浦山ダムから大久保谷を周回(栗山〜大平山〜七跳山〜坊主山〜矢岳)

年月日: 2012年5月5日(土)

行程: バス停:栗山入口近くから出発(06:57)〜栗山尾根北端取付き(07:10)〜新秩父線鉄塔(07:32)〜栗山・標高813.9m(08:04)〜山ノ神・標高約950m(08:26)〜1145m地点(09:05)〜標高約1400m地点(10:01)〜大平山・標高1603.0m(10:39)〜七跳山・昼食休憩(11:15-11:25)〜坊主山(11:59)〜牛首(12:16)〜1568m地点(12:33)〜1448m地点(13:30)〜矢岳三角点・標高1357.9m(13:56)〜標高1050mで尾根離脱(14:55)〜林道出合い(15:33)〜荻の久保トンネル(15:50)〜車に帰着(16:25)

秩父の山域には今のところ特別な思い入れや憧れはない。地質に特徴があり史跡も多いが、植生的にたいして特徴がないのが物足りない。現住所に近いから行くのであって、埼玉県に越してこなかったら一生歩くことはなかったと思う。秩父の魅力を強いて挙げるとしたら、そこそこ奥深くて高くて険しいということ。つまり尾根歩きを楽しめるということだ。

最初は秩父側から長沢背稜にアクセスするルートを検討していた。自家用車を使う以上、秩父側から長沢背稜に上がって再び秩父側に下れば必然的に周回ルートとなる。安全に且つ快適に登下降する場所を選ぶと、秩父側に長く伸びた尾根を歩く距離が長くなり、日程的に谷(沢)の両岸尾根を周回することになる。どうせなら長沢背稜から秩父側に伸びる尾根を全部歩いてみたい。これを繰り返すと自動的にやや退屈な長沢背稜を細切れでムダ無く踏破したことになる。いつの間にか秩父の尾根歩きルートの検討が主となった。

秩父は首都圏に近いがために昔から隅々まで踏査され尽くし、事前検討する気になればウェブ上でわんさか情報がヒットする。自分にとって未知のままにしておかないと山歩きのモチベーションを維持できないので、今回も意図的に情報収集せず地形図だけ見てルートを決めた。矢岳の尾根を辿ることが可能であるらしいことだけは以前に別の調べものをした過程で知っていた。

大血川の二又から長沢山に登ったとき右回りであったので、今回も右回りとする。栗山尾根末端部にやや不安があるので、栗山尾根から登って矢岳尾根から下る右回りの方が都合が良い。


駐車地〜栗山〜山ノ神

浦山ダム(秩父・さくら湖)の大久保谷側のどこかに車を置くつもりで現地入りしたら、左岸側は通行止めで広場(何処を意味するのか知らない。)までしか行けないと表示されていた。ならば右岸側からアクセスしようかと思ったら、浦山大橋から左岸に行く道路も封鎖されていた(ネイチャーランド浦山の営業時間以外は閉鎖される。)。浦山川沿いに少し進んで、路肩に張り出したスペースに車を置いた。近くに栗山入口なるバス亭があるので、本来は車を置いてはいけないのかもしれない。

浦山ダム一帯にウワミズザクラの上品な香りが漂っていた。ウワミズザクラは新緑が映える田植えの頃に咲く。この香りを嗅ぐと親戚の田植えを手伝いながら畔で過ごした幼少期を思い出す。当時自分を可愛がってくれた人達の多くが故人となった。耕地整理、道路建設、稲作方法の変化等により、当時の風景が蘇ることはない。ダムが建設されたこの地にも自分と似た感覚を持つ住人がいるのではなかろうか。

画像
浦山ダム湖(秩父・さくら湖) (07:07)


ゲートの横をすり抜け、左岸に行く道路の最高点から取付いて急勾配のスギ植林地を30m程度登ると、奥秩父線鉄塔の巡視路に出合う(巡視路入口は大久保橋側に在る。)。この巡視路は不明瞭でなお且つ尾根を直登しないため無視し、そのまま植林地を急登して新秩父線の鉄塔に至った。新秩父線鉄塔の巡視路もやや不明瞭で階段がボロボロだが、一部尾根登りに利用できる。

栗山三角点を過ぎて山ノ神に至るまで、一貫して尾根西側斜面に広葉樹林が残されており新緑がきれいだ。サルの群れに先導されて尾根を登って行った。

栗山三角点 (08:04)


おそらく標高950m辺りだと思うが、地形図に表現されない岩場が在り、山ノ神が建立されている。山ノ神背後の岩稜線右下(大久保谷側)が切れ落ちていて少々怖い。南側に下る場所はホールド多く危険を感じない。

山ノ神 (08:26)



山ノ神〜大平山〜七跳山

標高1,000m前後は大久保谷側が若いヒノキ植林で、一部間伐が進行中。大久保谷から広い作業道が稜線まで上がってきており、眺め良し。シカ1頭が逃げて行った。

画像
大久保谷(対面は矢岳の尾根。矢岳は右端のパッとしない小ピークというか尾根の肩である。) (08:45)


標高1,150m以上は枯れ死したスズタケのストロー藪中の明瞭な踏み跡を辿る。ブナ林の林床に植物の発芽が多数みられるがブナの発芽は数少ない。ブナの発芽を初めて見た。

ブナの発芽 (09:14)


秩父の尾根は高いところまで過去に人の手が入っており、自然林が残されているところは少ない。標高1300m以上の尾根東側に太いブナの林が残されており、植林とブナ林の組み合わせが丹沢の大室山北側斜面に良く似ている。この辺りの枯れたスズタケ藪中には小さな笹が多数葉を広げていた。これがスズタケの実生であるならば、シカに食われない限り数年後には青々としたスズタケ藪が復活するであろう。

画像
大平山北・標高1360m辺り(09:45)
スズタケの実生?(10:25)


大平山には山名板が2つ。片方はこの4月に設置されたばかりのもの。樹木に酷な取り付け方であったので、写真撮影後に別の木の枝に移した。

大平山山頂 (10:39)


大平山から天目山林道までの踏み跡は明瞭。未舗装の林道の反対側に取り付く明瞭な踏み跡は見当たらないが、適当に尾根筋を辿れば自動的に七跳山に至る。

七跳山山頂 (11:15)



長沢背稜(七跳山〜坊主山)

昼食休憩して七跳山を下る際に、登ってくるハイカーの鈴の音を一度だけ聞いた。七跳山は眺望悪くつまらん場所だが、名前がついているためか一応踏み跡が在る。

長沢背稜の登山道はカラマツが植林された東京都側の斜面を巻いている。登山道は使わず稜線の不明瞭な踏み跡を辿った。坊主山の東側斜面にマルバダケブキらしき植物群落を見た以外に特筆すべきことなし。

坊主山山頂 (11:59)



坊主山〜矢岳

過去に長沢背稜から矢岳尾根に出入りした人の数は少なくないようで、長沢背稜から離脱すべき場所に視認できるレベルの踏み跡が存在しており、普通に地図読みできれば入り口を見過ごすことはない。少し下れば尾根形が明確になり、地図読みしなくても歩ける。迷う可能性ゼロの目印不要な場所に赤、黄色、青のテープが短い間隔でべったり付いていて辟易。秩父にも常識が欠如している連中がいるな。新しく付けるのならせめて旧いのは回収しろよ。腹立たしくなって、あったほうが良いと思われるもの以外は除去した。

長沢背稜からの最初の下りが地形図から想定していたより険しい。下った鞍部には牛首なる標示あり。栗山尾根から矢沢尾根を遠望した際に、1568mポイントのある針葉樹に被われたピークの登下降に不安を感じていたが杞憂であった。危険な岩場は無く、ホールドが多くて楽。下の写真のヒノキ(ネズコ?)は植林ではない。

画像
小黒方面 (12:26)
画像
矢岳尾根・1568m地点 (12:33)


矢岳尾根稜線は地形図に表現されない凹凸が幾つかある。地形図で現在位置を確認しようとしたが、所持する高度計が表示する数値に合う地点が周囲の地形と合わない。急に気圧が変化したとは思えない。1000m以上低いスタート地点で合わせた以降一切調整していなかったので、高度計の線形性(リニアリティ)が原因でずれてしまったのかもしれない。地形図の高度標示があるポイント毎に微調整しないといけないな。

1448mピーク南側はアカヤシオ多し。秩父でアカヤシオ愛でることは期待していなかったので嬉しい。

画像
1448mピーク南側のアカヤシオ (13:20)


矢岳の三角点から10m程度離れた最高点と思しき場所に山名板が3枚設置されている。矢岳は眺望悪く、顕著なピークも存在しない。矢岳とは特定のピークのことを指す名称ではなく尾根の一区間の総称だったのではないかと推測する。矢岳でもアカヤシオが数本。

矢岳・三角点(13:59)
画像
矢岳のアカヤシオ



矢岳〜駐車地

平成9年に埼玉県警察山岳救助隊が設置した案内情報によると、どこかに危険な場所があるようなのだが、劣化していて意味不明(本記録末尾の付記参照。)。

標高1250m前後の斜面は樹木の間隔が広く、足掛かりが少なく、さらに落ち葉が積もっているため滑落する怖れあり。滑り止めのある靴ならば余裕と思う。

標高1,100m前後の稜線西側斜面に足の踏み場もないくらいべったりとカタクリの葉が出ている。何故かほとんどが小さな1枚葉で、写真のように二枚葉で開花している個体は数えるほどしかない。

画像
標高1100m付近のカタクリ (14:47)


標高1050mで尾根を離脱し、大久保谷に向けて植林尾根を下るつもりだった。矢岳尾根を下りすぎたため少し登りかえしてから尾根を離脱した。勾配が最も緩く下りに最適な尾根を選択したはずだが、明瞭な尾根型は現れず、沢筋に向けて降下している。植林斜面を横切って隣の尾根筋に移動し適当に下った。周囲の地形を確認できない場所から尾根離脱する場合、成否は@下降起点における位地・方向の精度(位地は地形図と高度計で判断)と、A下り始めの方向微調整で決まる。勾配の緩い尾根から離脱する場合は高度が10mずれただけで致命的な結果に至るのでAの微調整が欠かせない。本日唯一のルートファインディングの機会だったのに、植林尾根を甘く見てAを怠り、その後も高度・方位の確認を一切しなかったので、結果的に下った場所がよく判らん。今後の戒めとする。

破線路に降り立った場所の隣の沢筋に粗末な作業小屋があり、巨岩下の斜面に突っ込まれたパイプからきれいな水が流れ出ている。程なくネイチャーランド浦山を見下ろす舗装林道に抜けた。

画像
栗山尾根北端と小持山〜大持山(林道上にて) (15:46)


秩父はどこに行っても人跡がそこかしこにある。人跡があるのは構わないがゴミを捨てるのはいただけない。ペットボトルを登りと下りでそれぞれ1本ずつ回収した。牛首(長沢背稜から下った鞍部)には透明のビニール傘が捨ててある(回収せず。)。

晴天の下で爽快な山歩きであったが、帰りは渋滞で秩父脱出に時間を要した。一寝してゆっくり帰ってくれば良かったかな。

後日ウェブで調べた結果:

秩父側から大平山にアクセスするルートは複数有るようである。地形図に表記が無いのでどこが相当するのか判らないが大ドッケなる地名が出てくる。大ドッケで検索したら、最近たそがれオヤジさんが大平山から栗山尾根を下った記録がヒット。「栗山尾根」の呼称はこの記録を参考にしました。ちなみに原全教氏が残した資料では三角点のある山は「丸山」と記載されている。

矢岳のある尾根の通称は不明。名のある山が矢岳のみであり、「矢岳尾根」と呼称している記録があるので、拙記録上も「矢岳尾根」とする。矢岳尾根を長沢背稜まで辿った記録はそれこそ腐る程出てくる。武州中川駅から近いので奥多摩側に縦走する人が多いようである。アカヤシオ愛でるために往復する人も少なくないようだ。カタクリに関する記述も見られる。万人向けではないにせよ、和名倉山並みの人気の場所と言えよう。

矢岳山頂に在った埼玉県警察山岳救助隊による注意書きの劣化していない頃の写真を見つけた。注意書きは、矢岳南の標高1420m付近にある荒川村分岐ルート(川浦谷渓谷沿いの秩父林道を歩くルート)を下降路として推奨している。現在も辿ることは可能なようだが、分岐に「荒川村分岐」の標示は無い。

山野・史跡探訪の備忘録