タワ尾根〜天祖山 (2017年4月)

年月日: 2017年4月30日(日)

行程: 武蔵浦和(05:12) 〜 (05:38)西国分寺(05:50) 〜 (05:55)立川(06:04) 〜 (06:34)青梅(06:35) 〜 (07:18)奥多摩(07:27) 〜西東京バス〜 東日原バス停(07:55) 〜 一石山神社(08:15) 〜 1,007mポイント(08:59) 〜 ミズナラの大木・標高1140m付近(09:29) 〜 金袋山・1326m(10:00) 〜 ウトウの頭・1588.0m(10:53) 〜 長沢背稜巻道出合・標高1675m(11:40) 〜 水松山・1699.2m(12:12) 〜 (13:14)天祖山・1723.3m(13:30) 〜 天祖山登山口(15:07) 〜(汗拭き・着替え10分) 〜 (16:00)東日原バス停
(16:17) 〜 (16:45)奥多摩(16:54) 〜 (17:56)立川(17:59) 〜 武蔵浦和(18:35)

自車を所有していた2011年から2013年にかけて秩父の尾根を繋いで長沢背稜を細切れに歩いた。長沢背稜(東京都・埼玉県境界尾根)の東京都側の多くがカラマツ植林地であるため奥多摩側の山域にあまり関心が無かったのだが、近場の山歩きからほとんど足を洗った感がある今頃になってふと日原の尾根に興味を抱いた。長沢背稜に接続する顕著な尾根が何本かあり、地形図の記号を信ずる限り落葉広葉樹林も少なからずありそうである。ハイカーの多い奥多摩といえども日原の尾根ならば静かな山歩きが楽しめるかもしれない。

幾つかの候補のうち、日が長くて且つ木々の芽吹き前で見通しの良い今の時期に適した日帰りコースを検討。東日原バス停を起点として、ウトウの頭の尾根を登って長沢背稜に至り、天祖山の尾根を下る周回を試してみたい。尾根上は気持ちよさそうだがどちらの尾根も取り付きが急峻であることが難点。行き当たりばったりの出会いを期待して意識的に事前調査をあまりしない主義であるが、さすがに今回は取り付きの調査だけは行った。ウトウの頭の尾根(タワ尾根という呼称は現地に行くまで知らず。)には地形図上の記載はないものの、かつて登山道が整備されたことがあって今も一石山神社から上がれるらしい。問題は天祖山の下りだ。ほぼ崖のような勾配の斜面に登山道が設けられていて、過去に何人か滑落死している。こんな所に行くハイカーは危険感覚が麻痺しているタイプが多いのでその記録はあまり信用ならんが、最近の記録を見る限り通行は可能なようだ。

奥多摩駅から日原行きのバスは増便が出て座ることができた。同じバスの乗客で日原鍾乳洞方面に向かった客は自分一人。

稲村岩


昨晩よく眠れず頭が重く心臓の鼓動も速い。明暗の輝度差が大きい天気の良い日は眼からくる刺激で頭痛を発症しやすい。あらかじめ葛根湯を飲んで登り開始。一石山神社から続く登路入口にあった昨年のクマ目撃情報のお知らせを見て、これから登ろうとしている尾根の名称がタワ尾根であることを認識。「モノレールとの交差に注意」旨の案内もあるが、周囲にモノレールは存在しない(その意味は後で判明。)。

一石山神社


取り付き付近のやや不明瞭な場所を除き、道を見失うことはない。真新しい靴跡があったので先行者がいる模様。所々石段や樹種名が書かれた板が残っており、ウェブ情報通りかつて登山道として整備されたことがあったことを物語る。現在は、通行禁止とはされていないものの一般ハイカー向けの案内は無い。取り付き部が藪の無い急斜面で危険であることがその理由なのだろうか?足を滑らしたら確実に立木に激突死する。汗をかかないようゆっくりと200m超急登して尾根に上がった。ベンチで朝食休憩。

石灰岩地域の山には酸性土壌を好む笹類が全く存在せず、林床がすっきりとしている。燕岩から続く石灰岩地帯を抜けて1007mポイント着。尾根南西側斜面はヒノキ植林だが、尾根上と尾根北東側斜面はおおむね手つかずの落葉広葉樹林で雰囲気がよろしい。

1150m付近


林床の植生は極めて貧弱。ポツポツとエイザンスミレを見かける程度。

エイザンスミレ
フデリンドウ


登山道は稜線からはずれてミズナラの巨木に寄り道する。この辺りは落ち葉が厚く積もっていて道が不鮮明なので適当に高みに向かって進む。すっきりした林の中で嫌でも目印が目に入る。下りは道を見失う可能性が高いが、危険を感じたら引き返すこと。そのうち目印が見つかるだろう。

後日知ったことだが、このミズナラを囲むように倒木や枯れ枝を置いてウッドサークルと称し、その中に入らないようにとの注意書きがあるらしい。小生はその反対側からミズナラに近づいたので注意書きには気付かず。注意書きを見ていないのでウッドサークルはただの障害物にしか見えなかった。周囲が踏まれるとミズナラの樹勢が衰えるというのが立ち入り制限の理由のようだが、そんな制限したところで死にかけた樹木の樹勢は戻らない。事実、小生が訪問した時は既に幹がばっさりと折れてしまっていた。

ミズナラ大木


1,176mポイント(人形山と呼ばれているらしい。)一帯にはミズナラ大木が林立する。標高1,250m以上で一旦尾根幅が狭まり、再び尾根幅が広がるとまもなく金袋山(1,325mポイント)到着。

金袋山


ここに至るまで絶えず小鳥のさえずりを聞くも、獣の気配は一切無し。シカ糞すら見ない。餌となる植物が存在しないことがその理由か?

シャラ?


1,456m ポイントで休憩中の夫婦らしき二人に挨拶して先へ。ウトウの頭に向けて急登する区間で若い男性1名が下ってきた。地形図を見てウトウの頭の前後は穏やかな稜線を想像していた。現実のウトウの頭は岩がちで複雑な地形をしており、アセビと針葉樹に被われている。

ウトウの頭・1588.0m


ここまで事前計画通りのペースで進行。葛根湯飲んだおかげか今のところ頭痛は発症せず。計画通り長沢背稜を目指す。ウトウの頭の北西鞍部は崖で稜線沿いには進めず、尾根南西側の巻き道を辿る。1,602mピークに上がってみると孫惣谷からモノレールが上がってきており、一気に興醒め。モノレールめ、稜線のど真ん中に数百mにわたって敷設されておりとっても邪魔。この辺りに植林ないのに何を目的に設置したものか不明。

モノレール


長沢背稜の登山道と出合う直前に単独の男性が下ってきた。タワ尾根で出会った登山者は計4名。辿る人は少なくないようで、事後にウェブで検索したら数多くの記録がヒットする。タワ尾根は決してバリルートではなくごく普通の登山ルートといった感じ。取り付き部こそ嫌らしいが、総じて魅力的な尾根であると思う。

長沢背稜登山道出合


この辺りの長沢背稜は2012年に訪問済み。今回は滝谷の峰に上がらず巻き道を行く。この日のコース中で滝谷の峰ヘリポートからの眺望が最も優れると感じた。

天祖山
秩父方面


水松山三角点に再訪し、写真を撮ろうとしてしゃがんだときに軽く頭痛がした。ついに発症したか。ノーシンを服用し、早めに下山すべく1,710mピークに行く計画を放棄して巻き道に下る。

水松山三角点・1699.2m


天祖山に向かう登山道は幸いなことに1662mピーク東側を巻いており、頭痛を悪化させずに済む。

1662mピーク東から見たタワ尾根・ウトウの頭


鞍部に向けて標高1600m辺りのトラバース道をゆっくりと下っていくと、左前方の斜面を登ってくるクマを発見。今朝でかけるときクマ避け鈴が見つからなかったので音の出るものを着けていない。当方は奴の斜め後方に位置しているため奴はまだこちらに気づいていない。このまま双方が進行すると登山道で鉢合わせする可能性が高い。先手必勝。手をパンパン叩いてお知らせすると、奴はこちらの位置を把握することなく慌てて斜面を駆け上がっていった。目撃した唯一の獣がクマとはね。植生が貧しく食い物がなさそうなこの山域でいったい何を食べて生きているのか不思議。

鞍部から天祖山頂上に向けた登りが本日の最後の登りとなる。1,671mポイントの辺りで男性2人組が下ってきた。彼らも鈴を着けていなかったが、用心深いクマが戻ってくる可能性は低いのでクマと遭遇する恐れはないであろう。

息が上がり始めると軽く頭痛がぶり返す。ゆっくり深呼吸しながらなんとか登り切った。

天祖山にある神社を見るのを楽しみにしてきたのだが、なんかいまひとつ親しみも、麓住民による信仰の歴史の重みも感じられない。ただ排他的な雰囲気が漂う。少し下った場所にある社務所も同様(ウェブ情報に拠ると、日原の神様ではなくて天学教の神社であるとのこと。)。

天祖山神社


ノーシン二包目を服用して下山開始。天祖山の登山道は悪路である。天祖山は石灰岩の塊であり、稲村岩を思いっきりデブにしたような構造をしている。稜線部は尖った石灰岩がゴツゴツしており、且つ落ち葉が厚く堆積して不鮮明な場所が多い。落葉の下に隠れている岩の突起に勢いよく足を着いたら怪我するので、ザバザバと落ち葉の中を探りながらの下りとなる。躓いたら滑落死しかねない場所が連続する登山道歩きはクマよりはるかに怖い。何でこんなところに道設けるかね。アホの所業にしか思えん。孫惣谷からのルート(2017年現在通行止め)を再整備した方が良いのでは?

どの辺りだったか、中間地点にも古い社殿らしき廃屋があって太鼓が残されているところを見ると、昔はこんな場所でお祭りが行われたこともあったらしい。

石灰岩の山らしく植物が貧弱。岩ゴツゴツならばツツジが定番だが、ツツジは酸性土壌を好むから石灰岩の山では個体数が極めて少ない。ツツジの季節なのにツツジが乏しいのが今回の山歩きで唯一物足りない点。

ネコノメソウ
トウゴクミツバツツジ


登山道入り口直前の下りは特に危険。過去に何人か滑落死したというのが頷ける。天祖山を総括すると、ただ危険なだけで登る価値無し。

林道に降り立って安堵。平地を歩く分には頭痛が悪化する心配も滑落する恐れもない。ヤマブキを愛でながら順調に東日原バス停到着。予定より一本早い便に乗って日原を後にした。

山野・史跡探訪の備忘録