深山隧道 〜 矢沢 〜 1,407.9mピーク 〜 塩那道路跡 〜 ニリンソウの谷(2021年4月)

年月日: 2021年4月11日(日)

行程: 深山隧道西側の駐車地出発(07:23)〜 矢沢沿い林道ゲート(07:38)〜 支沢左岸尾根末端・標高約730m(08:05)〜 標高1,165m(9:55)〜 標高1,310m(11:05)〜 1375mピーク(11:33 - 11:40)〜 1407.9mピーク・三角点名:法螺ノ貝(12:05)〜 塩那道路跡に降下(12:25)〜 深山園地・北側登り口のベンチ(13:18 - 13:25)〜 殉職の碑(14:27)〜 標高約900mのカーブから緩やかな谷を降下(14:35)〜 県道369号(15:12)〜 車に帰着(15:35)

藪以外何もなくても、個人的には思い入れの強い山域である。2003年春の3度目の矢沢訪問時、沢遡行して一泊して塩那道路を戻ってくる予定であったのだが、足に違和感があり奥の二俣に達することなく大事をとって中止。帰りに左岸側に流れ込む支沢を偵察。堰堤が2つ存在し、第1の堰堤のプールの美しさ、第2の堰堤下に伏流水が湧き出る様子、そして第2堰堤の先に存在する広大な空間が印象に残った。真正面に1407.9mピークが構える。その後しばらく矢沢から遠ざかり2015年に矢沢を遡行したが、支沢流域に再訪することなく18年が過ぎた。

栃木県南の山域もそれなりに面白いのであるが、笹藪がある県北の山の方が馴染みがある。今の時期は、雪が消えて植生観察可能、適温で過度に発汗しない、芽吹き前で見通しが利く、煩わしい小虫がまだ発生していない等の条件が揃っており、県北の藪歩きには最適。思い通りに体を動かせるいまのうちに18年前の関心事を片付けようという気になった。春の健康診断が迫っているので体を動かすのに丁度よかろう。

深山隧道の老朽化対策中とのことで、東側の広場が工事の拠点と化していた。まだ隧道内部の工事は行われていないようであった。県道369号が矢沢を渡る橋の先で擁壁工事が行われていて青信号待ち。法面の擁壁ではなく、道路と矢沢の間の斜面の補強工事が行われている。そしてなんと、矢沢沿い林道ゲートの先にある車数台分のスペースが工事関係者に占拠されていて車を置く場所がない。駐車スペースを見つけられないまま1q以上戻って深山隧道西側に広い駐車スペースを見つけた。想定外の道路歩きだが、いつも車で通り過ぎてしまう場所なのでそれなりに新鮮である。

車を置く場所がないせいだろうか、本日は渓流釣りが入り込んでいないようだ。現役の取水堰管理道であり、荒れたところはない。

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矢沢右岸の取水堰管理道


ヤマハンノキやヤシャブシ等の花芽が伸びつつある状態で本格的な春の到来にはまだ間がある。山肌の緑は先端をカモシカに食われたミヤマカンスゲのみ。路肩や法面に何本かショウジョウバカマを見た。ショウジョウバカマの先端も食われた跡あり。

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ショウジョウバカマ
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滝を見下ろす。


滝を見下ろしてその先の堰堤が見えると取り付き予定地は近い。支沢合流点手前のきれいなプールをぐるりとまわって支沢左岸尾根先端に到着。尾根先端はアスナロの木が多く、林床は腰程度の丈のアスナロ幼樹藪になっており、うっすらとしたカモシカ道がある。稜線上はアスナロと衰退しつつあるスズタケが疎らに生えている。久しぶりにマダニを見た。

勾配が緩くなるとブナ主体の広葉樹林となり、高くてもせいぜい胸程度の丈のヤマグルマがべったりと生えている。この状態が高度差100m以上続く。単一種によるグラウンドカバーとしては、これまでイヌガヤやミヤマシキミの例は見たことがあるが、ヤマグルマの例は初見。丈が低いから別種かと思ったが、一属一種で他に類似の植物がないのだからヤマグルマに相違ない。何故大きく育たないのか、どうしてこんなに広範囲に単一種が分布するのか不思議。この日一番の収穫であった。林野庁ホームページの資料に、低木層にヤマグルマを含むヒノキアスナロ−ブナ群落の事例を見つけた。現在地はアスナロが主体の林からブナにヒノキが混じる林に移行する場所。似ていなくもないか。

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大きなヒノキが立つ標高965m辺りを境にヤマグルマが消えて薄いチシマザサの藪に移行する。

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背景は1407.9mピーク


徐々にチシマザサの密度が濃くなる。進行を阻むような密度ではないものの、丈が2mを超えて上方の見通しが利かない。藪漕ぎの労の割に周囲の1200m級ピークとの高度差が縮まらないので倦怠感が増す。

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標高1,065mの辺りにブナ、ミズナラ、ヒノキの大木が揃う場所がある。これが唯一のアクセント。

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標高1,065mの辺り


勾配が緩い1165mポイントに到着。稜線北側は嘘のように藪が薄くオアシスのような場所。尾根幅が広がる標高1200m以上ではこれまで以上に密度が高い。密度の低そうなところを選んでジグザグに登って行った。途中から藪中のうっすらとしたカモシカ道を追えるようになるが、間断なく続く藪にうんざり。こんな藪が続くのであれば時間的にも体力的にも本日の計画達成は不可能だろう。もう十分に体を動かしたのだから退却しようかと思った。中途半端な場所で退却するのも面白くないので、標高1,310m級の平坦な尾根の藪の状況を確認すべく我慢して藪漕ぎ続行。腕と足が傷だらけになった。

標高1,310級mの尾根は南北に近い向きであるため、稜線を境とした積雪の条件による植生分布の違いが明瞭である。東南東側は雪庇が形成されるためチシマザサに勢いがあり、丈・密度ともに一級。反面、西北西側はチシマザサ藪のない場所やミヤコザサが生える場所があり、藪があったとしても概ね薄い。この差異は雪庇の名残がある場所でより顕著となる。つまり、残雪の上を歩いてもよいし、藪の無い斜面のカモシカ道を追っても良い。つい先ほどまでの弱気が消えた。退却の時限を正午とし、行けるところまで行ってみよう。

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標高1,310級m尾根の西北西側


断続的に残る雪の上に立つと那須方面の眺め良し。1407.9mピークも間近に見える。

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那須岳、手前に西ボッチ
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1407.9mピーク


1375mピークに近づくと深山湖も見える。

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1375mピークへの登りで、カモシカ道は藪の濃い稜線を避けて藪のないすっきりした北西斜面に回り込んでから頂上に至る。まったく無駄のない美しいトレースである。山頂だけ厚く雪が残っていた。

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1375mピーク


本日は日中すっきり晴れるとの予報であったのに大佐飛山上空に雲が広がり、現在地も時々日が陰る。昼食中に体が冷えてしまった。

1375mピークからの下り始めは尾根中央にまるで道のような幅広の浅い窪みがある。尾根西南西側に稜線を外れるとカモシカ道を辿れる。1407.9mピークに近づくとアズマシャクナゲが存在する。この辺りの今年の花付きはあまりよくないようだ。

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1407.9mピークに向かう途上の眺め


1,407.9mピーク北西斜面の樹木には3桁の数字のラベルが付けられている。同様の行為は足尾や湯西川でも見たことがある。L型のプラスチックの杭があり、下方には登山道マークみたいなものが見えた(ような気がする)。森林管理局?が何らかの調査を行ったのだろう。

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1407.9mピークも山頂に雪が残っていたが、幸い、三角点はその横で露出していた。

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1407.9mピーク(背景は大佐飛山)
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1407.9m 三角点


東側の先の様子を探って山頂に戻ったとき、三角点の北側の木に付けられている黒羽山の会の山名板の存在に気付いた。法螺貝峰? そんな名称は聞いたこと無いぞ。人間と関わりがなく麓からも見えないピークに呼称があるはずがない(1407.9m三等三角点の基準点名が法螺ノ貝。)。2003年に訪問した小佐飛山にあった黒羽山の会の山名板とデザインが同じなので、小佐飛山の山名板と同じころに取り付けられたものだろう。

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さて、ここからが思案どころ。地形図で検討した時は本部跡まで尾根上を楽に進めそうに思えたのであるが、少し東側の様子を探ってみた限りでは、往路の1407.9mピーク北北西の尾根より藪が濃いように見える。塩那道路跡に安全に降下できる場所まで距離が長いから簡単にエスケープできないし、そもそもこれ以上未知の藪を漕ぐ気力がない。1407.9mピークの矢沢側斜面は急斜面に雪が残っていて危険。選択肢は往路を戻るか、西尾根を塩那道路跡に下るかのいずれか。

塩那道路の1407.9mピークから本部跡までの区間は板室側で最も険しい場所に設けられている。最近の状況を把握していない。崩落が進行していたり残雪で傾斜がついていたら通行できない恐れがある。その場合は往路を戻るしかない。塩那道路跡の通行の可能性を早めに確定させてリカバリの時間を確保すべく西尾根を下った。藪は薄くカモシカ道も追え、順調に塩那道路跡・見晴らし台付近に降下。

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塩那道路跡(露の沢方面)
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塩那道路跡(ダルマ岩方面)


2004年に塩那道路を自然に戻すことが決定された以降も植生回復事業と称して少なくとも2010年頃までは道路を維持していた。塩那道路は基本的に岩盤を削って建設した道路である。塩那道路跡を最後に歩いた2014年には既に放置状態にあったが、柔らかい土壌がないためチシマザサの侵入はみられなかった。あれから7年近く経って倒木や落石が増えているであろうことは予想していたが、笹薮化した場所があるのに驚いた。土を盛って均した場所もあったようで、主に路肩側からチシマザサが侵入。なだらかで崖のない場所は山側からチシマザサの領域が拡大している。笹薮化する場所は限定的であり、横川の資材運搬路跡のようになることはないだろう。薙ぎが進行して大蛇尾林道のようにならない限り今後20年程度は利用価値がありそうである。

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昼から曇ってしまって冴えない天気。大佐飛山の残雪が少なそうだが、今頃登っている人いるんだろうか。幸い、塩那道路跡で行き詰ることなく本部跡に到着。

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大佐飛山
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健児塩那を拓く


深山園地に登って送電線鉄塔に下り巡視路利用で楽に帰着するつもりであったが、13時過ぎてから山登りも藪漕ぎもしたくない。ちょっと距離が長くなるが安全第一で勾配の緩い谷を下る案に変更。

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殉職の碑から


白笹山が見えるカーブから谷を下る。案内など不要の場所に濃いピンクのテープが点々と幹に巻かれている。何者かが利用しているようだ。登山目的ではないな。おそらく送電線巡視の作業者が周回する際に用いているのではなかろうか。道路から少し下ったところにある平坦地に至るまでの斜面にカタクリが多い。平坦地から幅広の道路跡がジグザグに下っていく。何段もの浅い堰堤が築かれている区間では道跡が途切れているが移動は容易。勾配が緩くなると再び道路跡が明瞭となる。

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標高750mの辺り


この谷は大雨が降っても土石流が生じることはなさそう。植林できなくはないはずだが、何故か利用されていない。そのおかげで、この辺りにはうっすらピンク色を帯びた花を咲かせるニリンソウがべったり生えている。この谷の出口をブラブラしたことがあってニリンソウの存在を把握していたが、谷の奥部まで広範囲に分布しているとは。

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一旦アカマツ林の区間を経てふたたびニリンソウの生える林を歩いて県道369号に抜けた。木ノ俣地蔵の無料駐車場のトイレで顔洗いするつもりであったが、トイレは故障のため閉鎖中。沿道の草花や那珂川を観察しながら順調に駐車地に帰着。

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アズマイチゲ


帰りにニリンソウの谷よりも板室側にある湧水地に立ち寄って顔洗いと着替えを済ましてスッキリ。この辺りも早春の草花観察に良いところだ。

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ネコノメソウ
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カタクリ


山野・史跡探訪の備忘録