小蛇尾川上流に向かう道の途中まで(2021年4月)

年月日: 2021年4月24日(土)

行程: 萩平手前の通行止め出発(09:05)〜 トラバース道進入(10:11)〜 退却(10:22)〜 稜線を登り標高1040mで植林関係者の仕事道出合 〜 勾配の緩い谷を120m下ってトラバース道へ降下(11:52)〜 2度目の退却(11:55)〜 植林斜面に登り返して巻く 〜 蛇尾川ダム堤頂直上でトラバース道に降下(12:17) 〜 3度目の退却(12:24) 〜 ダムサイト擁壁上で昼食(12:30-12:41) 〜 往路を戻って稜線標高1070mまで登り返し(14:00)〜 帰着(15:35)

今年、蛇尾川ダムバックウォーターに釣り以外の興味が生じた。単にバックウォーターに行くだけなら、水量の少ない時期に土平園地から小蛇尾川に下って、川沿いに移動する方が労が少なくて済む。できるだけ沢歩きを端折って下流側からアプローチできるのか試してみようと思った。

蛇尾川中央尾根(小佐飛山、長者岳のある尾根)には、小蛇尾川側の標高約800m辺りに蛇尾川ダムバックウォーターに至るトラバース道が存在する。2003年に小佐飛山に登った帰りに蛇尾川ダムを遠望できる場所まで辿ってみたことがあったが、源流釣りを主目的とした山歩きをしないため上流を訪れる機会がなかった。このトラバース道がいつから存在するのか不明であるが、蛇尾川ダム(1990年竣工)の巻道として建設されたものらしく、少なくとも1997年頃まではこの道を利用して小蛇尾川上流に向かった釣り人が少なからず存在したことは事実(サイト:てんから岩魚釣りのてんさんの貴重な記録参照(http://iwana.michikusa.jp/z/kojabi1.htm)。果たして今も辿れるのであろうか。

萩平一帯がオートキャンプ場「龍の国」の私有地となり、今年から車で進入できなくなったことは那珂川北部漁協のホームページのお知らせで承知済み(徒歩は可)。「釣り人は、この場所に駐車し徒歩のみ通許可」と書いてあるが、左側の廃屋前のスペースは車一台分のみ。右側にある数台分のスペースは泥んこ気味で抜け出せなくなりそう。幸い、こんな天気の良い日なのに先客がいない。開いている左側のスペースに車を置いた。

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キャンプ場「龍の国」入り口の通せんぼ


キャンプ場そのものはほぼ完成している。管理棟がある萩平は整地されて赤い色の細かい砕石が敷いてある。4月29日オープンだったらしいのだが、コロナ禍で6月に延期。「龍の国」のホームページの全体図に拠ると赤い石が敷かれているエリアは駐車場ではなくキャンプ場らしい。道沿いにある廃屋が「仙人の家」、蟇沼用水の旧取水口が「龍の穴」、堰堤が「園庭」だそうだ。小蛇尾川奥に向かう「第1〜第5園庭への30分トレッキングコース」なる案内も示されている。まだトレッキングコースは整備されていないようだが、小蛇尾川沿いの旧管理道を利用するつもりなのか? 子供が溺れたり転落したりしなければ良いがな。落石事故も懸念される。オープン前に入り口までの道路を整備する必要があるのでは? 手前にある砕石場らしき場所をダンプが頻繁に行き交って埃っぽいし、道が狭くて退避箇所がほとんどない。このキャンプ場の最大の欠点は、風向きによって萩平一帯にし尿の様な臭気が漂うことだ(発生源は把握していない。この日は山の上まで漂っていた。)。一晩中臭うようなら客来ないんじゃない?

小蛇尾川と大蛇尾川の合流地点の下にある二段堰堤で沢靴に履き替えて渡渉。小佐飛山に登るなら沢靴をデポするのだが、目的地が小蛇尾川上流部であるため、結果的に出番のなかった靴も担いでいった。

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渡渉箇所


蛇尾川中央尾根の標高1100m辺りまで大蛇尾川側斜面に大規模なスギ植林地がある。蛇尾川中央尾根(小佐飛川の尾根)に上がる歩道は林業関係者が利用する現役の道であり危険個所は見当たらない。トウゴクミツバツツジとヤマツツジが多く、トウゴクミツバツツジの花が散りかけ。この地では両者が同時に開花することはないようだ。

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植林地に向かう歩道が何本か大蛇尾川側に分岐する。萩平と小蛇尾川上流を指し示すプラスチック製の道標がある。自分の記録には記述がないが、2004年の烏ヶ森の住人さんの記録に記述があるので、トラバース道が利用されていた1990年代から存在していたと思われる。「崩落があって怖い」旨の2004年と2006年の擦書がある。滑落の可能性のある場所には入り込まない主義。途中退却を覚悟して、標高800m辺りで稜線を跨いで小蛇尾川側の斜面に続くトラバース道に進入。

最初のうちは道の山側も谷側もスギ植林地。18年前はまだ若い植林地であったが大きく成長した。この辺りの植林地は管理状態にあって、クマ剥ぎ被害を防ぐための紐が結わえてある(この日歩いた範囲でカモシカのまとめ糞はあったがシカ糞をまったく見なかった。少なくともシカの角研ぎが原因ではないだろう。)。将来木が成長したらこの紐はどうなるのだろうな。

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蛇尾川ダムが垣間見えるが、スギの木が育って2003年時ほど眺望はよくない。尾根を回り込み谷形に入ると植林が消える。進行方向左下の斜面勾配がきつく、足を踏み外したら谷底まで停まらないことは確実。そして最初の嫌らしい場所に至った。

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元々足場のない薙ぎに杭を穿って幹を這わしてかろうじて足場を確保している。上部を見渡しても道を設けるのに適した場所が見当たらない。ということは建設した時点で無理があったことは明白。ここを平常心を保って通過できる人がいるとは思えない(2013年に小佐飛山登山の帰りに通過した方の yamareco の記録にはトラバース道の危険性に関する記述が全くない。2004年に既に危険な状態にあったのだから、2013年は今とたいして変わらない状況にあったと思われる。yamareco や YAMAP は、ルート図を掲載する以上はその危険性も正直に記載するよう規約を設けるべき。)。

杭に這わしてある木が朽ちていたら崩れ落ちそう。自分の平衡感覚は一般の人に較べて劣ってはいないし、通過できるのかもしれないが、こんなものに自分の命を預けるほど愚かではない。無事反対側に渡れたとしても、その先安全に進行できる保証はない。エスケープ不可能な場所で退却することになればまたこの危険個所を通過することになるのだ。昨年、危険なトラバース道に深入りして怖い目に遭っている。いい加減その教訓を生かさないとな。本日最初の退却決定。

地形図には針葉樹マークの記載が一切ないが、退却した場所より谷奥にスギ植林地が見える。林業関係者はどうやってあの場所にアクセスしているのだろう。確かこの尾根は標高1,100m辺りまでスギ植林になっているはず。その辺りまで登って上部から植林地にアクセスしている可能性が高い。まだ午前10時過ぎたばかり。植林地をトラバース道まで下ることができれば目的達成できるかもしれない。トラバース道入り口の手前から稜線のスギ植林地に入った。

しばらく植林地を進むと、左側に崖のような急斜面を見下ろしながらミヤコザサに被われた稜線部を登るようになる。昨年のブナの落ち葉が朽ちずに残っていて滑りやすい。己の能力を過信して危ういところに入り込まぬようスパイクチェーンの類を所持していないため、足裏の筋肉が疲労する。特に標高860mから950mの急登区間がつらい。

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伐採時のワイヤーが残る。


勾配が緩くなる標高1040m辺りまで登ってから目的の尾根の方面にミヤコザサの緩斜面をトラバース。同じ行為をする人がいるのかそれとも獣道なのか妙に歩きやすい。そのうち上方から下ってくる明瞭な山道に出合った。山道は目的の植林地に向けてジグザグに下って水平な山道に接続する。水平な山道を谷奥に向けて進むと徐々に高度を上げながら主稜の標高1120mに向けて切れ込む谷に回り込む。沢を渡った先も植林地が切れ目なく続く。高度計を確認していないが標高900m〜950mの間であったと思われる。小尾根を回り込み穏やかな谷形に至ると踏み跡が不明瞭となるので、植林地を適当に下ってトラバース道に降り立った。

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降下地点を振り返る


しかし、その先も自分の安全基準を満たさない場所が続くため再び退却。植林斜面を標高850m辺りまで登り返して高巻く。

トラバース道は概ね標高800mの辺りに設けられている。トラバース道より下方の斜面勾配は人間の活動に適さない。トラバース道の上方の勾配が緩い場所は全てスギ植林である。つまり、トラバース道は植林地の下限に存在し、元々危険な場所に設けられている。

この辺りの植林はあと10年もすると収穫可能な樹齢に達すると思うが、どうやって搬出するのだろうな。採算が成り立たず収穫されることなく放置されるのかもしれない。

緩斜面の植林地を降下していくと道形が現れ、これを辿るとダム堤頂の真上でトラバース道に降りた。やれやれこれだけ頑張ってまだ堤頂か。先は長いな。トラバース道は荒れ放題。建設して以降管理状態にはなく現況は廃道である。「危険、立ち入り禁止」旨の標示がひしゃげて落ちている。岬を対面に見る尾根の辺りはいくらか勾配が穏やかである。眺望はなくても雰囲気は悪くない。

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尾根を回り込むとまたしても危険個所現る。かつて鉄パイプで補強した場所が崩落しており、足掛かりが全くない。上部にトラロープが張ってあるが、いつ頃設置したものか不明。トラロープが結わえてある樹木に岩がひっかかって、かろうじてバランスを保っているように見える。トラロープ引っ張ったら崩れるだろう。今の状態でここを突破しようとする愚か者はおるまい。大蛇尾林道の不思議沢手前の薙ぎ同様、崩落が進行中であり、現在地も落石の危険がある。こんな場所に古い緑色の薬きょうが落ちていた。ここで何かを撃ったということだ。こんな危ない場所で獲物をどうやって回収するのだろうな。

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退却地点
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落石


植林地はまだ奥に続いている。現在地に取り付ける場所はなく大高巻き必至。正午を過ぎているのでこれ以上辿る意義なし。もうこりごり。

堤頂近くの緩斜面に復帰してどこで昼食にしようか思案。眼下の藪の無いスッキリした斜面の樹木に比較的新しい目印が見える。植林地にあったものと同じだ。ダム関係者がつけるとは思えない。植林関係者がダム堤頂から上がってくるのだろうか。整備された道ではない。落ち葉に被われたザレ気味の斜面で、滑り止めのない靴でかろうじて辿れる状態だが、下に擁壁上部のフェンスが控えておりトラバース道のような恐怖はない。フェンスの近くまで降りると標柱、トラロープがあり、道形も認められる。

フェンスから手すり付きの階段で下段に降りることは可能。下段から堤頂に下る階段があるのか不明。ダムそのものには関心がないので確かめなかった。

フェンスの末端まで移動してダム周りの光景を眺めながら昼食。

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蛇尾川ダム(下部ダム)堤頂
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上部ダム建設で流れの失われた谷


帰りのルートを思案。往路で戻ってもよいが、明瞭な山道が見当たらない途中の植林地トラバースが面倒。今いる尾根を標高1230mまで登ってしまうのが単純且つ確実に思える。そのつもりになって山道を辿ってみると、意外にも山道は下流側にトラバースしていく。このまま道を追えれば楽に往路に接続できるかもと期待して方針変更。

往路で下った谷形を横切るところまでは順調に思えた。その先はカモシカ道となってしまい、適当に尾根を回り込んだ先の植林地の勾配がきつくて沢筋に至るまでヒヤヒヤ。往路はこの50m程度上で沢を横切ったようだ。少し沢筋を登っていくと、谷の東側斜面に作業道がありそうな気配。斜面を這い上がって幅広の作業道跡に抜けた。道を設けるときに使用した重機はどうやって搬入・搬出したのだろうか。

しばらく作業道跡を辿っていくと上方に向かう山道が分岐する。これを辿っていくと往路のジグザグの山道に接続した。上首尾である。一応安全に帰れる目途が立ったので、この山道がどこから降りてくるのか確かめてみる。

山道は上に行くほどミヤコザサに被われて不明瞭となるも、確実に稜線の標高1070mまで続いている。反対側(大蛇尾川側)の植林斜面に下っていく山道は見当たらない。これから小佐飛山に登るには時間的にも体力的にもぎりぎり。そもそも登るメリットがない。これ以上の探索をあきらめた。

靴が合わないのか昨年暮れから数時間歩くと左足裏に疲労が蓄積して痛みが出るようになった。これを庇うために左足の荷重を軽減しようとしてバランスが崩れた瞬間に腸脛靭帯炎の激痛が走る。足裏の痛みは一日で軽減するし、行動中は耐えられる程度なので、意識的に左脚に荷重をかけて腸脛靭帯炎の発症を抑えながら慎重に下山。

結局目的は果たせなかった。植林地ばかりの山歩きだったけれども、極力危険を回避して藪漕ぎすることもなく、好天にめぐまれて終日静かに歩けた点は良かった。

小蛇尾川鉄橋を渡るとき、合流点付近に2、3名の釣り人の姿が見えた。駐車地には自分の車しかなかった。あの人たちは何処から来たのだろう? 蟇沼の三叉路に2台の車があったから右岸沿いに入川したのかもしれない。

蟇沼の蛇尾川畔で暇つぶしして、箒川横の静かな場所で仮眠してから順調にさいたまに帰着。

山野・史跡探訪の備忘録