中津川・筋滝訪問(吾妻山神社経由)

年月日: 2013年9月21日(土)、22日(日)

初日行程: 秋元湖岸林道・金堀ゲート出発(09:20)〜登山口の隠婆菩薩(10:10)〜奥姥神(12:50)〜吾妻山神社(13:20)〜中津川・筋滝の約150m上流に降下(16::00)

不忘滝を訪問するつもりであったが、降下地点の判断を誤って筋滝見物になってしまった。広大な緩斜面で高度を維持して進むのは高度計さえあれば簡単なこと。しかし、方角を維持しながら現在地と高度の異なる目的地に到達することは極めて困難。濃い藪を避けたり、地形図に現されない溝を横断するうちにどうしても進路がずれてしまう。すなわち、現在地を正確に把握できない訳だが、高度が判っていさえすれば、現在地を推定して試行することを何度か繰り返すことで確実に帰還できる。多少迷走したとしても決して迷子になることはない。時間と体力の問題で結果的に目的を達成できないこともあるが、無事に帰れればそれで良し。これだけはGPS頼みの藪歩きでは絶対に味わえない醍醐味である。

2006年に先達の記録を参考にして中津川を遡行した。沢屋ではないもので途中て遡行に辟易してしまい、熊落滝の手前で左岸原生林に這い上がって上流にある滝全てをすっ飛ばしヤケノママに直行。後日、朱滝だけは訪問を達成できたが、中津川の核心部と言える熊落滝から筋滝(三筋滝とも呼称される)までの領域は自身にとって空白。地形図上で熊落滝と不忘滝の場所は識別できるが、その上流に記されている滝マークのどれが筋滝なのかすら判別できない。

核心部で最も興味をかきたてられるのが、熊落滝の上にある不忘滝の存在である。熊落滝を巻く際に落ち口から下を眺めた記録はあっても、その全貌は不明。一度で良いから対岸から眺めてみたいものだが、直接アプローチすることは極めて困難。かといって、今の体力で再び中津川遡行する気にはなれない。可能性があるのは、吾妻山神社経由で左岸から不忘滝上流に下降するルートのみ。

2006年に標高1400m前後の崖マークのある場所を登った実績があるので、藪漕ぎを厭わなければ左岸から不忘滝を見下ろすことは可能だろう。すうじいさんの記録には、不忘滝の上流側に懸垂無しで下降したとある。懸垂無しで沢に下降できるルートを見つけることができれば、対岸から不忘滝を見ることができるかもしれない。10月に挑戦するつもりであったが、今年のアユ釣りが早く終了し、3連休の天気も良さそうなので、まだ暖かい9月に前倒し実施。

≪初日≫

あいにく金曜夜に会社のつきあいで酒が入ってしまったもので、前日出発はできず、当日早朝にさいたま市を出発。現地着が9時過ぎの見込みで行動時間が足りないため、初日は中津川に下降できれば良しとする。天気予報通り、会津は快晴。好天に後押しされて金堀のゲート前から出発。

磐梯吾妻ホットラインクラブが登山道の刈払をしてくれて歩き易くなっている。快晴ではあるが、気温も湿度も高い。懸垂下降と山中泊対応の重い装備を担いだ身にとって、吾妻山神社歩道のカラマツ植林帯の急登はきつい。ブナ林とダケカンバ林(全て二次林)の緩斜面をダラダラ登って、一旦下ってまた登る。これでたいていの登山者はげんなりしてしまう。景色の良い場所が全く無いので、特別な目的が無い限り何度も入り込む気にはなれない場所である。寝不足と腹の調子が悪いのが重なって、少し歩いただけで強い吐き気がする。初日はずっと途中退却を考えながら歩いていた。

吾妻山神社からヤケノママに向かう登山道は現存しない。2005年時に権現沢右岸の緩斜面に上がる旧道が刈り払いされたことがあり、たまたまその時に登降した経験があるもので権現沢右岸の緩斜面までは道跡を追える。標高1500m辺りで緩斜面に出てからは方位磁石を見ながらひたすら西進といきたいところだが、チシマザサの濃い場所を避けるうちにどうしても進路がずれる。

西進して標高1450m辺りになると地形図に記載の無い沢筋が現れて戸惑う(地形図をよく見ればその存在が読み取れるのだが、そんな場所にいるとは思わなかった。)。中津川に近づくと左岸溶岩台地から伏流水が染み出てミズバショウの生える湿地となり、細く浅い沢筋は急激に深さを増して谷底に急降下し滝を懸ける。やや大きな沢筋の左岸側に沿ってさらに西進すると中津川の沢底から落水音が響いてくる。現在位置が不明であるため、ひとまず少し戻って沢が浅くなってから北上。3本沢を越えてから再び中津川に近づいてみると、そこは中津川の沢底まで100m程度断崖状になっている場所で、周囲の地形を把握し易い。

対岸(右岸)には支沢が落差の大きな滝を懸けている。この支沢が予定地と朱滝の中間にあることは知っていた。今回は朱滝に行くつもりがなかったため、熊落滝周辺部の地形図コピーしか所持していない。現在地は地形図コピーの範囲外で、どのくらい予定地からずれているのか正確には判らないが、川の流れの方角から判断して、北側にずれたことだけは間違いない(帰宅後に地図を見て400m以上北側に居たことが判明)。

1438mポイント北の右岸支沢の滝(上部)
1438mポイント北の右岸支沢の滝(下部)


残念ながら樹木が邪魔で、危険を冒さずに綺麗に撮れる場所は存在しない。中津川遡行者には下部しか見えない滝の全貌を見ることができたと思えばラッキーか。

再び支沢を越えて南に移動し、勾配の緩い尾根筋に至った。熊落滝の近くにいると思い込んでいたため、そのまま尾根を降下。高度1400m前後の崖マークに相当する地形を見ていないのだから、冷静に考えれば熊落滝の300m以上北側の尾根を下っていることに気付くはずだが、夕刻が迫り早く中津川に降下したい気持ちが逸り素直な尾根をどんどん下降。沢底まであと100m程度残して尾根先端が切れ落ちている。戻り気味に尾根北側の斜面を斜めに下り、最後はチョロチョロ水が流れる沢筋を降下。そして最後は高さ15mの崖で行き止まり。

現在位置の前後を見渡しても安全に降りられそうな場所は無い。ちょっと頼りなげな灌木に支点をとって懸垂下降。明日谷底を脱出する命綱なので、そのまま放置。よって、明日右岸側の斜面に取り付けたとしても観瀑にロープを使えないことが確定。

中津川降下地点から上流側(翌日撮影)
中津川降下地点から下流側(翌日撮影)


靴を脱いで中津川を渡渉しながら下流側にある樋状の滝(5mとも7mとも)の落ち口に行ってみた。人が遡行してくるような場所には見えなかった。少なくとも自分の技量を超えている。2006年に滝を全てすっ飛ばして正解だったようだ(帰宅後に他者の記録に基づき、現在地が筋滝の上流側にある樋状の滝であることを特定。真野さんはへつって登り、すうじいさん達は左岸を巻いたとのこと。)。

筋滝上流の大釜を持つ滝(本体)
筋滝上流の大釜を持つ滝(上流側)
筋滝上流の大釜を持つ滝(釜)


右岸側に安全に登降できる場所を見つけた。観瀑は明日朝に挑戦することにして初日の行動を打ち切り。右岸のやや大きな岩の下流側に狭い砂地があって、適当に上部の石を払うとまあまあ快適な寝床を設営できた。一晩中晴れており、月夜で明るい。ラジオのAMの入りも良好(何故か福島よりも北のラジオ局のみ)。冷え込みも無くて快適な一夜だった。とはいっても、中津川の水流の傍らにいるから、雨だれのような音を聴いていると豪雨の様。

二日目行程: 右岸側の筋滝が見える場所まで往復(06:45 - 7:45)、幕営地出発(08:00)〜吾妻山神社(10:10)〜隠婆菩薩(12:37)〜車に帰着(13:30)

≪二日目≫

テントを片付けた後、軽く1時間程度藪を漕ぐつもりで空身で観瀑に出発。チシマザサと灌木に掴まって右岸に上がった。濃いネマガリ藪を10m程度漕ぐと勾配の緩くネマガリ藪のほとんどない岩がちの場所に至る。南進して再びネマガリ藪の帯を抜けて、樋状の滝の下流側に流れ落ちる支沢を横切る。さらに南側に右岸から落ちる滝が見える。昨日下降点を探す過程で見えた滝のようだ。水量こそ少ないが、落差100m以上の3筋の流れを持つ。ひょっとして三筋滝とは本流の滝ではなくて右岸から落ちるこの滝を指すのではないのか?

画像
(筋滝の下流側に)右岸から落ちる滝


もう一回ガレ沢を横切り、その南側の針葉樹が生える小尾根の末端まで下ると大きな滝が視界に入った。側壁が無いのでこれは不忘滝ではありえないのだが、筋滝はもっと上流に在ると思い込んでいたので、現在地の見当がつかない。下流側を見渡しても側壁らしきものは見えない。不忘滝ははるか下流にあるということか。

現在地は3筋の滝の北側(右側)の筋の中であり、ツルツル滑る。木の枝に掴まってかろうじてバランスをとって滝を撮影。あと2、3歩南に移動できれば本流の滝の全景が収められるのだが、もし滑ったら断崖を100m落っこちてくたばるのは確実。これ以上望んだら罰が当たりそうだ。

筋滝と下流のゴルジュ
筋滝


目的の滝ではなかったけれども無事観瀑を終えて、ようやく植物に目を向ける余裕が生まれた。

イワショウブ
       


前日残置したロープを手繰って左岸上に復帰。あとは原生林を突き進むのみで帰り着いたも同然。と、たかをくくっていたら昨日登ってきた権現沢の登降路の場所が判らん。昨年秋は6年振りに来てちゃんと見つけられたというのに。

権現沢右岸台地の縁はネマガリ藪が濃い場所がある。藪を避けて10m程度沢に下って藪の薄い場所をトラバースして上流の小尾根に移動。踏み跡らしきものがあったので安心して下っていくと、ネマガリ藪帯で踏み跡が消えた。???。またしても予定と違う場所にいるな。沢との高度差が少なく難なく降りることはできたものの、周囲の景色に見覚えが無い。高度計表示は旧道の渡渉点より100mも高い。登降路は大きな崩壊ガレ地の下流側の小尾根にあるのに、崩壊ガレ地のはるか上流側に下ってしまった。高度差100mの権現沢下りをしてようやく旧登山道の渡渉点に復帰。

権現沢崩壊ガレ地
吾妻山神社
          


登山道には、昨日自分よりも後に吾妻山神社に詣でた人1名の足跡があった。本日は曇り空で自分なら吾妻山神社に詣でる気になどなれない雰囲気だが、下山途上で登山者3パーティ(計5人)と遇った。皆、中津川レストハウスから来たとのこと。以前は中津川レストハウスから秋元湖岸林道に直接出る路は無かった。新しく整備したのかもしれないな。だとすると、今後は金堀側から登るメリットは無いか。

ゴゼンタチバナ
サラシナショウマ


その日は猪苗代の実家でぐっすり。月曜日に帰宅して先達の記録を再確認して、訪問したのが筋滝であったことを認識した次第。

山野・史跡探訪の備忘録