名勝沼 〜 甑峠(矢島街道) 〜 女甑山 〜 男甑山

年月日: 2015年10月22日(木)

行程: 甑林道通行止め・標高約400mから出発(時刻不明、08:30頃?)〜登山道入り口通過・標高595m辺り(09:10)〜甑林道から甑峠に向かう矢島街道入り口(時刻不明)〜名勝沼北端に立ち寄り〜甑峠・標高735m(10:10)〜山形県側標高670m地点から折り返し〜甑峠復帰(10:26)〜女甑山・979m(11:00)〜男甑山・981.3m(11:45-55)〜県境を西進してから秋田県側に下って登山道分岐〜名勝沼南端〜登山道分岐に復帰(13:10)〜駐車地に帰着(14:20)

名勝沼
名勝沼


会社の制度上は5日まとめて連続して取得することになってはいるが、5日連続で休みもらっても外国に行くのは面倒臭いし移動だけでも疲れるし金も無い。5日もまとめて休むと自分の首を絞めることになるので3日と2日に分ける人が多い。秋は田舎の親への顔見せついでにどこかで紅葉を楽しめればそれで十分。

10月下旬ともなれば標高1000m以上では紅葉が終わっている。福島県内で誰にも遇う可能性の無い標高1000m以下の低山帯を縦走することを検討していたのだが、出発前日になって紅葉狩り目的で少し遠出してみようという気になった。とはいっても、登山そのものには関心が無いもので、思い浮かぶ候補地は数少ない。7年前に本屋で立読みしたガイドブックの写真を見て関心を持った甑山のことを思い出した。7年前の秋、西津軽から戻る途中で立ち寄ろうとしたものの、予備知識が無くてアクセス方法が判らずあきらめた。紅葉愛でるにはちょうどよかろう。

秋田県と山形県の県境に位置する甑山は男甑山も女甑山も断崖を有し険しい山容を呈する。なんとなく小鹿野町の二子山に通ずる雰囲気があるが、少なくとも地形図の破線ルートを辿る分には二子山ほどの危険性はなさそうである。地形図上の女甑山には破線路が描かれていないが、出発直前にウェブ上で、秋田県側から男甑山に登り、コルから女甑山を越えて甑峠に抜けた記録を確認。但し、女甑山から甑峠への急勾配の下りのほとんどをロープに頼って後ろ向きに下ることになりそうだ(予備知識はこれだけ。)。最新の整備状況が不明であるので、途中まで降りて行って行き詰る怖れがある。完治していない右足首が下りに耐えられるかどうか不安でもある。このため、甑峠から女甑山に登って勾配の緩い斜面を下ることにする。

由利本荘市と真室川町のどちからからもアクセスできるようであるが、車でアクセスし易そうな秋田県側の甑川沿いのルートを選択。朝方に甑山の写真を撮るべく、最初は甑山山頂には向かわず名勝沼からコルを越えて山形県側に下り、山形県側から甑峠に上がって女甑山〜男甑山と縦走して戻るつもりであった。

21日9時にレンタカーを借りて、国道4号線と13号線を繋いで秋田県の道の駅おがちに着いたのが21時半。山形と秋田の県境では気温が5℃を下回っていた。流星群が観察できるとのことであったが、それどころか、夜半、激しく降雨。22日朝方、山々に掛かった雲がとれて青空が覗くまで、途中にある院内銀山で時間つぶし。史跡巡りしているうちに青空が覗き出したので、松ノ木トンネルと西久米トンネルを抜けて向赤倉から笹子(じねご)川沿いの道に入った。笹子川沿いの道に入る直前に赤倉の方から直進していった1台の車がいた。西久米で道路脇で一時停止していたので先行。甑川沿いの林道に入ってすぐにテープで通行止めされていた。手前の4台程度駐車可能なスペースに車を停めて空模様を眺めながらどうしようか思案していると、さきほどの車もご到着。この方も登山者で、途中で道を確認していたようだ。

小柄な年配の男性登山者はさっさと準備して出発していった。現在地は予定していた登山口よりも3q以上手前である。まだすっきりと晴れ上がってはいないが、林道を歩いているうちに天気が好くなることを期待して、自分も10分ほど経ってから出発。甑林道はバリバリの現役であって、整備状況も良い。小規模な崖崩れが通行止めの唯一の理由である。今回はたまたま運が悪かっただけで、普段は登山道入り口手前の広場まで車で入れると思われる。

甑林道の崖崩れ
甑林道の崖崩れ箇所(帰りに撮影)
登山道入り口手前
登山道入り口手前の広場(帰りに撮影)


白い柱には「甑山登山道入り口」と書いてある。これだけなら右側の道に入ったと思うが、その下に落ちている道標の表示に惑わされた。甑峠と名勝沼方面は左側の林道を指している。甑峠に向かう道(矢島街道)からも名勝沼に向かうことができることを意味しているのだが、地形図には甑林道そのものが記載されていないため冷静に判断できなかった(名勝沼経由でコルに至る破線路が右側の道の途中から分岐していることは帰りに確認できた。但し、案内は無い。破線路が何度も沢を渡渉するのに対し、地形図に記載の無い最新の登山路は沢を渡渉せずに県境尾根に上がるルートであるようだ。)。

登山道入り口
登山道入り口


林道を選択した時点で地形図の破線路を追う必要がなくなってしまった。あとは道なりに適当に進む。林道をしばらく進むと名勝沼入り口に至る。

名勝沼入り口
名勝沼入り口


この入り口から続く道は林業関係者が最近つけた作業道のようだが、かつての破線路と重なっているのかもしれない。さらにこの道から名勝沼に至る踏み跡が分岐する。北側から名勝沼に立ち寄る登山者は少ないみたいで、岩と倒木だらけの不安定な場所に続く不鮮明な道を辿る。右足首に不安があったので途中で引き返そうかと思ったくらいだ。

女甑山の麓、特に名勝沼の周囲一帯にはカツラの木が多い。カツラの落ち葉特有の綿あめのような甘い香りが漂っていた。

名勝沼(北側から)
名勝沼(09:50頃)


釣り人の習性で魚がいないかと目を凝らすと、なんと数匹の魚を発見。人が放さない限りこんな場所に生息する魚はイワナくらいしかありえないのだが、いつごろどういう経緯でこの地に入り込んだものだろうか(2021/07/10加筆。イワナではなくてギンブナの可能性大。)。

これまでの踏み跡の様子ではコルに上がる道など存在しないのではないかという気がしてきた。確実性最優先でコルに上がる案を放棄し、甑峠経由で一旦山形県側の眺めの良い場所を目指す案に変更。

甑峠に向かう道は途中から参勤交代にも使用された昔の街道の雰囲気を残す道型に変わった。付近の落葉樹林の雰囲気が良い。但し、街道の反対側は植林である。

甑峠付近の雰囲気
甑峠付近の紅葉


とりあえず甑山の写真を撮れそうな場所まで山形県側に下ってみる。山形県側の広大なブナ林が見事だ。樹木が太くて原生林なのかと思ったのだが、明治時代に伐採されて以降に育った二次林であるのだそうな。峠に残る巨大なホイールのようなものは運材目的で用いられた施設の一部か。

甑峠の案内
甑峠の案内標示
運材索道用のホイール?
甑峠に在る運材索道用のホイール?


葉の落ちた樹木の梢越に見える女甑山の東側は絶壁である。あの山本当に登れるのか?街道跡は視界の開ける場所に至らないまま高度を下げて行ってしまうので、写真をあきらめて峠に引き返した。

いよいよ本日の行程の核心部。最初からきつい勾配の連続だが、表面の土壌に小さくステップが切ってあって足掛かりが得られるため、予想していたよりも楽。徐々に切り立ってきて、足踏み外したりバランス失って後ろに引っくり返ったら滑落確実な場所が次々に現れる。日陰の危険な場所で風に吹かれると生きた心地がしない。早く怖い所から抜けたい一心で、なるべく下を見ないようにして(どうしても足元に注意すると見えてしまう。)トラロープと木の根を頼りに一気に登ってしまった(4日前に山形市民登山愛好会の中高年の団体様がここを登っていた。恐れ入ります。)。後でよく考えてみたら、ロープの結びや上方の劣化状態を確かめずに登るというのは愚かな選択であったかもしれない

女甑山の肩まで上がって、ようやく景色を眺める余裕が生まれた。前森山の北側を巻いて行く矢島街道に沿って植林の帯があるのが判る。もう少し街道を下っていけばあのポッカリと開けた笹原らしき場所に出られたのか。広めに地形図コピーしてくればよかった。

女甑山の肩から見る山形県側(前森山)
女甑山の肩から見る山形県側(前森山)


稜線は狭く、最近刈り払いされたばかりのようだ。刈払前はある程度藪化していたと思われる。最後の難所も一気に登って女甑山山頂到着。

ゆっくり休憩しようと思ったらタッチの差で南側から登山者が現れた。今朝、先に出発した男性が男甑山経由で登ってきたのだ。健脚者である。「甑峠には下らず、名勝沼を見て戻ります。」とのこと。お先にコルに向けて下山開始。

丁岳山地と鳥海山方面
丁岳山地と鳥海山方面
女甑山側から見る男甑山
女甑山側から見る男甑山


右足首かばいながら慎重に下りた。コルを跨ぐ破線路は明瞭である。知っていたら当初案を試せたのに。残念。

女甑山は怖くて疲れも感じずに一気に登ってしまったが、男甑山に登る過程で足の疲労が出てノロノロ。男性は予定通り行動したらしく、名勝沼に向けて下っていく鈴の音が聞こえてきた。

男甑山側から見る女甑山
男甑山側から見る女甑山
名勝沼を見下ろす
名勝沼を見下ろす


男甑山山頂で昼食休憩。ウェブで見たエロ岩は山頂の東南東に出張った場所にある。これが男甑山の名の由来か。

男甑山の突起
男甑山の突起(背景は前森山)


まだ正午で時間はたっぷりある。コルから山形県側に下ってみたい誘惑に駆られしばし躊躇。往復区間と重複区間をできるだけ短く留めたい嗜好である。コルに戻るのも、甑峠越えを繰り返すのも嫌だし、既に山形県側から写真を撮る時合を過ぎている。県境沿いの登山道を下った。

女甑山と名勝沼
女甑山と名勝沼
県境のブナ
県境のブナ


登山者が少ないので稜線上の道は荒れていない。真室川町側から男甑山を巻くように上がってくる登山道の状態も良さそうであった。

破線路に相当する道を辿って県境から離脱。正規の登山道のはずなのに歩く人は少ないようだ。最新の登山道は県境をさらに進んだところから下っているようである。

標高700m 前後の残り紅葉
標高700m 前後が残り紅葉の見頃。
       


まっすぐ戻らずに分岐点から名勝沼に立ち寄り。うむ。南側から見た方がきれいだ。

名勝沼(南側から)
名勝沼(13:00頃)
ウィルソンカツラ
ウィルソンカツラ


ウイルソンカツラは巨大な洞しか残っていない。その横に伸びているのが実生でないとしたら、ウィルソンカツラはまだ生きているということになるのだろうか。現地に名の由来の解説はないが、後日ウェブで得た情報に拠れば、屋久島の巨大杉の切株(ウィルソン株)にちなんでつけられたという。ということは見つかった時点で既に株だけだったということか。

正規の登山道(破線路)は何度も沢を跨いでいく。足場が悪く決して歩きやすい道ではない。そのためか、地形図に記載の無い作業道との合流点には何も標示がなかった。

秋田側から見る甑山
登山道入り口近くから見る甑山(13:40頃)


あの男性は既に帰った後で車がなかった。別の車が一台停められていたけれども登山者のものであったかどうか不明。

山野・史跡探訪の備忘録