尾根 (10:21)



<橋小屋の頭〜駐車地>

秩父市境界の破線路歩きが完結。単独行の女性が到着するのを待って入れ替わりに蕨山方面に下山開始。名郷から蕨山に上がってくる登山道は痩せた岩ゴツゴツの稜線上にあって歩きにくいが、利用する人は少なくないようで、3パーティ(感じの良いお父さんと男の子、常識わきまえてなさそうな若い男1名と女4名、単独の女性1名)が登ってきた。

登山道は尾根から離脱して植林地を下る。勾配がきついが、階段が整備されている。沢合流点で顔洗いと気替えを済ましてから林道・蕨入線終点に下った。

名郷バス停を経て駐車地に戻るまでの間は全て植林地なので見るべきものは特に無し。キャンプ場大鳩園近くの日当たりの良い山肌にエイザンスミレ(だと思う)が咲いていた。

エイザンスミレ (12:41)


山野・史跡探訪の備忘録