細久保谷奥部周回

年月日: 2013年4月14日(日)

行程: 細久保橋左岸側から出発(05:50)〜地図に記載の無い林道(*3)出合(06:12)〜940mピーク南東の鞍部(06:45)〜仙元尾根・標高約1160m(07:16)〜仙元峠・1444m(08:06)〜天目山・1576.0m(09:18)〜大栗山・1591m(09:43)〜七跳山・1651m(10:10-10:31)〜大平山・1603.0m(11:00)〜(峠の尾根)〜浦山・秩父線61号巡視路入口(13:23)〜細久保橋に帰着(13:57)

街中で既にオオムラサキツツジやシャガが咲き始めているのを見て、重い腰を上げて春の秩父を訪問。目的は長沢背稜細切れ歩きを完結させることである。これまでの長沢背稜細切れ歩きの方向(右回り)に合わせて、仙元尾根から長沢背稜に上がり七跳山から大平山を経て下山する。

仙元尾根も大平山も自分にとって既知の場所。双方ともに過去の山行後にウェブの先行情報で見た断片的な知識が頭にインプットされてしまっているので、これまでの細切れ歩きに較べると新鮮味に欠ける。山歩きのモチベーション(自身にとって未知の要素)を維持するために今回も事前調査は行わない。事前調査しない分、おいしい所を見逃したりルートミスしたりするのだが、先行情報が容易に得られない時代はそれが当たり前だった。迷走や当たり外れもまた楽しからずや。場合によっては事前調査が必要だが、不安要素が無い限りにおいては、事後に自分の記憶・記録を先行者の情報と照合する方がはるかに面白いのだ。

浦山大日堂から仙元尾根を登って栗山尾根北端に下るのが理想的だが少し行程が長すぎる。左足の腱が伸びているような気がするし、日曜だから早く帰りたい。できるだけ行程が短く且つ危険の少ないルートとして、林道(天目山林道)が細久保谷を渡る場所(細久保橋)の右岸から登って左岸に下って来る案が浮上。現地の様子を見て可能と判断し決行。途中までは余裕だったのだが、高度計のトラブルで予定の尾根(*1)に入れず、一本北の尾根(*2)で浦山に下山して少し大回りとなった。

細久保谷沿いの林道の入り口が狭く入り込むのを躊躇。できれば林道には進入せずにどこか適当な場所に車を置いて歩いていきたいところだが、浦山にはそんな場所は存在しない。浦山大日堂近くにあるトイレ付の小さな駐車場を利用するのは気が引ける。しかたなく林道に進入してみたが、どこまで行っても林道幅は変わらず、たまに退避点があるだけ。対向車が来たらどうするんだ?幸い早朝なので戻ってくる車はいなかった。途中一か所と、細久保橋の手前に渓流釣りのものと思しき車があった。

期待通り、細久保橋手前にわずかながらスペースがあり駐車場所を確保。左岸側の尾根を下ってきて安全に林道に降下できる場所があることを確認してから出発。空気の清澄度がやや低いけれども微風快晴で気分は上々。

細久保橋から先は工事関係者以外立入禁止。最初のカーブで林道を逸脱して植林斜面を横切りガレガレの斜面に出る。地形図を見て予想していた地形より険しく、どれが940mピークから下ってくる尾根なのかよく判らない。ガレ地の先は傾斜がきつくて移動できそうにない。よって、ガレ地と右側の植林の境目を出入りしながら適当に登っていった。上方に見えていた崖らしきものは地形図に記載されていない未知の林道(*3)の路肩を補強工事した部分であった。細久保橋から天目山林道を歩いていけばこの林道にすんなり入れるってことだ。チッ。視界が開けており、下りに使う予定の尾根(*1)が良く見える。

地形図に記載のない林道出合(標高710m)
帰りに下ってくる予定だった尾根(*1)


林道の行く先が判らないので、尾根を回り込む場所から尾根筋に入った。ほんの少し尾根を辿ると再び林道のカーブに至る。尾根に簡単に取り付けそうな場所が無いのでしばらく林道を進んだ。林道は940mピーク南東鞍部から下ってくるガレた谷でカーブして再び尾根に向かう。ガレた谷は勾配緩く、危険個所も無いように見える。一方、尾根筋は岩がゴツゴツ飛び出ていて辿りにくそうである。940mピークを経由する案を放棄して直接鞍部に向かうことにした。

ガレた谷に生えている樹木は全て同一種。シカ等による食害から幼樹を護るカバーが散乱し、園芸用の支柱が残っている。朽ちた切り株が残っているので、一度伐採された歴史があるらしい。ガレた谷の隣の斜面はヒノキ植林であるから、ヒノキ植林に向かないガレた谷は伐採後しばらく放置され、10年程前にこの場所に向いた落葉樹を植えたと思われる。ガレた谷に生えている草本類はハシリドコロのみ。ここに限らず秩父の山はハシリドコロだらけだ。

940ピーク南東鞍部から下ってくるガレた谷
ハシリドコロ


「秩空五〇」と書かれた杭がある鞍部到着。尾根は全てヒノキ植林であり容易に辿れるが、標高1,050m前後の等高線がやや密だ。南隣の尾根も植林されていて現在乗っている尾根よりも勾配が緩そうなので、どこかで隣に移るのが得策と思った。その思いを見透かしたかのように細い作業道が谷筋に向かう。作業道はすんなり隣の尾根には向かわず、谷筋のやや傾斜のきつい植林斜面をジグザグに登っていく。大きな岩壁の下をかすめてから南隣の尾根筋に出た。こちらの尾根も最後はやや勾配がきついが、危険ではない。赤テープが一つ落ちていたので、良く調べればこの尾根を登降した記録が存在するかもしれない(*3)。

仙元尾根に上がる前に見た大持山
仙元尾根到達地点(1,160m)


仙元尾根の登山道は尾根東側斜面のトラバース道であるため、尾根上には踏み跡無し。尾根上に障害物は無く超お気楽に辿れる。登山道が何故に稜線を回避するのか理解できない。この辺りの地権者(明治神宮なのか?)と関係があるのかもしれない。仙元峠から下ってくると大楢(ミズナラの大木が在る場所)に張られているロープに従ってトラバース道を辿ることになるのだが、自分が登ってきたルートには何も標示がなかったから文句言われることはなかろう。

天目山(三ツドッケ)
仙元峠直下から見た御荷鉾山


仙元峠(1,444mピーク)は眺望の悪いピークなのだが、本日は天気が良くて雰囲気がよろしい。しばし軽食休憩してから長沢背稜を西進。

仙元峠(石祠は木花咲耶姫命を祀る。)


二度と来ることはないであろうから、東京都側に在るトラバース道を無視して徹底して都県境の稜線を進んでみた。尾根の雰囲気は七跳山以西と変わらない。特筆すべきもの無し。梢越しに秩父側の景色が見える代りに、小さなアップダウンが多くて疲れる。

記憶が曖昧だが、一杯水のピークの東側にある標示に、「グミ沢」、「浦山」、「道がやや不明瞭」などと書かれていたように思う。かすかに踏み跡のようなものが認められるが、沢沿いのルートなので未経験者が下りで使うのはやめておいた方がよさそう。

三ツドッケの三角点ピークに登り始めた時、後方から熊避け鈴の音が響いてきた。単独の男性が一杯水のピークから駆けるように下ってくる姿が見えた。他に誰もいない三ツドッケを訪問するという望みはかろうじて達成できたものの、一人でゆったりと景色を眺めることはかなえられなかった。

三ツドッケの三角点ピークは長沢背稜で最も眺望の優れる場所である。ささっと写真を撮って、男性が登ってくる前に西側に下った。

富士山方面
仙元峠方面


三ツドッケ以西もできるだけ稜線を歩いてみたが、1,591mピークに「大栗山」と書かれた山名板が落ちていたこと以外に特筆すべきもの無し。登山道を歩いて楽しようと思ったら、1,591mピークと七跳山(1,651mピーク)の中間辺りに何か所かある桟橋が朽ちかけていて少々怖い。再び稜線に這い上がった。


稜線から天目山林道と大平山が近くに見えるので七跳山がすぐそこにあるように感じさせる。ところが、七跳山は三段構えとなっていて長沢背稜を西進すると頂上が見えない。上り詰めたと思ったら次の段が構えていてガックリするパターンを2回繰り返すので精神的にあまり良くない。確か六郎地山もそんな場所だった。

七跳山山頂は針葉樹が少なくて明るい。腰を下ろして昼食休憩中に地面が揺れた。震度2だった。

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長沢背稜や派生尾根には二重尾根構造を有する場所が多い。七跳山北側もその一つ。西側に寄ると矢岳尾根の牛首方面が見える。

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矢岳尾根・牛首方面


天目山林道の峠は東からやや強い風が吹き抜けていた。林道峠から大平山までは明瞭な道が在って簡単に行ける。1年前に移した山名板が元の場所に戻っていた。何の特徴も無いつまらない山の山名板の位置にこだわる人がいるものなのだな。

高度計を合わせて下り開始。この調子なら遅くとも午後1時には帰着できると思われた。予定の尾根(*1)の入り口となる標高1,410m小ピークを目指して順調に下っていくと、予期せぬところで東南東に下っていく明瞭な踏み跡が分岐していた。高度計表示はまだ1,460m前後であり、その表示を信じる限り予定の尾根の南隣の尾根に下ってしまうことになる。なんであんなところに道があるのだろうと思いながらさらに下っていくと、高度計表示と方位の関係が地形図と全然合わない。予定の高度標示の場所からは東南東に下る尾根の存在が覗えない。この時点で少なくとも地形図上では迷子になってしまった。

一年前、矢岳尾根の下りで体験した現象に状況が酷似している。あの時、矢岳尾根の下りでも地形図上で現在位置を特定できなくなった。最後に場所を特定できた矢岳で高度計表示を合わせ、どんぴしゃの場所で尾根を離脱したはずなのに、それでも予定の派生尾根に入ることができなかった。今回、登りにおいては高度計表示が極めて正確に実際の高度に追従することを確認しているし、最高点で高度計を合わせているのだから、下りで高度計表示がずれたことは明らかだ。矢岳の下りでは、高い方に表示がずれた。先ほど見た踏み跡の分岐が予定の尾根の入り口であるならば、今回もずれの方向は同じだ。下り始めで高度計表示が実際の高度に追従しない。つまり高度計が数十mのヒステリシスを持っている可能性が高い。ヒステリシスを有しているのであれば、特性曲線見ながら補正をかけない限り、下りでは高度計をあてにはできない。

現在地から東側の谷を覗うと南(右)と北(左)にそれぞれ長大な尾根が東に向かって伸びているのが見える。北側の尾根(*2)は末端に浦山の送電線鉄塔が見えるので予定の尾根ではなさそう。南側の尾根が正解のような気がするが、確証も無いのに先ほどの場所まで登り直す気になれない。仮に正解だったとしても、地図読みを楽しみにしてきたのだから高度計が使えなければ意味半減。

ダメ元で現在地から斜面を少し下ってみると勾配の緩やかな場所に出た。

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標高1240m前後


その先に長い尾根は無く沢で消えてしまうと思われたので、枯れたスズタケのストロー藪を掻き分けて斜面を横断して北側の尾根(*2)に抜けた。尾根の上には明瞭な踏み跡在り。以前、たそがれオヤジさんの記録をみたときの記憶では、栗山尾根以外にもいくつか名前のついた枝尾根があって、浦山から登ってくることができるようであった。この尾根の地形図コピーを所持していないが、踏み跡に沿って下れば問題なく下山できそうである。

できるだけ駐車地に近い方に下山したいので、標高950m辺りで踏み跡と別れて884mポイント方面に下った。884mポイントの辺りは広いアカマツの林であり、南側の斜面の若い植林地の境にネットが張られている。その周辺に採り頃のワラビがべったり出ていた。

ネット沿いにしばらく下ってから植林地内の尾根を下り、立派な作業道に降り立った。道は北側に向けて緩やかに下っていく。このまま進むと細久保を通って浦山に下ってしまいそうだ。植林地を下って林道に出られないかと思ったが、傾斜がきついので自重。最終的に浦山・秩父線61号巡視路入口に出た。やれやれ、ここから駐車地まで150mの登り直しか。

途中、きれいな沢水で顔を洗ってさっぱりできたし、沢沿いのトウゴクミツバツツジやヒカゲツツジを鑑賞できたので林道歩きに退屈することはなかった。

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林道沿いの崖に咲いていたヒカゲツツジ


午後2時で既に秩父市内は大渋滞。国道299号に入るまで時間を要したばかりか、いつもと違って国道299号も流れが悪い。正丸トンネル手前で上名栗に抜ける道に入ってみたのだが、流れは良くてもクネクネの下りが気に入らん。最終的にいつも使っている県道150号に入って川越経由で帰ったのだが、帰宅に4時間以上要した。

帰宅後にウェブ上の先行情報と照合。下りに使う予定だった尾根(*1)を登った記録が幾つか参照可能。そのうち一つは1年前にも参照したたそがれオヤジさんの記録だった。その時は栗山尾根の記録の照合が目的だったので、その他の尾根の名前を同定できていなかった。同氏のフクジュソウ鑑賞の記述も参照して、実際に下りに使った尾根(*2)の名前も同定しました。

*1  大ネド尾根

*2  峠の尾根

*3 2013/04/23 加筆。 細久保橋から仙元尾根に上がるまでほぼ同じルートを辿った先行記録を発見。地形図に記載の無い林道の名は『仙元林道』であるとのこと。

山野・史跡探訪の備忘録