白倉山〜桃ノ木峠〜日留賀岳周回

年月日: 2012年4月15日(日)

行程: 善知鳥(ウトウ)沢沿い林道のゲート約200m?手前出発(06:25)〜林道終点(06:57)〜尾根上到達(08:57)〜白倉山(09:09)〜桃ノ木峠(11:14-11:30)〜1471.8mピーク(12:07)〜日留賀岳北稜線(14:08)〜日留賀岳(14:23-14:30)〜シラン沢林道終点(16:22)〜シラン沢林道起点・顔洗い(17:05-17:20)〜車に帰着(17:38)

白倉山の北側稜線は烏ヶ森の住人さんが無雪期に歩かれた実績がある(向山からの縦走・2004年11月と三島街道の帰り・2007年5月の2回)。白倉山北側尾根は基本的にチシマザサの藪尾根で針葉樹がほとんど存在しない。残雪期はブナ林が美しいであろう。桃ノ木峠から日留賀岳に至る尾根は超一級の藪尾根で二度と無雪期に辿る気になれない場所だが、残雪期は雪庇が発達するに違いない。汚れのない真っ白な稜線を歩いてみたいと思い、2008年に白倉山〜桃ノ木峠〜日留賀岳の周回を計画したのであるが、天候が悪く中止。その後、良いタイミングが得られず半分あきらめかけていた。

この周回の成否は標高が比較的低い白倉山側の雪の状態に大きく依存する。朝方の眺望と登り易さの点では日留賀岳から左回りする方が良い。しかし、雪の緩みが少ないうちに白倉山尾根を快適に歩くために、敢えて登り難い白倉山から右回りする。先週高原山に登って周回コースを遠望して残雪量を把握した。1週間暖かい日が続いて雪が減り、今週がラストチャンスであろう。

4月15日の栃木県北部の天気予報は曇り時々晴れであるが、会津は快晴の予報である。天気図を見て弱い高気圧下で塩原も微風快晴になると読んだ。あとは冷え込み次第。できるだけ早く雲が取れてくれれば放射冷却が期待できる。土曜深夜のアメダスの情報では土呂部の気温が順調に下がり既に上空が晴れていると思われたが、その他の地域はなかなか温度が下がらない。気温減率(0.6℃/100m)があっても山上で氷点下にならない計算だ。雪の締りが全く期待できないため、最悪は白倉山で退却することも想定して臨む。


さいたま市〜現地

朝3時半前に出発。埼玉県では予想より早く雲がとれて既に月が照っていた。塩原も朝日が当たる前に少しは雪が冷えてくれるだろう。土曜夜まで雨が降り気温も高かったが、晴れて平野部でも少しは放射冷却があるみたいで広く霧が発生していた。

塩原に来たのは久しぶり。関谷と塩原温泉の間に昨年長いトンネル(がま石トンネル)が開通したのを知らなかった。今年はさらに第二トンネルが着工するのだそうな。渓谷沿いのくねくね道を走らなくて済む反面、運転しながら塩原の渓谷美を眺めることはできなくなるわけだ。

予想通り塩原は快晴。しかし冷え込みはなく白戸集落付近でも気温は2℃。標高1,000m以下では氷点下にならなかったことになる。

以前利用した善知鳥(ウトウ)沢林道のゲート前広場が岩屑置き場になってしまい駐車できない。ならばシラン沢林道起点に車を置こうと、ゲート奥に進入。転落したら確実にあの世逝きとなる区間がしばらく続くので緊張する。今年は林道法面の土砂崩落が激しく途中で行き止まりとなっていた。しかたなく怖々方向転換して戻り、ゲートの200m程度手前のスペースから出発。


駐車地〜白倉山

林道行き止まりに宇都宮ナンバーの釣り人の車が1台在り。2人組で「うとうさわ橋」の手前で餌釣りしていた。

2007年に三島街道に上がったときは林道終点広場から続く山仕事用の踏み跡を辿った。今回はこの踏み跡は使用せず、ウトウ沢川と、「うとうさわ橋」手前で合流する支沢の中間に飛び出た尾根を辿る。取り付きはヒノキ植林地でスズタケの藪がうるさい。尾根の形が明瞭になると少なくとも標高870mまでは楽に辿れる。

約100mの急登区間を抜けて再び緩やかなきれいな尾根筋を辿って、標高1,000mで三島街道跡に到達。この辺りは往時の道型がきれいに残されている。

三島街道(塩原街道)跡・標高約1,000m (07:29)


三島街道より上部は、標高差350m以上にわたりほぼ一定の勾配できつい登りが続く。落葉広葉樹と丈の低いミヤコザサの組み合わせのすっきりした斜面で藪無し。ただ佇むだけなら自分好みの場所だが、傾斜がきつくて足の踏ん張りが効かないし、掴むものも少ないし、背後から直射日光を浴びて暑い。このきつさは想定していなかった。ビバーク装備や雪山用の装備が重いのでバテてしまいそうだ。

標高1200mを過ぎると雪が中途半端に残っている。既に朝日を2時間近く浴びて表面が緩みだしており、厚みの足りないところでは雪が崩れて笹で滑る。数年振りに軽アイゼンを装着した(装着時に部分的に劣化していたラバーベルトが切れたが、幸い使用上は問題なかった。劣化するものはシーズン前にメンテしておかないといけないな。)。以降はたまに踏み抜けが発生するものの、雪の有無に関係なく順調に登っていけた。

善知鳥(ウトウ)沢沿いは大正年間に無秩序に広範囲に濫伐されて荒廃した歴史を持つ。古い大木の痕跡が点在するが、現役の大木は存在しないので原生林はほとんど残されていないと思われる。もっとも勾配のきつい中間部は復活途上の落葉広葉樹林で、尾根上に近づくと植樹して放置されたカラマツと広葉樹の混交林となる。

登っている間も気温が上がり雪の緩みが進行する。尾根上部に近づいて太陽光線と雪表面の成す角度が小さくなり、沈み込みがやや少なくなった。白倉山北側のピークに到達。尾根上は予想していた通りの美しいブナ林である。とくに人の手が入った形跡のない三依側の雰囲気がよろしい。芽吹き前の樹木越しに奥日光、会津駒ヶ岳、七ヶ岳が見える。

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北側から望む白倉山 (09:00)


重い荷物を置いて白倉山まで往復。鞍部の雪庇上や樹木の梢には昨日の湿った雪が付いていた。無雪期の白倉山山頂は眺望無くチシマザサの藪漕ぎのイメージしかない山だが、残雪期は奥日光方面の眺望が開ける。また、少し北側に移動すれば日留賀岳と高原山の眺めも良好。

白倉山山頂 (09:09)
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白倉山から見る日留賀岳方面 (09:12)



白倉山〜桃ノ木峠

尾根上を歩いた感触で少なくとも桃ノ木峠までは行けることを確信。重い荷を担ぐと沈み込みが大きいためアルミワカンを装着した。2年振りで装着の要領を得ず、何度かやり直して時間を食う。

残雪が深いのは稜線部のみであって、標高1400m級の尾根であっても三依側の斜面では雪が消えている場所有り。シカの群れが逃げて行った。

標高が1300m以下の桃ノ木峠付近ではさらに雪が少ない。アルミワカンをいちいち装着し直すのは時間の無駄なので、雪が断続する1304mポイント西側のピーク稜線および1304mピークから桃ノ木峠に向けて下る斜面では、ワカンの大きな爪が損傷しないようつま先立ちで慎重に抜けた。

桃ノ木峠 (11:17)


南北に突き抜ける峠は明るい。善知鳥沢が険相であるが故に峠道としての存在には疑問符が付くが、峠だけに限定すれば魅力的な場所と思う。


桃ノ木峠〜日留賀岳

1304mピークから下るときに見た前面1471.8m ピークは存在感があり、立ちはだかる巨大な壁のようだ。明瞭な尾根筋が無く、初めて見たら気が萎えてしまいそう。2007年に無雪期に登った実績があるので自信を持って登っていった。雪が切れていたのは2箇所のみで、登りは概ね順調。山頂のMWVプレートの針金が幹に食い込んでいたので、写真撮影後に別の若い樹木に移した。

1471.8m ピーク (12:07)


既に正午を回ってしまった。アルミワカンで一歩一歩踏み締めながら進む状況なので時間がかかるのは仕方ない。順調に行って日留賀岳到着は午後2時を過ぎるだろう。下山に3時間要するとすれば、やり直している余裕はない。慎重に確実に歩を進める。

東側鞍部への下りは標高1400m以上でも雪が切れている。鞍部の北側斜面が疎林で、無雪期であっても横川の放牧場や家老岳が良く見える場所だ。会津の空が澄み、飯豊連峰がはっきり見える。家老岳の左背後には飯豊連峰よりさらに遠い山々がぼんやりと見えていた。

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飯豊連峰 (12:16)


雪庇の具合はあまり良くない。大きく安定した雪庇が形成されているのは全体の1/4程度で、その他の区間は発達が不十分で且つ南側斜面に少しずり落ちている。地形図の等高線の間隔は稜線の南と北で差が無いように見えるが、明らかに雪庇が張り出す南側の斜面の方が危険だ。雪庇がずれて稜線のチシマザサが露出した場所は北側を回り込む必要がある。北側斜面の雪は締りがなく、コメツガの樹陰では凍っている場所とガサガサに踏み抜ける場所が入り混じる。この尾根は無雪期も残雪期も楽ではない。

おそらく標高1600m地点であったと思うが、大きな雪庇上で眺望が優れる場所があった。三島街道(塩原街道)跡が部分的に白く浮き出ている。山々はまだくっきり見えているものの、徐々に雲が増えつつあった。

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白倉山の尾根 (12:46)


標高1600m以上の雪庇の状態はまずまず。1660m級小ピークが唯一の気がかり。

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日留賀岳北稜線に向かう尾根 (12:48)


狭い稜線上に鎮座するコメツガの枝を躱して上がった1660m級小ピークは掴まるもののない雪の塊と化していた。段差が大きすぎて飛び降りるのは無理。北側斜面に下り、樹木の枝にすがって段を突破。

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難所・1660m級小ピークを振り返る (13:55)


日留賀岳北側稜線まで残り200m。無雪期はヤマグルマとハイマツの藪地獄で、地面に足を着くことができず枝渡りでハードル越えの連続となる。雪庇が形成されず、南側寄りは雪が深く掴まる物が無い。新雪が厚く積もってアルミワカンの爪が下の古い雪に掛からない。滑ったら停まらないだろう。藪の上部1m程度が雪上に出ている尾根の北側寄りを登った。

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男鹿山地 (14:09)


大長山から大佐飛山に向かう際に美しく見える日留賀岳北稜線は、周回コース中最も危険で歩きにくい。ここも雪庇が形成されない。尾根幅が広い場所は踏み抜け易い。尾根幅が狭い場所は稜線西側の新雪と東側の古い雪の境目を歩くことになる。小蛇尾川側斜面に高い樹木が存在しないため、強風に煽られて東に滑落すれば確実に死に至る。残雪期に悪条件下で日留賀岳を経由して鹿又岳に向かうのは賢明な選択ではない。

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鹿又岳に続く日留賀岳北稜線 (12:23)


日留賀岳がすぐ目の前に見えているのに進みが遅い。やっとたどり着いた山頂に本日人が訪れた形跡無し。


日留賀岳〜駐車地

眺めの良いうちに到着することはできたが、下り3時間の行程を残しており、アスナロ樹林が歩きにくいことが想定されるのでちと気が重い。腹ごしらえしてさっさと下山開始。期待していた他者の足跡は無くても、過去二回の夏道の経験と地形図でルートに不安は無い。

残雪で塩那道路のショートカットが浮き出ていた。かつて塩那道路を使用した周回を計画したことがあり(未実施)、その時ショートカットの候補地としていたまさにその場所に道があったとは。MTB押して歩いたときには気づかなかった。

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塩那道路のショートカット (14:35)


日留賀岳南稜線の雪庇の発達は素晴らしい。下っていくうちに一人分の古い足跡がかすかに認められるようになった(ウェブで調べた結果、4月12日の登山者のものであることが判った。)。

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日留賀岳(下山時) (14:39)


標高1750mから1622mポイントを経由する尾根の下りも雪の状態がまあまあ。この辺りの夏道は尾根の北西側斜面にあって眺望無く退屈な区間だが、雪が締まっていれば快適であろう。

鳥居のあるアスナロ樹林は踏み抜け多くやや苦戦。稜線の雪が断続的となる標高1400m付近でアルミワカンを外し、濡れた登山靴からスパイク長靴に履き替え、以降は夏道を順調に下山。シラン沢林道終点に無事抜けて初めて達成感が得られた。

シラン沢林道をゆっくり下る間、高原山と眼下に見える白戸の耕作地を眺めて登山の余韻に浸れる。カモシカ一頭とサルの群れに出遭った。

善知鳥沢一帯ではマンサクの花を見ない。林道沿いの数多くのダンコウバイの木が満開。ここのダンコウバイは他所に較べて花が少し大きい。シラン沢林道起点の擁壁からとうとうと流れ出る水で顔洗いを済まして車に帰着。

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シラン沢林道から見る高原山 (16:50)
ダンコウバイ (17:04)


山野・史跡探訪の備忘録