足尾のアカヤシオ鑑賞 (2019年5月)

年月日: 2019年5月19日(日)

行程: かめむら別館手前の足尾銅山社宅地跡出発(05:48) 〜 天狗の投げ石を過ぎてから庚申川を渡渉(06:57) 〜 尾根筋に移動(07:09) 〜 標高1,300mで休憩(07:49) 〜 雨降沢ノ頭(時刻不明) 〜 (09:15)小法師岳(10:30) 〜 雨降沢ノ頭復帰(時刻不明) 〜 1425mピーク(10:58) 〜 北夜半沢経由で小滝に下山(12:30) 〜 車に帰着(12:48)

今年はアカヤシオの当たり年らしい。ちょうどお気に入りの場所のアカヤシオが見ごろを迎えているはず。最後にアカヤシオを見たのは3年前のことであり、足尾の山域を最後に歩いてから6年経っている。久々に訪ねて見たいと思った。

この山域、これまで確か7回登って、一度もハイカーに遇ったことが無い。特にこの時期は近隣のアカヤシオの名所がハイカーを引き寄せるため、自分の目的地に来るハイカーは少ない。日曜は曇りの予報につき、ほとんどのハイカーは土曜日に行動するであろう。今回も誰にも遇わない可能性が高い。

日曜早朝から行動するために土曜日夜にレンタカーを借りて現地で車中泊。できれば庚申川渓谷右岸の北に面した広大な斜面の探索をしてみたいが、午後7時までにさいたま市に帰りたいのでその余裕はない。往路は自身にとって未知の尾根を使用し、帰りは既知のルートで遅くとも午後2時までには車に戻るつもりであった。

深夜12時を過ぎて車中泊予定地到着。過去何度かここで車中泊したことがあるのだが、今回は時折通過する車の音やシカの警戒音が気になって、眠いのに眠れない。このままでは山歩きせずに帰ることになってしまう。携帯電話の電波の入りより静粛さを優先して午前1時を過ぎてから庚申渓谷に移動。沿道のあちこちで今年生まれた小鹿を含むシカの群れを何度も見た。全部で50頭以上いたであろう。銀山平の駐車地がどこにあるのか知らなかったので、かめむら別館手前の足尾銅山社宅地跡に停めた。川音が聞こえて安らかな気分。出発予定時刻を1時間遅らせて3時間程度の睡眠を得ることができた。

天気予報通り、曇り空。谷奥の山に雲がかかっているが、雲の流れが遅いので山上も穏やかであろう。せっかく印刷した地形図を自宅に置いてきてしまったが、下りのルートの地形図は頭に入っている。登りに使う尾根の取り付きさえできれば地形図は無くても構わない。取り付きに失敗したら計画を放棄して適当に近場の山歩きして帰るだけのことよ。スマホのタブに現在地の地形図が残っていたので高度計だけ合わせて出発。

庚申山に向かう道の入口付近に登山者用の駐車場がある。昔からここにあったっけ?この場所を通ったのは13年前も前のことだから記憶に残っていないだけか?

庚申山方面に向かって歩くのは初めて。過去3回はいずれも帰りに歩いたので、高度を一気に上げる丸石沢沿いの区間がやたらとつらく感じる。庚申渓谷を左にみやりながら歩く区間ではウワミズザクラの木が多い。大好きなウワミズザクラの芳香に包まれ、ヤマブキ、ヤマツツジ、ウツギの彩を楽しみながら歩ける。

最近たそがれオヤジさんの記録でも見た「坑夫滝」の表示のある場所に至った。13年前もこの表示を見た記憶がある。滝本体が道路から見えないし、降りられる場所もないし、その名の謂れも書いてない。そんなもの何で表示する意味があるのかと思ったものだ。近場に降りられそうな場所が無いので滝を拝むにはある程度の庚申川遡行が必須だろう。特別なこだわりのない自分には他者の公開する写真で十分。

天狗の投げ石を過ぎると庚申川が道路との高度差をどんどん詰めてきて、難なく川に接近できる。対岸(右岸)は思ったより険しいが、対岸の尾根にはカラマツが植林されているのだから、どこかに取りつける場所があるはず。しばし、左岸沿いにウロウロして候補地を見つけて靴を脱いで渡渉。水量は少ないものの、水が冷たいし、石を踏むと痛いし、滑って不安定だし、みじめなことこの上ない。

過去に登降に用いられたと思しき場所を10m程度登って、緩やかなカラマツ植林帯に抜けた。

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植林地内の藪はシカが忌避するコアジサイのみで、移動は容易。庚申川上流に向かって植林地を斜めに登って予定の尾根筋に到達。

標高1020m付近  07:09
銀峯方面


明瞭な道はないが辿りやすい。テープの類は全く見当たらないが、少なくとも伐採・植林時にこの尾根筋が登降に使用されたことは確かだ。

ミツバツツジは雄蕊が5本、トウゴクミツバツツジは10本とのことだが、その定義にあてはまらない個体が存在する。トウゴクミツバツツジと思しきこの個体は、どの花にも雄蕊が無かった。

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何ミツバツツジ?


地形図からは読み取れないが標高1500m付近に小さな鞍部がある。そのまま登りを続行することも可能なようであるが、踏み跡が水平に谷奥に続くので追ってみた。踏み跡が不明瞭になる辺りから適当に植林地を100m弱登って再び尾根筋に復帰。勾配の緩くなる1280mでようやく、シカに食われたミヤコザサがまばらに見えるようになる。ワイヤーの残る1300m地点で休憩。この辺りではシロヤシオがまだ蕾状態であり、過去の訪問時より季節の進行が遅れている。これは良い兆候だ。目的地のアカヤシオの状態に期待が膨らむ。

標高1300m付近  07:49
シロヤシオ


支流の谷に面した尾根西側斜面は勾配がきつくツツジ類の生育に適しており、1350m辺りから見ごろを過ぎたアカヤシオの木がちらほら現れるようになる。小法師尾根の標高1400m以下にアカヤシオは少ないと思っていたのだが、これまでは花期がとうに過ぎた頃に登っていたため気付かなかっただけ。特定の場所にこだわらなければ低所から高所まで一か月程度この山域でアカヤシオを愛でることが可能なようだ。アカヤシオを見たのは久しぶりなもので、道草して進行が捗らない。

標高1450mを超えると尾根北側斜面にアカヤシオを数多く見るようになる。アカヤシオは見頃を過ぎており、斜面に落花多し。そろそろコイツの出番だ。

アズマシャクナゲ


境界見出標らしき杭が北側斜面を下っていく場所があった。その近隣の樹木には番号が記載された小さなラベルが貼り付けてある。林班の境目なんだろうか?

1500m級のなだらかなピークに上がった頃には雲間から日光が射すようになり、山上の雲もとれつつあった。たそがれオヤジさんも記されているように、ここから見る雨降沢ノ頭方面の眺めがよい。ただし、この辺りのミヤコザサの丈は胸高であり快適とは言い難い。笹の新しい筍が伸びてアブが出てくる7月にこんな所を歩いたら悲惨なものだろう。此処から小法師岳を直接望めないが、その西側の1600mピーク北斜面にアカヤシオが咲いているのが遠目にも判る。

雨降沢ノ頭
1600mピーク遠望


雨降沢ノ頭にはかつて樹木の幹に原向方面を案内する標示があったのだが、それらしきピークには標示もなければ踏み跡もない。ここから見る庚申山の眺めに記憶があるものの、雨降沢ノ頭の近くにアカヤシオがこんなに咲いていたことはなかったので、雨降沢ノ頭であるという確信のないまま進行。

鋸山、皇海山、庚申山方面
ハウチワカエデ


ワラビが生える茅原を見て小法師岳に到着したことを知る。しばしワラビを摘んだ後、庚申渓谷に面する北側の縁に沿って満開のアカヤシオに見とれながら移動。


アカヤシオは酸性土壌で水捌けが良く且つ適度な日照があればどこでも生育可能と思うが、大木にならないしヤマツツジほどの耐陰性もないので、普通の広葉樹林内では樹木の生存競争に勝てない。岩がちの稜線部や崖のように乾燥して他の樹種が生育しにくい険しい環境に多く見られる。小法師尾根は南面がカラマツ植林でなだらかな稜線部が防火帯であるため元の植生が不明だが、少なくとも北の縁はまさにアカヤシオの生育に適した環境である。

例外的に防火帯にはみ出てひときわ立派に咲き誇るアカヤシオの木がある。このすぐ近くに三角点があるので、意図的に残された株なのであろう。

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小法師岳三角点にて


小丸山の北側斜面は遠目からもピンク色に見える。彼方もお祭り状態のようである。この週末、多くのハイカーで賑わったことであろうな。アカヤシオの海のようになっている場所もあると聞くが、植物間の競争原理だけが働く植生とは考えにくい。人為的なものが関わっているのかもしれない。


まだ「他人の二人」状態の蕾もある。色も褪せていない。これまでで最高のタイミングで訪れることができた。小法師岳の端から端まで稜線の縁が同じような状況。十分に満喫して、1600mピークには行かずに鞍部から引き返した。


適度な日差しがあって微風適温。1時間余り滞在し、ワラビのお土産をいただいて小法師岳を後にした。

1425mピークの稜線沿いのミツバツツジとシロヤシオはまだ開花しておらず彩なし。替りに、北側斜面にアカヤシオがまだ残っている。落花の量から推測して、ここのアカヤシオも見事なものだろう。

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1425m ピーク   11時頃


巣神山から延びる地形図上の破線路終点に大きなダケカンバの木が存在する。ここから左に分岐する防火帯を歩くのは8年振り。以前はもっとミヤコザサが深くて歩きにくかったように思う。シカの食圧に押されて衰退しつつあるのだろうか。


地形図忘れてきたので防火帯離脱ポイントを正確に把握できないが、標高1300m辺りで適当に斜面を下れば大丈夫。北夜半沢の奥部はゆったりとしたカラマツ植林地であり、何本かの浅い沢筋が合流するところまで藪も危険個所も無い。そこまで下れば自動的に踏み跡に至る。今回下ったルートの1220m付近に大きな炭焼き窯の跡があった。

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炭焼き窯跡


北夜半沢は沢通しで下ることも可能だが、左岸沿いの道を下るのが無難。ただし、標高900m〜1000mにかけて沢を離れる区間があって少々判りにくく、一貫して不安定なガレの上を歩くので注意が必要。

みかける野草はヒトリシズカだけ。たまにクワガタソウを見る。写真撮ろうとしてしゃがんだ途端に太ももが痙攣した。

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クワガタソウ


北夜半沢の社宅跡地の階段は実生で育ったスギが藪化し、枝葉がチクチクして痛い。サルの糞踏むことなく12時30分に無事車道に降り立つ。

さて、どこかで顔を洗いたいのだが、庚申川に降りられそうな場所が存在しない。駐車地の近くで備前楯山側から側溝に流れ出る水流をみつけた。無いよりはまし。車に帰着して着替え中に、猿田彦神社で太鼓演奏の奉納が始まった。この週末は猿田彦神社の春の例祭が行われているのであった。

かめむら別館入口経由で猿田彦神社に立ち寄り、車で仮眠してから午後2時前に帰路についた。午後になって天気が好くなり、渡良瀬川沿いの山肌のフジの花が綺麗だ。大間々の辺りではハリエンジュが満開であった。

山野・史跡探訪の備忘録