鬼面山(須賀川市・天栄村境界尾根)訪問

年月日: 2015年5月3日(日)

行程: 駐車地出発(07:05)〜境界尾根の峠(08:35)〜採石場最高点(09:13)〜鬼面山山頂(9:35 - 9:52)〜峠に復帰(10:52)〜旧峠道探索(23分)〜駐車地に帰着(12:22)

地形図に記されている道路は山を崩して採石するために建設されたものであり、砂防堰堤から先は廃道で藪化しています。林道は車止めされており、周囲の山は私有地(地元の山林組合の所有地)で立入禁止です(罰金3万円)。地元の迷惑になりますので地名を一部伏せています。

連休に単独で帰省するにあたり、昨年10月以来久しぶりに自動車(レンタカー)のステアリングを握った。猪苗代の実家に向かうついでにどこかで軽く山歩きすべく、地形図で人に遇う可能性の無い藪山を物色。栃木でそのような場所は少々ハードな行程とならざるを得ないし、下山後に猪苗代まで移動するのに時間がかかる。よって、福島の山で遊んでいこう。猪苗代湖南側の山域には標高1,000m前後の均整のとれたピークが数多く点在する。その中で、須賀川市(旧長沼町)と天栄村の境界にあって等高線が抜きん出て美しい鬼面山に着目した。鬼面山の等高線の形状はあたかも巨大な前方後円墳の如し(注釈1)。鬼面山の西南西約1.5qに位置する丸山はさしずめ巨大な円墳といったところか。

2日の夜に車を借りて天栄村の秘密の場所で車中泊。翌朝、目を覚ましてみると曇り空であった。快晴の予報だったはずなのにがっかり。気を取り直して目的地に近づいていくと、山々には陽が当っている。放射冷却で低空に雲が発生していただけで、山は快晴であった。ヤル気復活。

林道に車止めがあり、且つ山にも立入禁止とのことなので、誰にも咎められない空地に車を置いて、集落を通らずに沢沿いに林道に入った。ゲートの先に大きな砂防ダムがあり、堤頂の向う側に続く道が現役の林道であるようだ。地形図記載の道は何故か廃道である。廃道を歩いていく分には咎められることはあるまい。そもそも廃道では人に遇う可能性も無い。

鬼面山
砂防ダム堤頂から見る鬼面山(帰りに撮影)


藪化した廃林道を歩いていくと、地形図を見て予想していた通りの荒涼とした広大な空間に飛び出る。大規模に山を崩して採石した跡で、植生回復の為に足尾の松木沢の如くヤシャブシが植栽されている。削られた斜面は武甲山の如し。

鬼面山,採石場跡
採石場跡(帰りに撮影。正面の段の上に沼が存在する。)


採石場は一面の平坦地ではなく大きな段差があって直進しにくい。かといって、大きく折れ曲がりながら高度を上げる道跡をたどるのもかったるいし、ヤシャブシが倒れていて歩きにくい。適当に進みやすい場所を選んで釈迦堂川源流部に抜ける峠に接近。峠の先に地形図に記載されていない廃林道が続いていた。帰りに時間が余れば探索してみる。

峠から境界尾根の藪の薄い稜線を辿った。丸めて放置されたワイヤー類は山仕事用の物なので、過去に伐採が行われたことがあるらしい。程なく、採石で削られた斜面の西側の際に至る。概ね楽に登っていけるが、中間に一ヶ所危険個所在り。危険個所の上部は遮る物が無い分、眺めは秀逸。

鬼面山から見る猪苗代方面
猪苗代方面


実家のある辺りが見えるということは、実家から猪苗代湖の南側に見えるモコモコとした幾つかの山の一つが鬼面山だったのか。

飯豊山,背炙山の風車
飯豊山と背炙山の風車(手前の山は分水嶺)
鬼面山南峰
間近に見える鬼面山山頂
那須方面
那須方面
二岐山
二岐山
採石場最高点
採石場最高点は樹木に被われている。
       


南側は腰高のチマキザサ藪で踏み跡無し。植林されていないため、新緑の頃は周囲の地形を確認できて雰囲気がよろしい。あのポチッと見えるのは俺のレンタカーだな。鬼面山が駐車地から見えていたとは知らなんだ。

国道294号を遠望
国道294号を遠望
須賀川市方面
須賀川市方面


尾根幅が狭まると両脇に急峻な斜面を見下ろして歩く。踏み外す危険はないものの、万が一落ちたら100m以上止まらない斜面を見ると高度感がある。傾斜がきつくて近づけない場所にムラサキヤシオが咲いていた(コンデジの電子ズームで撮影。)。

ムラサキヤシオ
ムラサキヤシオ


尾根が鬼面山北側にぶつかる場所にブナの大木が残っており、チシマザサの藪が存在する。分水嶺から離れた場所で氷河期の遺存植物であるチシマザサが生き残れる環境は数少なく、且つ点在する個々の生育環境も狭い範囲に限定されている。

登りきった場所に標柱(図根点かな?)があって、戻るときの降下点の目印となる。ミズナラの樹林とチマキザサに被われた穏やかな山頂部を南進して三角点に到達。

鬼面山山頂の様子
山頂の雰囲気(来た方角)
鬼面山三角点
鬼面山三角点・1021.3m
          


ここまで人の形跡が一切なかったのに三角点の傍にだけ新しい赤布が一枚付いていてちと残念。どうせなら最後まであって欲しくなかった。後から着た者に対して先行者がいたことを思い知らしめるのが目的なんだろうか?この人はどこから登ってきたのであろうかと思い、南側の斜面をしばしうろついてみたが他に赤布は目に入らなかった。誰でも簡単に見つけられる三角点の場所を示す必要は無いので赤布を除去。福島の道無き山に残すのは思い出だけで結構。山名板や赤布の類は残して欲しくない。

この山はどこからでも簡単に登れる山ではないし、駐車地に戻る必要上、概ね往路を辿って戻らざるを得ない。あの嫌らしい場所をどうやってかわそうか。東側の際をしばし下ってから採石場斜面を横切って往路(西側の際)に行ってみたのだが、嫌らしい場所の直上だった。時間のムダだったな。うーむ。安全に下れる保証が無い。ロープの類も持っていない。あきらめて東側の際に戻った。

鬼面山の採石場跡を俯瞰
採石場跡の一部を俯瞰(中央下に沼在り。)


下方の広い段まで降りるべく東側斜面のアスナロのひどい藪を下っていくと、採石場の広い段と現在地の間は薙になっており渡れない。広い段の直上は岩場になっており降りられない。薙最上部に生えている木の枝をつかみながら斜め下の広い段の端に向けて慎重に移動。採石場際の下りは東側も西側も怖い。

幅広の段を西側に移動して峠跡に復帰。

ウリハダカエデ
ウリハダカエデの新葉と花が鮮やかだ。


時間がたっぷりあるので峠道を探索してみる。高度を保って境界尾根の斜面に延びる車道の跡は途中で終わる。その先はさらに旧い時代のやや細い道でやや荒廃しているが、現役の頃は荷車を引くことは可能だったのではないか。現在は辿る者無く、路肩に獣道が残るのみ。

この調子なら馬入峠方面の破線路に簡単に抜けられそうだと思った矢先、道跡が崩落消失している場所に至った。ちょっと高巻けば問題なくクリアできそうではあるが、疲れて戻ってくる時に何が起きるか判らないので安全第一で退却決定。予期していなかった廃道の実態を確かめられただけで満足。

安全策をとったはずだったのに、峠道を戻る途中で蔓に足を取られ、地面に手をついた際に左の掌をやや深く切った。自分の場合、事故は十中八九、帰り道、しかも帰り着く寸前に起きる。じわじわと滲む程度の出血だがなかなか止まらない。先ずは止血すべく、汗拭きタオルで傷口を押さえながら下山。

廃林道の直進区間で登ってくる2人組に遇った。やばい。地元の人に見つかっちゃったか。何か文句言われるかな?向うもこちらの存在に驚いて緊張しているように見える。「上でやってきたんですか?」と問われた。咄嗟には理解できなかったが、上流で釣りしてきたのかという意味だった。彼らは釣りが目的だったようだが、この辺りの河川は解禁していたっけ?

掌に負傷したものの、自分好みの山歩きができて満足。駐車地から鬼面山が見えることを確認して、次の目的地に向かった。

注釈1 北峯に出ている巨巌が鬼面山の名の由来とのこと。現在の三角点のある南峯はトチブと呼ばれていた。
     長沼町の伝説 -028/224page より。
     "巨巌"が採石地東端の岩場を指すのか、それとも採石によって失われたのかは不明である。

山野・史跡探訪の備忘録