丹沢主脈縦走(大倉 〜 東野、2009年2月)

年月日: 2009年2月15日(日)

行程: 大倉バス停出発(07:07)〜駒止茶屋(08:11)〜堀山の家(08:26)〜花立山荘(09:00)〜塔ヶ岳(09:28-09:40)〜丹沢山(10:35)〜蛭ヶ岳(11:55-12:05)〜原小屋平(12:56)〜姫次(13:13)〜青根分岐(13:32)〜八丁坂の頭登山口(14:40)〜東野バス停(15:27)

関連記録: 晩秋の丹沢主脈縦走(焼山登山口〜大倉)(2009年11月)

丹沢は単身赴任している川崎市に最も近くて有名な山域だが、若い頃、8年間川崎市に住んでいながら一度たりとも丹沢の存在を意識したことはなかった。あの頃は完全なワーカホリックで街に遊びに行くこともせず、たまの休日に終日家でゴロゴロするのが唯一の楽しみで、電車でハイキングに行くなんて考えられなかった。ところがどうだ。いまは、都会であろうが近郊の山であろうがどこでも公共交通機関を利用してでかけるようになった。

腰が軽くなったのは昔に較べて時短が定着したことに加えインターネットの普及が大いに寄与している。JR及び私鉄の各駅の時刻表や運賃を瞬時に知ることが可能となったし、地形図もWebで確認できる。バスの路線図や時刻表まで確認できるようになった。まさに隔世の感有り。これだけ便利になって腰が重かったらそれは病気かもしれない。

丹沢は広く、登山道の豊富なことでは日本随一。初めてこの地域の地形図を見るとどこから歩こうか迷ってしまう。先日大山から丹沢の様子を一望し、改めて地形図を見て自分なりに縦走コースのイメージが形成できるようになってきた。今は登山者が少ないし、荒涼とした冬枯れの尾根と富士山の眺めの組み合わせを楽しむだけだから、道草しない尾根縦走に向いている。記録的な暖冬で雪はないであろうし、日曜は快晴のこと。どうせなら塔ノ岳、丹沢山、蛭ヶ岳と歩いて南から北に抜けてみたい。

丹沢の最高峰(神奈川県の最高峰でもある)である蛭ヶ岳や丹沢山やはアプローチが長く、ガイドブックには日帰りは無理と書いてある。確かにマイカー利用で往復するならば日帰り向きとは思えない。しかし、公共交通機関を使って縦走するならば自分の体力なら余裕でいけそうである。問題は交通の便のみ。北丹沢の道志川流域はバスの便が極端に少ない。月夜野発のバスが16時台に1便あるだけ。しかも鉄道の駅まで直通ではない。JR橋本駅に行くには三ヶ木(みかげ)で乗り換えとなる。タクシー乗るほど経済的に余裕ないので、1便しかないバスに間に合わなかったら悲惨だ。時間的余裕を確保する必要がある。

ガイドブックに拠れば、蛭ヶ岳から姫次経由で東野に3時間強で下れるとのこと。できれば東海自然歩道を焼山登山口まで歩き通したいものだが、これは時間と体力と相談する。東野バス停発が16:20分なので、遅くとも12:30までに蛭ヶ岳に到達することを目標とする。これで自動的に行程表が完成。丹沢山に11:00、塔ノ岳に10:00に到着すれば縦走できる可能性有り。塔ノ岳到着時点でその先の行程を決定する。

塔ノ岳は標高の高いヤビツ峠から登って一本調子の南尾根(通称バカ尾根)を大倉に下るのが一般的らしい。秦野駅発ヤビツ峠行きのバスの発車時刻が遅いので、この案はボツ。渋沢駅から大倉行きの06:48のバスに乗ることにした。いつも利用している急行が渋沢に到着する時刻が06:44なのでバス発車に間に合わないかもしれない。よって、JR武蔵小杉駅から始発に乗って、登戸でいつも利用している便の一つ前の各駅停車・本厚木行きに乗り換え、さらに本厚木で乗り換えて早めに渋沢駅到着。バスが来た時点では登山客は数名程度だったが、急行が到着後に超満員状態となった。早く来たのは正解だったな。登山シーズンに丹沢に来るのはやめときましょ。

終点の大倉は立派な公園となっており、登山シーズンには多くのハイカーで賑わうようだ。不案内なものでしばし進むべき方向がわからず、他のハイカーの後をついていく。ロケットスタートした登山者が歩くのが速いのなんの。当方は先が長いので持久戦だ。

最初の茶屋の手前で息切れしてスピードが落ちたロケットスタートした一人の前に出た。登山道には新しい踏み跡が多数ある。マイカー利用で早朝スタートしたハイカーが大勢いるのであろう。

植林地帯の中にある最初の分岐で右も左も所要時間が同じような標示になっていたので、尾根に上がることを優先して左を選択。二番目の茶屋を過ぎて右手の道と合流。しばし平坦な尾根を快調に進み少し登って第三の茶屋到着。ここからヤビツ峠方面からの縦走尾根が良く見える。

標高630mから始まる急登区間で上を見上げると、先ほど抜いたはずの男性の後姿が見えた。最初の分岐点で左に行くと登る標高は同じでも5分程度余計に時間がかかるようだ。彼は登るペースが安定したらしく全く休まずに登っていく。当方はちょくちょく立ち止まって汗が引くのを待ってから歩行。この後、花立山荘の手前までほぼ同じ距離を保ったまま登っていった。

駒止茶屋から先もなだらかな尾根が続き、東側の眺め良し。ぼちぼち、前夜塔ノ岳に宿泊したらしい下山者とすれ違うようになる。


堀山の家の傍で勘七ノ沢から登ってくる登山道と合流。こちらから登ってくるハイカーの姿があった。急登して上がった1128mピークには何もなし。右手から作治小屋から来る登山道と合流。ここまで上がると下ってくるハイカーの姿が多くなる。

     

花立山荘からの眺めは秀逸。と言いたいところだが、あいにく本日は清澄度がいまひとつ。

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まだはるか先にある塔ノ岳を見て少し疲れを感じた。鍋割山から来る登山道と合流し、最後の詰めに向う。すっきりとはしていないものの富士山も見えている。


降りてきた夫婦に問われた。「何処から登ってきました?」「大倉から。」「ここまで一時間くらいですか?」「(え?それはないでしょ。)2時間半くらいですかね。」「登り返し有ります?」「いいえ、ほとんど一本調子の下りですよ。」 この言葉に安堵の表情が浮かんだ。行程考えない山小屋泊まりの人もいるのね。メジャーな山であることを実感する。

塔ノ岳山頂は遮るものがなく広々としている。山頂の周りに何重にもベンチが取り巻いているような感じ。登山シーズンには人で埋まってしまうんだろうか。

塔ノ岳山頂


塔ノ岳到着直後に上空に雲が発生して日射が遮られるようになった。本日は気温が高めのはずだが、さすがに塔ノ岳の山頂は肌寒い。富士山を眺めながら軽食休憩しているうちに富士山方面にも雲が発生しだした。一方、丹沢山や蛭ヶ岳は朝からずっと掛っていた雲が取れつつあった。

右が丹沢山、左が丹沢第二の標高を持つ1614m峰(不動ヶ峰)。


予定より30分早めに塔ノ岳に着いたので、少なくとも丹沢山までは行くことに決めた。

塔ノ岳の北側の斜面は笹がシカに食われて見事に刈り込まれている。丹沢では鳴声だけでシカの姿を見たことがない。栃木の山に較べると生息数ははるかに少なそうだが、高いところまで植林されて山自体に餌が乏しいために全山移動しまくって笹を食い尽くしている。

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塔ノ岳の南側の登り道が乾燥していて快適であるのと対照的に、北側は泥んこぬかるみが多い。岩石が露出している場所はなく、水はけの悪い粘土質の土壌で被われている。この一帯は富士山の火山灰が厚く積もっているのではないだろうか。まるで田んぼの中みたいで、まともに歩けない。植生保護の観点からは好ましくない行為だろうが、滑って危険と思われるところはシカ道を辿ることにする。

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丹沢山


玄倉川支流の箒杉沢の川床を見下ろして愕然とする。土壌流出防止の巨大堰堤を幾つも建設した結果なのであろうが、谷底が巨大なゴーロになってしまっている。いかにこの山域が荒れているかを物語る。足尾の松木渓谷ですらここまでひどくない。

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箒杉沢


丹沢山は穏やかな山容で、いつのまにか着いてしまったという感じ。樹木に被われて眺めはあまり良くない。頂上はちょっとした公園の雰囲気。

丹沢山山頂


蛭ヶ岳まで1時間半かけて行けばよいので、この時点で縦走することを決定。休まずに蛭ヶ岳に向う。何名か蛭ヶ岳方面に歩いていった形跡はあるが、縦走路に人の姿は無し。早朝に塔ノ岳や丹沢山の山小屋泊まりの人が歩いていったのであろう。猩々として丹沢最深部に来たという気がする。うっすらと雪景色した丹沢を見たかったのだけれども、暖冬で雪は北側の山肌にほんのわずかに残るのみ。

丹沢山の下り道はめちゃめちゃ。木の土留めは崩壊し泥んこ。シカですら敬遠する。登山靴は栃木の家に置いてあるので履いているのはカジュアルシューズであり登山道を辿るのは無理。この区間は長靴履かないと歩けねぇ。シカのクソ踏みながら崩れた木杭に掴まって恐る恐る下る。これではペースが上がらない。

鞍部から見下ろした箒杉沢の源頭は比較的勾配が緩く簡単に下れそう。おそらくシカは日中はこの谷に潜んでいるはず。

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1614m峰(不動ヶ峰)


1614m峰直下で蛭ヶ岳から来た中高年の団体とすれ違った。休憩所は小屋のようになっていて南面が開放されている。丹沢山から蛭ヶ岳に向う尾根からの眺めがよいはずだが、残念ながら遠方は雲がかかって見えない。

1614m峰の東側も道がドロドロ。たまらず笹原に上がって稜線を歩いた。1998年に前穂高で亡くなった人を追悼するモニュメントがあった。よほど丹沢を愛した人だったのであろう。でも、私物を設置するのは認められるんだろうか。まあ、ここに来る登山者はめったに居ないだろうからめくじら立てる人はいないと思うけど。


1614m峰の下りはめずらしく岩肌剥き出しだが、霧降から女峰山に向うのに較べれば危険度は低い。1608m峰手前で蛭ヶ岳が姿を現した。この後再び蛭ヶ岳には雲がかかってしまった。姿を拝めただけでも良しとすべきか。

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蛭ヶ岳


稜線には植生保護のネットが張られており、外側(東斜面)の青々とした笹と内側(登山道から西側)のシカに食われて短く刈り込まれ枯野然とした笹が対照的。


ぬかるむ道を登り詰めて蛭ヶ岳到着。残念ながらお目当ての富士山をバックにした檜洞丸の眺めは全く見えず。

蛭ヶ岳山頂から檜洞丸方面


短い昼食休憩の後、姫次方面に下山開始。気楽に下れるのかと思ったらとんでもない。ドロドロ度は全コース中最悪。杭を打って土留めを作り階段状にしてあるのだが、それでもまともには歩けない。基本的に薮が無いので登山道に頼らずとも下ることは可能なのだが、馬酔木の薮の区間や痩せ尾根では逃げ場が無い。最新の階段は土留めタイプではなく完全に木で作られており大変歩き易い。昔は階段が無かったのでとても歩きにくかったという。さもありなん。階段が無かったら滑って転んで泥だらけになるのは確実。

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姫次方面への下り


この尾根は単純な下りではなく、姫次に至るには登り返しがあるのだ。袖平岳がやけに遠くに見えるし、右足首に疲労から来る痛みを感じるようになったので右足をかばいながらの歩きとなる。予想した以上に時間がかかりそうだ。

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木の洞にかろうじて残されたスズタケ


原小屋平に至るまでに3名のハイカーと出遭った。交通の便が悪い北側から今頃登ってくるということはきっとマイカー利用の宿泊予定者なのであろう。原小屋平の西側の沢下方から水の流れる音が響いてくる。尾根からは確認できない場所であるが湧水の類があるのかもしれない。

軽く痛みを感じる右足首をかばいながら本日最後の登りを終えて姫次到着。袖平岳まで簡単に行けるはずだが右足が心配で行く気力なし。ヤマビル注意の案内有り。ふーん、東丹沢だけではなく北丹沢も嫌な奴が出るのか。

姫次から一本調子で緩い下りとなり、分岐点に至る。ガイドブックには八丁坂の頭と書いてあるが、道標には青根としか書かれていない。しばし思案。東野は青根地区の一地名であるし、踏み跡もしっかりしている。ここが八丁坂の頭分岐と判断して、東海自然歩道と分かれて下り開始。

最初は植林された急斜面に抉れた泥んこ道がくねくね続くので、道を辿らずに道に沿って急斜面を慎重に下る。そのうちに林業関係者が利用するモノレールと出遭ったので、しばしモノレールに掴まりながら下った。この手のモノレールは栃木県でも何箇所か存在するがいずれも急斜面に設置されている。乗ったら怖いのだろうな(おそらく保険かけてさらに事故があっても責任を問わない旨の念書でも書かないと乗せてくれないだろう。)。

モノレールと交差


登山道と交差する場所でモノレールとお別れ。以後は松林の中の乾燥して歩き易いくねくね道を順調に下る。この山域は広大なアカマツ林が維持されており、地元のマツタケ採取場であると思われる。尾根から逸れて沢筋に下ると良く手入れされた美しいスギとヒノキの植林地帯となり、登山道入口に出る。

登山口


登山道入口から舗装林道を歩き。最初に渡る沢の堰堤下で顔を洗い服を着替えて帰り支度完了。あとはのんびり山里を歩いて東野のバス停到着。バス到着時刻まで1時間近くあったので国道をブラブラして暇つぶし。

大室山
上野田大橋
スギ花粉の飛散


1時間待って時刻通りにバスが来てくれたときはほっとした。東野から焼山登山口まで乗客は自分一人。三ヶ木で乗り換え、JR橋本駅から横浜線に乗り、菊名で東横線に乗り換えて順調に帰宅。帰りの料金は、バス(東野−三ヶ木:¥490、三ヶ木−橋本駅北口:¥420)、JR(橋本駅−菊名駅:¥450)、東急(菊名駅−元住吉駅:¥150)。

延々と階段と泥んこの山道歩きだった。もう二度と来るもんかと思ったけど、ほとぼりが醒めたらまた行くんだろうな。

山野・史跡探訪の備忘録