ワレイワ沢・吉松平窪植林地(2020年11月)

年月日: 2020年11月1日(日)

行程: 標高720mの路肩出発(06:58) 〜 タカノス沢出合の作業道入り口(07:28) 〜 タカノス沢右岸の尾根筋・標高1100m(08:13) 〜 植林上限・標高1170m 〜 ワレイワ沢に東に下る尾根・標高1150m(時刻不明) 〜 東尾根・標高1260mで山立て(時刻不明) 〜 東尾根を下降して作業道出合い・標高1110m(時刻不明) 〜 標高1070mの飯場跡まで往復 〜 支沢左岸をトラバースして沢跨ぎ・標高約1110m 〜 支沢右岸をトラバースして北東尾根標高1130mをワレイワ沢側に回り込む 〜 作業道消失につき北東尾根に脱出・標高1180m(10:28) 〜 三峯神社に向かう登山道出合い・標高1700m (12:41)〜 御経平(13:10) 〜 舗装車道との交差(13:54) 〜 舗装路歩き 〜 車に帰着(15:07)

今回歩いた場所の正式な呼称が不明のため、本文中ではワレイワ沢標高1,000mに末端部を持つ、東向きの尾根を「東尾根」、北東向きの尾根を「北東尾根」と仮称します。

今年の8月に御経(お清)平の植生を見に行こうとして大血川西谷の調べものをしている過程で、サイト「樵路巡遊」で興味深い情報を得た。ワレイワ沢の標高1170m前後の吉松平窪に植林地が存在し、その地まで作業道を辿って沢遡行なしで行けるという。別の釣り人のサイト「秩父山塊の谿々」に拠ればワレイワ沢には山葵田の跡もあるとのこと。確かにその一帯は標高が植林向きであるし、勾配的にも植林向きの地形である。しかし、急峻な谷の奥地にあり、いったいどこに作業道が設けられているのか地形図を見ても判然としない。車道も軌道もない奥地で伐採・植林作業が行われていたことに驚きを禁じ得ない。遡行した沢屋の記録は滝と苔のことだけで植林地の情報なんか得られない。滝の多い沢には基本的に入り込まないのであるが、沢遡行なしで行けるのであれば吉松平窪の植林地を訪ねてみたいと思った。

8月11日にタカノス沢を途中まで遡行した際に、右岸斜面に作業道の入り口があることを把握。植林作業者が利用する道ならば容易に辿れるであろうと思い、8月22日に様子見に行ってみた。それらしき道筋はあったが危険度が高いので退却。タカノス沢とワレイワ沢の間の尾根の標高1110m以下をウロチョロしただけで汗ぐっしょりになって退却。

自分が見たものは作業道ではなかったのだろうか。道に頼らずに山腹を移動するなら、まず標高1150m以上まで高度を上げ、等高線のできるだけ緩い場所を徐々に高度を下げながら南に移動するのが自然だ。ワレイワ沢の標高1070mまではなんとか到達できそうである。しかし、その先は沢を遡行するしかないように思える。秋も深まってきたので、紅葉狩り兼ねて吉松平窪へのアクセスを試みた。

取水堰近くのカーブで出発準備をしている人がいた。コブギ尾根を登るのだろうか。自分はその20m上の広い路肩に車を置いた。

使用する予定はないのだが、保険のため沢靴、懸垂下降用具一式、テント泊装備を詰めて出発。3週連続の山歩きでだいぶ体力が戻り、さほど重く感じない。車道から見上げるコブギ尾根末端の斜面が紅葉真っ盛り。早朝は日光が当たらないので写真撮影に向かないのが惜しい。タカノス沢出合いに至ったころに寒さで悴んだ手がようやく温まってきた。

オレンジ色のテープがついているが、その方向は前回試してまともな道とは思えなかった。ジグザグの作業道を丁寧に辿ってみたが、作業道は標高1,000m辺りで不明瞭となる。つまり、ワレイワ沢奥に向かう歩きやすい作業道なんてものは存在しないのである。作業道に期待せず、標高1150m以上まで高度を上げて等高線幅の緩い場所を移動することにする。

植林が疎らな場所で矮小な植物が花を咲かせていた。今までこんな植物見たことがない。あったとしても蟻んこみたいに気づかずに踏んでいたかもしれない。

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キッコウハグマ
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前回到達した最高地点まで登ったころには陽が登って明るくなった。秩父の尾根筋はコミネカエデが多いみたい。オオイタヤメイゲツやハウチワカエデのような派手さはないが、樹林内で紅葉の雰囲気を楽しむには十分。

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コミネカエデ
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標高1,170mの緩斜面で植林上限を抜けた。この辺りは何故か伐採を免れたようで、このまま登っていってしまいたくなる素晴らしい雰囲気。

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浅い窪み程度となった谷型を渡って南隣の尾根筋に移動。こちらも植林上限の高さは同じ。標高1150m前後は比較的等高線幅が緩く、ところどころ人為的なものなのか獣道か判らないが歩きやすそうなところを選んで広葉樹林斜面をトラバース可能。長沢山方面から陽が射して雰囲気良し。

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水平に進むと徐々に傾斜がきつくなってくる。勾配の緩そうな場所を選んで徐々に高度を下げながら進むとヒノキ植林地の下限に至る。この植林地は最初の植林地よりも高く勾配のきつい場所に設けられている。ここに至るまで明瞭な作業道を見かけなかったが、他の植林地と同様にシカの角研ぎ防止のネットが巻かれているので管理状態にある。

尾根を回り込んだ先は傾斜がきつく安全にトラバースできそうにない。尾根筋を登って一旦標高1260mまで高度を上げた。現在地の南側に同程度の高さの尾根が見える。「はて?今自分はどこに居るのだろう?」。便利な機器には頼らない主義。地形図と方位磁石で山立てして、すでに東尾根に乗っていることを把握。ならばこの尾根は末端まで下っていけるはず。

標高1110mでオレンジ色のテープが巻かれていた。踏み跡を視認できる。てっきり楽できると思って踏み跡を追っていくと、オレンジ色のテープはワレイワ沢の下流に向かっていく。ということは作業道は標高1050mの辺りをトラバースしてくることになる。前回途中で追うのを止めた危険な踏み跡が作業道なのだろうか。

一旦作業道から離れて尾根末端まで下ってみた。人為的に石を積んで整地したと思しき場所にどでかい金属の鍋らしきものがポツン。伐採・植林時の飯場跡かもしれない。

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東尾根末端部


地形図ではワレイワ沢に簡単に降りられそうに思えたが、実際には段差が大きくて安全に降りられそうにない。支沢側も同様だ。沢に下りることができても小滝を連ねる区間の沢登り必至。ワレイワ沢と支沢の中間の北東尾根も末端が急傾斜で取り付く場所はない。ということは、最初に目にしたオレンジテープの場所から支沢左岸をトラバースするのが正解なのか。

登り直してみると、谷底まで掴まるものが一切ない斜面に足幅程度の危うげなトラバース道が続いている。セルフビレイも取れないトラバース道ほど危険なものはない。履いている登山靴は滑り止めがないので、滑る可能性はゼロではない。でもその先からオレンジ色テープが誘う。一体だれが何の目的で付けたのだろう。こんなところを伝って作業しに行けと命じる責任者がいるとは思えない。釣り人が帰りに利用している可能性はあるが、沢遡行装備の人が辿るメリットがあるとは思えない。付けられてからそんなに月日が経っていないようだ。最近辿った人がいるのであれば行けないことはないのだろうと、怖々支沢奥に向かった。帰りに再びここを通過するのは御免だ。帰りは尾根に這い上がってやる。

無事渡渉点に達して安堵。

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渡渉点上流側の水流


支沢右岸を約20m高度を上げてから右岸斜面のトラバース道を辿って北東尾根のワレイワ沢側に回り込む。左岸のトラバース道よりはしっかりしているが高度があって怖い。ワレイワ沢側はもっと急峻でもはや斜面とは言えない。落ちたら即死。沢底が高度を上げて目的地まであと数十mのところでついに恐れていた事態に遭遇。道がほぼ消失して通過するのは無理。カモシカですらこんな場所通らない。オレンジ色テープに導かれてまたまた深入りしてしまった。学習しない己に腹が立つ。その先についているテープは新しいものではないように見える。新しいテープをつけた人がここを辿れたとはとても思えない。サイト「樵路巡遊」の管理人さんが辿った時の状況は不明だが、少なくとも今は通過不可能であると断言する。

通過できると思ったからここまで足を踏み入れたのであって、行き止まりが確定すると急に怖くなって往路を戻る自信すらなくなる。沢遡行が目的なら懸垂下降する手もあるのかもしれないが、そのつもりはない。2週間前の舟石新道と違ってエスケープできるような小尾根は存在しない。まばらに立木が生える平均斜度50度の斜面を這い上がるしかない。

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エスケープ開始前に撮影したワレイワ沢


途中で掴まる立木も根もなくなればそれで終わり。片足を樹木の根元においてかろうじてバランスとっている状況で懸垂下降の準備などできるわけがない。やり直しが効かないのでルートを見定めるのに必死。手を伸ばすのがやっとの立ち木に両手で掴まったものの、柔らかい土壌で足掛かりが得られず体が伸び切った時は生きた心地がしなかった。なりふり構わず、斜面に体を押し付けてフリクションを増やして胸と膝をつかってなんとか体を持ち上げた。全身の筋肉使った登りと恐怖で体がわなわな。白谷沢の遭難もどきと変わらない。こんなバカやっていると間違いなく近いうちに遭難するだろう。今回堕ちなかったのは運が良かっただけ。もうこの手の山歩きから足洗おう。

尾根を下っていけば往路に戻ることは容易だ。でもトラバース道はもうこりごりだ。このまま尾根を登ってしまおう。標高1350mの等高線幅の狭いところが若干気になるが、登っていけるはず。

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標高1260mの辺りでワイヤーを見る。尾根上はカラマツと広葉樹の混交林になっている。

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登っていく間、先ほど登降した東尾根がよく見える。東尾根の南側斜面にも標高1350m辺りまでヒノキの植林地が存在する。おそらくあそこも管理状態にあるのだろう。

標高1290mの平坦な尾根の辺りは吉松平窪からカラマツ植林が上がってきている。勾配緩く簡単に吉松平窪、さらにはワレイワ沢にも下れそうだが、ルート探しで時間を費やしているし、日も短いので寄り道せずに登りを続行。第一目的の吉松平窪植林地を見ることができたのだ。十分に満足。

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吉松平窪植林地のカラマツ林


斜度35度程度のほぼ一定勾配の斜面が続く。落ち葉で滑って登りにくい。この辺りも全て伐採された跡地らしく、太い樹木を見ない。

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標高1350m付近


標高1400m辺りで再びカラマツを目にする。両手で抱えきれない太さで、下方の植林地よりも年代が古いような気がする。この地でカラマツが自生で純林を形成するはずはないから、飛び地的な植林と考えてよいだろう。この山域は驚きの連続だ。

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標高1400m以上
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イタヤカエデの黄葉


標高1500mから左手(南側)の尾根の膨らみに移動。多少岩の露出もあって登りやすい。岩の陰に矮小な笹が生き残っていた。

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大血川流域では今や激レアもの


標高1,650mで尾根筋を離脱して、勾配の緩い北北西に向けて徐々に高度を上げながら移動。この辺りの斜面はダケカンバ、ブナ、カエデ等の入り混じる広葉樹林で、全て葉を落としていた。

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標高1,650m辺り


標高1700m(前白岩の肩の南側)でめでたく登山道に抜けた。ちょうど女性(だと思う。失礼。)登山者が登ってくるところだった。用足しでもしてきたように思われたかな?御経平に至るまでに計12名(登り 8名、トレランらしき下りの男性1名、御経平で休憩していた3名)を見た。この時間から登ってくるということは雲取山荘泊まりか。宿泊サービス再開したらしい。

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三峯神社
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酉谷山〜長沢山
ヒノキが成長して眺望が悪くなった。


御経平で不愛想な3名が休憩中だったので休まずに太陽寺方面に落ち葉蹴散らして進む。歩く人が少なく落ち葉で判別しにくいが、8月に来たばかりで何となく道を追える。一応目印もあるので初めての人でも迷うことはないだろう。

トラバース道でシカが真正面からこちらを見ていた。「オーイ!」と声かけて手をパンパン叩いてお知らせしたのだが、逆に人間と判って安心したらしく、知らんぷりして毛づくろいなんぞしてやがる。人馴れしているのだ。3mくらいまで近寄ると山側にどいてくれた。8月時も遇った奴かな。こんな場所食い物ないだろうに。ここは鳥獣保護区でもない。他所に移動した方がいいぞ。

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舗装道路の最初の交差点には車が3台。8月に見たのと同じ車が停めてあった。太陽寺入り口の先にゲートがあって一般車は通行できないのだから、雲取山荘関係者の車らしい。

道路から紅葉を眺めようと思い、太陽寺方面には下らずに適当にショートカットしながら舗装路歩き。この道路は全線で沿道にイロハモミジが植栽されており、単に派手な紅葉愛でたければこれを見れば十分。

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鉄砲沢合流点やコブギ尾根末端部で黒木に混じる黄色の樹木が目立つ。午後から薄曇りとなり、最高の状態で愛でることができなかったのが残念だ。

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鉄砲沢合流点近く
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コブギ尾根末端部西谷側斜面


まさか短期間に4度も大血川西谷に来るとは思わなかった。今回の山歩きを以て西谷の探索を終了する。

山野・史跡探訪の備忘録