松木渓谷から小足沢中尾根経由で三俣山

年月日: 2013年6月9日(日)

行程: 無料駐車場出発(04:10)〜小足沢右岸尾根取付(06:20)〜1269mポイント(06:50)〜小足沢中尾根・1455mシャクナゲピーク(08:04)〜標高1700mの岩峰巻き(09:10)〜1847mポイント(09:35)〜三俣山(10:15)〜1928mポイント(11:20)〜シゲト山(11:57)〜黒檜岳(13:10)〜大平山(14:00)〜南東尾根経由で安蘇沢保安林管理道に下山(15:05)〜出発地に帰着(16:50)

安全を保証できないルートの詳細は非公開とします。

今年が自身にとって最後のアユ釣りシーズンになるかもしれないのに、空梅雨で準備する気にもなれない。台風で台無しになった昨シーズンよりは期待できそうだが、渇水で限られた釣り場で他の釣り人気にしながら竿握ってもちっとも楽しくなかろう。。

ヤシャブシの香りとエゾハルゼミの合唱に包まれた2年前の松木渓谷の山歩きの記憶が鮮明だ。愛車を手放す前にもう一度体験してみたい。地形図を見て、勾配的に辿れそうな候補地として着目したのが小足沢左岸尾根(小足沢と三沢の間の尾根)である。雪田爺さんのページで、今年小足沢左岸尾根を登った人がいることを知った。危険個所の有無は不明であるが、自分にも登れる可能性がある。では、この尾根を登りきったとしてその後はどうしようか。左右どちらに回っても全て経験済みの場所だ。右(大平山を回るコース)はアップダウンがハードで、左(三俣山経由で大ナラキ沢左岸尾根を下るコース)は松木渓谷を往復するのが退屈で、一長一短。

何かご褒美というか強いモチベーションが無いと松木渓谷を歩く気になれん。地勢的に小足沢左岸尾根よりも県境1847mポイントから下る尾根が魅力的だ。この未知の尾根と組み合わせてみようか。地形図には水流を示す青い線が記されていないが、釜北コルを源頭部とする沢にはしっかりとした水流があるはずで、小足沢左俣と呼ぶのがふさわしい。県境1847mポイントから下る尾根の通称が見当たらないので、本記録では以後、小足沢中尾根(もしくは中央尾根)と呼ぶことにする。

小足沢中尾根には一か所気になる場所がある。標高1700mに平坦な細い尾根として描かれている場所だ。過去の経験上、このような表示は岩が露出した超痩せ尾根または岩峰の存在を暗示する。これまで3度大ナラキ沢左岸尾根を登って毎度対岸の尾根の様子を見ているはずだが記憶が無い。現地で眺めて登ってみたいと思わなかったのだから、何やら危険の存在を感じ取ったに違いない。過去の写真を調べてみたところ、2011年の写真にかろうじてその怪しい存在が写っていた。

大ナラキ左岸尾根から見た小足沢中尾根(2011/06/19)
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岩峰じゃん。写真を見る限りでは、岩峰の左俣側斜面が切れ落ちていて巻きは不可能の様に見える。右俣側も切れ落ちていたら稜線通しで懸垂下降するしかあるまい。そもそも県境1847mピークから下ってきて岩峰に上がれるかどうか不明。こんな不安だらけの尾根を下りに選択するほど愚かではない。小足沢中尾根を登りに用いて、稜線通しが不可能ならば小足沢左俣源頭部に下って釜北コルに突き上げることにする。登りの過程で小足沢左岸尾根の様子を把握できるばずであり、その結果次第で当日の最善な下山ルートを決定する。

土曜日に気の重い研修の宿題の目途をつけ、日曜日に少しハードな山歩きをすべく夜9時過ぎに足尾に向かった。銅親水公園は渓流釣りや山歩き目的の人の車が出入りするので落ち着かない。2週間前と同じ場所で仮眠して明け方に無料駐車場に移動。こちらにも既に車が数台あった。

エニシダの花で黄色に染まる山肌を見ながら銅親水公園を通過。今年も松木渓谷はヤシャブシの香りが満ちている。天気も良さそうだし、思い切って来てよかった。

2年前に来たときより時期が2週間早く、山肌にはニセアカシアの白い花が見える。ニセアカシアもエニシダやヤシャブシ同様、根粒菌と共生して窒素を同化できるため荒地の緑化の観点では優秀な植物なのだが、優勢な外来種なので足尾の緑化には用いないほうが良いのでは?

工事用道路を埋め尽くすガレを乗り越えるのに気をつかう。空梅雨のため松木沢ゴーロの渡渉は案外楽で、沢靴を使う必要はなかった。靴を脱いだのは六号堰堤下を渡るときだけ。小足沢も水量が少ない。

小足沢F1


谷間にまだ日が射さない涼しい時間帯に取り付き場所到着。2年前と同じ場所から小足沢右岸尾根に上がった。日が当たる尾根上はエゾハルゼミの合唱で賑やか。

小足沢右岸尾根から見る沢入山(左)
三沢方面と小足沢左岸尾根鞍部


小足沢左岸1199mポイントにケルンらしきものが見える。三沢から小足沢左岸(三沢右岸)尾根鞍部を越えて小足沢に入る人が多いようだが、小足沢右岸尾根の現在地からは安全そうなルートに見えない。小足沢左岸尾根の稜線は何か所か岩稜が剥き出しになっているため、中倉山一帯のような岩稜が嫌いな自分には魅力的に映らない。できるだけ危険を回避すべく、この時点で小足沢左岸尾根を下る案を放棄した。

1269mポイントの植生(リョウブの林とテツカエデ)
1269mポイントの主三角点


1269mポイント付近は広くなだらかな場所で藪無し。リョウブの林とシカに食べられて矮小なテツカエデの組み合わせが印象的。明治時代に山林局が設置した主三角点が存在する。1269mポイント北西の小足沢に面する高みは岩稜であり、小足沢一帯の眺め良し。

画像
小足沢中尾根1455mピーク


小足沢左俣の渡渉の際、予期せぬ物を見た。右岸側に一か所、人工的な石積がある。目的は不明だが、容易に近づけないこの地にかつて人が出入りしていたという事実に驚く。

小足沢左俣の石積み


小足沢中尾根・1455mへの登りは、やや勾配がきついものの危険個所無し。ピーク直下はヤマツツジが満開で綺麗だ。庭園風の場所を期待して上がってみた1455mピークは、他所でもお目にかかったことがない規模・密度のシャクナゲ藪にびっしりと覆われていて移動しにくい。今年の花着きは良かったみたいだ。満開の時は壮観だろう。

小足沢中尾根、1455mシャクナゲピークから見る皇海山


鞍部を過ぎるとシャクナゲ藪が消えて、概ねミヤコザサに覆われた穏やかな登りが続く。至近距離でワン!という犬と同じ鳴き声がした。正体はシカであった。2006年にカモシカ平の近くで聞いた同じ吠え声の主もシカであったようだ。

標高1600辺り
2013年のシロヤシオ見納め


尾根が狭まりコメツガが出てくるといよいよ問題の場所に至る。岩峰本体の前衛の岩場の左右どちらも巻けず、退却決定。せっかく担いできた重い懸垂下降の装備の出番なし。

退却点
退却点付近から見た大ナラキ沢左岸尾根


当初の計画通り、代替ルートの釜北コルに突き上げるべく、少し戻って左俣に向かって笹の斜面を下り始めた。尾根上を振り返ってみると、岩峰の直下は笹藪に覆われていて危険個所が見当たらない。容易に巻いて行けそうである。ダメ元で登り返してみると、岩峰そのものは絶壁だが、その先には穏やかな斜面が続いていた。ツイてる。

岩峰南西側直下
岩峰北西側鞍部


順調に小足沢中尾根を辿って県境に上がれたわけだが、単にここまで来るのが目的ならば大ナラキ沢の頭と釜北コルを経由した方が楽で、速くて、眺望も楽しめる。小足沢中尾根は取付きまでが面倒であるため、わざわざ苦労して訪れる価値はないと思う。最近人が来たことを示すテープや空き缶の類が一切無い聖域を確認できたという意味では十分に満足。願わくばこのままの汚れ無き状態が永遠に保たれんことを。さて、時間はたっぷりあるし、すぐに天候が崩れる気配はない。ここまで来たら三俣山に行かない手はないな。その先のことは三俣山に行ってから決める。

ミヤコザサ藪に倒木が隠れたコメツガ主体の県境尾根は快適とは言い難い。面白い植物も無い。エゾハルゼミの合唱も聞こえない。実に退屈で不快な場所だ。三俣山近辺で得られる群馬県側の眺望が唯一の魅力か。

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三俣山直下から見る皇海山方面


三俣山の山部山名板は無くなっていた(少なくとも三角点の周囲に見当たらなかった。)。

三俣山まで来てしまうと、戻っても先に進んでも行程的に大差無い。シゲト山から先の範囲の地形図コピーを所持していないが、2004年時の周回で経験済みだから何とかなるだろう(少々考えが甘かったか。)。大平山に回ることに決定。

黒檜岳方面に向かう明瞭な登山道は存在しない。特に県境尾根から離脱する場所が倒木で荒廃しており踏み跡が不鮮明である。大平山に至るまで延々と眺めの良くない不快なコメツガ林のアップダウンが続く。眺望の良かった場所は1箇所しか思い浮かばない(下の写真)。

小足沢右俣の左岸尾根


きれいなシカ角を2本拾った。2月頃に角が落ちるらしい。シカ達は厳冬期をこんな場所で過ごしているのか。

2004年時と較べて気温が高くて装備も重く(+沢靴+懸垂下降装備一式)、若くもない。ガンガン飛ばすのは無理だ。三俣山からシゲト山まで休憩込で1時間半以上要した。このペースでいけば大平山到着は14:00前後か。三沢越えて大平山までひとっ跳びできれば良いのに。

シゲト山から先の地形図を所持していないので、シゲト山の北東1919mピークに上がってもう黒檜山に着いたような気になった。黒檜山にはたしか雨量観測局のようなものがあったはずだが、そんなものは見かけないし、千手ヶ浜から上がってくる登山道の道標もまだ見ていない。???。そのまま踏み跡の無い尾根筋を辿るとどんどん高度を下げてしまう。汚いコメツガだらけの陰鬱な尾根だ。記憶にない場所なので進路誤り(東に方向転換すべきところを中山方面に向かう尾根に入ってしまっていた。)に気付き方向修正できたが、20分程時間をロスしてしまった。2004年のときは一応エアリアマップを所持していたし、山部さん・Satoさん・ノラさんの三俣山アタック隊の雪上の足跡を逆に辿ればよかったので、ミスしなくて済んだのである。

ダラダラ登りを続けてようやく黒檜岳の雨量観測局到着。疲れた。2004年に烏ヶ森の住人さんがモミジ尾根経由で県境尾根に上がり大平山経由で下山している。翌日の出勤を考えると今回の周回が限界に近い(2004年時の記録にも書いたことだが、松木沢と県境尾根をからめた周回は基本的に山中一泊を要する行程である。しかし、三俣山〜黒檜山の区間が見所なく退屈で幕営に不向きで、カモシカ平や大平山に幕営すると2日間の行程のバランスが崩れる。少々ハードでも日帰りしてしまおうという心理が働く。)。

涼しく微風があるのでペースを抑えれば衣服が汗でぐしょぐしょにならなくて済む。それでも発汗量が多かったみたいで喉がカラッカラ。本日は山登りより沢歩きのイメージで臨んだため飲料水を2リットルしか持ってこなかった。最後の250mリットルを残して大平山に向かう。

大平山山頂で10分程度眺めを堪能した。最後の水を飲み干して南東尾根を下る。初冬はシカ牧場かと思うほどにシカが群れている場所なのに今は一頭もいない。皆、水場を求めて麓に下っているらしい。

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8年半振りに下った大平山南東尾根


下り始めて問題が発生。新品のトレッキングシューズは平地や登りでは歩きやすかったが、やや柔らかくて下りの斜面で踏ん張ると変形し、指先に圧力がかかる。疲労が蓄積しているので痛い。このまま最後まで尾根下りを続けたら指先がどうかなってしまいそうだ。騙しだまし安蘇沢保安林管理道まで下り、その先は勾配が緩い林道をゆっくり歩いて駐車地に帰着。

山野・史跡探訪の備忘録