黒坂石(蚕影神社)〜椀名条山〜前地蔵岳〜大岳沢林道

年月日: 2012年11月18日(日)

行程: 駐車地(蚕影神社右手の林道を50m程度進んだ場所の路肩)出発(07:20)〜椀名条山(08:25)〜群馬栃木県境・1109mポイント(09:24)〜大荷場木浦沢線の峠に立ち寄り(09:55)〜1025.6m三角点(10:36)〜前地蔵岳(12:00)〜大岳沢林道へ下降(12:30)〜駐車地に帰着(14:05)

日曜日の関東地方は晴れの予報につき残り紅葉を愛でる山歩きを計画した。奥武蔵は広葉樹林地域が限られていて紅葉時はハイカーの密度が高そうだし、冬場の鉄道を利用したハイキングのために温存しておきたい。翌日の仕事を考えると日曜日にハードな山歩きをしたくない。低山で広葉樹林が多く且つ比較的近い場所として、黒坂石(群馬県みどり市)が思いついた。

2004年に大戸川・小戸川の尾根を周回したときに氷室山北の椀名条山分岐まで歩いたことがある。2005年1月に尾出山の尾根を縦走した時は林道・大荷場木浦沢線の峠から林道を下った。2005年5月には当時の足尾町の境界尾根を原向から細尾峠まで歩いた(地蔵岳までは栃木・群馬の県境尾根でもある。)。周回ルートの設定や当時の気象状態の関係で、地蔵岳の南の尾根道がぽっかりと中途半端に未訪のままになっている。特に秋山川の頭に位置する三叉路は庚申山、根本山、氷室山等の信仰や、峠越えの交易で重要なポイントであったと考えられる。ここ訪れずして安蘇というか足尾山地の山歩きは完結しない。

これまで栃木県境の山歩きはほぼ全て栃木県内を起点にしてきたのだが、今は栃木県民ではないからこのこだわりには意味が無いな。十二山から氷室山に向かう途上で黒坂石方面に下る分岐の標示を見たことがある。その後、黒坂石から大萱山や石倉山に登ったという記事を何度かネット上で目にした。黒坂石の入口が沢入だから埼玉から足尾に行くルートと同じ。黒坂石を起点に歩くことに決めた。椀名条山の破線路を辿って県境に至り、地蔵山まで県境破線路を北上して、できれば地蔵山から県境を西進して適当に南下して周回する。距離は長くても標高総和が小さいので秩父の尾根歩きに較べればはるかに楽だ。お気楽ハイキング気分で前日急遽行先を決めたもので他者の記録を一切見ていない。予備調査していたら他者が歩いた時の記録と現在のギャップに戸惑ったかもしれない。

国道122号を北上する途中で猟友会の一団を見た。狩猟解禁日をかん違いしていた。もう安易に山に入るべき時期ではないのだな。場所選定を誤った。下手したら撃たれてあの世逝き。誤射した人もまた人生台無し。

黒坂石川の渓谷沿いにカエデ類の紅葉がまだいくらか残っていた。

画像
黒坂石川渓谷の紅葉(帰りに撮影)


黒坂石バンガローの近くに、「この先は私有地につき駐車禁止」旨の表示があった。黒坂石に来たら有料駐車場使って金おとして行けってか。私有地と言われても明示されていないのだから判別できるわけないでしょ。まさか黒坂石沢一帯全てが私有地ってことは無いよね(tnhcねくらハイカーさんの記述に拠れば、本当にこの一帯が個人の所有らしい。俺は個人が広大な山林を所有していることに対して山縣有朋と同類の極めて胡散臭いものを感じる。)。椀名条山の登山口を探して黒坂石沢沿いの道を奥に移動してみたが、駐車地に適した場所も登山口も見つからない。蚕影神社まで戻って右手の林道(中ノ沢林道?)をちょっと進んだ場所の路肩に車を置いた。

尾根末端に神社があるのなら神社裏から尾根に上がる道があるかも知れない。その予想通り、蚕影神社左手から遊歩道が上がっていく。入口に標識らしきものが立っているのだが字が消えていて何を意味していたものか不明。遊歩道は落ち葉が分厚く積もり、最近人が歩いた形跡無し。傾斜のきつい場所に設置してある丸太を連ねた桟は表面ツルツルでしかも斜めになっているため利用できない。乗ったら滑って転落してしまいそうだ。この遊歩道は尾根道には接続せず反対側に下っていってしまう。最高点から適当に尾根筋を辿った。

古いテープをたまに見かけるが、明瞭な踏み跡は存在しない。地形図の破線路が上がってくる尾根筋にも明瞭な踏み跡が無い。てっきり椀名条山の破線路が人気のハイキングコースと思い込んでいたもので大変戸惑った。植林地のスギの幹に荷造り用のビニールテープが格子状に巻かれている。おそらくはシカの角砥ぎを防止するためのものだろう。この日歩いた全ての山域で目にした。一本一本テープを巻くという気の遠くなる作業だ。防護ネットを張る方が経済的且つ効果的と思うのだが。

画像


何処だったのか覚えていないが、まだ道標が残っていた。県境から下ってきたら、道が全く無いので不安になるのではなかろうか。永遠に保守できる保証もないのに中途半端に登山道整備気分で道標設置するものではないな。今や何の意味も無い。

画像


もともとまともな道が無かったことが確定したので肝が据わった。いつものように何も期待せず自分の判断だけ頼りに歩けば良いだけ。ただ、尾根上は冷たい北西風に強く煽られてつらい。南側が晴れていてたまに風裏で日溜りが得られるのが救いだ。

強風に悩まされながら気の乗らない尾根歩きを続けると三角点に達した。あっけなく椀名条山到着。野峰並みの人気の場所と思っていた椀名条山は、山名板が幾つかあるのみで山頂近くに顕著な踏み跡は無い。広葉樹林の静かな明るいピークで、自分好みの場所だ。

椀名条山山頂
山頂東側の雰囲気


1022mピークの前後の南側斜面は全て若い植林地であり、稜線上に防護ネットが張られている。氷室山から根本山までの尾根を一望できる。

画像
十二山〜根本山の尾根


尾根南側の谷から林道が氷室山直下まで延びているのが見える(中ノ沢林道の続き?)。尾根の北側には男体山が見える。

画像
男体山


北西風に煽られながら写真を撮っていたら至近距離で発砲音らしき大きな音が数回聞こえた。しばし周囲の様子を窺い進行方向に狩猟者がいないことを確認して先に進んだ。かすかに聞こえる怒鳴り声がだんだん近づいてくる。猟友会の朱い服を来た男性の姿が見えた。勢子が尾根の反対側で待ち構える撃手の方向に向けて獲物を追いたてているようだ。防護ネットの植林地を上がってきたはずはないから椀名条山経由してきたものと思われる。すごい脚力である。

できるだけ離れたいので走るように尾根を東進。丈の低いミヤコザサに蔽われた尾根を進んで氷室山に至る道の分岐・1109mポイントに至った。なんとか山歩きは続行できそうだが、帰りに尾根筋を下ってくるのは止めた方がよさそうだ。以降、林道沿いに下るオプションを探りながらの山歩きとなった。

2004年に来たときは明瞭な道があったような記憶があったのだが、1109mポイントには寛政年間に大戸の住民が建立した石祠があるだけで、道跡は存在しない。もっとも2004年訪問時は雪が積もっていたから、道があったという記憶が本当かどうか自信がない。

画像
1009mポイント


穏やかな日であれば8年振りに氷室山に参拝してみたかった。冷たい風に嫌気がして早く帰りたくなり、氷室山の再訪はパス。1109mポイントから北に向かう稜線に道無し。尾根を北上するうちに1109mポイントの東側を巻いてくる地形図の破線路に出合った。1109mポイントからの下りは風裏でとても快適。

画像


道はピークを避けて秋山川側斜面を横切る。暗い植林地内で単独行の男性とすれ違った。植林地を過ぎると傾斜がきつい広葉樹林の斜面が長く続き、たくさん残っている紅葉が見事である。今年これだけ見事なカエデの紅葉を愛でることができるなんて、強風を我慢して登ってきた甲斐があったな。

画像


秋山川源頭部の三叉路到達。標高差が少ない大荷場木浦沢線の峠まで下ってみた。岩がちの尾根に築かれた古い道はあきらかに近年設けられた登山道ではない。人手をかけて岩を削って造られた道であるから、かつて重要な役割を果たした道筋であることは間違いない。大荷場木浦沢線の峠には栃木県の車が置いてあった。さきほど遇った男性の車と思われる。氷室山や遠くは根本山や熊鷹山まで往復するのに最適な出発地であると言えよう。

画像
大荷場木浦沢線の峠


三叉路以北も道は尾根筋を辿らず徹底してピークを巻いていく。間伐材を跨いで進んでいくと、1027m北東の斜面で道が消失した場所に至る。道跡の上側斜面が強固な金網で補強されている。下に大荷場木浦沢線がモロ見えで雰囲気悪し。大荷場木浦沢線の峠から地蔵岳に向かった人は少なくないはずだが、ここをどうやって突破したのだろうな。金網すがって突破したくないので、手前の小尾根状の斜面を這い上がって稜線上の鉄塔に抜けた。斜面の荒れ具合からすると、過去に自分と同じ選択をした人がいるようだ。

画像


鉄塔の西側下に未舗装林道が走っている。この林道は1109mポイントから三叉路に向かうときに見た未舗装林道終点に続くのであろう。つまり、この林道を使えば最短で北に抜けることができるということだ。

鉄塔からしばらく巡視路を辿った。東(栃木県側)から上がってくる破線路の合流点がどこか判らぬまま稜線部を北上。群馬県側に設けられている林道に削られている場所を除き、1025.6m三角点の北側鞍部までは基本的に稜線部を辿ってみた。昔の道跡は徹底してピークを巻いていたようで稜線部には道無し。栃木県側斜面を巻く区間は道型を残しているが、群馬県側を巻いていた区間のほとんどは未舗装林道に削られて消失したようだ。

林道を歩き、赤白鉄塔が立つ破線路尾根の林道分岐を見送り県境尾根を北上。未舗装林道(大岳沢林道*1)が尾根を離脱する場所の南側手前に広場があって地蔵岳が見える。静止画では表現できない、このとき強い風が吹き渡り無数の落ち葉が上空を舞っていた。

画像
地蔵岳


林道が黒坂石方面に尾根を離脱する場所から古い作業道が栃木県側の斜面を巻いていく。再び稜線と交わる場所で、群馬県側斜面にある別の(建設して十数年は経過している)比較的新しい未舗装林道と出合う。この林道は断続的に存在する植林地の上端に位置する。林道沿いに残るメグスリノキやモミジの紅葉が鮮やかであった。今年は夏場の渇水で美しく紅葉する場所が少なかったようだが、群馬・栃木県境尾根に関してはその影響は少なかったようだ。


地蔵岳に十分近づいてから「日光社寺」と刻まれた境界杭に沿って県境の広葉樹林を北上。前地蔵岳西側鞍部に上がる直前の斜面は部分的に岩が露出する急勾配。古いテープが少し残っているだけで、歴史ある縦走路の雰囲気は無い。

尾根上に上がっても稜線部に明瞭な道は無い。とりあえずピークまで登り詰めると「前地蔵岳」の標示が在った。2005年に原向から県境を辿ってアカヤシオを愛でながら前地蔵岳を経由して地蔵岳に至った時の記憶では尾根上の道は明瞭であった(と思う。)。老化と酒の飲み過ぎで脳のシナプスが切れてしまったのだろうか?

尾根道の未訪区間を全て潰すことができたので本日の最低目標は達成。地蔵岳までほんの少しの行程ではあるが、靴が合わなくて左足首に痛みを感じるし、北側の陰鬱な空と冷たい風に逆らってまで往復する意義を感じない。地蔵岳は初代デジカメを紛失した忌まわしい場所でもある。よって、前地蔵岳から未舗装林道まで下ることに決めた(後で地形図を良く見たら、破線路は前地蔵岳と地蔵岳の鞍部に上がっているようである。地蔵岳まで行って破線路を下れば良かったな。)。

画像
前地蔵岳から見る地蔵岳


未舗装林道がどちらから上がってくるのか確かめるため、まず西進してみた。程なく終点となり、往路を戻れば良いことが判明。未舗装林道を逆に辿って道なりに県境尾根を離脱し、大岳沢林道まで下降。大岳沢林道からの分岐点は標高1010m辺りに在る。

大岳沢林道の下りは風の無い日溜りで快適。大岳沢林道沿いの沢(黒坂石沢の支流、名前不明)は私有地で管理釣り場になっているらしく、2か所でヘルメット姿の意味不明の案山子を見た。この沢には小滝が幾つかあって雰囲気は悪くない。滝の存在の可能性を感じさせる支沢もある。

画像


一般渓流は9月中に既に禁漁であるが、管理釣り場なので釣り人が1名いた。車のナンバーから推測して埼玉から来た釣り客のようだ。さらに下流で東京都から来た車も見た。わざわざここまで来なくても他に管理釣り場なんていくらでもありそうなものだが。

林道傍らにじっと座って対面の尾根斜面を見上げているハンターが居た。尾根反対側から勢子が追い立てる獲物を待っているのであろう。この尾根は県境から下る破線路の尾根(赤白送電線鉄塔の尾根)だ。林道を下ってきたのは正解だったな。

破線路尾根末端(黒坂石沢二又)を過ぎて、放置された(遺棄された)重機を幾つか目にする。さらに下ると人家が一軒現れ、犬が2匹放し飼いになっていた。ヤバイと思ったがここを避けては帰れない。犬と仲良くすべく手を差し伸べてベロベロ舐めさせた。じゃれて飛びついてくる。性格の良い犬でよかった。若い方の一匹は黒坂石バンガロー辺りから遊びに来ていたのかもしれない。自分の姿を時々確認しながら先行し、最後はどこかに行ってしまった。

早めに下山できたものの帰りに4時間以上要した。毎度のことながら群馬県〜埼玉県の道路事情のお粗末さに辟易する。群馬に行くにはもう少しルートの検討が必要だな。

*1 記録をまとめるに当たりウェブで黒坂石一帯の山歩きの記録を幾つか参照。ルート・天候・狩猟者の存在等が類似し、且つ調査に基づく詳細な情報が得られる点で、個人的にはtnhcねくらハイカーさんの記述内容が最も興味深い。

山野・史跡探訪の備忘録