奥武蔵ハイキングその26・上名栗と浦山で植生観察 (2019年6月)

年月日: 2019年6月2日(日)

行程: 武蔵浦和駅(05:45) 〜 (06:48)飯能駅(07:10) 〜 名郷バス停(08:05) 〜 白岩の石灰鉱山事業所跡地(08:45) 〜 白岩集落跡見物 〜 鳥首峠(10:12) 〜 大持山(12:00) 〜 西尾根・標高810m地点(12:58) 〜 大神楽集落(13:45) 〜 県道73号(14:15) 〜 (16:25)浦山口駅(16:58) 〜 熊谷 〜 (19:22)武蔵浦和

植物にだけ興味ある方はこちらにどうぞ。

標高の高い所まで樹木の葉が開き切る6月は樹木の観察にうってつけ。傷みのない瑞々しい葉が美しい。早春に花を咲かせたクマシデの仲間は果穂を垂らし、カエデには翼果が実る。この時期に花を咲かせる樹木は芳香をともなうものが多い。植物、とりわけ樹木の観察ができれば風光明媚でなくとも飽きることがない。これまで6月の野外の遊びは渓流釣りやアユ釣りが主であったが、近場の低山で植生観察する機会も増やしていこうと思う。

とはいえ、せっかく出かけるなら未訪の場所も絡めたいという欲張り根性も依然として強い。未訪の白岩側から鳥首峠に至ることを第一優先事項として行程を計画した。鳥首峠の浦山側は植林が多くて退屈なので、大持山の南西尾根(西尾根)を下る。南西尾根は2012年に経験済みだが、今回は大神楽に下る。時間があれば山村をつなぐ破線路(「上郷径(うわごうみち)」の呼称は事後に知った。)を辿って大谷(おおがい)に抜け、浦山口まで歩くつもりであった。

晴れときどき曇りの予報の1日(土)に出かけるつもりであった。すっきりしない晴れの日は空が明るすぎて写真撮影に不向き。平日の疲れが抜けず起き上がる気力もなし。ハイカーが少ないことを期待して翌2日(日)に延期。

入間川(名栗川)沿いの道は過去何度か自家用車で通ったことがあるが、バスの方が景色が見えて楽しいし、運転のストレスを感じなくてよろしい。ちっこい河川なのに計10名ほどのアユ釣り客を見かけた。今年も那珂川の年券買っちまったことだし、そろそろ釣りの準備もせねばならんな。

飯能駅出発の上名栗方面行きのバスには立ち乗り客が出るくらいのハイカーが乗っていた。ハイカーの8割方はさわらびの湯から棒ノ峰に向かい、名郷で降りた残りのハイカーは自分を除いて蕨山に向かった。皆何を目的として景色が一切見えない雲の中の山頂を目指すのか?

向河原地区が最奥の居住地域であり、その先はキャンプ場があるのみ。バス路線の至るところで見かけたスイカズラが、この辺りでも沿道の日当たりのよい場所で甘い香りを漂わせている。沢に近い場所でオオバアサガラが白い花穂を垂らしている。この花は優しくふくよかな香りがする。

白岩キャンプ場を過ぎてしばらくすると谷が開け、鉱山事業所の跡地に至った。石灰石積んだダンプが走る埃っぽい場所を予想していたのだが、道路はきれいだし、眼前にはコンクリート製の基礎が残るのみ(帰宅後に調べて、2015年に閉山したことを知った。)。

武蔵野鉱業所跡地
下白岩から武蔵野鉱業所跡地を俯瞰


山肌に見える家屋を訪ねるべく、鳥首峠に至る登山道であるという認識のないまま事業所跡地に沿う山道を辿った。下白岩集落の立地場所の勾配のきつさに驚く。畑作ができるような緩斜面ではなく、勾配のある山肌を整地して造ったごく狭い場所に家屋が建てられている。

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最終的に放棄されたのは1985年とのことであり、家屋の造りは平地の一般的な家屋と同じ。車道が無いことを除けば、テレビも洗濯機も備わった普通の暮らしが営まれていたようだ。カレンダーや台所用品が残されており、住人が忽然と姿を消したかのようだ。

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消火活動できるほどの貯水施設はどこにあったのだろう。

消火栓


目にしたお墓は文化年代のお墓のみ。下白岩の共同墓地あったのかは未確認。

しばしモノレールと登山道が小さな沢の左岸側を並走。沢向こう(進行方向左手)にポツンと存在する家屋にも立ち寄り。

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白岩集落の近辺は場所を問わずオオバノイノモトソウがたくさん生えている。石灰石の採掘場がある栃木の三峰山(鍋山)も植林地内にオオバノイノモトソウが多い。こいつはアルカリ性土壌に強いのかもしれないな。

登山道はモノレールと交差して広くなだらかな上白岩に至る。手前側の家屋は採石場から流れ落ちてくる土石に押しつぶされそうになっている。朽ちて潰れた家屋が一軒、残り2件は比較的保存状態が良い。山の上方に向かう道があったようで、家屋より高い場所にも石垣で整地された場所が存在する。

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最近お参りした人はいない様子。
鳥首峠方面(道左側にも一軒在り。)


石灰石採掘場に至る車道を見かけなかった。どのようにして山の上に重機を上げたのだろう。地下通路があるのか?

白岩


最奥の家屋に置いてあったTVガイドを見る限り、住人が移転したのは1985年夏以降であると思われる。登山道に戻る際、1名の登山者が消火栓のところで休憩しようとしていた。拙者の存在に気づいて遠慮したのかもしれないな。ちょっと道草が過ぎた。

植林地内ではたくさんのガクウツギが開花中で嫌な匂いが充満している。早くこの匂いから逃れたい一心で、鳥首峠まで250m程度休みなしで登ってしこたま発汗した。

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鳥首峠 10:12


上名栗から浦山方面に向けて涼しい風が吹き抜けており心地よい。大持山方面に約100m登って、武蔵野鉱業所の区域に少し入り込んで身を隠せる場所で休憩。汗ぐっしょりの衣服を脱いで20分程度風にさらしてみたが、湿度が高いので全然乾かない。上半身下着一枚で登りを続行しようとして腰を上げた時、登ってくる一名の登山者を真下に発見。リュックの色がピンクだが、体型は細身の中年男性のように見える。びっくりさせたくないので先行してもらい、気づかれない程度の差を保ってついていった。

安曇幹線が撤去され、1059mポイント北の鞍部の開放的な雰囲気がよろしい。北の1140m級のピークには太いブナの林が残されている。個人的にツツジ類で最も美しいと思うのは広葉樹林内でひっそりと咲くヤマツツジ。ここのツツジは花が小さくて色も自分好み。

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ウノタワに至る前に南下してくる最初のハイカーに出遇った。先行者がウノタワで休憩しているので、ウノタワには立ち寄らずに北上。ウノタワから北は風の流れが弱くなった。横倉山は景色が見えなければ単に不快なピークでしかない。登山道傍らにはママコナが多数成長しつつある。

大持山南の鞍部では空気が停滞しており、上名栗側の植林内が怪しい雰囲気。

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大持山分岐に至るまでに計6パーティ、15人ほどのハイカーを見たが、皆きれいなジャケットを着込んでおり、自分のような上半身下着一枚姿の者はいなかった。あの格好で何で汗ぐっしょりにならないのかね。暑いときに山登りしている連中は病的に汗腺が少ないのではあるまいか。

ちょうど正午に大持山山頂到着。昼食休憩しているパーティが3組いた。早いとこ南西尾根を下りたかったのだが、入口に陣取っているパーティが下山するまで待って高度計を合わせて南西尾根下り開始。午後になって浦山側から風が吹き上がるようになり、適度な日差しもあって快適。目印の類は見当たらなかったが7年前より踏み跡が明瞭になったような気がする。

標高1150m辺りの地面にサワシバの果穂が落ちていた。今日一番のお目当てを発見。サワシバは湿気が高く、土が厚くて十分な水湿がある場所を好むという。その名の如く沢沿いを好む樹木なのだが、最初に出会った場所が尾根上だったのが意外であった。

大神楽に下るとすれば標高1100m地点と標高860m地点のいずれか。前者はやや勾配がきつくこまめに地図読みしないと正確に辿れない。勾配的には後者が有利だが、標高700mでうまくトラバースして北に下る枝尾根に乗らなければならない。今回は後者を試すつもり。7年前に見た幹にオオカグラと彫られた樹木はおそらく前者の位置にあったと思うのだが、見当たらなかった。それらしき樹木があったが、樹皮に黒い模様があるだけ。見落としたか?それとも樹木が傷を修復して文字が消えたのか?

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南西尾根の雰囲気・1142mポイント手前


標高950m辺りから下はスギ植林となるので落ちた枝を跳ね上げないように気をつかう。標高910mで西尾根に入り、標高860mの防護ネット上端に至る。ここまでは7年前と同じだ。標高860mで分岐する北西尾根と南西尾根の間の谷が伐採されて、それぞれの尾根稜線にネットが張られている。ネットの内側は藪化して見晴らしが失われていた。

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標高860m分岐


防護ネットの中は植林されているように見えない。標高810m付近ではネット内側に藪が無く眺めが得られる。残された一本の桐が花を咲かせていた。614mポイントの安曇幹線鉄塔も撤去されたようで裸地になっているのが見える。あそこに至れば鉄塔巡視路の名残を使って安全に下れそうだが、それでは大神楽の奥に降りる目的は達成できない。この近くでクマシデの果穂を見ることができた。

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標高810m付近から見た大平山方面


予定通り、標高700mで尾根を離脱し、東に向けて斜面をトラバース。シカ道があるので移動は容易。勾配の緩い尾根に移動できて順調に予定地に下山できると思われた。ところが、ここにもネットが出現。ネットに沿って移動してみたが、入口らしき場所が一切ないまま西側の谷に引き込まれてしまった。ネットは谷の傾斜のきついところに張ってあり、ネット沿いに移動困難な場所もある。大神楽には吠え犬が少なくとも2匹いるようで、時々激しい吠え声が響いてくる。こちらの足音が響く距離ではないと思うが、枯れ枝を踏んだり足元が滑ったりすると犬に感ずかれるのではないかと気が気でない。

ようやくネットの下限に廻り込むことができた。植林尾根を下っていくと水平に走る細い作業道に出合ったが、この道はどちらに移動しても下っていく様子がない。道を利用するのをあきらめて勾配の緩そうな場所から沢に降り立った。安堵して沢水で顔を洗う。沢の右岸側は水分を十分に保有しているらしく、植林地から沢に水が滲み出している。

至近距離に建物が見えるので予定地よりも大神楽集落に近い場所に下ったようだ。犬を避けるべく、建物から離れるように沢奥に向かって右岸植林地を移動して未舗装の道に抜けた。スギ植林地の中にも廃屋が幾つか点在し、キウイの棚が残っている。池が2つ連なり、上の池にはパイプから滔々と水が供給されている。湧水なのかそれとも沢奥から水を引いているのか判らないが喉を潤した。隣にももうひとつ空の池があるので、渓流魚の養殖をしていたのかもしれぬ。

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大神楽集落奥の池


犬に吠えられたけどトラブルなく武士平に至る車道に抜けた。武士平に向かうべく車道を歩きながらこの後の行程を思案。いつもの如く意図的に事前に情報を仕入れてこなかったので、武士平から茶平に抜ける道に入れるのかどうか不明。既に時刻が2時近く冒険する気になれず、上郷径をあきらめて秩父さくら湖沿いに確実に歩を進めることにしてUターン。

県道73号に下る沢沿いの車道は良い状態である。今の時代、車の運転さえできれば大神楽の環境は生活に適しているのではないだろうか。植林の中でたくさんのガクウツギが一斉に開花していたが、風向きの関係なのか鳥首峠に比べると匂いが気にならなかった。

県道73号出合いのバス停時刻表によると、次のバスが来るまで2時間待ち。浦山口まで歩いても2時間の距離。せっかくの機会だ。浦山川の渓谷沿いに歩くのも一興。特に、沢沿いの樹木が目線の高さにあるため樹木観察に適している。

県道73号線は幅が広くて交通量が少なくて概ね快適。歩道がイタドリに占拠されて通れない箇所多し。

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浦山大橋で良からぬ行為を目撃した。ブログで公開したのでこの記録上は省略する。

浦山大橋(南側から)
浦山大橋(北側から)


寄国土(いすくど)トンネル右側(さくら湖側)に浦山に関する説明板があり草刈もされているのだが、柵があって立ち入りできない。何でだ?

寄国土(いすくど)トンネル北側口
栗山尾根


所持している古いコンデジのちっこい液晶VFはマニュアルのフォーカス状態を確認しにくいため、撮る度に拡大再生して出来を確認しなければならない。大谷(おおがい)の近くでアカシデの果穂を撮るチャンスを得たのに、再生確認の手間を惜しんだが故に肝心のアカシデの果穂にピントが合っていなかった。それでもっと良い方法がないかとカメラの設定をいじくってみた。樹木の特定部位に焦点を合わせるには、AF枠を中央のみ、且つ枠を小さくして、フォーカスが合った部位を確認してから構図を合わせる撮影方法の方が有効かもしれない。買って10年も経ってから気づくとはね。

浦山口駅に至る最短経路がよく判らず、国道140号経由で大回りして到着。駅の多目的トイレで余裕で着替えを済まして、熊谷経由で帰宅。

個人的に印象に残った植物は以下の通り。

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ガクウツギ(アジサイ科アジサイ属)
鳥首峠東側の植林地内にて
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マルバウツギ(ユキノシタ科ウツギ属)
安曇幹線鉄塔跡の北側にて


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サワシバ(カバノキ科クマシデ属)
大持山南西尾根・標高1150m地点
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サワシバの果穂


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クマシデ(カバノキ科クマシデ属)
大持山南西尾根・標高800m地点
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クマシデ
県道73号沿い・寄国土トンネル南
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クマシデ
県道73号沿い・大谷の近くにて
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アカシデ(カバノキ科クマシデ属)
県道73号沿い・大谷の近くにて(ピント合わせを失敗)
画像クリック → 6月14日に郡山市・御霊櫃峠付近で撮影したアカシデ果穂の画像表示


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スイカズラ(スイカズラ科スイカズラ属)
県道73号沿い
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スイカズラ


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ヒメフウロ(フウロソウ科)
県道73号沿い
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ヒメフウロ


Wikipedia に拠ると、ヒメフウロの自生種は、伊吹山、鈴鹿山脈北部の霊仙山など、養老山地北部、四国剣山(石立山)の一部地域のみに分布し、その他の地域でみられるヒメフウロは帰化種であるとのこと。外見上は差異が認められない。

参考: https://yuusugenoniwa.blog.so-net.ne.jp/2014-05-25-1

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オオバアサガラ(エゴノキ科アサガラ属)
県道73号・浦山川沿い
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フサザクラ(フサザクラ科フサザクラ属)
県道73号沿い・大谷の近くにて


山野・史跡探訪の備忘録