木ノ俣川西俣沢遡行(紅葉狩りと黒滝山登山)

年月日: 2013年11月3日(日)

行程: 木ノ俣川・落合の約1q手前から出発(07:10)〜西俣沢取水堰(08:20)〜左俣・右俣合流点で紅葉鑑賞(08:40 - 09:30)〜西俣沢右俣・標高1,040mの滝(10:30)〜西俣沢右俣・標高1,140m辺りからルンゼ登り開始(時刻不明)〜1,320mピーク南西鞍部(11:28)〜西俣沢左俣に下降・標高1,230m(時刻不明)〜黒滝山山頂(13:15 - 13:25)〜山藤山・1,588m(13:45)〜1,257mポイントで登山道離脱して北尾根に入る(14:30)〜駐車地近くで林道に抜ける(15:31)

フォレスターで栃木に行くのは11月連休が最後の機会になるかもしれない。栃木でやり残したことで真っ先に思い浮かんだのが木ノ俣川の西俣沢だった。これまで計7回西俣沢を訪問してなお未練があるのは1本のカエデの木の存在に由る。2009年10月31日にリハビリ兼ねて西俣沢を偵察した折、標高800m前後が紅葉の盛期で、陽光を浴びて映える広葉樹林の雰囲気を満喫した。この時、西俣沢の左俣と右俣の合流点で一本の美しいカエデの木と出会った。抜きん出て鮮やかで容姿が美しく、葉に傷みが全く無い。人が入り込まない季節であるので、これまでその姿を見た人はほとんどおるまい。カメラの電池が切れていて映像を残せなかったこともあると思うが、今でも栃木県で最も美しいと感じた光景の一つだ。もう一度お目にかかりたい。西俣沢に行くついでに、中尾根の100年前の土橇道らしき遺構が鞍部を越えて左俣側に回り込んでいることを確認したい。もし左俣側に回り込む道があってうまく辿ることができれば、そのまま左俣に降りて遡行して黒滝山に詰める。以前見たひろたさんの記録では左俣遡行は難易度が高そうであったが、自分が辿る標高1,200m以上は普通の装備でも遡行できそうな気がする。無理なようならあきらめて尾根に上がって藪漕ぐだけのことよ。前週の小鹿野町・二子山の岩壁登りに較べればはるかに安全。黒滝山からの下りは途中まで登山道を利用し、1,257mポイント(ピークも石も無いけれども何故か三石山)で北に尾根を下る。この尾根筋を末端まで下ると崖で行き詰るので、885mポイントから真北に斜面を下って山腹を折り返す木ノ俣発電所の管理道に降りる。

国道4号線を北上中に夜が明けた。全国的には雨のところが多く、栃木も夕方から曇りとのこと。どうやら本日の天気はすっきり快晴とはならないらしい。山登りする気になれなければ紅葉見るだけにして帰るつもりで現地に向かった。塩那橋を渡るとき、普段は涸れている蛇尾川に勢いよく水が流れていた。時期的に農業用に取水していないこともあると思うが、山がたっぷり水分を含んだ状態にあるようだ。木ノ俣川の水量も普段より多めに感じる。落合の駐車場の100m手前で路肩が崩れて車両通行ができなかったため、1q程度手前の広いスペースに車を置いて出発。

今年は雨の量が多かった割に降雨と冷え込みのタイミングが合わなかったためか、キノコの出来が良くない。ベニテングダケをたまに見る程度である。紅葉についても同じことが言えそうで、2009年に較べると全体的に色付きが悪く葉が傷んでいる。

お目当てのカエデの木だけは周囲から浮き出る様な別格の美しい姿を見せてくれた。2009年時に較べると低い位置の葉の鮮やかさが不足気味だが、再び会えて嬉しい。

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現在地は日陰で、あいにく空に雲が多くて写真撮影に不向き。雲が薄くなって明るくなるタイミングを待って50分も費やしてしまった。あと30分も待てば青空の下で陽光を浴びて映える姿を撮影するタイミングが得られそうだが、山歩きする時間が足りなくなる。撮影を切り上げて次の目的地へ。

右俣沿いの水際を移動しようとしてバランス崩して両足が水の中にジャボン。トレッキングシューズ濡れちまったらせっかく持ってきたボロ沢靴使うメリットないわ。どうせ臭かったから洗濯になって良いかも(この後は一度も靴を濡らすことなく、沢登りを含めて全行程をトレッキングシューズで通した。)。

前回右俣を遡行したのは残雪期。雪があってもなくても滝の巻き方は同じ。違いはうっすらとした巻道を視認できる程度。標高1,040mの門番みたいな滝の下の岩棚でおいしい山葡萄を賞味。

標高1,040mの滝
落ち口から


門番のような滝を巻くと開放感のある明るい場所に抜ける。大長山北東尾根から下る支沢が右から合流する。残雪期に来たときはこの辺り一面の雪で水の流れがほとんど感じられず、支沢に立派な滝が存在することに気付かなかった。

滝上の本流
大長山北東尾根から下る支沢の滝


中尾根への取付きに至る前に、岩の下にサンショウウオ獲りの胴仕掛けに使う道具が幾つか置いてあった。仕掛けはまだ使えそうで、今でもサンショウウオ獲りが行われているのかもしれない。シーズン中は毎日のように幾つもの沢に入るのであろうから危険を伴うし肉体的にもきつい仕事だ。ヒツ沢大滝の上にも仕掛けるのだから恐れ入る。

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サンショウウオ獲りの胴仕掛けに使う道具


予定では標高1,140mから中尾根鞍部に向けてチシマザサ藪かき分けて直登するつもりだった。しかし、どうもこのあたりの地形図の精度が低いみたいで、地形図に描かれたような勾配の緩い場所が見当たらない。

崖を回り込んだ先にあるガレたルンゼを登ってみた。危険は感じない。

標高1,140m付近の崖
登ったルンゼ


チシマザサ藪を回避できるので鞍部まで楽できると期待した。これが大誤算で、素直にガレ筋を登っていくと方向が鞍部ではなく西村山に向けて尾根を登る感じになる。ずっと1,320mピークが左手に見えており、鞍部に至らぬまま1,320mピークと同程度の高さまで登ってしまった。これはいかんと思い横移動しようにもチシマザサ藪が邪魔。最後は尾根を数十m下って鞍部を横切る道跡に到着。

時間は既に11時半近い。車のキーを車から離れた場所に置いて(隠して)きたのは失敗だったな。ヘッデンをしない主義のためヘッドランプを持ってこなかった。登山道利用して安全に車まで戻っても、暗くなったら置いた(隠した)場所を判別できんではないか。明るい時間帯に戻るためには当初予定通り1,257mポイントから藪尾根を下るしかない。午後4時までには下山したいが、これから4時間半で黒滝山登って藪尾根経由で下山できるのか?現在いる尾根を登って西村山を目指せば下に向かって倒れ込むチシマザサを持ち上げて掻き分けるのに時間と体力を浪費して確実にタイムアウト。西村山と黒滝山の間の移動時間もばかにならない。前回同様に現在地から尾根を下れば時間的には余裕でも、この尾根の藪漕ぎは下りでも辟易する。登ってきたルートを戻ればまた滝を巻くことになる。せっかく来たのだから正午を時限として左俣側斜面の道筋を探ってみよう。その結果、左俣の谷底に安全に下れるのであれば当初案を試す。降りられないようであれば尾根を下る。そう決めて急いでエネルギーと水を摂って行動再開。

肝心の道跡は確かに尾根東側(左俣側)にトラバースしていく。しかし、尾根東側は西側よりもチシマザサが太く且つ密度が濃く、20mも進まぬうちにギブアップ。少なくとも道跡を利用して左俣に楽に降りられる可能性は無くなった。真下はほとんど崖のような急勾配。さあ、どうする?

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尾根東側の道跡のチシマザサ藪


少し下がってみると道跡ではないが棚状の場所があって、勾配が比較的緩くなる場所まで横移動できた。そのまま藪を下って無事左俣に降下。このまま沢を下る不埒な考えが一瞬頭をよぎったが自重。ひろたさんの記録を良く見てこなかったので、40m滝があって巻けること以外に左俣のことを知らない。本日は懸垂下降しないつもりで、ザイルのみ所持。ハーネスは持ってこなかった。お粗末な装備でほぼ未知の沢を下れる自信が無い。

現在地の標高は1,220m。藪尾根を安全に下山できる時間を稼ぐには黒滝山山頂まで標高差530mをどれだけ短時間で登れるかにかかっている。この歳ではやや酷なスピード勝負。この山域の周回はどこも厳しいな。幸いなことに、左俣は大きな岩ゴロゴロの険相な谷ではなく遡行し易そう。

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西俣沢の左俣


中尾根左俣側にあった道跡が左俣を横切るような場所はなかった。あの道跡の行き先は不明のままだが、これ以上探索する意味はない。永遠に謎のままとしよう。標高1,350m辺りまでは順調に遡行。その後はナメ滝が連続し、行き詰った場合を想定して右岸尾根の様子を窺いながらの遡行となる。ナメはいずれも小さく巻けるかまたはかろうじてホールドを得られるため、尾根に逃げずに済んだ。脆い岩質の山域で同じことをするのはまず無理だろう。

涸れ滝
最も狭い屈曲部


北側に青空が見えるので落ち着いた気分で居られた。黒滝山と西村山の中間の源頭部に至って少し安心。

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左俣源頭部


適当に山頂を目指して登山道に出合い、少し登山道を辿ってめでたく黒滝山山頂到着。時刻はまだ13時15分。藪の無い沢をガツガツ登ったおかげでだいぶ時間に余裕ができた。

黒滝山山頂
山頂から見る那須野ヶ原


今回含めて6回の黒滝山山頂訪問で牛の臭いが漂ってこなかったのは今回が初めてのような気がする。ガスもかかっていない。御山沢登った時に較べれば格段に雰囲気がよろしい。軽食休憩してから下山開始。

残雪期も落葉期も黒滝山の下りで眺めるダケカンバ林が美しい。登山道からうるさい赤テープ類が一掃されて静かで落ち着いた登山道に戻っていた。

山藤山(左)と双子山(サル山なる呼称もある)
黒滝山登山道はすっかり初冬の装いだ。


左俣遡行で脚力を使い果たし、山藤山のちょっとした登りでもバテバテ。

1257mポイントで予定通り北に向かう尾根に入った。下り始めて高度100m位は2.5m丈のチシマザサ藪を漕ぐ。ただし、藪は進行を妨げるほど密ではなく、わずかに稜線西側にずれるだけで密度が低くなる。稜線を外さないように薮中を通る必要がある場合でもバサバサ押し倒して進める。

標高1150mで地形図と方位磁石で位置と進行方向を確認して真っ直ぐ北に向かった。ここまでは問題はなかったのだが、その後50m程度まめに方位磁石で進行方向を確認すべきであった。眼下に木ノ俣渓谷が見えているので進路を誤るはずはないと思っていたのだが、着目すべき木ノ俣渓谷の地形的特徴を見誤っていたらしく、すんなり尾根を辿るうちに北東に向かう尾根に入ってしまっていた。進行方向右側にずっと百村山が見えているので何で?とは思ったのだが、もし誤った尾根を下っているとしてもやり直しする時間と体力の余裕が無いため、標高1,000mから900mにかけてミヤコザサに被われた紅葉盛りの広葉樹林の尾根の雰囲気を満喫しながらそのまま勘頼りで進行。

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標高900m付近


本来辿るべきであった尾根と下った尾根は構造が良く似ている。標高900mでいきなり地形図と方位磁石を引っ張り出しても、遠くの特徴的な地形を参考にできなければ現在位置など判るはずがない。とりあえず真北に向かって降下。本来ならば左右どちらも一様な勾配の斜面が続くはずなのに、急勾配の谷筋に向けて下っているような感じ。笹薮が無いし、発電所の管理道にも出合わないので、下るべき尾根を誤ったことを確信。885mポイントの先にある崖と谷筋以外はどの方面に向かっても降りられるはずなので、右手の尾根筋に移動して適当に下っていくと平坦な植林地に降りた。こんな場所の存在を知らない。???当初の予定地よりもはるか東側にいることだけは確かだ。この植林地が結構広くて、すんなりと木ノ俣川沿いの林道に出られない。鉄塔のある辺りでようやく林道の上に達し、フェンスの無い場所で灌木に掴まって降り立った。植林地を北に向かえば最短距離で駐車地に出られたと思うが、落合方面を目指したために植林地(那須拓陽高校の植林地?)を端から端まで突っ切ってしまったようだ。

相変わらずお粗末な締めくくり。ほぼ予定通り無事に周回できたのだから良しとすべきか。誤って下った尾根が快適だったのが一番の収穫かな。

山野・史跡探訪の備忘録