那須烏山市・小木須の地形観察(2021年5月)

年月日: 2021年5月23日(日)

石原から長手に抜ける切通し近くの路肩【36.615519N,140.178075E】(08:12)〜 303.2m三角点・大将古家?(08:53)〜 尾根屈曲点【36.619964N,140.189452E】〜 福島幹線271号鉄塔(09:52)〜 巡視路利用で川戸から大海に抜ける町道の峠付近に下山 〜 対面の谷の中尾根に取り付き。 【36.615882N,140.194263E】〜 300m級ピークで軽食休憩 〜 断崖【36.608524N,140.197752E】(11:30)〜 福島東幹線鉄塔(11:45)〜 県道274号線【36.608524N,140.197752E】36.606282N,140.202219E】〜 川戸から流れ下る小木須川支沢の橋【36.605450N,140.196561E】〜 国見峠・266mポイント(13:05)〜 駐車地に帰着(13:40)

足尾の気になっている場所を訪ねるつもりであったが、朝方はまだ雨が残っている予報で早朝出発は無理。那須烏山市の小木須地区を短時間で回る案に変更。

2017年に山歩きの予定がポシャったのを機に思い付きで2度この地に立ち寄っている。後日、地形図を眺めていて、等高線のないモコモコと表現されている場所があることに気付いた。おそらく岩がむき出しになっているか断崖状になっているかのいずれかであろう。アユ釣りついでに立ち寄る機会があるだろうと思っていたのだが、ここ数年はアユ釣りする機会に恵まれず、訪問することなく4年もたってしまった。

石原から長手に抜ける道は、那珂川に沿った尾根の勾配のきつい西側斜面を上り切通しで東側に抜ける。切通まで道が狭くて対向車がきたら厄介だ。この道路は関東ふれあいの道でもあり、切通しの長手側に「大将古家」なる道標がある。地形図の破線路は二手に分かれ、一方は北に開いた谷を下り花立峠方面に登り返す。もう一方は東進して303.2m三角点ピークの南をかすめて川戸(こうど)に抜ける。予定では後者を途中まで辿ってから尾根を乗越して標高220m級ピークのモコモコを訪問し、その後303.2m三角点ピークを経由して北側に連なるモコモコ尾根を通過して送電線鉄塔巡視路を利用して川戸に降りるつもりだった。

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「大将古家」の道標


道標があるのだからてっきり整備された遊歩道があると思い込んでいたのだが、分岐点と思しき場所から北側の谷に下る道は存在しない。東に向かう道は狭い未舗装林道であったようだが、アズマネザサが生えていて歩きにくい。通せんぼしている太い倒木の朽ちた状態から見て、少なくとも10年以上放ったらかしと思われる。

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シモツケ


朝方は曇りで気温低め。小虫がまとわりつくことはなかったが、雨が上がったばかりで藪が濡れており、おまけに蜘蛛の巣だらけで不快なことこの上ない。道は次第に細くなって溝状となり、雨水が流れてぬかるむ場所もあって辿る価値無し。たまらず北側の尾根の藪に逃げ込んだ。

アズマネザサ藪を進み藪の薄い尾根筋に抜けた。尾根筋にはうっすらとした踏み跡が認められる。「大将古家」がいかなる存在か知らないが、現役の道が存在しないし、地形図にそんな地名の記載もない。ひょっとして山城の類なのだろうか?犬も歩けば棒に当たる。予期せぬ史跡訪問となる可能性が出てきて、俄然興味が湧く。

尾根北側はスギ植林だが尾根筋は植林されていない。濡れそぼってはいるが、広葉樹林の緑が綺麗。ひさしぶりにユスラウメとタツナミソウを見た以外に植物でめぼしいものはなかった。

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トウゴクシソバタツナミソウ


次第に尾根北側斜面が切り立ってきて、地形図上に表現されていない崖もある。崖の下は植林斜面である。藪が濡れているし急な傾斜地の登降を避けたいので最初の訪問予定地に下るのはあきらめた。

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尾根幅が広がり303.2mピークへ登っていく途上で北側から古い道跡らしきものが上がってくる。ますます史跡の可能性が高まるが、303.2mピークには三角点を見るのみで、何の案内もないし遺構のようなものは皆無で拍子抜け。

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303.2m三角点


後日調べた結果、「大将古家」とは戦国時代に那須氏が佐竹氏の侵攻に備えた城跡の呼称で、303.2m三角点のピークとされている。訪問をあきらめた場所は「高館上の城」、その西隣のピークが「高館城」で、遺構が明瞭とのこと。下記サイトに詳細なレポ有り。管理人さんの考察がとても興味深い。

http://tochichu2.web.fc2.com/16nasukarasuyama.html

小生思うに、大将古家なる呼称は高館城や高館上の城等の砦が築かれたこの山全体を指すのではないのだろうか。秋に機会があったら再訪してみたい。

北北西に40m程度下り、ゆったりとした地形を経てモコモコ尾根に入る。最初のうちは北西斜面の下方に岩が露出しているようで、稜線部に顕著な崖は見当たらない。。モコモコ尾根の中間地点に至ると急峻な地形が明瞭となり、北西に面した高さ20m程度の崖が続く。崖の下と尾根筋が植林されており、2つのモコモコピークの間の岩場が途切れた場所に植林関係者が下方と行き来する踏み跡らしきものが認められる。

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モコモコピークの上には火山角礫岩(火山灰よりも直径32ミリメートル以上の火山礫のほうが割合が高いもの)が露出している。那珂川と荒川の合流点に露出する岩や、松倉山の南尾根に露出する岩と同じものだ。

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火山角礫岩


文献(*1)に拠ると、この地の火山角礫岩の層は山内層と呼ばれ、約1.7Ma(170万年前)の火山噴出物である。湖底堆積物である元古沢層の上部に山内層が形成された後、地殻変動により地層が南東方向に傾き、南北に複数の断層が生じ、浸食を受けた結果として現在の地形となったということらしい。地形図と地質分布を比較してみると、モコモコとした地形の分布が山内層と元古沢層の境界に一致していることが判る。

*1
「栃木県茂木地域に分布する中川層群の地質年代とテクトニックな意義」
高橋雅紀(燃料資源部) 星 博幸(東北大学理学部地圏環境科学科)
地質調査所月報(第47巻第6号,p317−333,1996)

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地質と地形の対比
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凡例


屈曲点ピークへの登りは落葉樹林であり、林床はスズタケである。90°屈曲して南東に向かう。尾根上には頭が黄色い境界杭が点在し、藪は薄い。藪が乾きつつあり、弱い風もあって雰囲気良好。

送電線鉄塔の開けた空間はオアシスのようなもの。地元の人が1週間程前にワラビ採りした跡が認められる。良質なワラビがそこそこ生えているのでしばしワラビ採りに興じた。

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送電線鉄塔南側
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送電線鉄塔北側


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エゴノキ
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送電線鉄塔からの下りは巡視路利用で快適。道沿いにギボウシが多い。

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下山地点から峠方向を見た図


カーブミラーのある場所の谷入り口が広場になっている。二俣の中央尾根に取り付いた。

しばし雑木林の尾根を登ると植林地に至り、北から上がってくる尾根に合流。尾根上の道筋は明瞭で、頭の黄色い境界杭が点々と続く。

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白いキクラゲ


少し急登して明瞭な主尾根に乗った。尾根の両側に岩場がある。

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主尾根西側の崖


これを見て目的の場所を確認したと思い込み、地形図を見ずに主尾根を南進してしまった。このため地形図記載のモコモコは未確認。

この山体は303.2m三角点の山体に較べて尾根が狭く稜線が明瞭。火山角礫岩が飛び出ている。

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総包片が緑色を帯び始めたヤマボウシ


340m級植林ピークを経由して南の尾根に下る。四斗蒔から川戸に抜ける破線路に相当する道跡には気付かず通過。南尾根は境界杭と踏み跡があり、藪は無く快適。303.2m三角点の尾根筋は落葉広葉樹主体であったが、こちらの山体は照葉樹であるカシの木が多い。カシの葉は腐りにくく、今年春に落葉したばかりでもあり、斜面の落ち葉を踏むと滑りやすい。下りで制動できず転んで両肘に傷を負ってしまった。ただでさえ濡れた藪歩きで服が汚れているのに、土で汚れて乞食然となった。

地形図上にモコモコ表示のない場所で稜線上に大きな角礫岩が鎮座しており、東側は崖状である。

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下のツルっとした層が元古沢層なのかな?
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さらに南進して本日の山歩きの核心部に至る。稜線東側が見事にスパッと切れ落ちている。西側は穏やかであり、危険は感じない。

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崖上のシラカシ
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崖状区間の南端から四斗蒔地区を見下ろす。


崖が途切れた場所に四斗蒔方面から巡視路の階段が上がってきている。明瞭な尾根道を進み福島東幹線の鉄塔に至る。この送電線は南東方向に傾斜した場所に設けられているため、絶好のワラビ自生地となっている。

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福島東幹線鉄塔南側


巡視路は標高160m級鞍部から北側の谷に下り、竹林をかすめて木須川沿いの県道274号線に抜ける。抜け出た場所には何故か送電線鉄塔巡視路の標示は無い。

しばし県道274号線を南下して、川戸に向かう道に入った。国見峠に向かう破線路入り口らしきものは見当たらない。送電線を過ぎて約300m進むと道路右手に地形図に記載されていない1軒の民家がある。木須川支川に橋が架かっているが右岸側の谷入り口は藪で道があるように見えない。谷に踏み入ると、工事用の仮橋梁に使う金属製の橋の一部のようなものが水流を跨いでいる。立派な道があるのかと思いきや、足幅一足分のトラバース道となり、谷奥にも尾根上にも向かわず、尾根先端をトラバースして東隣の谷に回り込んで墓地で行き止まり。

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やり直しする気になれないので適当に枝尾根を登って主尾根に到達。主尾根上には道跡らしき窪みが認められ、頭の黄色い境界杭が続く。

250m級鞍部辺りからアズマネザサの藪が出現して鬱陶しい。南向き斜面に立地する国見集落の最上部の人家の後ろをかすめて未舗装車道に接続し、国見峠着。

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画像中央から抜けてきた。


展望台の道標につられて尾根上の関東ふれあいの道の破線路に上がってみたが、展望台があるのはもっと南側らしい。計画段階では長峰ビジターセンター(2020年4月1日から休館)経由で小原沢に下って長手尾根を北上して切通しに戻るつもりであったが、広葉樹林の雰囲気はもう十二分に堪能した。既に午後1時を過ぎている。汚い格好でさらに2時間も藪徘徊する気力が湧かない。快適な車道歩きで直帰すべく、破線路を北に向かい送電線鉄塔をかすめて車道へ降下。

この辺りの車道は交通量が多くないし、適度なアップダウンがあってチャリ族に人気があるらしい。 特別眼を惹くものは見当たらないのだが、一面緑の原野を見下ろす爽快感は他所にない魅力だと思う。

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中央右が那須烏山市と茂木町の境界にある
248.8mピーク
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右奥が茂木町の尾軽地区
左奥が県境の足尾山、雨巻山辺りらしい


弘法水の伝説の説明があったが、立ち寄らず通過。先に紹介したHPによると、こんな場所にお堂があるとのこと。今昔マップの明治時代の地図を見ると、当時の道筋は国見峠からお堂を経て303.2m三角点ピークの南側から西に尾根を下っていた。

急なヘアピンカーブを経て長手の谷に下って車に帰着。

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長手の谷


長峰ビジターセンターに行く途上の展望台のトイレで顔を洗ってスッキリ。日陰の得られる駐車場で1時間程度仮眠してから帰宅。

山野・史跡探訪の備忘録