蟇沼にて (2023年5月)

年月日: 2023年5月21日(日)

行程: (08:30 - 09:00)蟇沼の某所でブラブラ ~ 小蛇尾トンネル入り口から出発(09:30頃) ~ 蟇沼頭首工 ~ 小蛇尾川大堰堤で折り返し ~ トンネル入り口横から別の古い道跡に進入 ~ 石積み ~ 蛇尾川発電所水圧管導水施設 ~ 980m級ピーク ~ 1010mピーク南を巻く古い林道支線 ~ 安戸山林道出合い ~ 安戸山登山道 ~ 安戸山山頂(12:30 - 12:45)~ 一般登山コースで蟇沼地区に下山 ~ トンネル入り口に帰着(13:45頃)

21日は雨に降られることはなさそうだが、スッキリ晴れ上がることもなさそう。山歩き以外の幾つかの関心事を片付けるべく蟇沼に向かった。

課題は以下の4つ

① 昔、蟇沼で見たご神体の再確認
② 小蛇尾トンネル横から蟇沼頭首工に下る道の状態確認
③ 蛇尾川発電所の導水施設再訪(19年振り)
④ 安戸山登山路の確認

先ず、蟇沼用水が地下に潜る辺りで課題①を実施。結果は空振りに終わったが、見事なミツデカエデの木を見ることができたので気分は悪くない。帰宅後に昔の非公開記録を確認してみたら、場所を記憶違いしていたことが判明。でも、その場所は2年前に確認済み。どうしてみつからなかったのだろう。もう一回行って見ねばならんな。

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課題②の実施のため、蛇尾川ダムに向かう小蛇尾トンネルに移動。

2021年に蛇尾川ダム奥に続くトラバース道を視察した帰りに釣り人を見かけたが、萩平には自分の車しかなかった。地形図上は右岸沿いに道が続いていることになっているのだが、実際の道は蛇尾川発電所の前を通って蟇沼用水の出口で終点となり、地形的にその先に進むことは不可能である。萩平から渡渉するしかアプローチがないはずなのに釣り人がいったい何処から入川したのか不思議であった。その後、ある方(釣り人ではない)のブログで、小蛇尾トンネル横から蟇沼頭首工に下るルートがあることを知り、何かの機会に立ち寄って入り口の踏み跡の存在だけは確認済。将来この道を利用する可能性があるため、安全に辿れるのか確認してみる。

現在の萩平の地権者:オートキャンプ場「龍の国」が2021年から利用客以外の車の萩平進入を禁止したため、現在は釣り客も登山者もここを出発点としているらしい。萩平は車上荒らしが出没するという噂があったが、ここはアクセスしやすい場所なので車上荒らしに遭う危険性がさらに高そう。ちなみに、蛇尾川ダム建設が始まったのが1980年、蟇沼頭首工の改修が行われたのが昭和47年(1972年)頃だから、この道は小蛇尾トンネル建設以降に蟇沼頭首工の保守管理のために設けたものであろう。

先客の車が1台有り。今は樹木が育って小蛇尾トンネルから直接萩平が見えない。「龍の国」で遊ぶ子供たちの声が聞こえる。管理道は手すりが崩れてしまった場所があるが、足場そのものはしっかりしていて、慎重に歩けば問題ない。本日の目的の②は達成。川に降りたついでに少し足を伸ばしてみる。

初めて蟇沼を訪れたのがいつのことだったのか覚えていないが、自分の記録上確認できる最も古い記録は2000年12月の小蛇尾川視察の記録である。当時は滅多に登山をすることはなく、小佐飛山の尾根上に向かう道跡も把握していなかったから、おそらくはウェブ上の釣り人の情報を参考にしたのだと思う。釣りシーズンは連日多くの釣り客が入り込んでいるため、シーズンオフに萩平から渡渉して小蛇尾川沿いの管理道を歩いて蛇尾川ダム直下まで往復した。当時の記録(現在は非公開)の管理道に関する記述は以下の通り。

「最初の大きな堰堤にかかる階段を越えると広いゴーロが現れる。ゴーロには鉄骨の空中歩道があり、所々グレーチングの床が抜けてはいるが、川原を歩く必要はない。ゴーロの終点からは再び小蛇尾川の入り口と同じような渓谷となる。・・・大きな堰堤を越えてしばらく進むとダムの下に至り、そこから先は立ち入り禁止である。右側の斜面に登山道らしきものがある。登山者やダムの上流側への釣り客はそちらを通るように案内があったので、少し登ってみた。斜面に沿ってダムを巻くのかと思ったが、道はまっすぐ斜面の上に向かっており、ロープまで現れた。・・・小佐飛山に登るのならばここからが良いだろう。」

上部ダム(八汐ダム)と下部ダム(蛇尾川ダム)で長期間滞留した水に清冽さは無く、釣り場としても魅力が乏しいため、小蛇尾川を訪れたのはこの時が最初で最後。その後、小佐飛山の尾根の山道を2回利用したことがあったが、管理道奥には進入していない。管理道は蛇尾川ダム完成以降に用いられることは無く、劣化が進んで今では辿れないと聞いていた。最近、このルートを通ったという記録を見たので、現況を見てみたくなった。

結果は、最初の大堰堤を前にして行き止まり。昔あった階段は撤去されたようだ。大堰堤左岸側にベロンとロープが下がっているが、わざわざ川に降りてあれにつかまって登るのかね。現在地は簡単に高巻できるような地形ではないので、尾根上から堰堤に降りるしかないだろう。右岸沿いに移動できるとしても、きついトラバースとなる。ふた昔前の頃のようにウェブ上で十分な情報が得られなければ探求心が生じることもあろうが、現在はSNS上にたくさんの画像とGPS記録が溢れている(ただし、テキスト情報の質はよくない。)。後追いで危険冒してわざわざ行って見たいという欲求は生じないし、そんなことする年齢でもない。

小蛇尾トンネル近くまで戻ってきて、山側に目印を見た。樹木に古いペンキ印もついている。ガレ場を越えて近づいてみると、現役ではないが明らかに人為的な道らしきものが上流側に延びている。興味半分で辿っていくと傾斜のきつい場所で消失してしまった。あきらめて小蛇尾トンネル側に戻っていくと、植林斜面をジグザグに登っていく細い踏み跡を発見。点々と黄色い荷づくり紐の目印がついている。途中で右手の浅い谷型を渡って、上流側から緩く登ってくる道跡に接続する。これはさきほど消失していた道の折り返しらしい。道跡は再び浅い谷型の東側の広葉樹林の尾根筋に移り、以降は一貫して尾根の谷型寄りの場所を登っていく。踏み跡が不明瞭となる場所があるが、樹木の枝が邪魔にならない場所を素直に辿ると続きを追える。本日は地形図を準備してこなかったので現在位置が不明だが、このまま登っていけばおそらく蛇尾川発電所の導水施設辺りに抜けるであろう。本日の課題③と④はトヤ沢経由で実施しようと考えていたのだが、このまま成り行き任せとする。

山肌にはイワウチワとショウジョウバカマが多い。直径5cm位の小さなロゼット状のショウジョウバカマが足の踏み場がないくらいべったり生えている。栄養に乏しいのだろうか。種子で増えたように見えるが、今年花を咲かせた個体をみかけなかった。???この尾根にもトウゴクミツバツツジやゴヨウツツジが存在するが、花期はとうに過ぎている。ウラジロヨウラクはまだ蕾が膨らんでいないが、サラサドウダンツツジが咲き始めている。

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勾配が緩んでそろそろ山上に抜けそうだなと感じた矢先、丸石を積んでコンクリートで固めた石積みの壁に行く手を阻まれた。トヤ沢側にも同じ遺構が存在するのだが、あちらは導水施設建設時の作業道補強を目的としている(ように見える。)。作業道の無い北側(蛇尾川側)にも存在しているとは知らなんだ。高いところで3m程度あるので、西端の低いところから上がった。その上も石が敷き詰められている。導水施設を長期に維持するために施した山体浸食防止工事の跡だろう。

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石垣の上から先ほど接近した小蛇尾川の大堰堤を遠望。


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石積みの上方には平場があって、城址みたいな雰囲気。


導水施設は石積みから30m程度上に存在する。施設の保守作業には水圧管横のモノレールを用いているようだ。施設には最新の監視カメラも設置されている。水力発電所データベースに拠ると、蛇尾川発電所は昭和36年(1961年)年9月に運用を開始。水圧管の有効落差は297m。3河川(大蛇尾川、小蛇尾川、鍋有沢川)から取水している。大蛇尾川と小蛇尾川の取水箇所は把握しているが、鍋有沢川からどうやって取水するのだろう。

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下方に見えるは湯宮地区。


自分が辿って来た道は何を目的としたものなのか?小蛇尾トンネル建設以降に用いられたはずだから、蛇尾川発電所が運用開始した昭和36年には存在しなかったことになる。導水施設と関係があるのは間違いないが、現役ではない。小蛇尾トンネル建設以降、モノレールを建設するまで一時的に用いられたルートなのだろうか?

2004年2月の初訪問時は、冬だったためか水が流れていなかった(塩原発電所の上部ダム(八汐ダム)の漏水対策として、取水データを改竄して、本来は蛇尾川発電所に供給すべき水を塩原発電所に回していたこととも関係があるのかもしれない。)。施設に至る現役の管理道が見当たらず、建設時に用いたと思われる道路は自然に戻って久しいようで、廃墟に近いイメージがあった。2021年に蟇沼用水沿いを歩いた際、蛇尾川発電所がバリバリ現役で稼働していることを確認。山上の導水施設の現状がどうなっているのだろうと思い、Google Earth で確認。水圧管手前に青々としたプールが存在することが判った。隧道で導かれた水流は水圧管の手前のプールで緩む。つまり、取水施設で引き込まれてはるばる流されてきたイワナの仔魚が水圧管に引き込まれることなくプールで生き延びている可能性がある。19年ぶりに再訪したのはこの仮説を確かめたいがためである。

時々オオスズメバチが近寄ってくる。一旦水圧管から離れて西側に移動してからプールに接近。俺のアホ面が監視カメラにバッチリ写り込んでいるだろうなと思いながら、しばし金網越しにプールを観察。予想した通り、魚影発見! 少なくとも2匹いて、水底近くを移動している一匹はかなり大きい。もう一匹は30㎝程度で時折ライズする。この2匹が生きていくのに十分な餌の供給があるということだ。新たに流されてくる仔魚は食われてしまうのだろう。

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イワナのいるプール


仮説が確かめられて十分に満足。残りの課題は安戸山の下山ルートの確認だけ。2004年に安戸山に登ったときは、トヤ沢から途中まで送電線鉄塔巡視路利用し、導水施設に上がって尾根筋を往復した。このため麓の登山道を歩いたことがない。

導水施設の南側に移動するには隧道出口を回り込む必要がある。

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2004-02-21 09:21


朝方の安戸山は雲の中で、登山したいと思うような雰囲気ではなかった。徐々に明るくなってきたし、ここまで来たらついでに山頂踏んでくるか。導水路の南側には回り込まず、19年振りに尾根筋を辿る。

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標高900m以上でも稜線部の補強が行われている。


伐採作業時に電源の確保のために使用したと思われる碍子を2カ所で見た。標高950m前後のヒノキ植林はクマ剥ぎでほぼ全滅。手入れもされていない。

980m級のなだらかな丘陵は植林されていない。19年前は笹薮があったような記憶があるのだが、写真を残していないので確証はない。現在はスッキリした林床で笹は皆無。黄色い荷づくり紐の目印は1010mポイントではなく北西の平場方向に続いているように見えた。980m級の丘陵と1010mポイントの間で幅広の林道支線末端部と出合った。林道支線は1010mポイントの南側を巻いて安戸山林道の広場に接続する。

安戸山に良いイメージがなかったのは、最初に来た時期が悪かったみたい。新葉が広がる時期はよい雰囲気。

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安戸山林道から分岐する登山道は荒れてはいないが窪みがあり、まっすぐに山頂には向かわずに安戸山西側の尾根稜線に向かう。この道は元々は安戸山登山のために設けられた道ではなく、八汐ダム東側における山仕事用の道であったようだ。事実、栃木百名山に選定される直前(2004年)に来たときは、安戸山側よりも稜線を西側に向かう道の方が明瞭であった。登山者が増えた現在はその逆である。

安戸山に登山する人は少なくないようであるが、本日の新しい乱れはないように見えた。天気がよくなかったから登山する人などいないだろうと思っていたら、急登区間の手前でかすかに鈴の音らしきものが聞こえた。せっかくここまで誰にも遇わなかったのだから最後まで人との関りは避けたい。登山道から外れてやり過ごしたのであるが。時間的にこの方のものと思しきヤマレコの記録では一人と擦れちがったそうだから、自分の姿を見られていたかもしれんな。

山頂の雰囲気も19年前とは全く異なる。山頂到着時は時折東側から霧が上がってくる状態であったが、滞在中に陽が射してエゾハルゼミの合唱が始まった。眺望はなくとも雰囲気は悪くない。

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山頂直下にかろうじてシロヤシオの花が残っていた。ほぼ全て落花寸前で雌蕊にかろうじて引っ掛かっている。エゴノキの花が大きくなったような状態だ。

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帰りは安戸林道の広場からトヤ沢左岸尾根に延びる林道の延長区間を下った。この区間は植林作業以降は登山道としてのみ用いられており、車が通行した形跡がない。19年前に較べて樹木が育って見通しが悪くなった。

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2004-02-21 12:28


どこまでも林道を下っていけると思っていたのだが、登山道は林道を外れて植林斜面に下っていく。分岐の先の林道は藪化して植林作業に用いられたことはないようである。なるほど、19年前はこの分岐を見落として直進してしまったようだ。安戸山林道支線の起工が昭和57年だから、昭和36年に運用開始した蛇尾川発電所の導水施設建設時にこの道が用いられたはずはない。となると、導水施設南側の自然に回帰した道の起点はどこにあるのだろうか?ひょっとして導水施設南側の遺構も北側同様にただの山体補強が目的であって、工事用道路ではなかったということか?疑問解消のために再訪したのに、新たな疑問を抱えてしまった。

登山道はほぼ一定勾配でとても歩きやすい。快適過ぎて、休憩したのはトヤ沢渡渉点で顔を洗った時だけ。

小蛇尾トンネルに帰着して着替え後に、一旦下ってミズナ(ウワバミソウ)を採取した後、日蔭で仮眠しようと思って再び小蛇尾トンネルに移動。ところが、山歩きや釣りしそうな連中が所有する車とは異なる車があって怪しい雰囲気。少し離れた日陰で仮眠しようかと思ったら、暴走族が現れたので中止。宇都宮でアユ釣りの小物を買い足し、道の駅「まくらがの里こが」で仮眠休憩してから帰宅。

翌月曜日、在宅で仕事中にふくらはぎに何かが触れる感じがした。短パンのウェストを締める紐が垂れて触れているのだろうと思いPC作業に集中していたのだが、しつこくモソモソする。下を見るとふくらはぎの上をクモが這っていた。ぶっつぶしてやろうと思ったら、クモではなくて大きなマダニ。もう少しで食いつかれるところだった。現地で着替えた服に付いていたのだろうか。せっかく栃木から自宅にお迎えしたお客様だ。ファスナー付きのビニール袋に収容してしばし観察していたが、3日後には動かなくなってしまった。吸血して病気を媒介するからイメージが悪いが、実態はか弱い生物なのかもね。

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山野・史跡探訪の備忘録